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~星と彼女編 第3章~
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[願望]
「『金剛なる大地よ、抱擁せし憤怒を噴き出せ。』」
詠唱と共にアルレッキーノを中心として大地に無数のヒビが入り、激しい火柱は火山が噴火するかの如く立つ。火柱は周囲の建築物を燃やして溶かし崩し、割れた大地に飲み込まれていく。
ヴァスティーソは火柱を縫うように素早く移動し、比較的安定している地面に移る。アルレッキーノはヴァスティーソの姿を捉えると再び詠唱を始める。
「『儚き愚者よ。壮麗なる生命の息吹に吹かれ、泡沫の花のように散り失せよ。』」
ヴァスティーソの周囲を取り囲むように風が出現し、周囲の火柱を巻き込んで炎の渦を形成する。渦は徐々に狭まっていき、肌がじりじりと焼けていくのが感じられる。
『・・・しょうがないね、一か八かだ!』
ヴァスティーソは納刀し、顔の前で腕を十字に組むと、炎の渦に向かって突撃する。彼の体にはリミテッド・バースト発動によって生成された魔力が纏わりついており、稲妻のような速力で渦を突破する。特注のコートが燃え、頬が少し焦げる。
「逃がさん。『法理を覆さん天命の宣告・・・』」
『術の展開が早すぎる!奴が今張っている空間結界の影響なのか・・・何時までも逃げ回ってちゃあ勝つのは厳しそうだね・・・』
ヴァスティーソは周囲に展開されている結界に視線をやる。天を覆う天蓋のように広がっている美しい結界はアルレッキーノを中心として展開されており、頻繁に朧な細い糸がアルレッキーノに纏わりついて彼に魔力を供給していた。一体何処から魔力を吸い取って来ているのか・・・限りはあるのか・・・ヴァスティーソは小さく舌を打つ。
『攻め込んで只で済むとは思えないけど・・・選択肢はなさそうだね。玉砕覚悟で行くか!』
ヴァスティーソは納刀した刀の柄に右手を添えるとアルレッキーノ目掛けて一瞬で距離を詰める。アルレッキーノは迫りくるヴァスティーソに杖を向けた。
「『歪曲する人形、偽りの鏡・・・理を曲げ、万物を圧壊せよ!』」
アルレッキーノが詠唱を終えた瞬間、先程ヴァスティーソがいた場所に半径2m程の黒い球体が出現し、周囲の空間を歪めながら散乱している瓦礫などを吸い込んでいく。広場中央にある噴水は部分的にボロボロと崩れながら・・・噴水の上に置かれている古都を創設した王の像は一切の抵抗をする事無く黒い球体に呑まれ、虚無の彼方へと消えていく。ありとあらゆるものが吸い込まれていき、圧縮されていく。
『うおッ⁉吸い込まれる!』
ヴァスティーソは抜刀し地面に突き刺した。吸い込まれそうになる体を必死にその場に固定させる。
「ふ・・・無駄な事を・・・」
アルレッキーノは左手をヴァスティーソの方へ向ける。全てを飲み込み続ける黒球はどんどん膨らみ、周囲の空間は大きく歪み始める。ヴァスティーソの突き刺した刀が地面を抉りながら徐々に黒球の方へと近づいていく。
「くっ!頼む頼む、耐えてくれよ、相棒!」
ヴァスティーソは刀に必死に語りかける。刀は彼の言葉に答えたのかその場で止まり、何とか耐える。だが黒球はヴァスティーソのすぐそこにまで迫り、肌を引き剥がされるような痛みに襲われる。
『ッ!まずいねぇッ!』
「さぁ・・・止めと行こうか!」
アルレッキーノは左手の拳を握りしめる。ヴァスティーソは肌が引き千切られるような痛みに耐えながらなんとか黒球から離れようとするが身動きが出来ず、絶体絶命の状況に置かれていた。
