最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~螺旋凶線編 第5章~

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[波動]

 「ほら、ガーヴェラ・・・こいつを食べろ。」

 ケストレル達はゴルドとの戦闘で体力を消耗してしまい、敵との交戦は厳しいとの判断から第一城壁から少し離れた敵が来ていない物陰へと退避し、身を潜めた。

 一先ず安全を確保すると、ケストレルはシャーロットが持っている黄金の葡萄が入った袋を取り、中から果実を一粒取り出しガーヴェラに手渡した。ガーヴェラは黄金の葡萄を食べると、体の傷が完全に癒え、魔力が漲って来る。

 「驚いたな・・・黄金の葡萄に関しては前から知っていたが、これほどの回復力があるとは・・・」

 ガーヴェラが黄金の葡萄について感銘している中、ケストレルはキャレットの腕の中で少し苦しそうに唸っているシャーロットの下へ駆け寄る。先程の戦闘が終わってからシャーロットの具合は徐々に悪くなっていき、キャレットが何度も声をかけていたが小さく頷いたり、呟く程度の反応しか見せなかった。

 「シャーロットの様子は?」

 「さっきよりも悪くなってるわ・・・体も物凄く熱いし・・・」

 「・・・さっきの術の反動なのか?」

 「確証はないけど・・・多分そうね。平野一帯を一掃する程の魔術を使ってただで済む訳ないもの・・・」

 「・・・」

 「うぅ・・・うぅ・・・」

 「大丈夫よ、シャーロット。私が傍にいるから・・・ね?」

 キャレットがシャーロットの額を優しく撫でる。滝のように流れている汗がキャレットの手を濡らしていく。

 ケストレルは袋を開けて残った最後の一粒を手に取ると、シャーロットに声をかける。

 「シャーロット・・・俺の声が分かるか?」

 「・・・は・・・い・・・」

 「今からお前に黄金の葡萄を食べさせてやる。こいつを食えば楽になるぞ。」

 「・・・」

 「だから口を開けろ。今から口の中に入れてやるから・・・」

 ケストレルがシャーロットの口元に黄金の葡萄を持っていく。ところがシャーロットは口をつぐんだまま、固まった。

 「おい、シャーロット。早く口開けねえか。・・・それとも口を開けることも辛いか?」

 「・・・いい・・・え・・・違いま・・・す・・・」

 「じゃあ何でだ?これを食えば直ぐ元気になるぞ?」

 ケストレルがそう告げると、シャーロットは瞼を僅かに開けてケストレルを見る。

 「それは・・・ケストレルが食べて・・・下さい・・・」

 「あ?何言ってやがる、お前?」

 「私は・・・ヴァンパイアだから・・・直ぐに・・・治る・・・筈だから・・・それよりも・・・ケストレルが・・・私のせいで・・・ケストレルの力が吸われちゃったから・・・黄金の葡萄で・・・補充を・・・」

 「・・・」

 「シャーロット・・・あんた・・・」

 シャーロットの言葉を受けてキャレットが言葉を失う。如何やら、無差別に大勢の魔力を吸ってしまったことに罪悪感を持ってしまっているようだ。ケストレルは黄金の葡萄を持ったまま固まる。

 ところがケストレルは突き放すように鼻で笑うと、シャーロットに笑みを浮かべながら話しかけた。

 「はっ!お前そんなこと考えてたのかよ?全く・・・余計なお世話だよ。」

 「ケストレル?」

 「俺のこと心配してくれんのはありがたいけどよぉ、もっと自分の心配しろよな?お前まだ11歳だぞ?俺みたいなもう少しで30になるオッサンの心配なんかしなくていいんだよ。人間でもヴァンパイアでも、子供は大人より体が弱いんだからよ?変に無茶すんな。」

