最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~避難民防衛編 第13章~

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[緊急報告]

 「あぁ、痛いよぉ・・・シャーロットちゃ~ん・・・もうちょっと優しく・・・手加減してぇ~?」

 ヴァスティーソは破けた腹に治癒術をかけて貰っているシャーロットに気持ち悪い程甘えた声で話しかける。シャーロットは顔をしかめながらヴァスティーソの治療を続けていた。

 戦いが終わり、無事に残った船が沈んだ船に乗っている人々の救助活動を行っている中フォルトとロメリア、ケストレルは3人でシャーロット達とは別の場所に固まって甲板に座っていた。ケストレルの腹の傷は既にシャーロットによって治療済みで、一応腹には包帯がグルグルと撒かれていた。

 「なぁこの包帯いるか?シャーロットの術でもう傷塞がってんだが・・・」

 「治癒術も万能じゃないから・・・それに傷は塞がっても完治したわけじゃないから巻いているんだよ。あのまま放置した状態で動いたら傷口が開いちゃうかもしれなかったからね。」

 「・・・包帯よりも毛布が欲しいんだけどな今。体が冷えちまってスゲぇ寒いんだよ。」

 「僕も欲しいかも・・・海風が当たってまた凍ってしまいそうだ・・・」

 「2人共凍ってたからね・・・特にケストレルは頭まで。関節とかは自然に動く?」

 「あぁ、特に不自由な所は無い・・・な。解凍された時は少し固かったが、今ではもう大丈夫だ。・・・それよりもロメリア、お前の背中は大丈夫か?」

 ケストレルが右肩と左肩を交互に回しながらロメリアに声をかけた。ロメリアは両腕を曲げてガッツポーズを取り向日葵のような明るい笑顔で返事をする。

 「うん!大丈夫だよ!シャーロットのおかげで青くなってた背中も元に戻ったし・・・それにフォルトが背中を撫でてくれてるからもう平気平気!」

 「あぁ・・・それならいいが・・・でも何でフォルトはブラウスの下から手を突っ込んで直に背中摩ってんだ?」

 「僕も服の上からで良くないって言ったんだけど・・・ロメリアがどうしてもって言うから・・・」

 「いやぁフォルトも首から下凍っちゃってたからね?寒いだろうから私の体温を分けてあげよ~って思ったの!それにフォルトの手はすべすべしてて気持ち良いし~。・・・あはは!ちょっとフォルト!何処触ってるの⁉こちょばいよ!」

