最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~古都防衛編 第12章~

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 「がっ・・・!」

 ウィンブルは自分の体に刺さった無数の剣によって引き起こされた脳が焼き切れるような痛みによってその場に倒れ込む。その場に倒れ込んだウィンブルはピクリとも体を動かさず、ただ血の池が広がっていく。

 「ウィンブル!」

 「剣が飛んできたのに気が付かなかった・・・何処から・・・何処から飛ばしてきた⁉」

 ナターシャがウィンブルへと駆け寄り声をかけ始める。ウィンブルはピクリと指一本たりとも動かさなかったが、まだ呼吸をしているのを確認する。

 その時、バリストが右手を地面について、結界を自分達の周囲に展開する。すると、薄っすらと凝視しなければ視認することが困難な魔術陣がバリスト達を包囲し、ウィンブルの体に突き刺さった金色の剣と同じものが大量かつ一斉に射出された。結界に剣が深々と突き刺さるが、一本たりとも貫通することは無かった。床に両膝をついているナターシャの目の前に剣の刃先が寸前で止まり、彼女の身が一瞬固まった。

 「よく気が付いた、誉めてやろう。」

 「・・・」

 「バリスト・・・奴は一体何をした?」

 ルーストの言葉にバリストは全身に魔力を漲らせながら返事をする。

 「あの者は結界にステルス(隠密)機能を付け加えて攻撃を行ってきました。」

 「ステルス・・・成程、道理で魔術陣や陣から発せられる魔力を感じられず、不意の攻撃を受けてしまったのか・・・」

 ルーストの言葉を受けたバリストは唇を強く噛み、アルレッキーノを睨みつける。

 「しかしステルス機能を魔術陣につけた場合、相手に悟られないという利点がある一方、高火力の魔術を繰り出すことが出来ない欠点もあります。・・・ところが奴の放った魔剣は私の結界を貫通はしなかったものの、全て深く突き刺さった。この結界は先程咄嗟に練ったものとは違い、厳重に練りましたが・・・」

 「奴の魔術がそなたの結界を後僅かで上回ろうとしていた・・・」

 バリストが言葉を発することなく小さく頷いた。ルーストは額から冷たい汗を流し、剣を構えるとアルレッキーノに目を向けた。

 アルレッキーノは杖の底で何度も床を小突きながら話しかける。この時、アルレッキーノの顔は何かを観察するかのように神妙な顔をしていた。

 「ふむ・・・まだステルスをつけたままでは火力が十分に出せんか・・・もう少し手を加える必要があるな・・・」

 アルレッキーノはそう言うと、杖の枝を持って底をバリスト達に突きつけるように向けた。アルレッキーノ周囲に深紅色の禍々しい魔力の波動が沸き上がり始めた。

 「では今度は少し派手にいくとしよう・・・ステルスの存在が知られてしまった以上、対策されてしまうのは目に見えているからな。」

 「ッ!ナターシャ様!陛下!来ますよ!」

 「お待ちなさい!まだウィンブルを安全な・・・」

 ナターシャがアルレッキーノに叫ぶと、彼はナターシャを小馬鹿にするように鼻で笑い飛ばした。

 「甘い・・・甘ったるいね、ナターシャ様?ここは『戦場』ですよ?そこの『死にかけの男』より『非力なご自身』を心配しては如何です?・・・『歪め、神が造形せし世界・・・この世全ての理を忌む背徳者の名の下に平伏せよ。』」

 アルレッキーノが詠唱を終えた瞬間、ナターシャ達の体が浮き上がり、謁見の間が『歪み』始めた。体の自由が利かず、宙で手足をばたつかせるが、その行動は虚しく宙をかき混ぜるだけだった。

 「か・・・体が宙にッ・・・!」

 「何だこの術は⁉バリスト!この術は何だ⁉」

 「も、申し訳ありません、陛下・・・私にも・・・はっきりとは・・・只・・・空間を自在に操る能力であろうと思い・・・」

 「素晴らしい、正解だよ。」

 アルレッキーノがバリストの言葉を遮って言葉を発すると、杖を右に振った。する宙に浮いた円卓や椅子、飾り、絨毯、人が一斉にアルレッキーノが杖を振った方向へと飛んでいき、思いっきり叩きつけられる。

 ナターシャ達は壁に叩きつけられると、そのまま貼り付けにされた。謁見の間にいた親衛隊員も巻き込まれ、数人がガラスを突き破って屋外へと放り出され、数百メートル下へと落ちていった。他にも蝋燭を灯していた燭台が首に刺さって絶命していたり、円卓に潰されて壁に肉片がべっとりと擦りついていたりと凄惨な状況だった。