 「・・・」

 「それに・・・いつまで姉ちゃんを困らせるつもりだ?とっとと元気になって姉ちゃんを安心させてやれ。」

 ケストレルはシャーロットにそう告げると、半ば無理やり食べさせる。シャーロットは黄金の葡萄を口に含み、ゆっくり咀嚼すると『ゴクリ・・・』と飲み込んだ。

 すると徐々にシャーロットの熱は下がっていき、顔色も良くなっていった。シャーロットの顔色が良くなり、激しかった動悸も収まっているのを感じるとキャレットはほっと安堵の表情を見せる。

 シャーロットが瞼をゆっくりと上げ、ケストレルとキャレットを見つめるとキャレットがシャーロットに声をかける。

 「シャーロット・・・気分はどう?」

 「・・・悪くないよ。頭も痛くなくなったし・・・息も苦しくなくなった・・・」

 「そう・・・ならいいわ・・・」

 キャレットはシャーロットの言葉を聞くと愛おしそうにシャーロットを強く抱きしめる。シャーロットも唯一家族の中で生き残っている姉に抱きついた。

 ケストレルはシャーロットとキャレットの様子を見届けると、その場から立ち上がって城の方角・・・又は第二城壁がある方へ顔を向ける。城内にはまだ多くの怒号が飛び交っており、あちこちで死が暴れまわっていた。

 「さて・・・何時までもここでのんびりしていられねぇな。早いうちにフォルト達の援護に行かねぇと・・・」

 ケストレルが独り言を呟くと、ガーヴェラが一本の剣を持ってきた。

 「おい。」

 「何だ?」

 「お前、武器が壊れただろう?・・・ほら、これ。」

 「・・・何だこの剣は?」

 「そこら辺に転がっている死体から取ってきた剣だ。比較的傷んでいないモノを持ってきた。」

 「この剣・・・元々他人のか?」

 「そうだ。・・・だがもう死体には不要なモノだろう?」

 「・・・」

 「どうした?他人が使ったもの使うのは嫌か?」

 「ああ、大っ嫌いだ。他人の物を使うとむずむずすんだよ・・・。」

 ケストレルは一般兵士が使う小回りが利く剣を右手に持って軽く振り回す。今まで持っていた大剣とは重さが全然違い、初めから持っていないかのような感覚に陥る。

 「どうだ?いつもと違う武器を使う感覚は?」

 「気持ちわりい・・・この一言に尽きる。」

 ケストレルは手に持っている剣を片手で器用に回すと、刃を右肩にそっと乗せた。

 「ま、無いよりかはマシだから、我慢して使ってやるよ。」

 「ああ、そうしてくれ。後で貴様用の大剣を手配しておこう。」

 「お?気が利くじゃねぇか。お前が俺の為に動く何て・・・どういう風の吹き回しなんだ?」

 「別に深い意味は無い。只、何時までも武器に関してぐちぐちと文句を言われては堪ったものではないからな。」

 ガーヴェラがケストレルを横目で見ながら笑みを浮かべ、鼻で笑い飛ばした。ケストレルも同じく横目で彼女を見ながら、呆れたように小さく鼻を鳴らした。2人の間には久しぶりに穏やかな空気が漂い始めていた。

 しかしその時・・・

 ドゴォォォォォンッ!

 第二城壁付近から天を貫く程の思わず竦み上がってしまいそうな魔力の波動が発生した。波動はケストレル達の下へとやって来て、纏っているコートや服を激しく揺さぶり、髪が荒ぶる。ケストレルとガーヴェラは両手を顔の前で組んで風を防ぎ、キャレットはシャーロット抱いて風をその身に受ける。

 「う・・・うぅ!な・・・何ですかこの風⁉」

 「分からねえ!ただ・・・何かヤべぇ事になったってことは分かるぜ!」

 「この風は第二城壁の方からよ!」

 「ケストレル!第二城壁には誰が向かった⁉」

 「・・・ロメリアだッ!やべぇぞ・・・恐らくアイツ、あの波動の爆心地に居やがるぜ!」

 「い、急ぎましょう!ロメリアが危ないです!」

 シャーロットとキャレットが立ち上がり、ケストレルの傍にやって来ると、4人は第二城壁へと走り出した。古都の上空には黒く澱んだ曇天が重く広がっていた。
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