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~戦乱の序曲編 第7章~
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[再会]
「うぐっ・・・うあああああああああっ!」
フォルトが頭を抱えて眉間に皴を寄せながらその場に蹲ると、ロメリアがすぐさまフォルトを抱きしめて声をかける。
「フォルト!大丈夫、フォルト⁉」
「おいおい・・・どうしちまったんだ、フォルトの奴⁉」
「分かんない!突然蹲っちゃって・・・」
「ううう・・・あぐぅぅぅ・・・」
「・・・」
「しっかりして、フォルト!私の声が聞こえる⁉」
額から激しく汗を流して苦しそうに顔を赤らめるフォルトをロメリアは必死に声をかけ続ける。フォルトの体がロメリアに優しくゆすられて揺れている。ケストレルやシャーロット達も心配そうにフォルトへと近づき、心配そうに見つめる。
その頃のフォルトはというと、激しく歪んで激しいノイズが走っている白黒の世界にいた。周りにいるロメリア達の声はノイズによってかき消され、全く耳に入ってこない。
そんな中、フォルトは痛む頭を無理やり起こしてファイザーを見上げる。ファイザーの目は真冬の湖のように冷たく、突き刺さるようだった。
『何でファイザーさんを見たら・・・こんなに頭が痛く・・・なって・・・』
フォルトが頭を抱えながらファイザーを見続けると、突然周囲の景色が一変した。急に屋外へと叩きだされたフォルトの頭上には銀色に輝く月が佇んでおり、フォルトの視線の先には7つの黒い影があった。皆背中を向けていて、7つの内、1つの影だけがその場に蹲っていた。
『な・・・何だあの人達・・・それにここは・・・レイアさんの髪飾りがあった湖の場所・・・』
フォルトが頭を抱えながらじっと彼らを見つめていると、彼らの影に隠れている『何か』が見えた。その『何か』は地面に倒れており、ピクリとも動いていなかった。フォルトが目を細めていくと徐々にノイズが収まっていき、景色が明瞭になっていく。そしてノイズが消え、はっきりとなったその時、地面に倒れている人物が誰なのか確認することが出来た。
『レイア・・・さん・・・』
フォルトの視線の先には血だまりに沈むレイアの姿があった。レイアの周りには5つの影が彼女を取り囲んでおり、レイアを見下ろしていた。
『おい、ウルフェン!この女結局どうすんだよ⁉もう死んでるぜ?』
緑髪の男がウルフェンと呼ばれる男の方へと顔を向ける。彼の視線の先には地面に片膝をつき、顔の右側から血を流している男がいた。彼の傍にはピエロのようなフェイスペイントをした男がいて、ウルフェンと呼ばれる男の治療をしていた。
『・・・この女は俺の研究室へ連れて行く・・・コーラス・ブリッツの・・・八重紅狼の戦力として今後働いてもらうことにする。我ら八重紅狼の席が1つ空いてしまっているからな・・・埋め合わせとしては丁度いい・・・』
ウルフェンは顔の右側に痛々しい傷跡を残しながら、ゆっくりと立ち上がった。ウルフェンの足元には彼の顔から滴った血が地面に残っていた。・・・フォルト達が最初に見た血痕と一致する。
そしてこのウルフェンという男は驚くことにファイザーと全く同じ見た目をしていた。唯一違う所は顔の傷が見当たらないという点だが、フォルトはこの男とファイザーが同一人物だと確信した。
『ファイザーの右目が色んな方向へと動いていたのはきっとこの時の怪我が原因なんだ・・・この怪我でファイザーは失明して、視力を失ったんだろう・・・』
フォルトがウルフェンと呼ばれているファイザーを睨みつけていると再び周囲の景色が歪み、元の光景へと戻った。元に戻った瞬間、フォルトが握っている懐中時計の針が再び正常に時刻を刻み始め、世界に色が帰ってきた。頭痛も止み、先程まで激しく感じていた胸の動悸も収まっていた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「だ・・・大丈夫?」
ロメリアが心配そうに顔を覗き込んできたので、フォルトは僅かな笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ、ロメリア・・・心配かけてごめん・・・」
フォルトはロメリアから離れるとゆっくりとその場に立ち上がる。フォルトが立ち上がると、ガーヴェラが話しかけてきた。
