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~避難民防衛編 第8章~

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[大海原での空戦]

 「難民を乗せた輸送船と古都軍の護衛船を視認。交戦に入る。」

 コーラス・ブリッツ率いるワイバーン騎兵隊の先頭にいる男がロメリア達の乗っている輸送船を見つけ、無線に語り掛ける。彼の報告はすぐさま全体に共有され、無線からジャスロードの声がノイズ交じりで聞こえてくる。

 「了解した・・・俺が来るまで後10分程かかる・・・それまでに沈められるだけ沈めろォ・・・」

 「承知しました。」

 「それと・・・制空権は取れそうかァ?」

 「はい。あちら側にはワイバーンの姿は見えません。増援が来ている気配も・・・」

 男が輸送船の上空を凝視していると、1つ小さな黒点が青空の中を泳いでいるのが見えた。男が先程言った言葉を修正し、報告を続ける。

 「・・・すみません、訂正します。1匹輸送船の上で旋回し続けているワイバーンがいました。」

 「乗っているのは誰だァ?確認しろ。」

 男が目を細めてワイバーンの背中に乗っている者を確認する。勿忘草色のポニーテールをした男の子と深紅色のウェーブのかかった長髪をなびかせている女の子・・・どちらも10代前半の容姿をしており、2人を視認した男は目を見開いて無線機を強く握りしめる。

 「・・・フォルト・サーフェリートとシャーロット・ドラキュリーナです。操縦しているのがフォルト・サーフェリートで、シャーロット・ドラキュリーナは抱きつく様に座っています。彼女はどうやら攻撃担当のようです。」

 「速攻潰せェ・・・ジャッカルの血を引くクソガキとヴァンパイア族のメスガキを生かしておくわけにはいかねぇ。」

 「かしこまりました。速攻で排除します。」

 「よし・・・俺も直ぐに向かうからそれまでに出来るだけ船を沈め、そのガキ共を殺しておけ・・・そのガキ共がいるのなら船にはロメリア・サーフェリートやその他メンバーが乗っている可能性が高いからな・・・」

 「・・・」

 「では無線を切るぞ・・・幸運を祈ってるぜェ?」

 ブチッ・・・っと無線が途切れる音が聞こえ、男は無線をしまう。無線をしまった男は右腕を上げた。

 その瞬間、隊列を組んで飛行していたテロリスト達が群青色の長槍を魔力で生成する。男は狙いをフォルト達に定めると、号令をかける。

 「・・・今だ!放てぇッ!」

 男が右腕を振り下ろすと、男達が生成した槍が一斉にフォルトの方へと群青色の軌跡を描きながら飛んでいく。

 一方のフォルト達は押し寄せる波のように迫りくる魔槍を視認すると、シャーロットがフォルトに叫んだ。

 「フォルト!敵の攻撃が来ますッ!」

 「了解!ニファル!回避するよッ!」

 「ガウッ!」

 フォルトは手綱を強く引き、海面へと急降下する。大量の魔槍がフォルト達の通っていく軌跡を追うように通り過ぎていく。ニファルが海面スレスレで体勢を戻して飛行すると、雨のように魔槍が降り注いできたので、その間を縫うように回避していく。

 何とか回避に成功すると、フォルト達の背後に50程のワイバーンが近づいてきた。背後に付いた彼らは再び魔槍を出現させ構えると、フォルト達に向かって各々発射してくる。

 フォルトがニファルを操りながら回避していく中、フォルトの腰に両腕を回してしっかりと抱きついているシャーロットに声をかけた。

 「シャーロット!後ろから攻撃してくるワイバーン・・・落とせるッ⁉」

 「はい!任せて下さいッ!」

 シャーロットははっきり告げると、目を閉じて詠唱を始める。シャーロットの体が若紫色のオーラに包まれる。

 「『リミテッド・バースト・・・《冥天紅月》』!」

 若紫色のオーラに赤みが増し、より禍々しいオーラがシャーロットを包み込む。

 「蒼穹を貫く神槍よ・・・悪しき敵を滅する為、具現せよ!」

 シャーロットが詠唱を終えると、ニファルの周囲に左右それぞれに4本ずつの計8本のシャーロットの髪色と同じ鮮やかな深紅色の魔槍が出現する。出現させた魔槍からは尋常でない魔力が放出されており、後ろにいる連中が放つ魔槍とは比べ物にならなかった。しかもそれを同時に8本出現させたシャーロットの魔術師としての才能は計り知れないことをフォルトは理解した。