『畜生!俺はここで死ぬのか⁉日頃の行いか⁉日頃の行いが悪かったせいか⁉これは天罰なのか⁉』
ヴァスティーソは走馬灯のように過去の行いを思い出した。何故か思い出される女性の顔が皆鬼のような形相になっていることに首を傾げたが・・・
『あぁもっと・・・もっと堪能したかったなぁ・・・女の子の・・・』
ヴァスティーソが未練たっぷりに呟きだした。球体はとうとうヴァスティーソの目の前にまで迫り、空間ごとヴァスティーソの体が大きく歪む。ヴァスティーソは壮絶な痛みを受けて死を覚悟した・・・
だがその瞬間、突如2人の真上に紅月が不気味に輝く暗闇の空が広がった。昼夜が逆転したような状況にアルレッキーノは空を見上げて目を見開いた。
『何だこの術は・・・誰の仕業だ?』
アルレッキーノが空に浮かぶ紅月を睨みつける様に眺める。古都に轟いていた殺意に満ちた喧騒が一瞬止み、静寂に包まれる。
さらにアルレッキーノとヴァスティーソの体から蒼白いオーラが出始めた。その途端、全身の力が一気に抜け、アルレッキーノは地面に膝をつく。また同時にヴァスティーソを襲っていた黒球が燃え散っていく紙のように崩れ、2人の上に張られていた結界も同じように崩壊し始める。
ヴァスティーソは虚脱感に襲われながらも安堵の息をつく。アルレッキーノは唇を強く噛みしめる。
『何が起こってるのか全く分かんないけど・・・死なずに済んだようだね・・・』
『ぐっ!結界が消えるッ・・・魔力が吸い取られて術が練れんッ!何だ・・・何なんだこの術はッ・・・』
アルレッキーノが膝をついたまま身動きが出来ない中、ヴァスティーソは突き刺している刀に重心を置いてゆっくりと立ち上がる。ヴァスティーソは古都全体から集結している魔力の流れを辿る。その流れの中心にあるシャーロットの魔力を感じ取ると、小さく微笑んだ。
『シャーロットちゃんのリミテッド・バーストか、これは・・・中々ド派手だねぇ~・・・』
ヴァスティーソがシャーロットに感心してた・・・その瞬間。
ドォォォォンッ!
「うおぉっ!」
突如古都を取り囲む平野が、火山が噴火したかのような状態になり、ヴァスティーソは襲い掛かってきた爆風に耐える為、咄嗟に両腕を顔の前で組む。身を焦がすような風が襲い掛かり、目を瞑る。
腕を解いて平野を見つめると、地獄絵図のような状況になっており、展開していた敵の姿は何処を見渡しても確認できなかった。
「ははは・・・シャーロットちゃん、やり過ぎだよこれは・・・」
ヴァスティーソは思わず笑みを浮かべる。ヴァスティーソは思うように動かない体を反転させ、刀を地面から引き抜くとアルレッキーノに話しかける。
「ねぇねぇ、見えるかいこの景色が?凄いよね~、まるで地獄がこの世に現れたみたいだよ~?」
「・・・」
「どうしたんだい?さっきまでの余裕は何処に行ったの?」
「・・・ふん・・・余計な減らず口を叩きおって・・・」
アルレッキーノは杖を地面に立ててゆっくりと立つ。
「そう言うお前も随分と顔色が優れないように見えるが?」
「当然。魔力を無理やり抜かれ続けてるんだよ?もう足の震えが止まらないし、腕に力が入らないし、視界は歪むし暗くなる。その上意識もぐらっぐらっ・・・まともに戦えたもんじゃないよね~。」
ヴァスティーソはそう言うと全身に白銀のオーラを纏い、刀を構える。
「でも・・・今のあんたも俺と一緒で苦しいはずだよね?・・・『アスタルド曾叔父さん』?」
アルレッキーノ・・・いや、アスタルドは一瞬眉間を痙攣させる。
