最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~避難民防衛編 第6章~

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[空の友達]

 「こんなにも早く避難誘導を終わらせるとは・・・流石ですね、ロメリアさん。人々も非常事態だというのに大変落ち着いていらっしゃる・・・庶民から絶大な信頼を得ているだけはありますな。」

 ケストレルが増援に来た古都軍の船からサンセットフィート港の方を見つめる。既に大陸は見えなくなっており、巨大な船団が古都に向けて航行を始めている。

 あの後、ロメリアは貴族達に反感を抱く庶民達を何とか説得し、貴族船へと乗り込ませることにより全員無事に脱出することが出来た。ロメリア達と帝国軍もとある貴族船に乗り込むと、港を急いで離れる。ロメリア達が港へ来てからおよそ1時間で全避難民の退去が完了した。

 沖にいる艦隊への合流途中、古都軍の船3隻とすれ違った。彼らは大陸から迫りくるコーラス・ブリッツのワイバーン集団を足止めするべく海洋に巨大な防衛結界を張りに来たとロメリア達に知らせて大陸の方へと向かって行った。

 港を出てから1時間近く経ったとき、古都軍の艦隊と先に逃げていた船達の姿が見えた。庶民を乗せた貴族船が古都軍の船と合流すると、留まっていた船達が一斉に航行を再開し、移動しながら庶民の移し替えを行う。お互いの船が同じ速度で走行することにより、それが可能となった。一刻も早く大陸から離れ、増援に来る航空部隊と合流することが先決だったからだ。

 貴族船から古都軍の船へと庶民達、ロメリア達、庶民出身の帝国騎士達が移動すると貴族船は素早く古都軍の船から離れていった。どうやら彼らは助けに来てくれた古都軍にすら嫌悪感を抱き、庶民達を追い出したことでスッキリしたようだった。ロメリア達が古都軍の船から距離を取って航行する貴族船の集団を呆れた眼差しで見つめると、ロメリア達が乗っている船のブリッジへと向かう。

 ロメリア達が乗りこんだ船は派遣された第四海兵部隊が率いる艦隊の旗艦で隊を率いる部隊長が乗船していた。ロメリア達がその部隊長と操舵室で合流し、今に至るのであった。

 ロメリアが遠慮がちに部隊長の言葉を否定すると、ヴァスティーソがそのスキンヘッドで眼つきが鋭く、髭を剃った跡が顎に残っている部隊長に話しかける。

 「ロンベル第四海兵部隊隊長、先程大陸へと向かった船はどうなっている?3隻いただろう?」

 「彼らはつい先程、防衛結界を海洋に張り帰投中とのことです。張り終えた現在でもコーラス・ブリッツ共が大陸から来ているという情報は入っておりません。結界に接触したとの報告も、今のところ入ってきておりません。」

 「分かった、直ぐに合流させろ。彼らには全速力で航行するよう伝達し、我らは若干スピードを落とすが古都に向けて航行を続けろ。一刻も早く、ルースト達の所へ行くぞ。」

 「了解です。」

 「後、医療班を庶民船へと向かわせてケアをするんだ。ロメリアが来たから彼らは落ち着いたものの、来た時はまるで暴動のようだったからな・・・女、特に子供は怪我をしているかもしれん。負傷していた場合は、子供、若い女、若い男、老人の順番で治療しろ。順番を間違えるなよ?」

 「分かりました。よし、治療班!各班点呼を取り、それぞれ庶民船へと向かえ!・・・貴族達はどうしましょう?」

 「あいつ等には専属の医者がいる・・・『ご立派な医師』がな。それにこっちからのおせっかいは奴らにも迷惑だろう。向こうから要請があった場合のみ、手を貸してやれ。・・・ただし、庶民達のケアが終了するまでだぞ?それまでは忙しいの一言で一蹴するんだ。責任は俺が取る、ロンベル隊長。」

 「・・・分かりました、ヴァスティーソ隊長。」

 ロンベルという男が周囲にいる部下達に一斉に指令を出し始める。操舵室が慌ただしくなり、ロメリア達は咄嗟に部屋の隅に固まる。フォルト達が急にいつもの雰囲気とは違って真面目な態度を取っているヴァスティーソを物珍しそうに見つめていると、彼が『いつもの』感じで話しかけてきた。

 「んん~よしっ!まぁ、こんなもんかねぇ~指示を出すとしたら。後は他の皆がちゃちゃっとやってくれるでしょ?・・・ところで、少年。何で俺をそんな不思議な目で見るんだい?」

