最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~螺旋凶線編 第3章~

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[月が紅く輝く頃に・・・]

 「シャーロットの奴・・・何をしやがった?急に空が暗くなったぞ?」

 ケストレルとガーヴェラが黒一色に染め上げられた空を見上げる。その後視線をシャーロットの方へ向ける。シャーロットの周囲には紅く揺らめくオーラが発生しており、怪しく彼女を包み込む。

 「分からん・・・だがそれにしてもシャーロットから放たれている背骨を引き抜かれそうな程凄まじい魔力の波動はなんだ・・・今まで出会った奴らの中であんな魔力を持っていた奴など・・・」

 ガーヴェラがシャーロットから放たれる魔力に少し怯え、手を震わせる。ケストレルも先程から冷や汗が止まらず、ただゴルドをじぃっと見つめているシャーロットから視線を離せずにいた。
 
 「・・・世界の一部分を自分の支配下に置いたか・・・やはりお前を一番警戒しておいて正解だったようだ。」

 ゴルドは糸に魔力を注入し、強化する。周囲に糸を展開すると、シャーロットを睨みつける。

 「小娘の貴様が何をしでかすつもりか知らんが・・・何もさせんぞ?直ぐに母親の下へと送ってやる・・・」

 「・・・ふふふ・・・上手く私を殺せるといいですね?」

 シャーロットは非常に大人びた年に合わない妖艶な笑みを浮かべ、魔術書を開いた。その瞬間、シャーロットの足元から無数の黒い腕が地面から伸び、『ズズズズッ・・・』と不気味な音を立てながら影が広がる。

 そんな中、シャーロットは後ろにいるキャレットに意識を向ける。シャーロットは後ろに顔を向けずに、先程姉が言った言葉を思い出した。

 『シャーロット・・・少しだけ、あたしに時間を頂戴・・・お願いよ、ほんの少しだけ・・・分かったわね?』

 姉の言葉を思い出し、シャーロットは左手に載せている魔術書に右手をそっと置いた。魔術書がシャーロットの意思に反応し、脈打つのが感じられる。

 『分かったよ、お姉ちゃん・・・お姉ちゃんが来るまで・・・耐えてみせる・・・』

 シャーロットは視線をケストレルとガーヴェラに向ける。そして今この場にはいないが、古都にいるフォルト達のことも思い出す。

 『皆・・・ごめんなさい・・・少し・・・私の技に巻き込まれちゃうけど・・・許してくださいッ!』

 シャーロットは心の中でフォルト達に謝意を述べると、右腕を大きく天に突き上げた。すると、闇に染まった空に只ぽつりと浮かんでいた紅い月がどんどん歪み始めた。

 「『さぁさぁ、犯していきなさい・・・肉体も・・・魂も・・・意思も・・・死も生も何もかも・・・混沌の扉は開かれ、絶望が皆を包み込む・・・』」

 シャーロットの詠唱が始まった・・・その時だった。

 突如ケストレルやガーヴェラ、ゴルドらといった周囲に存在する人々から蒼白い光がゆらりと流れ出してきた。そしてその光が全身から漏れ出していくと、体の自由が上手く効かなくなり、激しい虚脱感に襲われた。

 「な、何だこの光は⁉か・・・体の自由が・・・」

 「視界も薄れてきやがった・・・くそっ、頭が痛ぇ・・・」

 「こ・・・小娘ッ・・・力が・・・上手く入らんッ・・・」

 ゴルド達から漏れ出した光は、ゆっくりとシャーロットへと流入していく。ケストレルが周囲を見渡すと、その光は辺りに転がっている死体や遠くで戦っている敵味方関係なく全員から漏れ出していた。さらに古都全体が蒼白い光に包まれていることから、古都にいる全員がもれなく今自分達と同じ状況に置かれているということが容易に想像できた。

 シャーロットから放たれる魔力がどんどん肥大化していく中、彼女はゴルドやケストレル達に聞こえるような声でゴルドに語り掛ける。

 「リミテッド・バースト・・・『冥天紅月』の能力は、私の支配下にいる死者や生者の魔力を無差別に誰一人も例外なく吸収し、己の力とする力・・・魔力が少ない人は早々に気を失ってしまう・・・でしょうね・・・」

