最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~螺旋凶線編 第1章~

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[殺意]

 「ケストレル・・・まさかお前がこのタイミングでここに来るとは・・・随分と早い帰還だな?」

 ゴルドがケストレルの方を見ながらピアノ線を引き寄せて自分の周囲に展開する。ロストルは直ぐに後ろへ下がり距離を取る。ケストレルが刃の少し欠けた大剣を肩に担いでゴルドを威圧するように睨みつけているとガーヴェラが話しかけてきた。

 「貴様・・・グリュンバルドからの避難民を護衛してるんじゃなかったのか?」

 「古都がやべぇ事になっちまってるって聞いてぶっ飛んできたんだよ。」

 「・・・フォルト達もいるのか?」

 「ああ、ヴァスティーソのオッサンと航空部隊の大隊長さんもいるぜ。避難民は帝都の騎士共とリールギャラレーのワイバーン乗り共に任せてる。」

 「・・・」

 「何だその目は?もしかして俺達が避難民から離れた隙に奴らから襲われたらどうするんだって思ってんのか?」

 ケストレルが少し目を細めて睨みつける様に鋭い眼光で見つめて来るガーヴェラに溜息交じりの言葉をかけると、シャーロットがケストレルの背中から降りてガーヴェラに話しかける。

 「彼らのことは心配しなくても大丈夫ですよ、ガーヴェラ・・・避難民達を襲ってくる人達はもういないと思います・・・少し前に襲われて、対処することが出来ましたし・・・それに彼らは古都を陥落させるために戦力をこちらに集中させている筈ですから・・・」

 「襲撃されたのか?」

 「はい。ワイバーンの集団と八重紅狼の1人に・・・八重紅狼の人は・・・とても強かったです・・・」

 シャーロットがそう呟くと、ゴルドが右手を閉じたり開いたりしながら独り言を呟く。

 「成程。ジャスロードの奴を倒したのか。・・・やるじゃあないか、お嬢ちゃんとケストレル?少しは楽しめそうだ。」

 ゴルドの周囲に展開されているピアノ線が鋭く光り始める。その様子を見たケストレル達はゴルドを睨みつける。

 「あの人の周りに張っている糸って・・・」

 「ピアノ線だ。非常に細く、鋭利でどんなものでも豆腐のように切断できる。・・・それに奴の能力で斬られた者は傷が癒えなくなる・・・とことん厄介な奴だよ。」

 「奴の能力を知っていたんだな。」

 「当然だ。八重紅狼にいた頃に何度も作戦を共にしたからな。」

 ケストレルが小さく舌を打つ。ガーヴェラがケストレルへと視線を向けると額から一筋の汗が流れているのが確認でき、相当手合わせしたくない相手だということを直感で理解する。

 そんな中、シャーロットが周囲を見渡していると、両足を切断されているキャレットの姿が視界に入った。

 「お姉ちゃん!」

 「シャーロット・・・」

 シャーロットはキャレットの生気の無い声を聞くと、彼女の下へと魔術書を抱き抱えて走り出した。

 その時、ゴルドが右手を握りしめ、右腕を横に勢い良く振った。周囲に展開されていたピアノ線がネットのような網目状になり、シャーロットに襲い掛かる。

 「シャーロット!避けなさいッ!」
 
 キャレットの叫び声を受けて、シャーロットはその場で足を止めて迫りくるネットを目を大きく広げて見つめた。迫りくる死に体が反応することが出来なくなっていた。

 ところが細かく編まれたピアノ線はシャーロットに届くことはなく、シャーロットの目の前に突如現れた巨大な衝撃波によってピアノ線は全て切断され宙を舞った。シャーロットが衝撃波の発生元である左側に体ごと視線を向けると、ケストレルが大剣を地面に振り下ろしていた。

 「ボケっとしてんじゃねぇぞ、シャーロットッ!とっとと姉貴の所に行けッ!」

 「は・・・はいッ!」

 シャーロットは再びキャレットの下へと走り出した。ゴルドはその姿を確認すると、自身の魔力で糸を編み直し、再びシャーロットに向かって攻撃を仕掛ける。

 『今ざっと奴らの魔力を探ってみたが、あの子供は・・・この中の誰よりも・・・あっちに転がっている膨大な魔力を持っているヴァンパイア族の女達と比較しても比べ物にならんほどの濃厚な魔力を持っている・・・それにあの魔術書は『ジャッカルの武器』・・・離れた所から魔術で攻撃されては堪ったものではないな。・・・最優先で殺すとしよう。』

 ゴルドはシャーロットに対する脅威を認識すると、彼女に意識を集中させる。周囲に張り巡らされた糸の殺意がシャーロットへと向けられる。

 ゴルドの殺気がシャーロットに集中しているのを感じ取ったケストレル、ガーヴェラ、ロストルの3人は同時にゴルドに攻撃を仕掛ける。ケストレルは大剣を大きく振りかぶると、自身の延長線上にゴルドがいることを確認して振り下ろした。

