最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~戦乱の序曲編 第11章~

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[奇跡]

 「オルターさん!これを受け取ってください!」

 フォルトは右手に持っている鎖鎌を一時的に左手に移して片手で鎌を2本持つと、右手を懐へと忍ばせる。再び懐から手を出した時には一粒の黄金の葡萄が握られており、オルター目掛けて投げつけた。

 周囲は濃霧に包まれていて一寸先の景色すら確認することは困難な状況だが、フォルトが投げた黄金の葡萄は独特の輝きの霧の中でも放っていたのでオルターは無事に受け取ることが出来た。オルターは無事に黄金の葡萄を受け取ると少し驚いたように声を震わせる。

 「フォルト君・・・何で君がこれを・・・」

 「その訳については後でお答えします!だから今はレイアさんを救うことだけに集中してくださいッ!」

 フォルトは鎖を手に何重と巻き付けると、全力で引っ張る。

 「僕がレイアさんを抑え込みますからオルターさんはその果実をレイアさんに飲み込ませてください!・・・ロメリア!」

 「私はオルターさんのサポートでしょ⁉任せて!」

 白銀のオーラを纏ったフォルトとは対称的に黄金のオーラを身に纏っているロメリアはフォルトに返事をして軽く微笑むと、オルターの傍へと瞬く間に駆けつける。ロメリアはオルターの盾になる様に彼の前に立つと、彼の方を振り向かず声をかける。

 「オルターさん!レイアさんの目の前に行くまで絶対に私の前に出ないでね!今はフォルトが押さえていてくれているけど何があるか分からないから!」

 「分かった!」

 「よしっ!じゃあ行くよッ!離れないで付いて来てね!」

 ロメリアはオルターに合図を送ると、レイアの鞭に纏っている蒼炎の光を目印として濃霧の中を突き進んでいく。オルターはロメリアの背中を必死に追っていく。

 一方フォルトはというと激しく抵抗するレイアを抑え込むために顔に血管を浮き出させるほどに力を込めながら鎖を引っ張っていた。レイアはまるで猛獣のように顔を歪ませて体を悶えさせていた。

 『くッ・・・どっからこんな力湧いて出てくるの⁉・・・気を抜いたらこっちが持っていかれそうだよッ!』

 フォルトは体の重心を後ろに向けて体重もかけていく。そんな中フォルトはふとロメリア達の姿を追う。フォルトの目にはレイアへ接近するロメリアとオルターの姿がはっきりと捉えられていた。

 何故ならこの濃霧はフォルトの鎖鎌の潜在能力で発生したものであり、鎖鎌に認められているフォルトには濃霧の中でも獲物をはっきりと捉えることが出来る能力が付与されているからだ。このおかげでフォルトは濃霧の中でも自在に動くことが出来、獲物を狩ることが出来る。

 『あともう少し・・・もう少しでオルターさんがレイアさんの下へ・・・』

 フォルトがオルター達の現在位置を確認した・・・その時だった。

 ボォワァァァッ!

