最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~古都防衛編 第10章~

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[殺気]

 「ッ!」

 ラグナロックが倒れたレイアの傍に一気に駆け寄り抱えると、その場からすぐさま離脱する。その場から離脱していくラグナロックに対してマスケット銃が大量召喚されて背中に向けて乱射されるが、弾幕を回避しながら燃え上がる船から退き、海面に浮く破片を伝って港にまで撤退する。

 ラグナロックはすぐさま物陰に隠れると、レイアをそっと置いて銃弾で裂けた両足を見る。レイアの太腿や脹脛からは大量の血が噴き出ており、顔は激痛により苦しそうに歪んでいた。

 「待ってろ、直ぐに止血する。」

 ラグナロックはコートの懐から携帯式応急治療箱を取り出すと、箱の中から消毒液を取り出した。消毒液を振り、蓋を『外す』とレイアの両足に消毒液をぶちまけた。消毒液が傷口に染み、レイアが瞼を閉じて叫ぶ。閉じた瞼からは涙が零れ出て、両手を強く握りしめて地面を何度も叩く。

 「あぐぅッ・・・ぅぅぅぅッ!あああああぅッ!」

 「・・・悪い。・・・気をしっかり持てよ。」

 「はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・」

 レイアが額に大量の汗を流し、荒い息遣いをしながら耐えていると、ラグナロックは包帯を1つ手渡した。

 「今からお前の左足に包帯を巻く・・・右足は自分で巻くんだ・・・出来るな?」

 「・・・ええ。」

 レイアはそう言うと、上半身を少し前のめりにして両足を少し開いて立てると、右足に包帯をゆっくりと巻き始める。ラグナロックは手慣れた手つきでレイアの左足に包帯を少しきつく巻いていく。巻かれるたびに痛みが脳を強く刺激し、顔が引きつる。

 レイアが半分ほど巻き終える頃にはラグナロックは既に包帯を巻き終えていた上に固定までして解けないようにまでしていた。

 「・・・手慣れてるわね?」

 「もう何人も手当てしてきたからな・・・自分も含めて。それに『この程度』の傷・・・今まで見てきた怪我と比べたらまだ軽い方だからな。」

 「・・・」

 「包帯を貸せ。そっちも残り巻いてやる・・・痛みで体が動かないのだろう?」

 ラグナロックはレイアから包帯を受け取ると、手慣れた手つきで巻いていきあっという間に固定迄終える。真っ白だった包帯が血で赤く染まっていく。

 ラグナロックは周囲を見渡して敵の姿がない事を確認すると、沖の方を見つめる。沖にいる古都軍の船は未だに大気が揺れる程の爆音を轟かせながら砲撃を続けているが、コーラス・ブリッツ側の艦船はほぼ全て沈んでいた。僅かに残る船も沈み始めており、勝負は目に見えていた。

 「・・・海洋の制圧はほぼ完了・・・か・・・」

 ラグナロックがレイアの方に顔を向ける。

 「・・・立てるか?」

 レイアはラグナロックの言葉を受けてゆっくりと壁に手をついで立ち上がったが、直ぐに顔を歪めてその場に座り込む。

 「厳しいか・・・」
 
 「はぁ・・・はぁ・・・いいえ・・・いけ・・・いけるわ・・・」

 「いや、その様子だと厳しいだろう。無理はするな。」

 ラグナロックはそう言うと、レイアをお姫様抱っこするとその場から離脱する。もっと安全な場所へ彼女を連れていく為に・・・

 「ちょっと・・・こんな運び方しなくても・・・」

 「黙ってろ、舌を噛むぞ。」

 レイアはラグナロックから静かに一喝され口を閉じる。港にある大きめの倉庫に入ると、ラグナロックはレイアをそっと床に降ろし、積み上がっている荷台を漁って暖かそうな毛布を取り出すとレイアにかける。

 「ほら、これを掛けてろ。嫁入り前の女が体を冷やしたら大変だからな。」

 「・・・ありがとう。」

 レイアは毛布に身をくるませると、ゆっくりと息を吐く。ラグナロックが周囲を見渡している中、レイアはラグナロックに話しかける。

 「・・・貴方、名前は?」

 「ラグナロック・ドラグライカー・・・古都軍海兵部隊大隊長を務めさせて貰っている。・・・お前の名は?」

 「レイア・ミストレルよ。」

 「レイアか・・・良い名前だ。」

 「家族はいるの?」

 「妻と娘が2人・・・もう私の家にはいないがな。」

 「・・・娘さんはご結婚を?」

 「いや、2人共死んだよ。長女は古都軍の任務で、次女は病気で・・・」

 「ごめんなさい・・・嫌な事聞いてしまって・・・」

 「別に気にするな。どうせ過去の出来事だ・・・もう幾ら嘆いても変わるものでもあるまいし・・・」

 ラグナロックはそう言うと、天井を見上げた。天井の隙間から入り込む日光が倉庫内の埃を反射させているのが分かる。

 「・・・儂の長女の名前もレイアでな・・・幼い頃から体を動かすのが好きな子だった。そして儂に憧れてか女であるのに古都軍に入った。・・・儂はレイアが古都軍に入ることを猛反対したが退かなくてな、そのまま遠征部隊の第三中隊に槍兵として配属された。」

