最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~星と彼女編 第2章~

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[失望]

 「こちらです、陛下!」

 親衛隊員達はルーストとナターシャを連れて薄暗く、あまり整備されていなくて埃塗れの地下通路を歩く。この地下通路は王族専用の緊急避難路となっており、古都全体に幾つか入り口が存在する。爆音が轟き、地下全体が揺れる中、とある木で出来た古びた扉を開けた。

 扉の先には随分昔から忘れられている倉庫のような広い部屋があり、埃に塗れた木箱や樽が山のように積み重なっていた。地下通路が揺れる度に埃が天井からパラパラと零れて来る。

 親衛隊員達が扉を閉める。

 「一先ず、ここに身を潜めておきましょう、陛下・・・」

 「・・・」

 兵士達が出入り口を固める。部屋に入ってきた時にくぐった扉の反対側にはもう一つの扉があった。

 「お父様・・・あの扉の先は何処へ?」

 「隠し港へ続く通路がある・・・万が一、古都が陥落した際に王族『だけ』が逃げれるように・・・な。」

 ルーストは左手を腰に携えている剣の鞘に添える。ナターシャは近くの樽の傍にまで行き、腰掛けた。

 「状況は?ウィンブルはどうなっている?」

 「現在確認中です・・・少々お待ちください・・・」

 兵士達は互いに情報を交換し始め、現在置かれている状況を確認する。ルーストは深く溜息をつくと、ナターシャの傍に近づいた。

 「お父様・・・ウィンブルは大丈夫・・・ですわよね?」

 「・・・分からん。あれ程の重傷を負ったまま、八重紅狼と今戦っているんだ・・・既にもう・・・」

 「そんな・・・そんなことありませんわッ!ウィンブルは叔父様が次期親衛部隊大隊長へ推しているお方・・・実力も他の大隊長に劣らない・・・そのような方が・・・」

 「だが相手は八重紅狼だ。相手は怪我人だからと言って容赦はしない・・・それに怪我人相手が勝てるような相手では・・・ないのだ・・・」

 ルーストはナターシャの横に並んでいる木箱に座る。ナターシャは少し下を向き、再び話しかける。

 「先程の奇術師・・・私の曾々お爺様を『才能無し』、『屑』と言っておりましたわよね・・・」

 「・・・ああ。」

 「お父様・・・あの奇術師は・・・」

 「我らの親族だ。我らと同じ、ローゼルニルファーレ家の血を引く者・・・だ。」

 ルーストは両手を膝の上で組み、上半身を前に傾ける。

 「私の曾祖父・・・ログデール王には弟がいた。『アスタルド・シーゼ・ローゼルニルファーレ・ヨルガンド』・・・曾祖父の手記では『魔術も武術も覚えられない、一族きっての出来損ない』と書かれていた男だ・・・」

 「じゃああの男が・・・その手記に載っている男ということ・・・」

 「うむ・・・奴が発した言葉と使用した術から推測するに、間違いないだろう。」

 「・・・」

 「曾祖父は私が2つの時に亡くなったから何も覚えてはいないが、兄さ・・・ヴァスティーソ大隊長の話だと、『早々に死んでくれて良かった糞爺』との評だった。彼にとって、ログデール王はあまり宜しくなかったそうだ。我儘で、自意識過剰で、酷く傲慢・・・王の器など何処を探しても欠片程も無いと・・・な。」

 「叔父様がそのような事を・・・」

 「信じられないだろう?ヴァスティーソ大隊長が暴言を吐くなど。」

 「ええ・・・いつも調子にのって、救いようの無い助平で皮肉を頻繁に言うお方ですけれど、誰かを貶すような言葉は今まで一度も聞いたことが無いですわ・・・しかしそのような非道の者なら何故当時の者達は誰も彼に背かなかったの?」