 突如レイアの鞭が蛇のように鎖に絡みつくと、蒼炎の炎が導火線についた火のように鎖を伝っていく。蒼炎の炎はそのまま鎖を伝っていくと、フォルトの両手を燃やし始める。

 「ぅぐっ!」

 フォルトはあまりの痛みと熱さに両目を閉じて眉間に大きな皴を寄せる。フォルトの両手がどんどん焼け爛れていく。

 フォルトの叫び声を聞いて異変を感じ取ったロメリアがフォルトに叫んだ。

 「フォルト⁉どうしたの⁉」

 焦りが混じったロメリアの声を聞いたフォルトは目を開き、もうほぼ感覚の無い手に力を込めるとロメリアに大声で返事をした。

 「・・・何でもない!ちょっと手が焼け焦げただけ!」

 「焼けッ・・・」

 「でも僕の手は後からでもなんとかなる!だから今はレイアさんのことだけに集中して!・・・手の感覚が無くなってきたから早くしてくれると助かるな?」

 「っ!・・・分かった!直ぐに何とかしてあげる!」

 ロメリアはそう言うと意識を集中させ呼吸を整えると全身に力を込める。黄金のオーラが輝きを増し、彼女の美しいミディアムボブの金髪が輝きを増す。

 レイアがすぐ目の前にまで接近したロメリアの気配を察すると、周囲に展開している蒼炎の渦を彼女目掛けて放った。蒼炎の絨毯がロメリアに襲い掛かる。

 「やあぁぁぁッ!」

 ロメリアは自分を鼓舞するように声を上げると体を反転させ、迫りくる蒼炎の絨毯に構える。蒼炎が目の前に来たその瞬間、ロメリアは一気に体を捻って棍で蒼炎を薙ぎ払った。蒼炎が棍に巻き付き、ロメリアが薙ぎ払った方向へと燃え上がった。

 レイアへの道を作ると、ロメリアはオルターに叫んだ。

 「今だよ!オルターさん!」

 ロメリアの言葉を受けたオルターはロメリアを追い抜き、レイアの下へと駆け寄った。するとオルターはフォルトとロメリアを驚愕させる行動に出た。

 何と黄金の葡萄を自分の口に含んだのだ。レイアの口に入れるのではなく、自分の口に・・・

 「ちょっと!何してるの⁉」

 ロメリアが動揺の余りオルターに叫んでしまった。2人には今の時点では何故オルターが葡萄を口に含んだのか、理解できなかった。

 しかしオルターのこの行動にはちゃんと理由があったということを2人はこの後の行動で理解したのだった。

 オルターは右腕を背中に回してレイアを抱きしめると自分の唇を彼女の青ざめた唇に重ねた。死人のような冷たさがレイアの唇から伝わってくる。

 「んんっ!」

 「っ⁉」

 オルターの激しい接吻を見たフォルトとロメリアは目の前で何が起こっているのか一瞬分からなかったが、直ぐにオルターの意図をフォルトは読み取った。

 『そうか!口移しをしているのか・・・そのまま葡萄を食べさせるんじゃなくて、自分の口の中で柔らかくしてから相手に飲み込ませる・・・柔らかくなった葡萄なら抵抗する相手に対しても飲み込ませやすいから・・・』

 フォルトがオルターの意図を理解すると、オルターはレイアから唇を離す。オルターとレイアの唇から薄い唾液の糸が伸びる。

 「・・・」

 レイアはゆっくりと目を閉じると、糸の切れた人形のように項垂れた。鞭に纏っていた蒼炎は消え、彼女の右手から鞭は床へと落ちた。フォルトはレイアの動きが止まるとリミテッド・バーストを解除し、レイアの体に巻き付かせていた鎖を解除する。ロメリアもリミテッド・バーストを解除すると、フォルトの下へと駆け付けて心配そうに声をかける。

 「フォルト!あぁその手・・・骨まで見えてる・・・」

 「あはは・・・中々グロテスクだね・・・」

 「動くの?」

 「・・・動かないね。指はくっついちゃってるし、黒く焦げてるし・・・このままだと確実に腐るから手を切断しないといけないかな・・・」

 「・・・そんな・・・」

 ロメリアが酷く落胆して項垂れると、フォルトはロメリアに落ち着いた声で話しかける。

 「でも大丈夫だよ。・・・僕の懐から黄金の葡萄を1つとって食べさせてくれる?そうすれば多分元に戻るだろうから。」

 「うん!」

 ロメリアはフォルトの懐に手を忍ばせると、黄金の葡萄が入った小袋を取り出した。袋の中から果実を取り出すと、袋を再びフォルトの懐に忍ばせる。

 ロメリアは黄金に輝く皮をゆっくりと向いて鮮やかな緑色の実を露にすると、笑みを浮かべながらフォルトの口元へと近づけた。

 「はい、あ~んして?」

 少し恥ずかしくなって頬を赤らめながらフォルトは黄金の葡萄を頬張る。甘い果汁が口の中に広がり、幸福な気持ちが胸を包み込んだ。

 するとすぐにフォルトの右手が鮮やかな碧色のオーラに包まれ、焼け爛れ、骨まで見えていた手が見る見るうちに再生していき、ものの1分程で非常に見覚えのある至って健康的な手に両手とも戻っていた。勿論自在に動くし、少し肌寒い空気も手から感じ取れる。

