最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~戦乱の序曲編 第12章~

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[兄妹]

 「久しぶりだな、アリア。・・・もうざっと5年前か?俺がいない間に八重紅狼になったようだな?」

 ケストレルが右手に持った大剣を右肩に担ぎながらにんわりと笑みを浮かべ、彼の妹であるアリアに話しかける。アリアは顔に薄っすらと血管を浮き上がらせており、怒りを顔に滲ませていた。

 「6年ぶりだ。」

 「ああ・・・そうだったか・・・。まぁ、たかが1年程度、どうでもいいけどな。」

 ケストレルは首を左に傾けて、首の骨を鳴らす。2人の周りからは激しい怒号が飛び交い、血が飛び交う戦場が広がっていた。

 「俺が抜けた後、八重紅狼になったのか?」

 「ああ、『お前』が抜けた席に今座っている。」

 ケストレルはアリアの言葉に顔をしかめた。

 「『お前』・・・ねぇ?・・・『兄さん』って言わないんだな?」

 ケストレルの囁きにアリアが不機嫌そうに顔をしかめる。

 「当然だ。お前が途中で任務を放りだして対象を逃がそうとしたせいで私がどんな目にあったか・・・お前のツケは全部妹である私が払ったんだぞ?あの時・・・お前が『師匠』を殺してさえいれば・・・『汚れ仕事』を八重紅狼になった今でも請け負うことは無かったのに・・・」

 アリアの言葉に今度はケストレルが顔をしかめる。

 「俺に師匠を殺せと・・・そう言ってんのか、アリア?お前、忘れた訳じゃねぇだろうな?師匠は血の繋がっていない俺達を家族同然に扱ってくれて生きる術を沢山教えてくれたんだぞ?その師匠を・・・殺せると思ってんのか?俺が?」

 「お前こそ何を言っている?散々師匠の言う事聞かなかった癖に今更何真面目ぶっているんだ?お前が私を連れて師匠の下を出ていく時、お前は何と言った?」

 「・・・」

 「覚えていないか?・・・私はしっかりと覚えているぞ?・・・『うるせぇよ、糞爺。もう2度と俺に顔見せんじゃねぇ。次会ったら殺すからな?』・・・これがお前が最後に言った言葉だ。・・・次会ったら殺すんじゃなかったのか?」

 アリアの言葉にケストレルは左手を握りしめた。

 ケストレルはこの言葉をよく覚えていた。今でも何故こんなことをあの時言ってしまったのか・・・毎日毎日後悔していた。当時の自分に会えるのならぜひ会って何度もぶん殴りたかった。

 アリアは目線を下げて唇を噛み締めているケストレルを鼻で笑い飛ばすと、両手に握っている一対の青龍刀の柄を握りしめる。アリアの全身に薄緑色のオーラが纏わり出した。

 「後悔しているようだな?あの時、師匠に暴言を吐いたことを・・・だが安心するといい。直ぐに師匠の下へと送ってやる。・・・向こうに行けば、何度でも謝れるぞ?」

 「・・・かもな。」

 ケストレルはそう呟くと、大剣を握る手に力を込める。そしてアリアを睨みつけ、彼女に話しかけた。

 「だが俺にはまだやるべきことがある・・・師匠から頼まれた願い、フォルトを守るって仕事がな。・・・だから悪いが、今お前に殺される訳にはいかねぇんだよ。」

 「私に勝てると思っているのか?私は以前までの私とは違う・・・6年前の私とは天と地ほどの差があるぞ?それに、お前の状態異常能力は私が受け継いだ。・・・今のお前には何も・・・」

 アリアがケストレルに話をしていた・・・その時。
 
 ドンッ!