「何があった?」
「・・・過去を・・・見てた。皆の・・・過去を・・・実際に見たことがある景色から・・・僕が見たことも無い風景迄・・・まるで自分がその場にいたかのようだった。」
「・・・」
「どの記憶も懐かしくて・・・もう遠い昔の思い出のような記憶を鮮明に浮かび上がらせてくれた。今まで見たことの無い記憶も・・・知らない記憶もまるで自分が体験したかのように・・・不思議と懐かしく思えてしまった・・・たった1つの記憶を除いて。」
フォルトはそう告げると、ファイザーを睨みつけた。ファイザーはフォルトから睨みつけられるが一切動揺することなく、冷めた目で見続けていた。
「ファイザー・・・いや、『ウルフェン』と言ったらいいか?・・・八重紅狼の『ウルフェン』さん?」
フォルトの言葉にロメリア達の視線が一気にファイザーへと向けられる。驚きの顔をしているロメリア達を他所にファイザーは鼻で笑い飛ばした。
「急に何を言い出すんだ、君は?頭大丈夫か?私が?コーラス・ブリッツの幹部だと?・・・フォルト君、何かの間違いなんじゃないか?」
「いいえ、間違いなんかじゃありません。・・・統括局の幹部の皆さんに聞きたいのですが、この男は右目が元々見えないんですか?」
「いいや・・・ファイザーさんは両目とも視えていた筈だが・・・」
「だが彼の目は明らかにおかしい。視力が無い人の目はやたらと泳ぐ特徴がありますが、彼の右目はまさにそれと同じだ。現にファイザーさんの右目は僕を捉えていない。」
幹部達がファイザーの右目に視線を移すと確かに目が異様に泳いでいるのを確認出来た。彼らは言葉を失い、ファイザーを見つめていると彼が少し余裕のある顔で話しかけてきた。
「・・・で?それで何故私が八重紅狼であると断言できる?」
「先程、覗いた過去で貴方は顔の右側に怪我を負っている・・・どうやって見た目を誤魔化しているかは知らないけど、その時に右目を失明した筈だ。」
「それで?」
「その時貴方は言った。『我ら八重紅狼の席が1つ空いてしまっているからな・・・埋め合わせとしては丁度いい・・・』と。」
「それは君が聞いた幻覚じゃないのか?時計の能力に操られて幻聴を聞かされたのだろう?」
「この時計は僕が見たいと思った対象の過去を見せてくれているだけだ。実際、ロメリアやケストレル達の過去も見たけど、一言一句当時言った言葉と変わりは無かった。・・・そもそも貴方がこの時計の能力を教えてくれたんじゃないですか?あの時、嘘言ったんですか?」
「・・・」
「これでも説得力が薄いと言いますか?・・・まぁいいですよ。僕にしか過去は見れないので説得力が無くても仕方が無いですよね?」
フォルトは淡々と告げると、懐から鎖鎌を取り出した。鎖を周囲に展開し、鎌を手に持つとファイザーの首元に狙いを定める。ガーヴェラは動揺してフォルトに話しかける。
「フォルト!武器を収めろ!」
「嫌だよ。このままファイザー・・・あの男を殺す。あの男はレイアさんを殺した張本人だ・・・生かして返すものか・・・」
「間違いだったらどうするつもりだ⁉」
「そうなったら僕を処刑すればいい。局長を一方的な思い込みで殺した殺人者として。」
「!」
「でもそうはならないと思うよ。・・・奴が八重紅狼であることに間違いはないだろうから。影武者ってことも無いだろうし・・・記憶を覗いた時にその人物が影武者なら記憶で判別できるから一発で見抜ける。」
フォルトはそう言って鎖を掴むと勢いよく回し始めた。鎌が凄まじい勢いで回転し、風を斬る音が周囲に響く。ファイザーが全く抵抗する気配を漂わせているが、フォルトは一切容赦するつもりは無かった。
「抵抗するつもりは無いの?自分がもうすぐ殺されるかもっていうのに?」
「・・・その必要は無い。君の攻撃は私には当たらないからだ。」
「へぇ?随分自信があるようだね?・・・まだ裏切者がこの中に紛れてるってこと?」
「・・・」
「まぁ、どうでもいいや。・・・直ぐにその言葉が本当かどうか・・・はっきりすると思うからさぁッ!」
フォルトは激しく振り回していた鎖鎌を全力でファイザーに投げつける。鎌は鋭く回転しながらファイザーへとまるで蛇のように不規則な動きで向かって行く。ファイザーはフォルトが放った鎌を余裕の笑みで見つめていた。
フォルトの鎌がファイザーの懐へと入り、首元へと近づいた・・・その時だった。
ヒュゥゥゥンッ!
