最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

文字の大きさ
上 下
190 / 258

~古都防衛編 第9章~

しおりを挟む
[不意]

 「ホラホラぁ!どんどん行っくよ~!」

 ヨーゼフは周囲に次々とマスケット銃を展開させると、ラグナロックとレイアに向かって弾幕を張る。レイアは蒼炎を纏った鞭を正面で払って炎の壁を作ると、弾丸を一気に燃やし尽くす。

 その隙にラグナロックがヨーゼフの背後に回り込み、殴りかかる。ヨーゼフはラグナロックが繰り出す鋭い体術を躱しながらラグナロックの顔に目掛けて銃弾を放つ。

 「ふんッ!」

 ラグナロックは顔に向けて撃たれた銃弾を口で受け止めると、ヨーゼフの首を強く握りしめ甲板に叩きつけた。甲板には小さなクレーターが出来、細かな破片が舞う。

 ヨーゼフはびっくりしているのか目を大きく開けて口を開けたままにしていた。ラグナロックが左手の拳を握りしめてヨーゼフの頭を粉砕しようとしたその時、ヨーゼフが光に包まれてその場から姿を消す。ラグナロックの拳は鉄を加工して作られた床を貫いた。

 消えたヨーゼフはラグナロックの後ろに光を纏いながら出現すると、彼の背中目掛けてマスケット銃を無数に展開する。だが、それらのマスケット銃はレイアの鞭により一瞬で灰塵と化した。鞭はそのままヨーゼフへと襲い掛かるが、ヨーゼフは華麗なステップで鞭を交わしながら距離を取っていく。

 ラグナロックは鞭の回避に専念しているヨーゼフへと一気に接近し、激しい体術を繰り出していく。レイアはラグナロックがいようがお構いなく鞭で薙ぎ払ってくるのでラグナロックは鞭を交わしつつヨーゼフに体術をお見舞いしていた。

 ヨーゼフは歪ながらも妙に連携が取れている2人に対して余裕の笑みを浮かべながら話しかける。

 「あはは!凄いねぇ~2人共!全く目も言葉を合わせていないのに息ぴったりじゃん!楽しいなぁ!オジサンもそう思うでしょ⁉」

 「・・・」

 「返事なし~?無視は酷いよ~オジサン~。折角楽しい気持ちも台無しになっちゃうよ~。」

 ヨーゼフが顔をしかめながら話し終えると、ラグナロックの蹴りがヨーゼフの顔面を直撃する。ヨーゼフはそのまま燃え盛る艦橋の方へと吹き飛ばされ炎の中に消えた。

 直後、レイアが蒼炎の纏った鞭を大きく回してヨーゼフが消えた周辺を薙ぎ払った。赤く盛んに燃え上がっていた炎が鮮やかな蒼色へと変貌し、天高く火柱が昇る。レイアとラグナロックはヨーゼフがいるであろう場所から少し距離を取って燃え盛る炎を見つめる。

 「・・・このまま勝負がつけばいいんだけど・・・」

 「・・・」

 レイアがそう呟いた・・・次の瞬間、蒼炎の中から無数の弾丸が炎を纏って2人に襲い掛かってきた。レイアは直ぐに向かってくる弾丸を弾き落とし、ラグナロックが弾丸の弾道を瞬時に見抜いて素早く回避行動に移る。

 「ま、想定内かな~、うん。」

 ヨーゼフの声が蒼炎の中から聞こえると、一気に燃え盛っていた蒼炎が周囲に拡散し消える。ヨーゼフの服は若干黒く焦げていたが人形のように白い肌には一切の傷がついていなかった。屈強なラグナロックの蹴りが直撃したのにも関わらず、まるで最初から蹴りなど入れられていないかのようにケロリとしていた。

