最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~古都防衛編 第13章~

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[誇り]

 「う・・・っぐ!」

 ルースト達は宵闇の如く暗闇に包まれた空間へと放り込まれ、内臓が浮くような感覚を覚えていた。何時までこの感覚が続くのか・・・ルーストやナターシャ達がそう思っていると、直ぐに目の前が光に包まれた。

 眩い光に包まれ、思わずルースト達は目を瞑った。そしてゆっくりと目を開くとそこは城の正門をくぐり抜けた先にある広場・・・先程までいた謁見の間へと繋がる大階段が目の前にあり、謁見の間までの入口が階段の上にあるのが見えた。

 ところが謁見の間に入る扉は開いているのにも関わらず、扉の先は瓦礫で覆い尽くされており中に入ることが出来ないのが見て取れた。ルーストは先程の空間に放り込まれなければ、あれらの瓦礫の下敷きになっていたかと思い、冷や汗が噴き出してきた。

 「お・・・お父様・・・」

 ナターシャの声が下から聞こえ視線を下に下げると、そこには自分の下敷きになっているナターシャの姿があった。

 「ッ!すまない、ナターシャ!重かっただろう!」

 ルーストは慌ててナターシャから離れてそっと体を抱えて上半身を起こす。ナターシャは腹部を軽く摩りながら『問題ありませんわ・・・』と覇気のない声で呟くとルーストを見つめる。

 「お父様・・・先程の空間は一体・・・」

 「恐らくバリストの術だ・・・私達を逃す為の・・・」

 ルーストがそう呟くと、ナターシャが周囲を見渡し始めた。

 「バリスト・・・バリストは?お父様、バリストの姿が見当たりませんわ・・・」

 「・・・」

 「まさか・・・バリストはあの瓦礫の・・・」

 ナターシャが階段の上にある瓦礫に埋め尽くされている謁見の間の入口を見る。ナターシャはその様子を見ると、下唇を強く噛み、拳を震わせた。

 ルーストはそんなナターシャの姿を見ていられず周囲を見渡し始める。周りにいた部下達が次々と起き上がって武器を構えて周囲を警戒している様子が目に留まる。そんな中、ゆっくりと体に刺さっている槍を引き抜いて起き上がっているウィンブルの姿を目撃した。

 「隊長!手を貸します!」

 複数の親衛隊員達がウィンブルの下へと駆け寄ると、ウィンブルは右手を払って部下達に話しかけた。その声は掠れていて、激しく息を漏らしていた。

 「私に手を貸す必要は・・・無い。・・・それよりも陛下と姫の傍に行き・・・隊列を組んで安全な場所へと避難しろ!」

 「し、しかしッ!」

 「早くしろ!奴は直ぐにやって来るッ・・・こんな話をしている最中でも奴は・・・」

 ウィンブルが部下達に叫んだその時、

 ブゥゥゥゥゥゥゥンン・・・

 低く骨に響くような音が周囲に轟き始め、大階段の上に黒い球体が出現した。ルーストとナターシャはその球体を見ると直ぐに立ち上がって剣を握りしめると、親衛隊員達が壁になるようにルースト達の前に展開した。

 出現した黒い球体にヒビが入り、ガラス片のように粉々に砕け散ると、アルレッキーノが出現し杖を付いてルースト達を見下ろした。相も変わらずピエロのようなフェイスペイントによってこちらに向けられる不気味な笑みはルースト達の背中に不穏な悪寒を走らせる。

 「やぁ、諸君。ついさっきぶりだね?あんまり遠くへ行っていなくて安心したよ。」

 「ッ!」

 親衛隊員達が震える体を何とか制しながらアルレッキーノに剣を構えている中、ナターシャが叫んだ。

 「バリストは⁉バリストは何処にいますの⁉」

 「バリスト?・・・あぁ、あの魔術師のことか。」

 アルレッキーノは杖を両手に持って、調教師の如く杖で左掌を叩き始めた。

 「奴なら瓦礫の下だよ、お嬢様?もう原型をとどめていないと思うがね。」

 アルレッキーノが頬を上げて不敵に微笑む。その瞬間、ナターシャ達の前にいる隊員達が剣を握る手に力を込めて顔を真っ赤に染める。

 「貴様ァ!よくもバリスト大隊長を!ここから無事に生きて帰れると思うなよっ!」

 「待てお前達!勝手に前へ出るな!」

 ルーストが突撃し始めた十数人の隊員に叫ぶが、彼らはルーストの言葉を無視して階段を駆け上がっていく。その姿をじぃっと見つめていたアルレッキーノは哀れむ目で彼らを見つめると、杖の底を彼らの方へと向けた。

 「愚かな・・・相手の力量も理解できぬその愚行・・・死をもって理解させてやろう。」

 アルレッキーノが静かに告げると、杖を勢いよく横に振った。するとアルレッキーノの前方に巨大な風の刃が幾つも出現し、暴風の如き勢いで襲い掛かった。

 風の刃は一瞬で兵士達を切り刻み、バラバラにする。彼らは悲鳴すら上げずに絶命していった。

 そのまま風の刃はルーストとナターシャの方へと襲い掛かる。巨大な壁が迫ってくるような圧迫感に2人は歯を激しく食いしばる。

 その時、ウィンブルが2人の目の前に移動し、剣を地面に突き刺した。ウィンブルの体が蒼白く輝き始め、吐息が白くなる。

 「閉ざせ、氷柱よ!『氷界絶封』!」

 ウィンブルの詠唱と共に地面に巨大な紋章が現れ、ルーストとナターシャごと包み込むと、巨大な氷柱が取り囲むように出現し、柱の間を硝子のように透明な氷が張った。風の刃は氷の表面だけを抉り飛ばし、氷の破片が宙を舞って光を神々しく反射する。