突如黒鱗が貼られた鞭がファイザーの周囲に現れてフォルトの鞭を弾き飛ばした。フォルトは宙高く舞い上がった鎌を鎖で引き寄せると手元へと戻した。フォルトの手元に鎌が戻ってくると、ケストレル・ガーヴェラ・ヴァスティーソの3人がすぐさま自らの武器に手をかけて臨戦態勢を整えた。シャーロットはケストレル達の動きを見て急いで魔術書を開いたが、ロメリアはただ茫然とフォルトの横に立ち尽くしていた。
歪んだ余裕の笑みを浮かべるファイザーの周囲に鞭が螺旋状に展開し始めると、突然蒼炎を纏い始め、ファイザーの周囲を覆う。ファイザーの顔が蒼炎の光に照らされて不気味さが増す。
ファイザーの周囲を蒼炎が包み終えると、鞭はファイザーの後方へぬるりと消えていった。ファイザーの後方に広がる闇の中から『ヒュン・・・ヒュン・・・』と鞭のしなる音が聞こえてきた。
そしてすぐに奥から1人・・・小柄な影がゆっくりと現れた。蒼炎によってその影が明瞭になっていくと、フォルトとロメリアは目を大きく開き驚愕の表情になる。
その人物が蒼炎の中を歩き、ファイザーの横へと並ぶと彼は先程までの声とはうって変わって低い声で話しかけた。
「・・・いい腕だ、レイア。」
ファイザーの横に現れたレイアは死人のように白い肌をしており、彼の言葉を受けて薄っすらと頬を上げた。だがその笑みはかつてフォルトとロメリアが見た彼女の笑みとは遠くかけ離れた冷たいものだった。
「うぐっ・・・うあああああああああっ!」
フォルトが頭を抱えて眉間に皴を寄せながらその場に蹲ると、ロメリアがすぐさまフォルトを抱きしめて声をかける。
「フォルト!大丈夫、フォルト⁉」
「おいおい・・・どうしちまったんだ、フォルトの奴⁉」
「分かんない!突然蹲っちゃって・・・」
「ううう・・・あぐぅぅぅ・・・」
「・・・」
「しっかりして、フォルト!私の声が聞こえる⁉」
額から激しく汗を流して苦しそうに顔を赤らめるフォルトをロメリアは必死に声をかけ続ける。フォルトの体がロメリアに優しくゆすられて揺れている。ケストレルやシャーロット達も心配そうにフォルトへと近づき、心配そうに見つめる。
その頃のフォルトはというと、激しく歪んで激しいノイズが走っている白黒の世界にいた。周りにいるロメリア達の声はノイズによってかき消され、全く耳に入ってこない。
そんな中、フォルトは痛む頭を無理やり起こしてファイザーを見上げる。ファイザーの目は真冬の湖のように冷たく、突き刺さるようだった。
『何でファイザーさんを見たら・・・こんなに頭が痛く・・・なって・・・』
フォルトが頭を抱えながらファイザーを見続けると、突然周囲の景色が一変した。急に屋外へと叩きだされたフォルトの頭上には銀色に輝く月が佇んでおり、フォルトの視線の先には7つの黒い影があった。皆背中を向けていて、7つの内、1つの影だけがその場に蹲っていた。
『な・・・何だあの人達・・・それにここは・・・レイアさんの髪飾りがあった湖の場所・・・』
フォルトが頭を抱えながらじっと彼らを見つめていると、彼らの影に隠れている『何か』が見えた。その『何か』は地面に倒れており、ピクリとも動いていなかった。フォルトが目を細めていくと徐々にノイズが収まっていき、景色が明瞭になっていく。そしてノイズが消え、はっきりとなったその時、地面に倒れている人物が誰なのか確認することが出来た。
『レイア・・・さん・・・』
フォルトの視線の先には血だまりに沈むレイアの姿があった。レイアの周りには5つの影が彼女を取り囲んでおり、レイアを見下ろしていた。
『おい、ウルフェン!この女結局どうすんだよ⁉もう死んでるぜ?』
緑髪の男がウルフェンと呼ばれる男の方へと顔を向ける。彼の視線の先には地面に片膝をつき、顔の右側から血を流している男がいた。彼の傍にはピエロのようなフェイスペイントをした男がいて、ウルフェンと呼ばれる男の治療をしていた。