「貴様・・・何処でその名前を・・・」
「小さい頃曾爺さんの部屋に忍び込んでいろんな本を盗み見てたことがあってな・・・そん時に昔の日記を見てあんたのことを知ったんだよ。曾爺さん、自分には兄弟がいないって言ってたくせにちゃんといるじゃねぇかって思ったね。」
「・・・」
「日記にはあんたに対する嫉妬が醜く書いてあってさ、よくもまぁあそこ迄醜くなれるものだと感心したよ。尊敬はしないし、軽蔑するけど。」
「何処で気が付いた?」
「今さっきさ。あんたが使った空間を歪め、吸い込んで潰す術なんか見た事無かったし、それまでに使っていた術も発動時に見たことも無い魔術陣を展開していた。俺達の魔術は曾爺さんの魔術新書からあまり進歩してないから、使っていない魔術陣は一発で分かる。・・・曾爺さんの弟、アスタルドが1000年に1人級の魔術の天才だってことを考えたら、この結果に行き着くのも当然だろ?」
「既にその男は死んでいるってのは思わないのか?生きていたとしてももう100歳は超えているんだぞ?」
「思わないね。だって・・・」
ヴァスティーソは小さく笑った。その笑みは暗く、不気味だった。
「『彼女』の仇を取るまで死ぬつもりは無いんだろ?『彼女』を殺した俺達一族を皆殺しにするまで・・・あんたは死ぬ訳無い。何が何でも生きて・・・どんなに老いても・・・皆に忘れ去られようとも復讐を果たすその日まで生きる・・・生きて生きて生き延びて・・・俺達一族を地獄に葬る。」
「・・・」
「あんたがコーラス・ブリッツに入った目的はこれだろ?違うか?」
アスタルドはゆっくりと目を閉じると、杖を脇に挟んでゆっくり拍手する。
「・・・正解だ、ヴァスティーソ。よく気が付いたな?」
「偶々だよ、『曾叔父さん』?・・・それにしても何時俺名前教えたかな?教えて無かったよね?」
「お前達のことは全部調べ上げている。弟のルーストや弟の娘ナターシャもな。・・・お前達が貴族と平民の階級融和政策を取り始めたことも。・・・父親達とは違う道を歩み始めたようだな?」
「まぁね?どう?尊敬した?」
「勿論、尊敬したよ。・・・私の政策を引き継いでくれる者がいるとはな。」
ヴァスティーソ達の体から蒼白いオーラが消え、魔力の吸引が収まると同時にアスタルドは周囲に魔術陣を一気に展開する。空は暗闇から赤く染まる夕暮れ時に変わった。
「お前達は恵まれている・・・身内が早々に先立ったおかげで誰の妨害も無く融和政策に取り組めるのだから。私の場合は兄達の妨害でこの夢は叶わなかったからな。」
アスタルドの全身が銀色のオーラに包まれる。
「だが残念ながら、お前達の夢は今日この日で途絶える。そして代わりに私は夢を成就させる・・・半世紀以上、毎晩毎晩星を眺めては思い焦がれていた願いを叶える時がやって来たのだ・・・」
「ほ~ん、それはまた随分大層な夢だね~?・・・関係ない一般市民を巻き込んでまで成就させたいのかい、その夢は?それほどの価値があるものなのかい?」
「願いの価値は人それぞれだ。例えそれが矮小なものであれ崇高なものであれ、違いなどありはしない。願望者にとってその願いは唯一絶対なもので『正義』なのだから。過程で犠牲がいくら出ようとも関係の無い事だ。所詮は他人・・・彼らに対して痛む心など無い。」
アスタルドは杖の中に仕込んでいた仕込み刃を引き抜く。ヴァスティーソも刀を構え直す。
「では行くぞ・・・『ヴァスティーソ・シーゼ・ローゼルニルファーレ・ヨルガンド』。八重紅狼第三席 『アスタルド・シーゼ・ローゼルニルファーレ・ヨルガンド』が相手をする。」
