最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~古都防衛編 第2章~

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[古都防衛戦開幕]

 「状況確認急げ!敵の数、配置、進行状況を逐一全部隊に伝達し続けろ!情報は決して遮断させるな!情報が届かなくなったら死あるのみだぞ!」

 古都の城壁には兵士達が武装し隊列を組んで並んでいた。後方部隊に情報を伝達し、情報を頻繁に更新させる。

 そんな城壁に並んでいる守護部隊に大隊長のロストルが号令をかける。

 「決してその場から離れるな!君達の後ろには君達の友人、親友、恋人、妻子、親・・・守るべき人々がいる!君達が倒れれば彼らの命も直ぐに消えてしまうだろう!皆を救いたいのなら敵を奥へと入れるな!絶対に死守しろ!」

 「「「了解ッ!」」」

 兵士達は自分に喝を入れるように腹から声を出して返事をする。ロストルが目の前に雲霞の如く広がるコーラス・ブリッツを見ながら呟いた。

 「敵の数は?」

 「陸と海合わせて推定30万!そして奴らが使役している魔物が数万です!ワイバーンは3000!」

 「陸だけだとどの位だ?」

 「歩兵だけでおよそ・・・25万程かと・・・魔物を含めると30万近くはいるかと・・・」

 「・・・こちらの戦力は?」

 「守護部隊7万、遠征部隊1万、海兵部隊1万、航空部隊2000、魔術部隊1500、親衛部隊200、そしてヴァンパイア部隊が66・・・です。」

 「合流予定のスティームミストで防衛を行っていた遠征部隊はいくらだ?」

 「4万5000です。」

 「それでも足りないか・・・陸海空全てにおいて戦力が不足している・・・」

 ロストルが顔を歪ませていると、後方から部下が報告に来た。

 「報告します!只今大型転送魔術により、ウィンデルバーグから霊導弓術部隊が派遣されました!我らを後方よりサポートするとのことです!」

 「人数は?」

 「5000です!」

 「5000の弓兵か・・・分かった、部隊の展開に関しては奴らの指揮に任せるよ。・・・あと、彼らに伝えてくれないかな?『熱烈な援護を期待しているよ』と。」

 「了解です!」

 報告に来た部下が急いで後方へと走っていく。彼が去ると、彼の周りにいる部下達が声のトーンを少し上げて話しかけてくる。

 「ウィンデルバーグも増援に来てくれるとは・・・良かったですな、大隊長!」

 「彼らがサポートしてくれるのなら、例え数が少なくても奴らを殲滅することが出来るでしょうな!」

 部下達が意気揚々と話しかけてくる中、ロストルが1人浮かない顔をする。

 「・・・大隊長?どうなさいましたか?」

 「いや・・・上手く殲滅出来ればいいなと思ってね・・・さっきからどうも胸騒ぎが収まらなくて・・・気味が悪いんだよね。」

 ロストルが平野の奥にある山の上に視線を向けながら話す。ここからは人影が全く見えないが、何故か平野に広がっているコーラス・ブリッツの大軍よりも恐ろしい殺気を感じていることに若干恐れを抱いていた。

 ロストルが視線を山の山頂に向けていると、ガーヴェラがロストルの近くにいる部下達をかき分けて傍に来る。部下達はガーヴェラに姿を見ると直ぐに敬礼をする。

 「ロストル大隊長、古都内に残っていた遠征部隊の展開が完了した。私達の部隊は主に増援に来てくれた霊導弓術部隊の護衛をするが・・・それで宜しかったか?」

 「勿論だよ、ガーヴェラ大隊長。君達の部隊がまだ古都に残っていてくれて助かるよ。・・・スティームミストに派遣した部下達はどうするつもりだい?」

 「先程、緊急招集をかけて古都へと帰還するよう指示を出したが・・・到着するのは相当遅れると思います。何しろ古都とスティームミストは汽車で1日かかる距離・・・」

 「彼らによる戦力増強は絶望的・・・そう言うことだね。」

 ロストルの言葉にガーヴェラが小さく頷くと、ロストルも溜息をついて小さく何度も頷く。
 
 「・・・しょうがない、奴らは今の戦力で対処するとしよう。ところでガーヴェラ大隊長はこれからどうするつもりだい?」

 「私は後方に戻り部下達の全体指揮を執ろうと思う・・・敵は内地にも同時に攻撃を仕掛けて来る筈だからな。」

 「分かった、任せるよ。気を付け・・・」

 ロストルがガーヴェラを送り出そうとしたその時だった。平野の方から空を引き裂かんばかりの絶叫が轟き、一斉にコーラス・ブリッツが襲い掛かって来る。空からも大量のワイバーンが襲い掛かってきてまるで空が落ちてくるような錯覚に陥る。

 ロストルは喉が張り裂けんばかりの大声で叫ぶ。

 「構えッ!」

 城壁に並んでいる守衛部隊が一斉に銃を構える。怒涛の勢いで迫って来るコーラス・ブリッツに兵士達の手が震える。

 「撃てぇッ!」

 『バァンッ!』と火薬が爆ぜる音が響き、硝煙の匂いが一気に風に乗り漂う。放たれた幾千、幾万の弾丸がコーラス・ブリッツ共を貫く。銃弾に貫かれ、体から大量の血を吹き出しながら次々と絶命していき、死体の山があっという間に形成される。