『・・・この女は俺の研究室へ連れて行く・・・コーラス・ブリッツの・・・八重紅狼の戦力として今後働いてもらうことにする。我ら八重紅狼の席が1つ空いてしまっているからな・・・埋め合わせとしては丁度いい・・・』
ウルフェンは顔の右側に痛々しい傷跡を残しながら、ゆっくりと立ち上がった。ウルフェンの足元には彼の顔から滴った血が地面に残っていた。・・・フォルト達が最初に見た血痕と一致する。
そしてこのウルフェンという男は驚くことにファイザーと全く同じ見た目をしていた。唯一違う所は顔の傷が見当たらないという点だが、フォルトはこの男とファイザーが同一人物だと確信した。
『ファイザーの右目が色んな方向へと動いていたのはきっとこの時の怪我が原因なんだ・・・この怪我でファイザーは失明して、視力を失ったんだろう・・・』
フォルトがウルフェンと呼ばれているファイザーを睨みつけていると再び周囲の景色が歪み、元の光景へと戻った。元に戻った瞬間、フォルトが握っている懐中時計の針が再び正常に時刻を刻み始め、世界に色が帰ってきた。頭痛も止み、先程まで激しく感じていた胸の動悸も収まっていた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「だ・・・大丈夫?」
ロメリアが心配そうに顔を覗き込んできたので、フォルトは僅かな笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ、ロメリア・・・心配かけてごめん・・・」
フォルトはロメリアから離れるとゆっくりとその場に立ち上がる。フォルトが立ち上がると、ガーヴェラが話しかけてきた。
「何があった?」
「・・・過去を・・・見てた。皆の・・・過去を・・・実際に見たことがある景色から・・・僕が見たことも無い風景迄・・・まるで自分がその場にいたかのようだった。」
「・・・」
「どの記憶も懐かしくて・・・もう遠い昔の思い出のような記憶を鮮明に浮かび上がらせてくれた。今まで見たことの無い記憶も・・・知らない記憶もまるで自分が体験したかのように・・・不思議と懐かしく思えてしまった・・・たった1つの記憶を除いて。」
フォルトはそう告げると、ファイザーを睨みつけた。ファイザーはフォルトから睨みつけられるが一切動揺することなく、冷めた目で見続けていた。
「ファイザー・・・いや、『ウルフェン』と言ったらいいか?・・・八重紅狼の『ウルフェン』さん?」
フォルトの言葉にロメリア達の視線が一気にファイザーへと向けられる。驚きの顔をしているロメリア達を他所にファイザーは鼻で笑い飛ばした。
「急に何を言い出すんだ、君は?頭大丈夫か?私が?コーラス・ブリッツの幹部だと?・・・フォルト君、何かの間違いなんじゃないか?」
「いいえ、間違いなんかじゃありません。・・・統括局の幹部の皆さんに聞きたいのですが、この男は右目が元々見えないんですか?」
「いいや・・・ファイザーさんは両目とも視えていた筈だが・・・」
「だが彼の目は明らかにおかしい。視力が無い人の目はやたらと泳ぐ特徴がありますが、彼の右目はまさにそれと同じだ。現にファイザーさんの右目は僕を捉えていない。」
幹部達がファイザーの右目に視線を移すと確かに目が異様に泳いでいるのを確認出来た。彼らは言葉を失い、ファイザーを見つめていると彼が少し余裕のある顔で話しかけてきた。
「・・・で?それで何故私が八重紅狼であると断言できる?」
「先程、覗いた過去で貴方は顔の右側に怪我を負っている・・・どうやって見た目を誤魔化しているかは知らないけど、その時に右目を失明した筈だ。」
「それで?」
「その時貴方は言った。『我ら八重紅狼の席が1つ空いてしまっているからな・・・埋め合わせとしては丁度いい・・・』と。」
