最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~古都防衛編 第11章~

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[魔術とは]

 「・・・少し体が硬いね。緊張しているのかい?」

 アルレッキーノはウィンブルの激しい攻撃を容易く受け流しながら彼に話しかける。まるで師匠から指南を受けているような扱いをされたウィンブルはさらに攻撃速度を上昇させるが、アルレッキーノは直ぐにその速度に適応してきた。

 ウィンブルは少し勢いよく剣を横に振りアルレッキーノの隙を僅かに作ると、左手を剣の柄から離して掌をアルレッキーノの顔面に向けた。

 「滅却せし波動、我が敵を撃滅せよ!」

 ウィンブルが詠唱を終えた瞬間、掌から紅蓮に燃える炎がドラゴンの吐くブレスの如く出現した。出現した炎は城壁をそのまま突き破っていく。

 アルレッキーノは射線から避けるように首と体を横に傾けて回避する。非常に素早い動きで、零距離から回避されるとは思って無かったウィンブルは思わず舌を打つ。

 『こいつッ!何て反応速度だッ!』

 「脇ががら空きだよ、『ルーキー』?」

 アルレッキーノが杖の底を魔力で刃のように尖らせると、ウィンブルの顎下目掛けて杖を突きだす。ウィンブルは目では杖が迫ってきている事には気が付いていたが、体が反応せず焦りを抱いた。

 しかし、反応できずにいたウィンブルの間にルーストが割って入りこみ、杖を真上に弾き飛ばす。アルレッキーノは『おおっと。』と意外そうな声を上げた。

 「ふんっ!」

 ルーストがアルレッキーノの首元に剣を走らせると、突然アルレッキーノの姿が拡散した蛍のように消え失せた。ルーストが咄嗟に周囲を見渡していると、ナターシャがルースト達の上に矢を番えた弓を構えて叫ぶ。

 「真上ですわ、お父様ッ!」

 ナターシャは叫ぶと同時に矢を放つ。上空に弾き飛ばされた杖に転移していたアルレッキーノは杖を手に取ると矢を弾き飛ばした。ナターシャは僅かな間宙に留まっているアルレッキーノに対して3本の矢を矢筒から引き抜くと、目にも止まらぬ速さで番えていき、射た。

 アルレッキーノはナターシャの早撃ちの技術と正確さに笑みを浮かべながら矢を容易く弾き飛ばす。

 「いい腕だ、お姫様。その弓術・・・その辺にいる弓兵より遥かに優れているね。誰から教わったのかな?」

 「お前に教える必要はありませんわ!」

 「あぁ・・・悲しいな・・・聞きたかったのにそんな冷たい反応されるなんて・・・」

 アルレッキーノがそう呟いて再びその場から姿を消して玉座の前に移動する。ナターシャ達が目で追う中、転送したアルレッキーノの足元に金色の結界が眩い光を発しながら描かれた。

 結界から金の鎖が飛び出し、アルレッキーノの体にこれでもかというぐらい絡まると、バリストが自分の手元に紫色の強い魔力を発する球体を召喚していた。

 「やりましたわね、バリスト!このままあいつを倒しま・・・」

 「甘い。この程度の拘束術で私を捉えたつもりか?」

 アルレッキーノは容易く結界を粉々に破壊すると、自分の周囲に人魂のような純白の魔球を出現させると、バリスト目掛けて放った。バリストはすぐさま作成していた魔球を飛んできた魔球の1つにぶつける。バリストの放った紫色の魔球はぶつかった瞬間一気に拡散し、他の魔球を消滅させる。消滅させる際に激しい衝撃波が周囲に発生し、ルースト達は身動きが取れなくなる。

 「ほぅ・・・咄嗟に術の性質を変化させたか・・・まぁ魔術部隊の大隊長ならこの程度出来て当然だが。」

 「・・・」

 バリストはアルレッキーノに返事をする事無くすぐさま無数の魔術陣を後方に展開すると、それぞれの魔術陣から金色の槍が怒涛の勢いで射出される。ナターシャも矢を放ち、ルーストとウィンブルは周囲に火の玉を出現させると、アルレッキーノに放つ。

 アルレッキーノは溜息をつくと、杖の底で床を一度叩いた。するとアルレッキーノの目の前に透明な薄い壁が出現し、槍や矢、火の玉は全てその壁の中に消えていった。

 「なっ!消え・・・」

 ナターシャが動揺すると、バリストはナターシャの傍へと走り寄る。アルレッキーノは杖の底をナターシャ達の方へと向けた。その瞬間、透明の壁から先ほど消えた槍や火の玉などがアルレッキーノの魔力でブーストされて出現した。

 バリストは速攻でナターシャと自分の周囲に結界を張る。張られた結界に反射して飛んできた槍などが当たり、大量のヒビが入る。攻撃を凌ぐと、結界は粉々に砕けて消滅した。

 「ナターシャ様、お怪我は?」

 「あ・・・ありませんわ・・・」

 ナターシャの無事を確認すると、バリストは精神を再集中させる。そんな2人の下にルーストとウィンブルが来て2人を守るように立つとアルレッキーノが杖の底で何度も床を小突いていた。