アスタルドの言葉が途絶えると同時に2人は急接近し、戦闘に突入する。刃がぶつかり、激しい金属音と衝撃が周囲を揺らす。
「『金剛なる大地よ、抱擁せし憤怒を噴き出せ。』」
詠唱と共にアルレッキーノを中心として大地に無数のヒビが入り、激しい火柱は火山が噴火するかの如く立つ。火柱は周囲の建築物を燃やして溶かし崩し、割れた大地に飲み込まれていく。
ヴァスティーソは火柱を縫うように素早く移動し、比較的安定している地面に移る。アルレッキーノはヴァスティーソの姿を捉えると再び詠唱を始める。
「『儚き愚者よ。壮麗なる生命の息吹に吹かれ、泡沫の花のように散り失せよ。』」
ヴァスティーソの周囲を取り囲むように風が出現し、周囲の火柱を巻き込んで炎の渦を形成する。渦は徐々に狭まっていき、肌がじりじりと焼けていくのが感じられる。
『・・・しょうがないね、一か八かだ!』
ヴァスティーソは納刀し、顔の前で腕を十字に組むと、炎の渦に向かって突撃する。彼の体にはリミテッド・バースト発動によって生成された魔力が纏わりついており、稲妻のような速力で渦を突破する。特注のコートが燃え、頬が少し焦げる。
「逃がさん。『法理を覆さん天命の宣告・・・』」
『術の展開が早すぎる!奴が今張っている空間結界の影響なのか・・・何時までも逃げ回ってちゃあ勝つのは厳しそうだね・・・』
ヴァスティーソは周囲に展開されている結界に視線をやる。天を覆う天蓋のように広がっている美しい結界はアルレッキーノを中心として展開されており、頻繁に朧な細い糸がアルレッキーノに纏わりついて彼に魔力を供給していた。一体何処から魔力を吸い取って来ているのか・・・限りはあるのか・・・ヴァスティーソは小さく舌を打つ。
『攻め込んで只で済むとは思えないけど・・・選択肢はなさそうだね。玉砕覚悟で行くか!』
ヴァスティーソは納刀した刀の柄に右手を添えるとアルレッキーノ目掛けて一瞬で距離を詰める。アルレッキーノは迫りくるヴァスティーソに杖を向けた。
「『歪曲する人形、偽りの鏡・・・理を曲げ、万物を圧壊せよ!』」
アルレッキーノが詠唱を終えた瞬間、先程ヴァスティーソがいた場所に半径2m程の黒い球体が出現し、周囲の空間を歪めながら散乱している瓦礫などを吸い込んでいく。広場中央にある噴水は部分的にボロボロと崩れながら・・・噴水の上に置かれている古都を創設した王の像は一切の抵抗をする事無く黒い球体に呑まれ、虚無の彼方へと消えていく。ありとあらゆるものが吸い込まれていき、圧縮されていく。
『うおッ⁉吸い込まれる!』
ヴァスティーソは抜刀し地面に突き刺した。吸い込まれそうになる体を必死にその場に固定させる。
「ふ・・・無駄な事を・・・」
アルレッキーノは左手をヴァスティーソの方へ向ける。全てを飲み込み続ける黒球はどんどん膨らみ、周囲の空間は大きく歪み始める。ヴァスティーソの突き刺した刀が地面を抉りながら徐々に黒球の方へと近づいていく。
「くっ!頼む頼む、耐えてくれよ、相棒!」
ヴァスティーソは刀に必死に語りかける。刀は彼の言葉に答えたのかその場で止まり、何とか耐える。だが黒球はヴァスティーソのすぐそこにまで迫り、肌を引き剥がされるような痛みに襲われる。
『ッ!まずいねぇッ!』
「さぁ・・・止めと行こうか!」
アルレッキーノは左手の拳を握りしめる。ヴァスティーソは肌が引き千切られるような痛みに耐えながらなんとか黒球から離れようとするが身動きが出来ず、絶体絶命の状況に置かれていた。
『畜生!俺はここで死ぬのか⁉日頃の行いか⁉日頃の行いが悪かったせいか⁉これは天罰なのか⁉』