 「ほぅ・・・氷属性の魔術とは・・・珍しいな。」

 アルレッキーノが感心するように眺めていると、氷が粉々に砕け散り床に散らばった。ウィンブルは剣を床から引き抜くと、少し後ろに下がりルースト達に声をかける。

 「・・・陛下、ここは私に任せて姫と一緒に地下へと退避してください。」

 「しかしウィンブル・・・お前の体では・・・」

 「問題ありません。・・・この程度の怪我など、負傷の内には入りませんので。」

 ウィンブルは柄を強く握りしめる。

 「私の使命は陛下と姫の命を守ること・・・その事を誇りとし、今までその任務を全うしてきました。」

 「・・・」

 「しかし先程まで私は陛下や姫に守られてしまった・・・足手纏いにもなってしまった・・・これでは何のために親衛部隊を率いているのかが分からない・・・ヴァスティーソ大隊長に留守を頼まれたのにこの体たらく・・・情けなくて顔向けができない・・・」

 ウィンブルの体が再び蒼白く輝き始め、水色のオーラがウィンブルを包み込む。その瞬間、アルレッキーノの背後から無数の魔槍が飛んできた。

 ウィンブルは全ての魔槍を剣で弾き飛ばすと、ルースト達に叫んだ。

 「さぁ、お逃げ下さい陛下、ナターシャ様!お前達!陛下と姫を安全な場所へと連れて行けッ!ここに居られては足手纏いだッ!」

 「ウィンブル隊長ッ・・・」

 生き残っていた部下達はルーストとナターシャに声をかけて退避を促した。ルーストは悔しそうに唇を噛み、城から走り去っていく。ナターシャも親衛隊員達と城から脱出していこうと走り出した。

 「ウィンブル!絶対に死なないで下さいな!今すぐ叔父様を呼んできますわ!だから・・・だから絶対に死なないで下さいなッ!生きて・・・生きて再び姿を私達の前に見せて下さいな!約束ですわよ!これは王女である私からの命令ですわよ!」

 ナターシャはそう叫びながら城を出ていく。ウィンブルは何も言わず、アルレッキーノの攻撃をさばき続けた。

 「いやぁ、本当にいいお姫様だねぇ?ナターシャ様は。」

 「黙れ、下衆が。軽々しく姫の名を口にするな。」

 ウィンブルは姿勢を低くし、一気にアルレッキーノの懐に入り込むと剣を振るう。アルレッキーノが体を後ろに倒したため、刃は喉元を掠るだけで終わった。

 アルレッキーノはそのまま後ろへと下がり距離を取って魔術による攻撃を繰り出すが、ウィンブルは最小限の動きで攻撃を回避し、すぐさま間合いを詰める。

 「やるねぇ、君!さっきまでとは別人のようだね!」
 
 「・・・」

 「だんまりかい?悲しいなぁ・・・折角お話しようと思ってたのに・・・」

 「誰が貴様と話をするものか。口が腐る。」

 「おっほっほ~!これはこれは酷い言い草だ!こんなにひどいことを言うなんて・・・何て悪い子だ。」

 アルレッキーノはそう言って指を鳴らした。するとウィンブルの前方にある空間が突然『炸裂』した。ウィンブルは咄嗟に身構えるが、爆風によって思いっきり吹き飛ばされた。

 「がっ!」

 吹き飛ばされたウィンブルは正門上の壁に思いっきり叩きつけられる。アルレッキーノは壁に貼り付けられているウィンブルに向かって無数の魔槍を出現させて構えた。

 「悪い子にはお仕置きだよ。・・・きっつ~いね。」

 アルレッキーノはそう言って魔性を射出する。ウィンブルは体が壁にめり込んでいて身動きが出来ずに回避することが出来ず、思わず腕を前で組んで身構えた。
 
 『死』が目の前に迫ってきてウィンブルは覚悟を決めた・・・その時だった。

 バリィィィィンッ!ズガガガガガガッ!

 突如大広間の真上にあるステンドグラスが勢い良く割れる音が周囲に轟き、雷鳴の如き斬撃が魔槍を全て叩き切った。アルレッキーノは顔をしかめて大階段の下に着地した黒い影を見つめる。その影は先程ステンドグラスを破り、全ての魔槍を切り落としたものだった。ウィンブルもその影の方へと視線を動かす。

 「・・・来たか。」

 アルレッキーノは杖を握る手に力を込めた。アルレッキーノが見つめている影はゆっくりと立ち上がると、壁に貼り付けられているウィンブルを見上げた。

 ウィンブルがその影に向かって言葉を発しようとしたその時、先に影が軽く微笑んでウィンブルに話しかけた。

 「よぉ、ウィンブル!助けに来てやったぞ!よくぞ弟と俺の可愛い姪を逃してくれたな!流石俺の頼りになる部下だ!」
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