 「ふむ・・・咄嗟に物理・魔術両方に対応した結界を張ったか・・・先程までのお前のレベルを見て防げない『程度』の魔力をブーストさせたが・・・如何やら俺の目が間違っていたようだな。・・・少しは出来るみたいでちょっぴりワクワクしてきたよ。」

 アルレッキーノが頬を吊り上げて悍ましいフェイスペイントがより悍ましくなる。

 「お前がさっき張った反射結界には練成難度が極めて高い空間魔術が組み込まれていた。それも壁のように一面に広げて・・・あのレベル・あの規模を僅か1秒にも満たない速度で展開するなんて・・・何者だ、お前?私も先代もその前の魔術部隊大隊長も・・・あの反射結界を展開するのには数分を要するのに・・・」

 「そりゃあ、俺は『既にこの世に存在する魔術を使うだけ』のような奴らとは違うからな。・・・さっき発動した反射結界・・・あれは私が開発したものだ。」

 「!」

 「他にも貴様らがジャッカルの子孫達をサンセットフィート港へと送るのに使用した転送結界・・・あれも私が開発した。開発者である私なら、いくらでも応用させることが可能だ。・・・敵陣のど真ん中に大軍を送り出せるような巨大結界を一瞬で張る事だってな。」

 アルレッキーノの言葉にウィンブル達が絶句していると、ルーストが信じられないというかのように首を小さく左右に振る。

 「・・・嘘だ。貴様、何故嘘をつく・・・」

 「お父様?」

 「転送結界や反射結界が編み出されたのは今から70年前に書かれた『第13版 魔術新書』から・・・それもその魔術書をまとめたのは私の曾祖父だ・・・曾祖父は魔術の天才で・・・」

 アルレッキーノはルーストの言葉を聞いた瞬間、腹を抱えて大声で笑いだした。ルースト達は目を開いてアルレッキーノを見つめる。

 「あっはっはっはっはっはっは!あの屑が?あの才能無しが?1人で火の玉程度の魔力も練れなかった奴が魔術の天才だと?あはっはっはっ!それ本当か⁉ククククク・・・笑いが止まらんな!」

 「・・・」

 「全くアイツらしい・・・他人の成果を盗んで自分の成果にするとんだ性根の腐った奴のな・・・それなら納得だ・・・お前達の魔術がやけに『古臭い』というのがな・・・」

 「古臭い?」

 「そう・・・お前達の術は古臭い・・・まるで半世紀前の術を相手にしているようだ・・・」

 アルレッキーノはそう言うとゆっくりとルースト達の方へと歩いてくる。

 「魔術の術式というのは開発してそれで終わりではない。常に更新し、最適・簡略化されていく・・・その日作った術式が次の日には更新され、より強化される・・・我々魔術を扱う者は常に術式を研究し、それを発展させていくことを使命とする・・・」

 「・・・」

 「だがその様子だと・・・私が開発した術は70年前のまま止まっているようだな?・・・まぁどうせアイツがまとめた本には『術式の展開法』は載っていても『原理』は載っていないんだろう?載っているとしても、表面をなぞっただけの薄いもの・・・そうだろう?」

 アルレッキーノの言葉を受けたバリストは小さく唸った。

 「図星か。だから術を発展させられなかった・・・」

 「・・・文献に載っていた術式には詳細な事が書かれていなかったのは事実、だがそれは我々の知識が先々代帝王の知識に及ばないからだと思ってはいたが・・・」

 「残念ながらそれは違ったようだな?奴の知識が理解できないんじゃない・・・奴も理解できなかった・・・ただそれだけだ。」

 「バリスト、ウィンデルバーグの魔術師達なら術を発展させられたのではなくて?」

 「彼らにも情報提供は行いましたが理解に苦しんだようで・・・最近漸く原理を読み解き、発展させているとのこと・・・」

 「ふん、それも私からしたら『今更その程度のことをやっているのか?』と思っているがな。」

 アルレッキーノはそう言うと、杖の底で床を小突く。カツンっと乾いた音が謁見の間に響いた。

 「長話をし過ぎた・・・そろそろ本気で行くとしようか。貴様らの相手をするのは・・・退屈でね。」

 「!」

 「だが・・・折角の機会だ、一世紀近く研究し続けてきた我が魔術を見せてやろう。冥途の土産としては豪華すぎるがな?」

 ルースト達がアルレッキーノの言葉を受けて身構えた・・・その時。

 ズシャァッ!

 「えっ・・・」

 何か肉が裂けるような音と同時にナターシャの右頬に何か『水のような温いもの』が吹きかかった。そっと右手を当ててみると、触れた白の手袋の指先が真っ赤に染まっていた。

 ナターシャが恐る恐る右へと顔を向けると、全身に金色のレイピアが無数に刺さったウィンブルの姿があった。ウィンブルは何が起こったのか理解できずにその場に立ち尽くし、口から『ツゥゥゥ・・・』と血が零れ出ていた。
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