 「が・・・はっ・・・」

 バリストは逆流してくる血を飲み込みながら自分の腹部に視線を向けると、2m近くある燭台が突き刺さっているのが視認できた。体を貫通して石で出来た壁に突き刺さっている為に引き抜くことが出来ない。

 ナターシャに関しては背中を壁に強く打ちつけただけで済んだが、息が出来ない程の圧迫感と痛みに襲われて身悶えていた。ルーストも同様の感覚を抱きながらも横で苦しんでいるナターシャに声をかける。

 「ナターシャ・・・無事か・・・?」

 「お父様・・・」

 ナターシャはゆっくりと周囲を見渡し、同じく壁に叩きつけられているウィンブルや周囲の兵士達に顔を向けた。

 「私は大丈夫・・・ですわ・・・それよりも皆を・・・安全な場所に逃がさなければ・・・」

 ナターシャが痛みで顔を歪めながらルーストに声をかけると、アルレッキーノが大きく溜息をつきながら顔を下に向けて左右に首を振る。

 「はぁ・・・自分の身より他人を心配するなんて本当にお人好しだねぇ~、ナターシャ様?・・・本当に『アイツ』の血を引いているのかい?名声の為なら例え『弟』だろうと関係なく踏み台にする『あの男』の・・・」

 アルレッキーノは杖をナターシャに向ける。バリストがゆっくりと身を起こしながら魔力を練り始めた。

 「全く、羨ましいねぇ・・・本当に羨ましいよ。君のような素敵な思想を持っている人がいたら・・・さぞ民や兵士達は付いて行くだろうなぁ・・・」

 アルレッキーノがそう小さく何かを後悔するかのように呟くと、杖の底で思いっきり地面を叩いた。すると天井が突然グニャリと歪み始め、ナターシャ達を覆う天井が落ちてきた。

 「だが・・・今更そのような身分が低い者達を慈しむ言動は私にとっては無意味だ。お前達の血に刻まれた『罪』はその程度では消えることはない・・・私の血に刻まれた『恨み』も・・・決してな。」

 「て、天井がッ・・・」

 ズササササッと天井が壁を擦りながら怒涛の勢いで落ちて来る。ナターシャやルーストは体を起こすことは出来たが謁見の間から出る扉迄はそれなりの距離があり、到底潰されるまでに脱出することは出来なかった。アルレッキーノの周囲が蜃気楼のように揺らめき始める。恐らく自分は何らかの方法で脱出するらしい。

 「では、さらばだ諸君。その醜く穢れた血を受け継いでいる事を後悔しながら圧死するがいい・・・恨むなら自分達の先祖を恨むんだな。私の手で奴らを仕留められなかったことが心残りだが・・・」

 「くっ・・・!」
 
 ルーストが咄嗟にナターシャに覆い被さる。天井が落ちて来るので彼の行動に意味を見出すのは厳しかったが、娘を守らなければという父親の想いが彼を動かした。

 「お、お父様ッ・・・」

 「ナターシャ・・・お前を・・・娘であるお前を死なせるものかッ・・・」

 「ふん、無意味な事を・・・父娘仲良く肉片と化すがいい。」

 アルレッキーノが馬鹿馬鹿しい茶番を見て吐き捨てるように呟いた・・・その時だった。

 「陛下!」

 バリストが金色のオーラを纏った両手を互いに勢いよく合わせた。その瞬間、ルーストとナターシャ、そしてまだ息のあるウィンブルと親衛部隊の隊員達は壁に突然開いた謎の黒い穴に呑まれていった。内臓が浮き上がるような浮遊感を覚え、ただひたすら深淵が続く空間を落ち続けていくルースト達を見送ると、バリストは小さく息を吐いた。

 「空間転移魔術・・・奴らを別の空間に飛ばしたか。」

 「・・・させんぞ・・・陛下と姫を・・・殺させは・・・」

 「大した忠誠心だな。僅かな間に空間転移魔術陣を展開させたことには敬意を表する・・・が、残念ながらまだ魔術陣は未完成だったな。あの程度だと飛ばせても精々数十メートルの距離・・・違うか?」

 アルレッキーノの言葉にバリストは不敵に微笑んだ。

 「構わん・・・天井に圧し潰されることを回避させただけでも・・・価値はあった・・・陛下と姫は・・・今後の古都には必要なお方・・・皆が・・・今後も身分を超えて繋がれるような国に・・・していく為の・・・」

 「・・・」

 アルレッキーノは冷めた目でバリストを見つめると、何も言わずその場から姿を消した。バリストは目と鼻の先にまで迫っている天井を見上げると、ゆっくりと目を閉じた。

 「・・・一足先に、失礼します・・・陛下・・・」

 ドォォォォンッ!

 天井は謁見の間にあるあらゆる『モノ』を圧し潰しながら床とキスをした。白濁した粉塵が宙を舞い、辺りの景色を濁らせていく。
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