 フォルトはニファルに指示を出して急加速させると、シャーロットに声をかける。
 
 「シャーロット!しっかり掴まっててね!今から急旋回して奴らを正面から迎え撃つから!そして正面向いたら一斉に槍を放ってくれる⁉」

 「はい!」

 シャーロットがフォルトにギュウッと強く抱きつくと、フォルトは手綱を強く引いた。ニファルはその合図を受けると、翼を折りたたみ、滑空するようにほぼ直角に曲がる。とてつもないGがフォルトとシャーロットにかかり、顔が歪む。

 ニファルがブレーキをかけるように翼を大きく開き、迫りくるワイバーン集団を正面にした。

 「シャーロット!今だ!」

 フォルトが叫ぶと、シャーロットが目をかッと見開いて正面にいるワイバーンの集団の内、8匹に照準を合わせる。照準を一瞬で定めると、シャーロットは8本の魔槍を放った。

 シャーロットの魔槍は彼らが放つ魔槍の2倍以上の速さで接近していく。

 「来るぞ!ブレイク!ブレイク!」

 彼らが咄嗟に回避行動をとるが、シャーロットの魔槍は容赦なく彼らのワイバーンを貫き、盛大に爆発した。騎者諸共爆殺する威力を目撃したフォルトは思わず心が昂ってシャーロットに声をかけた。

 「すっごい爆発だ、シャーロット!もう1回ド派手な奴頼める⁉」

 「はい!」

 シャーロットもテンションが上がっているのか、不敵に口角を上げて笑みを浮かべると、再び詠唱を始め、槍を生成し始める。生成する速度も彼らが1本生成する速度より早く、彼らが体勢を立て直すまでにもう8本の魔槍を生成し終えた。

 フォルトが周囲を見渡すと、古都軍の艦隊がハリネズミのように周囲に弾幕を張ってワイバーンの襲撃を凌いでいた。庶民船も幾つかダメージを受けており、古都軍の支援を受けれていない貴族船に限っては数隻既に沈んでいた。

 その時、8匹のワイバーンがロメリア達の乗っている旗艦目掛けて海面スレスレの低空で魔槍を構えながら接近していた。彼らが狙っているのは機関部・・・船の心臓部だった。

 「シャーロット!ロメリア達が乗っている船に接近するワイバーン8体確認できる⁉」
 
 「・・・はい!出来ました!」
 
 「あいつ等に槍を放って!旗艦を沈める訳には行かない!」
 
 シャーロットは旗艦ガルーザに接近するワイバーン達に向かって槍を放った。放たれた矢を感じ取った彼らは咄嗟に回避行動に移るが、全弾命中し船の上空で派手に爆散した。

 しかし、その後に幾つものワイバーンが追撃に入り、船に向かって幾つもの魔槍を投擲する。刺さった魔槍は船の甲板で爆発し、大きく船体を揺らす。旗艦に槍が命中した段階で、既に派遣された古都軍の船9隻の内、4隻が航行不能状態に陥っていた。幸いにも庶民達を乗せた船は一隻も沈んではいなかったが、何時攻撃を受けて沈んでもおかしくない状況だ。

 フォルト達も必死に船団を取り巻くワイバーンに向かって攻撃を仕掛けるが、相手からの激しい攻撃により中々攻勢に転じれずにいた。制空権は完全に敵の方に握られてしまっていた。

 「くっ!敵の攻撃が激しいッ!」

 「はい!それにいくら槍を放っても減った気がしませんッ!」

 その瞬間、フォルト達の横を魔槍が通り過ぎた。あと少しずれていたらフォルトとシャーロットは仲良く串刺しになっていた所だった。フォルトは鬱陶しくついてくる彼らに舌を打つと、次の作戦に移る。

 「ッ、シャーロット!今から少し激しい軌道になるけど絶対に腕を離さないでね!」

 フォルトはそう告げると、ニファルに掛け声をかけて手綱を強く握りしめた。

 「ギャオォォォォォォォォッ!」

 ニファルは天を貫く咆哮を上げると、翼を折りたたみ一気に加速する。そのまま船団を狙っているワイバーン達の目の前を通り過ぎ撹乱し始めた。テロリスト達は船の周辺を取り囲んでいる自分達の目の前をしつこく飛び回っているニファルに対して苛立ちを覚えだした。