 フォルトは元に戻った自分の手を見て満足そうに頬を上げた。

 「・・・やっぱり、人間不自由にならないと『当たり前』の有難さって言うのが分からないものだね。」

 「どうしたの急に悟っちゃって?」

 「別に?今ふと思っただけだよ。」

 フォルトがそう話すと、ロメリアがオルターとレイアの2人の事を思い出したようでやや大げさに叫んだ。

 「あぁ!オルターさんとレイアさんの事ほったらかしにしてたぁ!」

 「あの2人は大丈夫かな?」

 フォルトとロメリアが先程レイアとオルターが抱き合っていた場所に顔を向けると、そこに2人はいた。オルターは地面に座り込んでいて、レイアの体を抱えていた。黄金の葡萄を食べたせいか、彼女の首元にあった紋章は崩れ落ちて消失し、肌の色も健康的な色合いに戻っていた。唇も薄い赤色になり、体中にあった傷口も見る限り全て塞がっているように見える。

 オルターはレイアの背中をゆっくりと摩りながら子守唄を聞かせるような小さな声で囁いた。

 「レイア・・・起きてる?」

 オルターが囁くと、レイアはゆっくりと目を開けた。彼女の瞳は元の生者のそれに戻っていた。瞳がオルターをはっきり移すと唇を震わせながら小さく返事をする。

 「オルター・・・」

 「レイア・・・あぁ、良かった・・・無事に目を覚ましてくれて・・・全く・・・今まで何処に言ってたのさぁ?おじさんも僕も心配してたんだよ?」

 オルターはレイアが目を覚ますと、優しく包み込むような眼差しで見つめた。レイアはオルターの笑顔を見ると、眼を潤わせて涙が溢れ出た。大粒の涙は彼女の頬を伝って床へと零れ落ちる。

 「ごめんなさい・・・オルター・・・本当に・・・迷惑をかけてごめんなさい・・・後、貴方の腕を千切ってしまって・・・」

 「なぁに、気にしないでよ。代わりの腕とかなんとかなるって。」

 「うう・・・ぅぅぅぅぅ・・・」

 「1人で怖かったよね?・・・でももう大丈夫だよ?僕がずっと傍にいるから・・・」

 オルターがそう言ってレイアを強く抱きしめると、レイアもオルターの背中に手を回して互いの体温を確かめるように強く抱きしめた。レイアの胸から静かに心臓の鼓動が聞こえてくる。

 そんな2人の様子を遠くから見つめていたフォルトとロメリアは互いの顔を見つめ合って微笑むと言葉を交わした。

 「ふぅ、あの2人の様子からして取り合えず一安心してもよさそうだね?」

 「そうだね!レイアさんが元に戻って良かったぁ~!もし黄金の葡萄が効かなかったらって思ってたから冷や冷やしてたんだよね~!」

 「ま、無事に効果を発揮して何よりって感じかな?」

 フォルトはそう言うと、周囲を見渡す。既にあらゆるところで決着がついてはいるものの、まだ交戦している場所があった。

 「とにかく、まだやるべきことは残ってるからヴァスティーソ達と合流しよう!」

 フォルトがそう言うと、ロメリアと共にヴァスティーソ達の下へと走り出した。オルターとレイアの周りには2人を邪魔しないように霊導弓術部隊の隊員達が囲んでフォルト達の代わりに周囲を警戒し始める。
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