ヴァスティーソは走馬灯のように過去の行いを思い出した。何故か思い出される女性の顔が皆鬼のような形相になっていることに首を傾げたが・・・
『あぁもっと・・・もっと堪能したかったなぁ・・・女の子の・・・』
ヴァスティーソが未練たっぷりに呟きだした。球体はとうとうヴァスティーソの目の前にまで迫り、空間ごとヴァスティーソの体が大きく歪む。ヴァスティーソは壮絶な痛みを受けて死を覚悟した・・・
だがその瞬間、突如2人の真上に紅月が不気味に輝く暗闇の空が広がった。昼夜が逆転したような状況にアルレッキーノは空を見上げて目を見開いた。
『何だこの術は・・・誰の仕業だ?』
アルレッキーノが空に浮かぶ紅月を睨みつける様に眺める。古都に轟いていた殺意に満ちた喧騒が一瞬止み、静寂に包まれる。
さらにアルレッキーノとヴァスティーソの体から蒼白いオーラが出始めた。その途端、全身の力が一気に抜け、アルレッキーノは地面に膝をつく。また同時にヴァスティーソを襲っていた黒球が燃え散っていく紙のように崩れ、2人の上に張られていた結界も同じように崩壊し始める。
ヴァスティーソは虚脱感に襲われながらも安堵の息をつく。アルレッキーノは唇を強く噛みしめる。
『何が起こってるのか全く分かんないけど・・・死なずに済んだようだね・・・』
『ぐっ!結界が消えるッ・・・魔力が吸い取られて術が練れんッ!何だ・・・何なんだこの術はッ・・・』
アルレッキーノが膝をついたまま身動きが出来ない中、ヴァスティーソは突き刺している刀に重心を置いてゆっくりと立ち上がる。ヴァスティーソは古都全体から集結している魔力の流れを辿る。その流れの中心にあるシャーロットの魔力を感じ取ると、小さく微笑んだ。
『シャーロットちゃんのリミテッド・バーストか、これは・・・中々ド派手だねぇ~・・・』
ヴァスティーソがシャーロットに感心してた・・・その瞬間。
ドォォォォンッ!
「うおぉっ!」
突如古都を取り囲む平野が、火山が噴火したかのような状態になり、ヴァスティーソは襲い掛かってきた爆風に耐える為、咄嗟に両腕を顔の前で組む。身を焦がすような風が襲い掛かり、目を瞑る。
腕を解いて平野を見つめると、地獄絵図のような状況になっており、展開していた敵の姿は何処を見渡しても確認できなかった。
「ははは・・・シャーロットちゃん、やり過ぎだよこれは・・・」
ヴァスティーソは思わず笑みを浮かべる。ヴァスティーソは思うように動かない体を反転させ、刀を地面から引き抜くとアルレッキーノに話しかける。
「ねぇねぇ、見えるかいこの景色が?凄いよね~、まるで地獄がこの世に現れたみたいだよ~?」
「・・・」
「どうしたんだい?さっきまでの余裕は何処に行ったの?」
「・・・ふん・・・余計な減らず口を叩きおって・・・」
アルレッキーノは杖を地面に立ててゆっくりと立つ。
「そう言うお前も随分と顔色が優れないように見えるが?」
「当然。魔力を無理やり抜かれ続けてるんだよ?もう足の震えが止まらないし、腕に力が入らないし、視界は歪むし暗くなる。その上意識もぐらっぐらっ・・・まともに戦えたもんじゃないよね~。」
ヴァスティーソはそう言うと全身に白銀のオーラを纏い、刀を構える。
「でも・・・今のあんたも俺と一緒で苦しいはずだよね?・・・『アスタルド曾叔父さん』?」
アルレッキーノ・・・いや、アスタルドは一瞬眉間を痙攣させる。
「貴様・・・何処でその名前を・・・」