 「それには彼が執筆した魔術新書が関わっているのだ・・・」

 ルーストはその場から立ち上がる。

 「曾祖父の魔術新書は当時にしては画期的だったのだ。それまでの魔術新書では改訂されても記述が少々変化したり、加筆されるだけで目立った変化はなかった・・・ところが、ログデール王が執筆した魔術新書にはこれまで開発されていなかった転送結界や高度な反射結界、空間結界が多く記載されており、魔術界を震撼させたのだ。」

 「ログデール王は魔術界に革命を起こした王として認知され、尊敬された・・・」

 「その通り。彼は偉大な王として奉られ、絶大な権力を手中に収めた。だから彼に逆らう者はいなかったのだ・・・それが借り物の知識であったと私達が知る今まで・・・」

 ルーストは自嘲し始める。

 「私は・・・つい先程まで曾祖父を尊敬していた。後世に残るような遺産を残し、我が国の発展に貢献した方だからだ。・・・兄は思想の違いから元々私以外の身内に対して酷く冷たい態度を取っていた・・・それは時にはひどく過剰なモノでもあったから曾祖父に対する態度もそのようなものなのだろうと思っていたんだ。だが蓋を開けてみれば・・・とんでもない男だった・・・ふん・・・今まで尊敬していた自分が馬鹿みたいだ・・・」

 「・・・」

 ルーストの悲しげな背中をナターシャは何も言うことなく黙って見つめていた。尊敬していた者が詐欺師だったと知らされた父の心境は如何ほどか・・・ナターシャには想像もつかなかった。

 ただでさえ陰鬱とした空気が更に暗くなる。相も変わらず地上では激しい戦闘が繰り広げられているようで、先程から土埃が天井から何度も何度も落ちて来る。そのせいでナターシャ達の髪は埃塗れになり幾ら叩いても灰色に染まっていく。

 肉体も精神も擦り減っていった・・・その時、突如ドアが勢い良く開き、1人の兵士が息を乱しながら部屋の中に入ってきた。

 「ご報告します、陛下!たった今、ヴァスティーソ大隊長とフォルト様方一行、そしてクローサー大隊長と出撃していた航空部隊の一大隊が援軍に参上しました!現在ヴァスティーソ大隊長はウィンブル隊長の代わりに魔術を使用する八重紅狼と交戦、フォルト様達もそれぞれ散開し、各地で八重紅狼と交戦しております!」

 「叔父様が・・・古都にッ・・・」

 ナターシャは樽から降りるとルーストの傍へ駆け寄る。

 「お父様!私達も叔父様の援護に・・・」

 「駄目だ。我々が行った所で彼の荷物にしかならない。・・・ナターシャ、お前が彼の役に立ちたいという思いは痛いほど分かるが、彼にとって今最善の行動は、余計な負担を与えない事だ。」

 ルーストはナターシャを抱き寄せて背中を摩る。ナターシャは俯き、顔を下に向ける。

 「ウィンブル隊長はどうなっている?」

 「現在救護地に運ばれ治療を受けております!」

 「うむ、彼は無事か・・・」

 ルーストは部屋にいる兵士達を見渡し、指示を出した。

 「皆の者良く聞け。今から私とナターシャは第三城壁に設けられている救護地へ向かおうと思う。こんな薄暗い場所にいては皆の指揮を執ることは出来ない・・・本部と連絡が取れなくなって現場は混乱してるだろうからな。今すぐにでも彼らを安心させてやらねば・・・」

 「しかし陛下・・・緊急時にはこの地下部屋へ撤退するようとのことですが・・・」

 「そんなものはあくまでも指示書に沿ったものだろう?今この時点で求められるのは臨機応変な対応だ。・・・ヴァスティーソ大隊長をはじめとする援軍が到着した今こそ、我々はコーラス・ブリッツに攻勢をかけれる。この勝機を逃したくはない。」

 ルーストは先程歩いてきた地下通路へと繋がる扉に近づき、開けた。

 「さぁ行くぞ、皆の者。コーラス・ブリッツ共を押し返そうではないか。」

 ルーストの言葉を受けてナターシャや兵士達が頷き、通路を歩いていくルーストの後ろに続いていく。
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