 「あのワイバーン鬱陶しいな・・・お前達!あの目障りな蠅を落とせ!既に古都軍の船は半壊状態だ、何時でも潰せる!」

 200を超えるワイバーンの集団が狙いを船団からフォルトに向ける。フォルトは彼らが一斉に絶え間なく放ってくる魔槍を回避しながらより多くの敵を引き寄せる為、敵の間を高速で飛び続けた。

 「さて・・・行くよ、ニファル!天に上がってッ!シャーロット!魔槍の準備宜しく!」

 フォルトの号令を受けてニファルは垂直に空へと吸い込まれていくように上っていく。シャーロットは必死にフォルトにしがみつきながら魔力を練って魔槍を8本生成した。後ろから付いて来ていたワイバーン達もニファルの後を追って空へと昇っていく。

 「あのガキ・・・何をするつもりだ⁉・・・お前達!今の内に奴を撃ち落とすぞ!」

 テロリスト達は魔槍を生成すると、フォルト達に向かって発射する。フォルトは後ろから迫りくる魔槍を確認すると、より勢いを増して雲を貫いていく。

 雲より上に来ると息が苦しくなりまともに呼吸が出来なくなってきた。フォルトはそのタイミングでニファルの手綱を一気に引いた。

 ニファルはその場で翼を制止させると、突然身を反転させる。振り落とされそうな慣性が働く一瞬で、フォルトはシャーロットに叫んだ。

 「今だ、シャーロット!」

 シャーロットは目を見開き深紅の瞳で雲を突き抜けてきた先頭のワイバーン8体にターゲットを合わせると、間髪入れずに発射する。彼らはシャーロットの魔槍を回避することが出来ず盛大に爆散する。

 「今だニファル!このまま真っ逆さまに落ちるよ!シャーロットは魔槍が出来次第ドンドン放って!」

 ニファルは翼をしまうと、真下に広がる雲を突き抜けて急降下していく。シャーロットは目の前をすれ違っていくワイバーン達に絶え間なく魔槍を放ち続けていく。目の前で発生する爆風に耐えながらニファル達は海面を捉えると、体勢を立て直して海面スレスレを飛行する。

 「あの糞ガキッ・・・無茶苦茶な飛び方をしやがる!」

 リーダー格の男がワイバーン部隊全員に指示を出してフォルトを包囲する。

 「これ以上あいつ等を調子に乗らせるなッ!囲んで落とすぞ!」

 男の号令でフォルトの周囲にワイバーン部隊が展開される。その様子を見たシャーロットがフォルトに叫ぶ!

 「フォルト!どうします⁉囲まれちゃいましたよ⁉」

 「・・・」

 フォルトが考えに詰まっていると、周囲のテロリスト達が魔槍を構え始めた。シャーロットが慌てる

 「フォルト⁉」

 「・・・捕まってて、シャーロット!今から僕のリミテッド・バーストで撹乱する!その隙にこの場から脱出するよ!その後直ぐに反撃するから魔力を練ってて!」

 「分かりました!」

 フォルトはシャーロットに指示を出しと、瞳の色を深紅色に染め、鎖鎌を懐から出して構えた。

 「リミテッド・バースト・・・《霧影・・・」

 フォルトがリミテッド・バーストを発動させようと詠唱を始める。周囲に薄霧が漂い始めた。

 しかしその瞬間、フォルト達がいる場所から東の方角から無数の金色の魔槍がテロリスト目掛けて飛翔してきた。魔装はテロリスト達やワイバーン達を貫き次々と海へと沈めていく。周囲を取り囲んでいたテロリスト達は動揺し、隊列を崩した。

 フォルト達も何が起こっているのか理解できずにいる中、槍が飛んできた東の方角に顔を向けると無数のワイバーン集団が隊列を組んでフォルト達の下へと飛んできていた。

 そして彼らのワイバーンには古都軍所属の刻印が刻まれた鎧が着せられており、『リールギャラレー防空隊』と刻まれていた。
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