「小さい頃曾爺さんの部屋に忍び込んでいろんな本を盗み見てたことがあってな・・・そん時に昔の日記を見てあんたのことを知ったんだよ。曾爺さん、自分には兄弟がいないって言ってたくせにちゃんといるじゃねぇかって思ったね。」
「・・・」
「日記にはあんたに対する嫉妬が醜く書いてあってさ、よくもまぁあそこ迄醜くなれるものだと感心したよ。尊敬はしないし、軽蔑するけど。」
「何処で気が付いた?」
「今さっきさ。あんたが使った空間を歪め、吸い込んで潰す術なんか見た事無かったし、それまでに使っていた術も発動時に見たことも無い魔術陣を展開していた。俺達の魔術は曾爺さんの魔術新書からあまり進歩してないから、使っていない魔術陣は一発で分かる。・・・曾爺さんの弟、アスタルドが1000年に1人級の魔術の天才だってことを考えたら、この結果に行き着くのも当然だろ?」
「既にその男は死んでいるってのは思わないのか?生きていたとしてももう100歳は超えているんだぞ?」
「思わないね。だって・・・」
ヴァスティーソは小さく笑った。その笑みは暗く、不気味だった。
「『彼女』の仇を取るまで死ぬつもりは無いんだろ?『彼女』を殺した俺達一族を皆殺しにするまで・・・あんたは死ぬ訳無い。何が何でも生きて・・・どんなに老いても・・・皆に忘れ去られようとも復讐を果たすその日まで生きる・・・生きて生きて生き延びて・・・俺達一族を地獄に葬る。」
「・・・」
「あんたがコーラス・ブリッツに入った目的はこれだろ?違うか?」
アスタルドはゆっくりと目を閉じると、杖を脇に挟んでゆっくり拍手する。
「・・・正解だ、ヴァスティーソ。よく気が付いたな?」
「偶々だよ、『曾叔父さん』?・・・それにしても何時俺名前教えたかな?教えて無かったよね?」
「お前達のことは全部調べ上げている。弟のルーストや弟の娘ナターシャもな。・・・お前達が貴族と平民の階級融和政策を取り始めたことも。・・・父親達とは違う道を歩み始めたようだな?」
「まぁね?どう?尊敬した?」
「勿論、尊敬したよ。・・・私の政策を引き継いでくれる者がいるとはな。」
ヴァスティーソ達の体から蒼白いオーラが消え、魔力の吸引が収まると同時にアスタルドは周囲に魔術陣を一気に展開する。空は暗闇から赤く染まる夕暮れ時に変わった。
「お前達は恵まれている・・・身内が早々に先立ったおかげで誰の妨害も無く融和政策に取り組めるのだから。私の場合は兄達の妨害でこの夢は叶わなかったからな。」
アスタルドの全身が銀色のオーラに包まれる。
「だが残念ながら、お前達の夢は今日この日で途絶える。そして代わりに私は夢を成就させる・・・半世紀以上、毎晩毎晩星を眺めては思い焦がれていた願いを叶える時がやって来たのだ・・・」
「ほ~ん、それはまた随分大層な夢だね~?・・・関係ない一般市民を巻き込んでまで成就させたいのかい、その夢は?それほどの価値があるものなのかい?」
「願いの価値は人それぞれだ。例えそれが矮小なものであれ崇高なものであれ、違いなどありはしない。願望者にとってその願いは唯一絶対なもので『正義』なのだから。過程で犠牲がいくら出ようとも関係の無い事だ。所詮は他人・・・彼らに対して痛む心など無い。」
アスタルドは杖の中に仕込んでいた仕込み刃を引き抜く。ヴァスティーソも刀を構え直す。
「では行くぞ・・・『ヴァスティーソ・シーゼ・ローゼルニルファーレ・ヨルガンド』。八重紅狼第三席 『アスタルド・シーゼ・ローゼルニルファーレ・ヨルガンド』が相手をする。」
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