最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~戦乱の序曲編 第9章~

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[死人]

 「・・・」

 フォルトとロメリアは武器を構えながらただ瞳孔の開いた生気のない瞳で見つめるレイアと向かい合っていた。2人の武器を握る手に自然に力が入る。

 暫くの沈黙が続いた後にロメリアがレイアに呼びかける。

 「レイアさん・・・私の言葉が・・・聞こえますか?何でそんなにボロボロなのか・・・教えてくれませんか?」

 「・・・」

 「数日前・・・お父様と別れてから何があったんですか?あの男から何をされたんですか?」

 「・・・」

 レイアはただロメリアの言葉を受け流しながらゆっくりと首を傾けていく。まるで下から相手を見上げながら睨みつける仕草をとる。・・・今まで2人はレイアと3回しか会ったことは無いが、絶対にこのように相手を挑発するような態度を取るような女性ではないと理解しているからこそ、その異様な態度にフォルト達は驚きを隠せなかった。

 「レイアさん・・・本当にどうしちゃったの?あの男・・・レイアさんに何を・・・」

 「分からない・・・でも、どうにかして彼女を抑え込まないと・・・僕、レイアさんを殺したくないよ・・・」

 殺したくない・・・フォルトはそう言ったが内心既にレイアの生命活動は停止していると感じていた。でも認めたくない気持ちが心を覆い、そう発言してしまっていた。

 「私だって・・・レイアさんと戦いたくない・・・戦う理由が1つも無いのに・・・」

 ロメリアが小さく手を震わせながら小声で呟いた・・・その時だった。

 突然レイアの鞭が蒼炎に包まれ、レイアが鞭を大きく回し始めた。勢いをつけると彼女自身も右足を軸に舞うように体を回転させ始める。蒼炎の勢いは増していき、熱気がフォルトとロメリアを襲う。

 「『リミテッド・バースト・・・《揺楼炎蛇》』。」

 冷たく、生気のない声でレイアが呟くと、彼女はフォルト達に向かって蒼炎を纏った鞭を全力で叩きつけてくる。2人はほぼ同時に姿勢を低くし攻撃を回避したが、身を焦がれるような熱気に思わず片目を瞑る。

 レイアは一切躊躇することなく再び2人に鞭を放つ。今度は先程の大振りとは違って腕を素早く振ってまるで蛇が噛みついては直ぐに後ろへ下がるように鞭を操る。

 フォルトとロメリアはそれぞれの武器でレイアの猛攻を凌ぐが蒼炎の鞭を受ける度に高温の熱にさらされる為、完全にダメージを防ぎきることが出来ない。それに鞭自体も相当威力が高い上に素早い攻撃速度であるのでしっかり構えていないと体勢を崩されかねなかった。よって攻勢に回ることが出来ず、防戦一方を強いられていた。

 「ううっ!全然こっちにペースを握らせてくれない!」

 「ロメリア!僕に話しかけずに防御に集中して!この鞭の速度・・・それに鞭に巻き付いている刃のように鋭い鱗・・・まともに食らえば簡単に体が千切れるよ!」

 フォルト達が攻撃を凌いでいる中、どんどんレイアの鞭の速度が上がっていく。このままだといずれかは耐えきれなくなる・・・フォルトとロメリアは共有の焦りを抱き始めた。

 鞭がフォルトの鎖鎌に当たり、素早く引っ込んだ・・・その一瞬を見計らってフォルトが一転攻勢に出る。フォルトは周囲に鎖を展開すると、音速を超える鞭と同じ速度でレイアの懐へと入り込んだ。

 レイアは目を大きく見開くと、咄嗟に鞭を自身の周囲に展開する動作を取る。レイアを傷つけたくないフォルトは彼女の右手・・・鞭を握っている手に視線を移す。

 『まずは武装解除・・・この鞭をレイアさんから取り上げる!』

 フォルトは周囲に展開した鎖を一気に引き寄せてレイアの体に巻き付けると、彼女の体を拘束する。鞭を振り上げた体勢で固まったレイアはただ目を見開いたままフォルトを見つめる。

 「はぁぁっ!」

 フォルトがレイアの右手目掛けて右足を振り上げて彼女の手から鞭を弾き飛ばそうとした。ところがその時、レイアの頬が大きく吊り上がった。

 ボワァァァァッ!