 ケストレルは瞬きする間にアリアの目の前にまで移動すると、大剣を真上から振り下ろした。さっきまでケストレルがいた床は蹴った勢いで抉れていた。

 アリアは青龍刀を交差に構えて大剣を防ぐ。激しく刃から火花が散り、アリアが小さく舌を打つとケストレルが大剣を押し込みながら囁く。

 「・・・成程、俺の攻撃を『咄嗟に』防げる程度には強くなったようだな?」

 『この男ッ!瞬きする間に目の前にまで・・・実力は衰えていないようだな・・・』

 アリアはすぐさま後退する。ケストレルの大剣が床に深々と突き刺さり、石の破片が舞い上がる。

 ケストレルは軽々と床に突き刺さった大剣を引き抜くと、右肩に大剣を置いてアリアを見つめる。アリアはケストレルから感じ取れる並々ならぬ闘気を受けて全身に鳥肌が立っていた。

 「・・・ふん、如何やら戦闘力は全く衰えていないようだな。てっきり八重紅狼を抜けてすっかり錆びているものだと思っていたが・・・」

 「はっ!そんな訳ねぇだろ?寧ろ1人で生き抜いてきた分、強くなってると思うがな?お前の方こそ、八重紅狼の癖に対して強くねぇじゃねえか?・・・さっきのお前の反応を見る限りお前より下のユーグレスの方が良かったぞ?」

 「たった一度剣を交えただけで全て分かったつもりか?・・・偉くなったものだなッ!」

 ドンッ!

 アリアは一瞬で周囲の風を集めると、刃に纏わせてケストレルの懐へと入り込む。ケストレルが大剣を振り下ろすと、アリアは右手に握っている青龍刀一本で受け切ると、左の青龍刀でケストレルの首目掛けて斬り払ってきた。

 ケストレルは直ぐに背中を逸らして攻撃を回避すると、大剣を横に片手で薙ぎ払う。アリアは少し後ろに下がって回避する。

 ・・・ピッ・・・

 ケストレルの首元から薄っすらと血が流れる。刃は完全に回避したつもりだったが、何故か切られていることにケストレルは首元を押さえながらアリアの青龍刀に目を向けて考える。

 「・・・あっそぅ・・・お前、風を操る魔術をその刀に付与してんのか?それで射程距離伸ばしてんだろ?・・・俺がいなくなってから新たに身に付けたらしいな?」

 ケストレルの言葉を受けたアリアは妖艶に微笑むと、周囲に暴風を発生させる。彼女のドレスと髪が舞い上がり、刃が薄っすらと薄緑色に輝く。

 「その通り。『憑依魔術・鎌鼬』・・・風の魔力を身に纏い、射程と切断力を高める技だ。・・・だがこの術の効果はまだあってな・・・」

 アリアの言葉を聞き終えた瞬間、突然ケストレルの全身に裂傷が入る。斬られていないのに全身から血が噴き出し、ケストレルは咄嗟に歯を食いしばる。

 「何ッ⁉」

 「・・・この術を発動している間は私の周囲2mに真空波を発生させる。つまり私の間合いに入れば、真空波がお前の体を裂く。・・・接近戦で私に挑むのは自殺行為だぞ?」

 ケストレルは片膝をつくと、荒くなった息のままアリアに話しかける。何故かさっきからどんどん体の痛みが激しくなってきている。

 「へぇ・・・結構うざったらしい技を覚えたんだな?・・・ま、貧弱な戦闘力しか持っていないお前にはうってつけの技だと思うぜ。」

 ケストレルがアリアを挑発しながら自分の体に入った傷口に視線を移す。すると傷口がどんどん広がっているのが確認できた。まるで硝子にヒビが入る様に広がっている傷口を見てケストレルはすぐさま察した。

 「・・・へ、俺から奪った状態異常能力もうまく使いこなしているようだな?」

 「やはりすぐに気が付いたか。まぁ元々はお前の能力・・・気が付かない方がおかしいんだけれど。」

 「・・・」

 「お前の想像通り、私はこの術にお前が持っていた状態異常能力『裂傷』を組み合わせている。傷をつければ傷口はどんどん広がっていき、痛みがどんどん強くなっていく。お前の状態異常能力との相性は抜群でな・・・重宝しているよ。」