 「させるかよ、ゴルドさんよぉッ!」

 ケストレルの大剣が地面にめり込むと、巨大で鋭利な衝撃波がゴルドへと襲い掛かる。ゴルドは攻撃を中断し、後ろへ一歩下がって攻撃を回避する。ゴルドの眼前を衝撃波が通過し、その先にある大砲を構えている塔が盛大に吹き飛んだ。

 また衝撃波が通過した直後にロストルが舞う粉塵の中をくぐり抜けてゴルドへと斬りかかってきた。そして同時に背後からガーヴェラの放った弾丸が背中目掛けて接近する。

 「私達を無視して小さい女の子を狙うなんて・・・随分と甘く見られたものですねッ!」

 「シャーロットを殺すのはまず私達を倒してからだぞ、テロリスト!」

 「・・・やれやれ、そう簡単には仕留めさせてくれないか。・・・ふ、まぁいい。そんなに始末されたいのなら始末してやろう・・・」
 
 ゴルドは自身の周辺に糸を集め、一気に展開した。ロストルは咄嗟に後ろへと下がり糸を回避すると、直ぐに体勢を整え糸の間を縫うように接近する。ケストレルもロストルと同じように糸をよけながらゴルドへと接近戦を仕掛けていった。

 その頃、シャーロットはキャレットの下へと駆け付けることが出来ていた。シャーロットはキャレットのボロボロに傷ついた体と切断された両足を見て言葉を失う。

 「・・・」

 シャーロットが黙っていると、キャレットがシャーロットに軽く微笑んで声をかけた。

 「・・・何か言いなさいよ、シャーロット。黙ってちゃぁ分からないわよ?」

 「お姉ちゃん・・・その傷・・・」

 「ああ、これね・・・大したことないわ、私がドジっただけだから・・・あんたはあの糸に引っかかったら駄目よ?動けなくなったら、直ぐに首を飛ばされるから。私達ヴァンパイアは首さえ無事ならいつでも蘇生できるんだからね?」
 
 キャレットは引き攣った笑みを浮かべる。シャーロットはそんな笑みを浮かべるキャレットの両太腿から流れ出る大量の出血とそれによって顔色が非常に優れない姉の姿に困惑が隠せなかった。

 そしてもう一点・・・この場所に来てからどうしても姉に質問したいことがあった。・・・認めたくない事実があると直感で理解しながら・・・

 「お母さんは・・・何処にいるの?お姉ちゃん、お母さんと一緒にいるんじゃなかったの?」

 「・・・」

 「もしかして他の所の援護に行ったの?リーチェさんやルーストさんの所に行ったの?」

 「・・・」

 「ねぇ、お姉ちゃんてば・・・お母さんはど・・・」

 シャーロットがキャレットにしつこく問い続けていた・・・その時だった。

 「・・・う・・・う・・・」

 突然キャレットの目から大粒の涙が零れ始めた。シャーロットはその涙を見て直ぐに理解すると、視界が突然霞み始めた。そして下瞼が重くなると、そこから生暖かい涙が勝手に零れてきた。

 「お姉ちゃん・・・」

 「ごめん・・・ごめんね、シャーロット・・・私・・・お母さんの足を・・・引っ張っちゃって・・・」

 「・・・お母さんは・・・お母さんは何処に?」

 シャーロットの言葉を受けて、キャレットはゆっくりと自身の後方を指さした。シャーロットがその先を見つめると、バラバラのサイコロ状に切断されたエリーシャと『思われる』肉片が血だまりの中転がっていた。
 
 「お姉ちゃん・・・冗談・・・だよね?あれ・・・あれがお母さんな訳・・・」
 
 シャーロットはどうしても信じられず、キャレットに聞き直すが、キャレットはゆっくりと腕を下ろし、顔を俯けて何も語らなかった。その様子を見たシャーロットはそれ以上キャレットに語り掛けることはせず、ただ姉にゆっくりと抱きついた。シャーロットの頬を伝って落ちた涙が足元に広がる血だまりに波紋を作る。

 「お姉ちゃん、泣かないで・・・」

 「何が泣かないでよ・・・あんたも泣いてる癖に・・・う・・・うぅ・・・」

 キャレットの腕がシャーロットに絡まり、体をきつく締める。シャーロットも応えるようにより腕に力を込める。

 シャーロットは涙を頬に流しながらゴルドの方へと顔を向ける。ゴルドはケストレル達に夢中な用で、此方へ一切警戒心を持っていなかった。

 『許さない・・・良くもお母さんを殺して・・・お姉ちゃんを泣かせたなッ・・絶対に許すもんかッ!』

 シャーロットは歯を強く食いしばり、ゴルドを睨みつける。その目は血のように真っ赤に煌々と染まっていた。
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