 突如鞭に纏っていた炎が拡散し、フォルトとレイアは蒼炎の渦に呑まれる。フォルトは蹴り上げた足を思わず下に下げて両腕で顔を守る。全身が激しく痛み、全身が焼かれている感覚というものを味わう。

 『こんな芸当も出来たのかッ!』

 フォルトが身を守っていると、鎖が緩んだ。その隙を見逃さなかったレイアは鎖を力づくで振り払うと振り上げていた腕をフォルト目掛けて振り下ろした。鞭が大きくしなり、襲い掛かって来る。

 『まずいッ!早く防御しないと・・・』

 フォルトが両手に持っている鎌を咄嗟に頭の上で構えた・・・その瞬間、渦の外からロメリアの声が聞こえてきた。

 「フォルトォォッ!」

 ロメリアは喉が裂けんばかりに叫ぶと、足に力を込めて意識を統一する。

 「『リミテッド・バースト・・・《舞踏花風》』ッ!」

 ロメリアがリミテッド・バーストを発動し、地面を蹴り上げて炎の渦の中へと突入する。ロメリアの瞳は深紅色に染まり、全身に淡い黄金のオーラを身に纏っていた。

 ロメリアはフォルトの傍にまで接近するとレイアの鞭を思いっきり払った。『バァンッ!』と棍と鞭がぶつかり合う音が轟き、レイアはロメリアの棍から伝わってきた衝撃に体勢を崩す。

 その一瞬の隙を見ていたロメリアはフォルトを抱きしめると、蒼炎の渦から脱出する。外へと脱出する中で体を宙で何度も回転させながら自身とフォルトの服についた蒼火を消化する。ロメリアの服はあまり焦げてはいなかったが、フォルトの服は所々焦げている個所が目立っていた。

 地面へと無事着地すると、ロメリアはフォルトからそっと腕を離すと、話しかける。

 「フォルト!何であんな無茶をしたの⁉もう少しで殺されるところだったよ⁉」

 「ごめん・・・行けると思ったんだけどなぁ・・・まさかあんな技まで使えるなんて想定外だったからさ。」

 「もうっ、勝手に動かないでよね!フォルトが炎に呑まれた時とても焦ったんだから・・・」

 「分かったよ・・・でもロメリアには言われたくないなぁ?」

 「何で?」

 「だって今まで何度も勝手に突っ込んで危ない目にあってきたじゃん?それなのに・・・ねぇ?」

 「うっ!そ・・・それは・・・そうだけど・・・」

 ロメリアが『ぐぬぬ・・・』と何も言い返せずにフォルトから顔を背ける。フォルトはそんなロメリアを見ながら小さく微笑む。

 「でもありがとう、ロメリア。ロメリアがいなかったらきっと僕は今、こんな言葉告げられなかっただろうから・・・」

 「・・・そうだよ!もっと私に感謝してよね?」

 「あはは・・・」

 フォルトは急に強気になって得意げな顔をするロメリアに少し呆れたように笑みを浮かべると、炎の渦に顔を向けて構え直す。ロメリアもリミテッド・バーストを上手く制御しながらフォルトに身を寄せて棍を構え直す。

 炎の渦は天高く舞い上がっていたが、突然拡散して消え失せた。渦の中心にいたレイアが鞭を周囲で円を描く様に振り回している。恐らくそれが炎の渦の解除動作なのだろう・・・宙に散った蒼炎は儚く消えた。

 レイアは首を左右に動かして首の骨を鳴らすと、やや不機嫌そうにフォルトとロメリアを見つめる。鞭に纏わりついている蒼炎が彼女の不機嫌さを現わしているかのように激しく燃え上がる。

 「さて・・・どうしようか、ロメリア。レイアさん、ちょっと怒ってるっぽいよ?」

 「・・・ね。多分さっきよりも・・・激しくなるよね?」

 「うん、多分・・・レイアさんを怪我無く武装解除って言うのは・・・難しくなるね。僕達も本気出すから手加減が難しくなるからね。」

 「・・・」

 「でも僕は絶対ロメリアさんを元に戻す。戻して見せる。・・・ロメリアもそうでしょ?」

 「勿論!当り前でしょ?」

 ロメリアはそう言って棍をくるくると体の周りで回し始める。

 「フォルト、行こう!レイアさんが本気を出す前に一気に蹴りをつけちゃおうよ!」

 「了解!『リミテッド・バースト・・・霧影・・・』」

 フォルトとロメリアが覚悟を決め、フォルトがリミテッド・バーストを発動しようとした・・・その瞬間、予想外のことが起こった。

 「『聖水で満たされし水牢よ!かの者を拘束し、その魂を清めたまえ!』」

 突然何者かが詠唱を言い放つと、レイアの周辺に蒼の紋章が浮かび上がった。レイアが思わず足元に視線を移すと、紋章から水の壁が彼女を取り囲むように出現し封じ込めた。

 「⁉」

 水壁で出来た檻の中は如何やら水で満たされているようで、レイアの口から空気の泡が噴き出る。鞭に纏っていた蒼炎は水の中でも燃え続けていたが、先程よりも随分小さくなってしまっていた。

 「だ、誰⁉」

 ロメリアとフォルトは声がした方へと顔を向けると、そこにはレイアに向かって掌を広げて右腕を浮き出しているオルターの姿があった。オルターの突き出していない左手には一粒の黄金に輝く葡萄が握られていた。
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