最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~螺旋凶線編 最終章~

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[皆の望みは終末の彼方へ・・・]

 「主席、封印の解除が終了いたしました。」

 帝都にあるフォルエンシュテュール城の謁見の間でただ1人佇んでいたウルフェンにある部下が報告をしに来た。また、彼以外にも2人の部下が報告しに来た者の左右にいた。

 「ご苦労だったな。」

 「主席・・・あと、『贄』に使った者達は・・・」

 「直ぐに下水へ捨ててこい。邪魔だ。」

 「了解しました。直ぐに処理いたします。」

 その兵士は返事をすると、1人で戻って行った。謁見の間にはウルフェンと2人の兵士が残された。

 「・・・どうした?まだ何か報告があるのか?」

 ウルフェンの静かな声を受けて兵士2人が少しおどおどするが、そのうちの1人が口を開く。

 「主席・・・只今緊急で入った報告なのですが・・・ゴルド様が敗北し、多くの兵士が謎の大規模魔術に巻き込まれたそうです。」

 「そうか・・・ゴルドの奴が・・・負けたか・・・ふん、家族の仇は討てなかったか・・・何処までもツイていない奴だ。」

 「それで主席・・・現在の戦況を見ると・・・かなり劣勢に追い込まれているようで・・・兵士の大半が死に、現在残っているのは既に古都へ侵入したものだけ・・・他3名の八重紅狼の方達とも連絡が取れず・・・」

 「・・・」

 ウルフェンは兵士の言葉に黙って耳を傾ける。両腕を組んで下を向き、全く反応を見せないウルフェンに戸惑いながらも進言し続けた。

 「ですのでその・・・一先ず撤退させたほうがよろしいかと・・・」

 「何故?」

 「いや・・・その・・・このままだと全滅する恐れが・・・ほんの僅かに出てきてしまっていて・・・」

 「それにあちらにはジャッカルの子孫とジャッカルの武器の使い手達が合流したとの情報が少し前に入ってきて・・・彼らの死亡情報はまだ入ってきておりません・・・ですので・・・」

 「・・・」

 「撤退なさるか・・・我々が敵地に赴いた方がよろしいのではないかと・・・思いまして・・・」

 2人の兵士が互いに視線を交えながらウルフェンに進言する。ウルフェンは小さく唸ると、兵士達に静かに告げた。

 「その必要は無い。もし増援に行きたいのならば勝手に行くがいい。」

 「・・・は?」

 「し、しかし彼らがもし敗れれば戦力的に我々の敗北が濃厚に・・・」

 「上等だ。別に負けても構わん。我々が全滅しようとも・・・な。」

 ウルフェンの言葉に兵士2人は動揺を隠せなくなった。戦いとは勝利を目指して突き進むもの・・・それなのに今この男・・・自分達の総大将は『負けてもいい』と言い放ったのだ。

 「な・・・何故負けても・・・良いのですか?」

 兵士が恐る恐る尋ねると、ウルフェンは目を細める。

 「例え奴らが古都での戦いに勝とうが、既に奴らの死が決定しているからだ。今回奴らを古都に送ったのは『奴らの願いを叶えてやる』のと『時間稼ぎ』をしてもらう為だ。別に勝利を望んではいない。・・・たとえ我々が勝ったとしても、全員直ぐに死ぬのだからな。この星ごと・・・」

 「!」

 兵士2人は驚愕する。だがそれもそうだろう・・・突然直ぐに敵味方関係なくこの星ごと皆が死ぬと言われれば。

 「主席!この星が無くなるって・・・どういうことですか⁉」

 「それについては貴様らが知る必要は無い。知っても貴様らでは止められん。」

 「・・・ッ!」

 「逃げたければ逃げてもいいぞ?私は止めない。他の者に呼びかけて皆で何処へでも逃げるがいい。元々このコーラス・ブリッツもこの一瞬の時間稼ぎの為に作った組織なのだからな。」

 ウルフェンはただ静かに、淡々と述べた。兵士達はゆっくりと黙って後ろへ下がると、全速力で謁見の間を出ていった。

 また1人ぽつんと残されたウルフェンは兵士達が飛び出していった扉を見つめながら首にかけているペンダントを握りしめる。

 「もう直ぐだ・・・もう直ぐで兄貴の大好きな人間達が滅ぶ・・・私の大嫌いな人間どもがな・・・」

 ウルフェンは唇を噛み締め、ペンダントを握る手に力を込めた。唇から血が流れ、足元の床に血の斑点を作り出す。
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