 「・・・お前何処触ってんだ?」

 「いや、背中摩ってただけなんだけど・・・」

 「うっそだぁ!フォルト今私の脇下摩ったでしょ?丁度胸の横あたり・・・いやらしい~手つきだったよ~フォルト~?」

 「い、いやらしいって何がッ⁉っていうかロメリアの脇下なんか摩ってないってばッ!」

 「いぃや!絶対に摩った!」

 「摩ってないよ!」

 「摩った!」

 「摩ってないッ!」

 「摩った!摩ったったら摩ったの!私の脇下!熱が籠ってて温かいから触ったんでしょ!エッチフォルト!」

 「技名みたいに言わないで!というか、僕エッチじゃないし!」

 「私のおっぱいに顔埋めたフォルトに言われたくないですぅ~!エッチなフォルト?」

 「も~!その話盛り返さないでって言ってるでしょ!そして僕はエッチじゃない!」

 「こいつらはうるせぇな相変わらず・・・耳を引き千切りたくなるぜ・・・」

 ケストレルが大きく溜息をつくと、クローサーとグースが近づいてきた。

 「お疲れ様、フォルト君、ロメリアさん。2人共無事でよかったよ。」

 「グースさん!グースさんも来てたの⁉」

 「おや?フォルト君、言って無かったのかい?」

 「言い忘れてました・・・」

 「もう、フォルトったら!ちゃんと覚えとかないと~!・・・でもグースさんがここに居るってことは、さっき空で戦っていたってことだよね?」

 「そうだよ。」

 「グースさんも・・・古都軍に所属してるの?」

 「う~ん・・・まぁ、そうなるかなぁ。一応僕達『リールギャラレー防空隊』は古都軍の傘下にいるからね。」

 グースはそう言って肩を小さく上げる。フォルトが横にいるクローサーに被害状況を聞く。

 「クローサーさん、被害の程度は・・・」

 「まぁ、それなりに被害は出たが想定内ではあったぜ。3割の船が沈み、別の3割の船が航行不能状態だ。特に貴族船の被害が酷くてな、海兵部隊の艦隊にやたらと密着していたせいで、代わりに相当数の魔槍を被弾しちまってた。・・・沈んでいる船はほぼ貴族船って状況だな。それにまともに動く貴族船は1つも無い上に生存者もあまりいない・・・とことん運のねぇ奴らだったな。」

 「・・・大変残念な知らせだが、全然悲しくねぇのが余計残念だな。」

 「・・・」

 ロメリアが少し悲しそうな顔をして俯けた。フォルトが話を続ける。

 「庶民の被害は?」

 「奴らの船もいくらか被害を受けてはいるが、運が良いことに死者があまりいなくてな。恐らく攻撃が古都軍に集中したせいもあるんだろう。沈んだ船は数隻だけで、航行できないのも全体の2割程度・・・あんな激しい襲撃を受けたのにこれだけの被害に収まったのは本当に運が良いとしか言えないな。」

 「ふふっ、フォルト君がシャーロットちゃんと一緒に頑張ったおかげだね?」

 「いや・・・そんな事・・・」

 フォルトが照れ臭そうに頬を赤らめて右手で頭の裏をかいた。ロメリアはそんなフォルトの横にすっと近づいて『何嬉しそうにしてるの~?』と頬を突っつきながらからかってきた。

 そんな中、クローサーが周りを見渡し始めた。

 「ところで・・・ヴァスティーソの野郎は何処にいる?」

 「えっと・・・ヴァスティーソはあそこにいたような・・・」

 ロメリアが船内へと続く扉の傍にいるヴァスティーソに顔を向けた瞬間、シャーロットの悲鳴が聞こえてきた。フォルト達も声に反応して顔を向けるとそこにはシャーロットに抱きついて横たわってるヴァスティーソの姿があった。

 「きゃああああああああああああああああッ!止めて下さいヴァスティーソ!何処・・・何処触ってるんですか⁉」

 「むうぅぅぅぅんッ!温かいよ~!シャーロットちゃ~ん!ポカポカしてる上に・・・ムニッとしてて・・・気持ち良いよ~!」

 「お尻ッ!お尻をさ、触らないで・・・下さいッ!だ、誰かぁぁぁぁぁ!助けて下さい!」

 「あの変態野郎何やってんだよ・・・おい、ヴァスティーソ!手前何やってやがる!」

 クローサーがヴァスティーソに駆け寄り、シャーロットと無理やり離す。シャーロットはクローサーに礼を言うと、フォルト達の下へと走ってきてケストレルに抱きついた。ケストレルが呆れたように溜息をつきながらシャーロットの背中を優しく撫でる。

 「あぁ!ちょっとぉ~クローサー何すんだよぉ~。」

 「何すんだじゃねぇよロリコン野郎ッ!お前マジで刑務所にブチ込まれてぇのか、あぁ⁉」

 「もぉ~そんなに怒らなくていいじゃ~ん?」

 「こんな非常事態なのにふざけてるからだろッ⁉俺達が必死にここまでぶっ飛ばしてきて、テロリスト共を殲滅して、船から落ちた奴救助している中、仕事を部下に押し付けてきた親衛部隊の大隊長『様』は子供の女ヴァンパイアをまるで枕のように抱きしめて横たわってた・・・信じらんねぇ・・・」