 「⁉」

 「おいおいおい、マジかよッ・・・無茶苦茶だな、おい・・・」

 「しかし八重紅狼が4人と大勢のコーラス・ブリッツ、古都軍にフォルトやロメリアの魔力が徐々に抜かれてシャーロットに入っていっているということは・・・今の彼女が吸収した魔力は・・・」

 ガーヴェラが状況を整理していると、ゴルドがその場から立ち上がり、シャーロットに攻撃を仕掛ける。細かく編まれたピアノ線がシャーロットに襲い掛かる。

 しかしシャーロットはその場から逃げようとせず、ただ振り上げていた右腕を下げ、腕を横に振った。すると、シャーロットの前にある地面が一斉に割れ、その隙間から天高くへと昇る炎と大地がひっくり帰る程の激しい熱風が吹きあがり、城壁諸共ゴルドを吹き飛ばした。ゴルドが編んだピアノ線が一瞬で灰になる。

 「ぐわぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 ゴルドは炎に包まれながら遥か後方へと吹き飛ばされていく。さらに城壁の前にいた敵の群れもシャーロットの術に巻き込まれて一掃されていく。古都の前に広がる平野がまるで世界の終わりかのような災害に見舞われていく。

 「くそ、ここもやべぇな!あいつの術に巻き込まれちまう!」

 ケストレルは今いる場所がどんどん崩れていっているのを見て、ガーヴェラの肩を持ってその場から立ち上がると、激しく揺れる中古都の内側へと退避する。城壁にいた兵士達も持ち場を離れて、一斉に避難している。その間にも平野はどんどん地獄絵図と化していき、平野は紅蓮に染まる。あちこちから火柱が吹きあがり、生命体の存在は確認できない。

 ケストレルは安全な場所へと退避するとガーヴェラを地面に座らせる。先程から魔力を抜かれ続けているので疲労が全く取れない。

 「はぁ・・・はぁ・・・なんて力だよ・・・あの野郎を古都の外にいる敵諸共消し炭にしやがったッ・・・」

 「しかしこれはまずいぞ・・・古都の中には相変わらず敵は大勢いる上に、全員が魔力を抜かれ続けている・・・フォルトやロメリア達も無事では無いだろうな・・・シャーロットッ!今すぐリミテッド・バーストを解けッ!」

 「・・・」

 シャーロットはガーヴェラの言葉を無視する。いや、聞こえていないのかシャーロットは棒立ちのまま、固まっていた。彼女の周囲には魔力の風が暴れており、まともに近づけない。

 「おい!聞こえているのか、シャーロット!今すぐ術を解けと言ってい・・・」

 ガーヴェラが再びシャーロットに声をかけた・・・すると、突然シャーロットの周囲を取り巻く風とオーラが消え、シャーロットは糸の切れた人形のように地面へと倒れた。ケストレル達から漏れ出していた蒼白い光が止み魔力の流出が止まると、体の自由が再び戻ってきた。