 『効いていないだと?確かに蹴りは入れた・・・鼻が潰れる音も感触もあったはずだが・・・潰れていない・・・どういう事だ?』

 「さ~ってと!『ちょっと』本気出しちゃうよ~!」

 ヨーゼフはそう言うと右腕を高らかに天へと上げる。すると空一面にマスケット銃が船の方を向いて出現した。数は恐らく・・・3000丁程だろう。

 『嘘でしょ⁉何あの馬鹿みたいな数のマスケット銃は⁉あれ全部あの子供が召喚したの⁉』

 「いっけぇぇぇぇぇ~!皆吹っ飛ばしちゃえぇぇぇ!」

 ヨーゼフの号令と共に銃口から火が吹き、白銀の魔弾が雨のように降り注ぐ。ラグナロックは己の右拳を地面に叩きつけて甲板を粉砕し破片を宙へと舞わせると、その破片が弾丸を受け止める。また、彼が甲板を粉砕した際の衝撃波により魔弾の弾道が一斉にズレ、船へと着弾せずに海に落ちた。

 「うわっ、防がれちゃった!オジサン、本当に人間⁉素手で船に穴開けるとか人間辞めてない⁉」

 ヨーゼフがラグナロックの人間離れした怪力にドン引きすると、ラグナロックは瞬きする間にヨーゼフの目の前にまで接近し、凶器的に鍛え上げられた手でヨーゼフの頭を掴むと、渾身の力を込めて甲板に叩きつけた。甲板には巨大なクレーターが出来、ヨーゼフの頭は潰れて血と脳漿が辺りに飛び散る。ヨーゼフは体をビクビクと痙攣させていた。

 頭を潰した後も一切の油断をせずに拳に力を込めているラグナロックを見ていたレイアも全身から血の気が引くほど彼の実力に息を呑んでいた。

 『これが古都軍を率いる6人の大隊長の力・・・八重紅狼とも互角・・・いや、互角以上に渡り合えるなんて・・・』

 レイアはラグナロックに対して畏怖と敬意を抱き始めていた。だがこの時、ラグナロックの心中には深い靄がかかっていた。

 『・・・おかしい・・・手応えが無い・・・『頭』は確かに潰した・・・だが仕留めた感触が全く感じられない・・・何故だ?』

 ラグナロックが不思議と首を傾げる・・・すると彼の耳に奇怪な音が聞こえてくる。

 カチ・・・カチ・・・カチ・・・

 一定のリズムで時を刻む音がヨーゼフの体から聞こえてくる。ラグナロックは音が本当にヨーゼフから聞こえるのか顔を近づけた。

 その時だった。

 ガシッ!

 突然ラグナロックの右腕をヨーゼフの左手が掴んだ。ラグナロックが思わず腕を離そうとするが、ヨーゼフの握力が異常なまでに強く、振り解くことが出来なかった。

 『何だこの握力は⁉本当に子供の握力か⁉ふ・・・振り解けんッ!』

 「くっ・・・」

 ラグナロックが必死に振り解こうと力を込めていると、ヨーゼフの右手にマスケット銃が出現させ銃口を彼の顔に向けると、躊躇なく発砲した。ラグナロックは銃口から火が噴いた瞬間に顔を後ろに引き魔弾を回避する。

 しかし回避した直後、ラグナロックの周囲を数十丁のマスケット銃が包囲した。

 「!」

 レイアがマスケット銃に包囲されたラグナロックへと瞬時に接近すると、鞭でヨーゼフの左腕を切断するのと同時に、マスケット銃とヨーゼフを蒼炎で燃やし尽くした。レイアとラグナロックは直ぐに後ろへと下がる。

 「助かった・・・礼を言う。」

 ラグナロックはレイアに感謝を述べると、彼の右腕を握ったままでいるヨーゼフの左手を引き剥がした。彼の右腕にはくっきりと指跡が赤く残っていた。

 「大丈夫?皮膚が少し捲れてるようだけど・・・」

 「薄皮一枚捲れただけだ。・・・だが、あの握力・・・子供のものでは断じてない・・・それにあの不自然な音・・・あれは一体何の音だ・・・」

 ラグナロックが燃え盛る蒼炎を呟きながら見つめていた・・・その時。

 ガァァンッ!

 「きゃあぁぁッ!」

 突然レイアの真下にある甲板に穴が開き、魔弾がレイアの足を貫いた。レイアの太腿や脹脛が裂けて血が噴き出る。

 「なっ⁉」

 ラグナロックが驚愕し顔を横に向けると、レイアは地面へと倒れた。レイアの足から噴き出る血が甲板に広がっていく。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

素直になる魔法薬を飲まされて

青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。 王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。 「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」 「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」 わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。 婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。 小説家になろうにも投稿しています。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

処理中です...