 「いや・・・偶に見せる真面目なヴァスティーソを見てさ、どっちが本当のヴァスティーソ何だろうって思って・・・今お茶らけてる方が演技してるの?」

 「まさか!どっちの俺も『俺』だよぉ~!オンとオフを使い分けてるの~!」

 「オンとオフの差が激しすぎて困惑しかしねぇんだが・・・」

 「私としては・・・いっつもオンの方がありがたい・・・です。・・・セクハラしませんから・・・」

 「んん~シャーロットちゃ~ん。いっつもオンだったら俺オーバーヒートしちゃうよ~!・・・まぁ、火照った俺の体をシャーロットちゃんが冷やしてくれるなら・・・何時でもオンでもいいけど?」

 「うわっ・・・ヴァスティーソってまさかロリコン?もう40超えてるのにロリコンは引く・・・」

 「勘違いしちゃ困るなぁ~ロメリアちゃん!僕は女の子が好きなだけだよ!勿論ロメリアちゃんもね~!んんんはぁ!ロメリアちゃんの体温か~いぃぃぃ!」

 「きゃあぁぁぁぁ!勝手に抱きつかないでぇぇぇぇ!」

 「・・・後でルーストさんとナターシャさんに言っておこう・・・ロメリアにセクハラしたって・・・何とかしてくれないかって・・・」

 「フォルト・・・多分・・・意味無いと思いますよ・・・?いつもの事だって・・・言うでしょうから・・・」

 「だろうな。」

 フォルト達が深く溜息をつきながら、ロメリアから突き飛ばされて地面に頭を守るように蹲ったままただひたすらロメリアが何度も振り下ろす棍を必死に耐えているヴァスティーソを見つめる。周りの船員も『自業自得だな』と言わんばかりの冷たい視線をヴァスティーソに向ける。先程まで彼らは熱く信頼しているようにヴァスティーソを見つめていたのに・・・

 港からを出て3時間が経ち、先程サンセットフィートへと向かっていた3隻の船とも無事合流した。それからというものの彼らが張った結界には何も反応が無く、船団の上空には雲一つない晴れ晴れとした青空が広がっているだけだった。フォルト達は操舵室から外に出てブリッジで海を眺めていた。ケストレルが大きく欠伸をして、シャーロットが眠たそうに首をカクンッとさせている。

 何一つ争いを感じさせない穏やかな海を見ている内に本当に今コーラス・ブリッツが追撃してきているのかということにも疑問を抱き始めてしまう・・・そう考えてしまうほどだった。正直、こんな状態がずっと続けばいい・・・フォルトはそう思っていた。

 だがそんな平穏な時も長くは続かなかった。

 ブィィィィィィィィィィィィィンッ!

 突然けたたましいサイレンが周囲に響きだし、眠気に襲われていたフォルト達の目が一瞬で冷めた。サイレンが鳴ると同時に、大声で誰かが叫ぶ。

 「上空にワイバーンの姿を確認!数は1!旗艦ガルーザの上空を旋回し続けている!」

 「総員戦闘準備!主砲の照準を上空のワイバーンに向けろ!」

 周囲の艦隊に積んである武器が一斉に上空をただ優雅にグルグルと旋回しているワイバーンに向けた。フォルト達がそのワイバーンを見つめていると、フォルトが思わず呟く。

 「ねぇ、あのワイバーン・・・誰も背中に乗って無くない?」

 「うん・・・乗ってない・・・でも手綱とか人に飼われていた証拠はあるね・・・逃げだしたのかなぁ?」

 「かも・・・でもあのワイバーンさ・・・僕どっかで見たような気がするんだよね・・・何となくだけど・・・」
 
 フォルトが呟いたその時、上空のワイバーンが大きな特徴的な鳴き声を上げた。
 
 「キュゥゥゥゥゥ・・・」

 「何だこの声?随分可愛らしい声だな?ワイバーンってもっと厳つくて恐ろしい声じゃなかったか?」

 ケストレルが首を傾げると、フォルトが思い出したかのように目を開き、操舵室の中へと入って行った。シャーロット達が急いでフォルトの後を追って操舵室へと入ると、フォルトが必死にロンベルたちに向かって大声で叫んでいた。

 「皆!攻撃を中止して!」

 「ん⁉どういうことかね、君!あの上空にいるワイバーンは古都軍の鎧を着ていない・・・何処の所属か分からないワイバーンなんだぞ⁉こんな状況の中、何時までも我が船団の上を回っていられちゃあ困るんだよ!」