「それは君が聞いた幻覚じゃないのか?時計の能力に操られて幻聴を聞かされたのだろう?」
「この時計は僕が見たいと思った対象の過去を見せてくれているだけだ。実際、ロメリアやケストレル達の過去も見たけど、一言一句当時言った言葉と変わりは無かった。・・・そもそも貴方がこの時計の能力を教えてくれたんじゃないですか?あの時、嘘言ったんですか?」
「・・・」
「これでも説得力が薄いと言いますか?・・・まぁいいですよ。僕にしか過去は見れないので説得力が無くても仕方が無いですよね?」
フォルトは淡々と告げると、懐から鎖鎌を取り出した。鎖を周囲に展開し、鎌を手に持つとファイザーの首元に狙いを定める。ガーヴェラは動揺してフォルトに話しかける。
「フォルト!武器を収めろ!」
「嫌だよ。このままファイザー・・・あの男を殺す。あの男はレイアさんを殺した張本人だ・・・生かして返すものか・・・」
「間違いだったらどうするつもりだ⁉」
「そうなったら僕を処刑すればいい。局長を一方的な思い込みで殺した殺人者として。」
「!」
「でもそうはならないと思うよ。・・・奴が八重紅狼であることに間違いはないだろうから。影武者ってことも無いだろうし・・・記憶を覗いた時にその人物が影武者なら記憶で判別できるから一発で見抜ける。」
フォルトはそう言って鎖を掴むと勢いよく回し始めた。鎌が凄まじい勢いで回転し、風を斬る音が周囲に響く。ファイザーが全く抵抗する気配を漂わせているが、フォルトは一切容赦するつもりは無かった。
「抵抗するつもりは無いの?自分がもうすぐ殺されるかもっていうのに?」
「・・・その必要は無い。君の攻撃は私には当たらないからだ。」
「へぇ?随分自信があるようだね?・・・まだ裏切者がこの中に紛れてるってこと?」
「・・・」
「まぁ、どうでもいいや。・・・直ぐにその言葉が本当かどうか・・・はっきりすると思うからさぁッ!」
フォルトは激しく振り回していた鎖鎌を全力でファイザーに投げつける。鎌は鋭く回転しながらファイザーへとまるで蛇のように不規則な動きで向かって行く。ファイザーはフォルトが放った鎌を余裕の笑みで見つめていた。
フォルトの鎌がファイザーの懐へと入り、首元へと近づいた・・・その時だった。
ヒュゥゥゥンッ!
突如黒鱗が貼られた鞭がファイザーの周囲に現れてフォルトの鞭を弾き飛ばした。フォルトは宙高く舞い上がった鎌を鎖で引き寄せると手元へと戻した。フォルトの手元に鎌が戻ってくると、ケストレル・ガーヴェラ・ヴァスティーソの3人がすぐさま自らの武器に手をかけて臨戦態勢を整えた。シャーロットはケストレル達の動きを見て急いで魔術書を開いたが、ロメリアはただ茫然とフォルトの横に立ち尽くしていた。
歪んだ余裕の笑みを浮かべるファイザーの周囲に鞭が螺旋状に展開し始めると、突然蒼炎を纏い始め、ファイザーの周囲を覆う。ファイザーの顔が蒼炎の光に照らされて不気味さが増す。
ファイザーの周囲を蒼炎が包み終えると、鞭はファイザーの後方へぬるりと消えていった。ファイザーの後方に広がる闇の中から『ヒュン・・・ヒュン・・・』と鞭のしなる音が聞こえてきた。
そしてすぐに奥から1人・・・小柄な影がゆっくりと現れた。蒼炎によってその影が明瞭になっていくと、フォルトとロメリアは目を大きく開き驚愕の表情になる。
その人物が蒼炎の中を歩き、ファイザーの横へと並ぶと彼は先程までの声とはうって変わって低い声で話しかけた。
「・・・いい腕だ、レイア。」
ファイザーの横に現れたレイアは死人のように白い肌をしており、彼の言葉を受けて薄っすらと頬を上げた。だがその笑みはかつてフォルトとロメリアが見た彼女の笑みとは遠くかけ離れた冷たいものだった。
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