 クローサーが髪の毛をかき上げるように右手を頭の上に持っていくと、ヴァスティーソはゆっくりと立ち上がった。

 「はいはい分かりましたよっ。もうふざけませんから勘弁して?」

 「何だその態度は、ヴァスティーソ・・・手前ぇ、本当に反省し」

 クローサーがヴァスティーソを睨みながら低い声で威圧すると、船内から艦長のロンベルが飛び出してきた。

 「ヴァスティーソ大隊長!クローサー大隊長!帝都からの緊急報告です!」

 「誰からだ?」

 「ルースト陛下からです!」

 「内容は何だ?」

 「内容は・・・コーラス・ブリッツが古都の周囲を完全に包囲!陸海空の3方面からの襲撃です!」

 その報告を聞いたヴァスティーソとクローサーが目を大きく開いて驚愕する。フォルト達もロンベルの言葉を聞いてヴァスティーソ達の下へと走り寄る。

 「包囲だと⁉奴らまだグリュンバルド大陸にいる筈じゃねぇのかよ!」

 「・・・ロンベル艦長、古都が包囲されているということはスティームミストが突破されたのか?」

 「いや・・・それが報告によるとスティームミストの全部隊と連絡が取れ、交戦どころか敵影すら目撃してないとのことで・・・報告によれば、『突如古都の周辺に巨大な魔術陣が展開し、気がつけばコーラス・ブリッツが部隊の展開を終えていた』と言っていらっしゃいました。」

 「ヴァスティーソ・・・これってよ・・・」

 「転送魔術だ。・・・それも常識外の規模のな。・・・まさか大軍を転送術で送って来るとは・・・不可能と思っていた穴をついてきたな・・・」

 「転送魔術は一度に大勢の人を送れないの?」

 「はい・・・転送魔術は様々な魔術の中でも・・・非常に高度で・・・失敗すれば転送した人間を確実に殺してしまう程・・・危険な術なんです。その陣を古都の周辺に描くとなると・・・想像がつきません・・・」

 シャーロットが信じられないように何度も首を振って俯く。ヴァスティーソは顎を摩って考えに耽っていると、船の中からある船員が飛び出してきた。

 「艦長!新たな情報です!敵影の中に『4名』不自然に浮いている者達の姿があったことが報告されました。」

 「ドレス姿の女とかピエロみたいなフェイスペイントをした男とかか?」

 ケストレルの言葉にその船員が頷いた。その返事を見たロメリアが全体に話す。

 「その人達って・・・」

 「八重紅狼・・・それも4人もいる・・・」

 「4人って・・・確か八重紅狼って2人いたら大陸の首都を陥落させれて、3人いたら絶対に首都を滅ぼせるって前ケストレル言ってたよね?じゃ、じゃあさ・・・4人いたら・・・」

 「・・・古都は跡形も残らねぇ。全員殺される。」

 ケストレルの言葉に全員が言葉を失い、重く沈んだ絶望が漂う中ヴァスティーソがシャーロットに話しかける。

 「シャーロットちゃん、転送魔術は使える?」

 「ご、ごめんなさい・・・私、まだ転送魔術は覚えて無くて・・・」

 「・・・そうか。・・・クローサー、予備のワイバーンはいるか?」

 「騎手が死んだワイバーンが何体かいるが・・・」

 「そいつを貸してくれ。今から古都に行く。」

 「・・・分かった。直ぐに手配する。」

 「頼む。・・・ロンベル艦長、世話になった。」

 「いいえ、ヴァスティーソ大隊長。どうかお気をつけて・・・ご武運を祈っております。」

 ロンベルがヴァスティーソに頭を下げると、ヴァスティーソの下に1匹のワイバーンがやって来た。ヴァスティーソは真剣な眼差しでそのワイバーンの頭を撫でて落ち着かせると、さっと背中に乗った。ヴァスティーソはフォルト達に一切振り向きもせず、ただ飛び上がる準備を黙々と真剣な顔で行っていた。

 フォルトがワイバーンの背中に乗ったヴァスティーソに声をかける。

 「ヴァスティーソ・・・今から古都に行くの?」

 「そうだよ、少年。・・・少年達はここに残って皆の面倒を見ててあげてね?」

 「ちょっと待ってよ、ヴァスティーソ!私達も・・・」

 ロメリアがヴァスティーソに言葉を湯気用としたその時、ロメリアの言葉を最後まで聞くことなく一気にワイバーンを飛翔させ古都がある北東へと飛んでいった。ヴァスティーソを乗せたワイバーンの姿があっという間に米粒程度の大きさになる。
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