 「お願いします!あれは・・・あれは僕のワイバーンなんだ!名前はニファルって言って、とても優しい性格のワイバーンなんだ!」

 フォルトがそう言うと、ヴァスティーソがロンベルに声をかけた。

 「ロストル隊長。この少年の言うとおりにするんだ。直ちに全艦の主砲を下げさせろ。」

 「・・・分かりました。」

 「ありがとう、ヴァスティーソ・・・」

 「フォルト・・・あの空にいたのって本当に・・・」

 「うん、ニファルだ!あの鳴き声で分かったんだ!」

 フォルトは操舵室から艦内を勢いよく駆け巡り、甲板へと出ると大きく手を振って叫んだ。

 「ニファル~!お~い、ニファル~!ここだよ~!」

 フォルトの声が届いたのか、真上のワイバーンは急降下してきてフォルトの前に着地する。そして厳つい図体の割に可愛らしい鳴き声をするニファルは鳴き声を上げると、フォルトの胸の中に首を伸ばして顔を擦り付ける。フォルトは笑顔で優しく抱きしめると、声をかけた。

 「ニファル、久しぶりだね~!元気そうで何よりだよ!・・・体もちょっと大きくなったかな?」

 「ギュゥゥゥゥゥ・・・」

 ニファルが甘えた声で唸ると、ロメリアも走り寄ってきて声をかける。フォルトの胸からニファルは顔を離すと今度はロメリアの胸に顔を埋めた。

 「きゃ~久しぶり~ニファル!リールギャラレーから飛んできてくれたんだね~!嬉し~な~!」

 「キュゥゥゥゥゥゥ・・・」

 「あはは!ちょっと鼻息がくすぐったいよ~!」

 ロメリアがニファルの頭を優しく撫でながら笑顔でじゃれ合う。ニファルも嬉しそうに目を細めると、懐っこくなっていった。

 シャーロット達がフォルト達に近づくと、フォルトがニファルを紹介する。

 「皆、紹介するよ!この子はニファル!ワイバーンで僕の友達なんだ。前にリールギャラレーであったワイバーンレースにニファルと一緒に出たんだよ?」

 「ほぅ?何時の間にお前ワイバーンなんか使役できるようになったんだ?しかもそのワイバーン・・・他の奴らと比べても随分大人しいな・・・どういう調教したんだ?」

 「調教なんかしてないよ。それに僕とニファルは友達・・・主従関係なんか無いよ?」

 「だろ~ね~。その子の目は輝いている・・・使役されたワイバーンの目はどれも光が灯っていないが、その子は活き活きとしている・・・本当の信頼関係を築いているようだね、少年?」

 ヴァスティーソが感心したようにニファルとフォルトを見つめていると、シャーロットがゆっくり恐る恐るニファルに近づいてきた。ニファルもじっとシャーロットを見つめており、ニファルがちょっと強く鼻息を鳴らすとシャーロットはビクッと体を強張らせてしまった。

 フォルトはシャーロットに優しく微笑みながら声をかけた。
 
「ニファルに触りたいの?シャーロット?」

 「はい・・・でも・・・ちょっと・・・怖い・・・です・・・噛まれたりしないかなって・・・」

 「あはは・・・大丈夫だよ、シャーロット。ニファルは噛んだりしないから・・・ほら、こっちに来て?」

 フォルトがシャーロットの手を優しく握り、引き寄せる。フォルトに手を握られたシャーロットが頬を桃色に染める。そのままフォルトがシャーロットの手をそっとニファルに近づけると、ニファルはゆっくりと頭を下げて触りやすくしてくれた。

 シャーロットがニファルの頭に触れると、思わず彼女も笑みを浮かべた。

 「わぁ・・・すべすべしてて・・・気持ち良い・・・です!」

 「でしょ?ニファルの肌はとっても触り心地が良いんだよ?」

 「あの、フォルト・・・この子・・・オスですか?メスですか?」

 「オスだよ。」

 「じゃあ・・・ニファル『君』ですね・・・宜しくです・・・ニファル君・・・」

 シャーロットはそう言って自らニファルに接触し始めた。もう先程まで抱いていた恐怖心は消え、彼女の顔には笑顔が浮かんでいた。

 ケストレルとヴァスティーソもニファルと触れ合い、フォルト達の周辺には暖かな空気が漂いつつあった。この時、フォルト達はコーラス・ブリッツの事などすっかり頭から抜け落ちていた。
 
 ところがそんな中、空を斬り裂くようなサイレンが周囲に轟いた。先程ニファルを発見した際のサイレンよりも大きな音にフォルトとロメリア・シャーロットは思わず、耳を塞いだ。
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