 「そりゃあどうも・・・ご愛用してくれて感謝するぜ。」

 ケストレルはゆっくりと立ち上がると、大剣を肩に担いで構える。先程よりも傷口が広がり、多くの血が全身から滴る。

 『長期戦は厳しいか・・・早く決着付けねぇと、動けなくなりそうだ。・・・俺が死ねばあいつはフォルト達に標的を定める・・・こいつに対抗できるのは魔術で戦えるシャーロットか魔力を込めた銃を扱えるガーヴェラぐらいか・・・でもあんまりあの2人の手間を煩わせたくねぇな・・・』

 ケストレルが視線を横に移すとシャーロットとガーヴェラが侵入者達と戦っているのが確認できる。特にシャーロットは戦いつつも負傷した兵士の治療を行っていた為、一番余裕がなさそうだった。

 『・・・ああ、畜生!俺がやるしかねぇよな!俺が何とかするしかねぇよな!それに任せろって言っちまったからなぁ!』

 ケストレルは大剣を強く握りしめて自身に喝を入れると、痛みに耐えながら呼吸を整える。意識を集中させていくと、徐々に痛みが和らいでいく。痛覚を意識の外に追い出すよう、ケストレルは必死に務める。痛みさえ感じなければいつも通り戦えるからだ。

 『アリアを倒す方法・・・魔術も使えず、銃も持っていない俺が奴を倒す方法はもうこれしかねぇ!』

 ケストレルが闘気を放出した瞬間、アリアは風を纏いながらケストレルへと接近する。彼女の周りの景色は風で歪む。

 ケストレルは足に力を込めると、アリア目掛けて真正面から突撃した。先程アリアに接近した時よりも素早く・・・

 ズバァァァァンッ!

 アリアとケストレルがすれ違って互いが一定の距離離れて背中を見せあっている中、ケストレルの全身にまた新たな裂傷が入り、大量の血が噴き出る。目の前の世界の色が失われていく中、ケストレルは必死に意識を保つ。

 だがこの時のケストレルは笑みを浮かべており、横目でアリアを見つめていた。

 「ぐッ!き・・・貴様ッ・・・」

 アリアは目を充血させて、ケストレルの方へと振り向く。その顔には先程の余裕はなく、額には欠陥が浮き出ていた。

 まぁそれも仕方が無いことだろう・・・何故なら彼女の右腕は宙高く飛翔していたのだから。青龍刀を握ったままのアリアの右腕はそのまま地面へと戻ってくると、虚しく地面に叩きつけられた。

 ケストレルはアリアとすれ違った際に大剣を下から払い上げ、アリアの右腕を斬り飛ばしたのだ。そしてアリアの青龍刀に斬られるよりも前に彼女から距離を取る・・・真空波によるダメージは防ぎきれないが、なるべく早く離れることでそのダメージも最小限に出来る。ケストレルが取った戦い方とはそう・・・一撃離脱の戦法だった。

 ケストレルはゆっくりと振り向くと、アリアと向き合った。

 「どうした?さっきまでの余裕は何処に行った、アリア?たかが右腕が切り落とされた程度だぞ?この程度で驚かれたら困るんだけどな?」

 ケストレルは再び大剣を構えると闘気を全身に漲らせる。

 「さぁ、構えろ、アリア・・・お前と俺、どちらかが死ぬまで何度でも続くぞ?」

 「・・・上等だ。」

 アリアが激しく息を乱しながらケストレルを睨みつけると、ケストレルが語り掛けた。

 「後・・・返してもらうぜ、俺の能力。・・・主席が俺にかけた術、『能力剥奪術』は術者か、能力譲渡者を殺せば戻って来るんだよな?ちゃんと調べたから分かってるぞ?」

 「・・・」

 「悪いが、妹だからと言って容赦するつもりは無い。・・・お前を殺して、能力を取り戻す。・・・恨むならあの男を恨め。」

 「出来るものならやってみろ・・・出来るものならなッ!」

 アリアは喉が裂けんばかりに叫ぶと、ケストレルへと向かって行く。ケストレルはじっとただアリアを睨みつけながら足に力を込める。
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