 「絶えず撃ち続けろッ!弾幕を絶やすなッ!後方に直ちに伝達!魔術部隊と霊導弓術部隊による火力支援要請!奴らを1人たりとも古都に侵入させるな!」

 ガーヴェラが指示を出し、伝言ゲームのように後ろに大声で叫んでいく。するとすぐに内地の方から無数の魔力で生成された矢の雨と火の玉が平野に降り注ぐ。平野からは苦しさと歓喜の絶叫が合掌しており、狂気に包まれていた。空では激しいドッグファイトが繰り広げられており、古都の中に何体もワイバーンが墜落してくる。

 「状況は!敵はどうなってる⁉」

 「今の何とか歩兵と魔物は抑えられてるが・・・攻城塔が抑えられていない・・・じわりじわりと迫ってきている!」

 「後方に伝達!攻城塔を押しているトロールと魔獣を殺せ!絶対に近づかせるな!守護部隊は変わらず歩兵共を撃ち殺し続けろ!弾幕は何があっても絶やしては駄目だ!」

 ガーヴェラの迅速に指示を後方に回し、魔術部隊と霊導弓術部隊が標的を変える。矢を大量に浴び、魔術によって燃えたり凍らされたりしたトロールと魔獣は次々と倒れていく。攻城塔にも魔術が当たり、炎上すると盛大な音を立てながら倒壊する。中に乗っている連中は火だるまになりながら投げ出されたり、押しつぶされたりしていた。

 「いい・・・良いですぞ!奴らを完璧に抑え込んでいる!このままいけば・・・」

 「油断するな!奴らがこの程度で終わるものかッ!隠し玉を幾らも持っている筈だ・・・絶対に隙を見せるな!常に優位に立つつもりで戦況を視ろ!」

 ガーヴェラが余裕をかまし始めた部下を叱責する。部下は委縮し、ガーヴェラに勢いよく頭を下げる。

 「さて・・・次は何をしてくる?」

 ガーヴェラが平野を睨みつけて唸るように呟いた。すると、前方より報告が飛んでくる。

 「コーラス・ブリッツの列から幾つもの非常に素早い影が弾幕を抜けて城壁に接近中!」

 「魔物かッ!種類は⁉」

 「ええっと・・・えっと・・・」

 「急げッ!」

 「お、狼型の魔物!全長3m近くある巨大な・・・」

 前線にいる兵士が報告をしていた最中、突然城壁のあちこちから悲鳴が上がった。ガーヴェラとロストルが顔を向けると、先程弾幕を突破した魔物が城壁を一気に上って侵入し、兵士達を斬り裂き食い散らかしていた。彼らが侵入したことにより弾幕が薄れ、一斉に歩兵が進軍を開始する。攻城塔も動き出し、如何やらこの機を見計らっていたような連携を見せる。

 「あれは『ウルフバック』!非常に凶暴な強襲型の魔物だ!それに魔術でブーストされている!」

 「全員、剣を取れ!弾幕は魔術部隊と霊導弓術部隊に任せる!」

 「駄目です!全然歯が立ちません!」

 「第二、第五城壁がウルフバックにより壊滅!攻城塔も第四、第八城壁に侵入!もう止められません!」

 「各隊隊長格にウルフバックを対処させ、他の者は侵入してきた歩兵共を対処しろ!絶対に後方へと送るな!」

 ガーヴェラとロストルが指示を各方面へと一気に出す。硝煙の匂いの代わりに、血の匂いが漂い始めた。

 そんな中、ガーヴェラとロストルの方に5体の3mを軽く超えているウルフバックが一気に襲い掛かってきた。

 「来たよ、ガーヴェラ。」

 「問題ない。・・・ここで潰す。」

 ガーヴェラはそう言って二丁のダブルバレルリボルバーを構えると、自分の方に大きな口を開けて襲い掛かってきた2体のウルフバックの額を撃ち抜く。その圧倒的な火力は脳天に大きな穴をあけて脳髄を辺りに散らばらせる。

 ロストルはレイピアを鞘から引き抜いて構えると、詠唱を始める。剣が薄っすらと青色に輝く。

 「さぁ眠れ・・・安らかに・・・」

 ロストルは襲い掛かる3体のウルフバックの間を流れる水のように華麗にすり抜けながら首を斬り落とす。魔物達は自分が死んだことすら知らないような顔をしながら、地面に伏せる。

 ロストルが剣についた血を振り払うと、ガーヴェラに話しかけられる。周りにいた部下達が一瞬で死体と化したウルフバックを絶句しながら見つめる。

 「・・・腕は衰えていないようですね?」

 「当然じゃないか。毎日しっかり鍛錬してたからね。」

 ロストルがそう言って城壁の様子を見渡す。各部隊の隊長がウルフバックを次々と倒しており、攻城塔から雪崩れ込んできたコーラス・ブリッツも城壁より内側には進行できていないようだ。

 「さて・・・ここからは耐久レースだね。城壁の下には奴らが蠢いてるよ・・・気持ち悪いね。」

 ロストルが顔をしかめて呟いた・・・その時、

 ドガァァァァァァァァァァンッ!

 突如古都の大正門付近で禍々しい紫苑色のオーラが発生すると、魔術で補強された大正門が粉々に吹き飛んだ。吹き飛んだ大正門の破片が内地に降り注ぐ。
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