 ケストレルはシャーロットの下へ駆け寄り、抱き抱える。シャーロットは激しく息を乱しており、とても熱かった。

 「おい、シャーロット・・・聞こえるか?」

 「・・・ケスト・・・レル・・・」

 「良かった、何とか返事が出来る程度には無事だな。・・・全く、無茶しやがるぜお前。俺達の力抜き取るなんて何考えてやがる・・・」

 「ごめんな・・・さい・・・」

 「今度発動する時はちゃんと言えよ?じゃねぇと皆パニックになっちまうぜ?」

 「・・・はい・・・」

 シャーロットは静かに返事をすると、目を瞑った。ケストレルはシャーロットをお姫様抱っこすると、その場から立ち上がる。そしてそのまま焼け野原と化した平野を見渡す。

 「しかしまぁなんて有様だ・・・さっきまで有象無象にいた連中が跡形もねぇ・・・」

 ケストレルは腕の中で眠りについたシャーロットに視線を移す。シャーロットはここが戦場であるにも関わらず、夏場の昼場に昼寝をするかのように眠っていた。

 「こいつだけは怒らせないようにしないとな・・・全く、おっかねぇ女だよなぁ・・・」

 ケストレルはシャーロットを見ながら軽く笑みを浮かべた。シャーロットもケストレルの声を受けてかは定かではないが、小悪魔的に微笑んだ。

 ところがケストレルはそのまま後ろへ振り返り、ガーヴェラが待つ場所へと歩き始めた・・・その時、

 スピィィィィンッ・・・

 「ッ!」

 ケストレルの背後から突如激しい怒りを含んだ殺気が突きつけられ、さらに糸が張る音も聞こえてきたので、ケストレルはその場から反射的に退いた。するとケストレルが回避行動をとった瞬間に周囲の瓦礫が豆腐のようにするりと切断し、足場が崩落する。

 ケストレルが地面に着地し、シャーロットをしっかりと抱きしめるとガーヴェラが銃を構えてケストレルの前に立った。細かな粉塵が舞っているせいで銀色のピアノ線が何処にあるのかがはっきりと見える。

 「あの野郎・・・まだ生きてたのか!」

 「それよりシャーロットを連れて早く後ろへ下がれ!またいつ攻撃を仕掛けてくるか分からんぞ!」

 ガーヴェラがケストレルに叫んだ瞬間、土煙が一気に拡散し、ゴルドが姿を現した。ゴルドは右腕が千切れており、上半身が焼け爛れていた。右目も焼き付いて失明しており、残った左目が血走っている。

 「あれで私を倒したつもりか?・・・見くびるなよ。」

 「ふん・・・随分とまぁしつこい生命力だな。尊敬するよ。」

 ガーヴェラはゴルドに挑発する言葉をかける。ゴルドも息切れして何度も胸を上下させている。

 「・・・それに随分魔力を吸われたようだな?受けたダメージも相まって、今立っているのもやっとだろう?」

 「それは貴様も同じだろう、ガーヴェラ大隊長?お前も魔力を抜かれて、まともに魔力を練れないはずだ。・・・リミテッド・バーストも使えないだろう?」

 ガーヴェラは顔をしかめる。確かに今のガーヴェラは魔力がほとんど残っておらず、リミテッド・バーストの発動すら出来ない状況だった。ゴルドは焼け爛れた顔に歪な笑みを浮かべると、残った左手を使ってピアノ線を展開する。

 「先程の小娘は疲労で気を失っているのだろう?普通なら扱えるはずの無い程の膨大な魔力を吸収し、放出したのだから当然と言えば当然だが・・・気を失っているのならこちらにとっては好都合だ。首を刎ねさせてもらう・・・いくら私が手負いだからといっても、貴様らを葬るには何の問題も無いッ!」

 ガーヴェラはゴルドの言葉を聞くと、引き金を引いて弾丸を射出する。ゴルドは瞬きする間に細かくピアノ線を編んで弾丸をカットする。

 「無駄なあがきをするなッ!屑共めがッ!」

 ゴルドは喉が裂けんばかりの大声で叫ぶと、糸を走らせる。ケストレルとガーヴェラは後ろへと下がる。

 「逃がさんッ!」

 ゴルドが腕を後ろに引くと、ケストレル達の退路を防ぐかのようにピアノ線のネットが地面を割って出現する。退路を塞がれたケストレル達は前から迫るピアノ線に身構えた。

 「捉えたぞッ!これで終わりだッ!」

 ゴルドが勝利を確信し、叫んだ・・・その時、

 ヒュンッ!

 「ぐふっ⁉」

 突然、腹部に激しい痛みを覚え、ゴルドは視線を下に下げる。そこにはキャレットが使っていたレイピアが深く刺さっており、刃は背中を貫通していた。

 「な・・・何だこれ・・・は・・・」

 ゴルドはレイピアが飛んできた方へと顔を向ける。その視線の先には、ゴルドの能力を受けたにもかかわらず何故か両足が繋がっており、傷が癒えているキャレットの姿があった。
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