 「・・・」

 「儂は娘を何とか手元に置いておきたいと思い、当時の王だったルースト陛下の父上に進言したが、聞き入れてもらえなくてな・・・手元に置くどころか、当時もっとも仲の悪かった遠征部隊大隊長の下に配属となった。・・・本当に、当時の古都軍は腐っていた・・・」

 「レイアさんはその・・・何で亡くなったんですか?」

 「とある任務で大勢の魔物のアンブッシュに会ってな、部隊を撤退させる為の殿を任せられた・・・まだ入隊して1か月程度しか経っていない娘をたった1人きりにして・・・隊長とその他隊員は全員その場から逃げた・・・」

 ラグナロックは拳を強く握りしめる。

 「本来殿は隊長と練度の高い隊員が務めるものだ。最優先で撤退させるのは若手の隊員・・・まだ経験の無い者を無駄に死なせる訳には行かないからな・・・なのに奴らは・・・まだ練度の低い娘を・・・あれは殿では決してない・・・『贄』だ。」

 「・・・」

 「儂はその時、近くの港へと補給の為に寄っていた・・・暫くして娘が1人で魔物を食い止めているという知らせを受けて儂は1人助けに行った。」

 ラグナロックの頬が痙攣し始める。

 「だが儂がついた時には・・・娘は複数の魔物に食い遊ばれていた・・・娘の生気のない瞳と目が合った時の光景は今でも忘れられん・・・」

 ラグナロックは自分の右手を見る。

 「それからの記憶は・・・ほぼ覚えていない。気がつけば儂は娘の食い散らかされた遺体を無数の魔物の山に囲まれながら抱えていた。何度も呼び掛けても返事をしない娘の死体を・・・只見つめていた・・・」

 ラグナロックはそう言うとレイアに顔を向けた。

 「お前を見ていると娘を思い出す・・・背格好も同じぐらいだったからだろうか、名前が偶々一緒だからか・・・それは分からんがな。」

 ラグナロックは頬を少し上げてレイアに微笑んだ。彼の目は何か懐かしいものを思い出すように優しい目をしていた。

 その時だった。

 「見~つけたッ!」

 バァァンッ

 突如ヨーゼフの声と無数の銃声が聞こえると同時にラグナロックの体に無数の穴が開く。

 「ぐっ!」

 ラグナロックが体に空いた銃創を押さえながら後ろを振り向くと、そこには怪我1つしていないヨーゼフの姿があった。ラグナロックはレイアの前に立つと拳を構える。

 『いつの間に後ろに⁉気配すら感じなかった・・・』

 「オジサンとお姉さん!こんな所に隠れてないで僕と遊ぼ~よ~!」

 ヨーゼフの無機質な笑みに悪寒を覚えながらラグナロックは意識を集中させると、レイアが声をかけてきた。

 「駄目よ、ラグナロック!その傷じゃあいつには勝てないわ!私も・・・」

 「やかましい。黙って後ろに下がってろ、足手纏いだ。」

 ラグナロックがレイアに一喝すると、ヨーゼフに語り掛ける。

 「お前・・・只の人間じゃないな?」

 「いぃや?僕は『人間』だよ?だってオジサンと普通にお話出来てるじゃん?」

 「違う、お前は人間じゃない・・・人間は頭を潰されれば死ぬ・・・それに、お前の体・・・何故傷一つついていない?私が潰した頭も何故元に戻っている?」

 ラグナロックの言葉を受けたヨーゼフは腕を組んで首を傾げる。

 「う~ん・・・実はよく分からないんだよね?確かに自分は『変わってる』って思うけど~・・・いつもそのことを考えると『胸』が痛くなるんだ・・・あぁ、痛い・・・痛いよぉ・・・」

 ヨーゼフはそう言い終えた途端、突然自分の胸を強く掻きむしり始めた。爪でひっかいた皮膚から血が滲み出て来る。

 『何だこの子供・・・正気じゃないな・・・』

 「あぁ・・・イライラする・・・思い出したくもないこと引っ搔き回されるとさぁ・・・イライラしてこない?」

 「・・・」
 
 「ああイライラする・・・イライラするよぉぉぉぉぉぉッ!」

 突然ヨーゼフが狂ったように大声を上げると、数百丁ものマスケット銃を壁のように展開し、銃口をラグナロック達に向ける。ラグナロックは拳を握りしめると、真下にある補強された地面に視線を向けた。

 「オジサンが悪いんだからね!僕をイライラさせたオジサンが悪いんだからね!」

 ヨーゼフが右腕を振り上げてラグナロック達を撃ち抜く構えを取った・・・その時だった。

 ゾワァァァァァッ!

 『な・・・何この殺気⁉誰の殺気⁉』

 ヨーゼフが真後ろからとてつもない殺気を感じ取って後ろを振り向くと、そこにはヨーゼフの首目掛けて鎖鎌を振りかぶっているフォルトの姿があった。
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