最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~戦乱の序曲編 第6章~

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[時を操る懐中時計]

 「フォルト!それにロメリア達も無事だったか!」

 フォルト達はリーチェの後を追ってフロントへと戻ってくると、ガーヴェラがフォルト達に向かって大声で叫んだ。ガーヴェラの近くにはヴァスティーソやファイザー、そして数人の幹部が集まっていた。リーチェも既にガーヴェラ達と合流している。

 既に他の魔術師達は避難したのだろうか、ガーヴェラ達の他に配置についている兵士達以外の姿が見えなかった。

 フォルト達はガーヴェラの下へと近づくと、話しかけた。

 「ガーヴェラ!それにヴァスティーソも無事でよかったよ!・・・さっきの爆発は何⁉」

 「分からない・・・私達も今詳細な状況を確認している所だ。・・・だが怪我も無く、無事でよかった・・・」

 ガーヴェラが我が子を心配する母親のような優しい眼差しでフォルトを見つめながら話しかけるとファイザーが間に入ってきた。

 「・・・ガーヴェラ大隊長、ヴァスティーソ大隊長。貴方達に頼みたいことがあるのだが宜しいか?」

 「俺達に出来る範囲の事なら、どうぞ?」

 「感謝する。・・・用件はたった1つ、私達と一緒に爆発現場・・・地下最深部にある秘匿保護区域へ来て欲しい。」

 「・・・敵がいたら俺達が相手をしろってことか?」

 「大変申し訳ないがその通りだ。我々統括局が保有している戦力は非常に少ない・・・この街を守護するだけで精一杯なのです。」

 「魔術師達を呼べばいいじゃねぇか?派手な魔術使える奴とか沢山いるだろう?」

 「彼らも含めて、なんですよ・・・この魔術都市にいる魔術師は大半が研究者としての人材ばかりで戦闘員としての魔術師は少ないのです。」

 「よく今まで襲撃を受けずに持ったな?」

 「この街には戦力不足を補うために何重にも結界が張られています。外壁だけでなく、内側にも・・・勿論塔単体においても張られておりますし、秘匿保護区域にもまた別の結界が張られています。我々が認可していない侵入者を感知すれば警報が鳴る上に、そもそも内部に入る前に焼き消えます。」

 「でもさっき警報が鳴った時は侵入者を感知したものじゃなくって爆発を感知して鳴った・・・ということは・・・」

 「結界が機能していなかった・・・ということだよね?」

 フォルトがそう呟くと、周りにいた統括局の幹部が反論する。

 「しかし結界は今でも正常に作動しているのだぞ?先程調査に向かった奴らの情報だと結界が破られた形跡はないとのことだ。」

 「それに1つ結界が破られれば他の結界がその異常を感知するというシステムも取り入れている・・・このシステムが正常に作動しているのになぜ今回の事件は起こったのか、全く分からん・・・」

 幹部達が頭を悩ませている中、ヴァスティーソが小さく鼻で笑い飛ばした。

 「う~ん・・・でもさぁ?内部に裏切者がいたら今回の事件って簡単に引き起こせるよねぇ?」

 ヴァスティーソの言葉にファイザーが反論する。しかし彼の右目は明後日の方を向いており、左目だけがヴァスティーソの姿を捉えていた。

 「それはあり得ません。」

 「何故?」

 「先日発生したテロにおいて我々は組織内でコーラス・ブリッツに繋がっていた連中を発見し粛清することに成功しております。もう組織内には・・・」

 「いないとは限らないでしょ?・・・そもそも粛清したのが実はコーラス・ブリッツと繋がって『いない』人達で今の幹部は全員繋がっていたりして。」

 ヴァスティーソの発言に幹部達が一斉に声を荒げた。

 「なっ⁉ヴァスティーソ大隊長!我々がコーラス・ブリッツと繋がっていると考えておるのか⁉」

 「あくまで『予想』の1つですよ・・・そう焦らなくたっていいじゃないですか?それとも・・・焦るってことは本当にそうなんですか?」

 「犯人だと疑われて冷静でいられる人などおるものか!」
 
 幹部達がヴァスティーソに詰め寄る中、ファイザーが制止する。

 「皆、まずは落ち着こう。このまま我々で言い合っていても何も事態は解決しない・・・取り合えず、我々全員で下の秘匿保護区域に向かおうじゃないか?」

 「ファイザー局長・・・下にはまだ実行犯達がいるのかもしれないんですよ?そんな中地下に向かうなど・・・」

 幹部がファイザーに進言すると、ファイザーの下にリーチェが歩いてきて彼の耳元で呟いた。ファイザーは小さく頷くとフォルト達全員に告げる。

 「今リーチェ副局長から現地の安全確保が伝えられた。敵勢力は既に撤退しているのか周囲には見当たらないそうだ。」

 「・・・」

 「それでも行きたくないか?」

 ファイザーの言葉に幹部は軽く唇を噛むと、そのまま黙り込んだ。ファイザーは周囲を見渡すとフロント中央に展開されている結界へと向かいその上に乗って結界を作動させる。結界から黄金のオーラが沸き上がりファイザーが包み込まれる中、フォルト達も結界の中へと入る。

 フォルト達も結界の内側へと入るとオーラはより輝きを増してフォルト達を包み込んだ。周りの景色が見えなくなり、一瞬体が宙に浮く錯覚を覚えると直ぐに周りのオーラが消失した。周囲には先程と似たような空間が広がっていたが照明の色が蜜柑色から濃緑色へと変貌し、何処か暗く重苦しい雰囲気を漂わせていた。そして先程のフロアとより決定的に違うのはフロントには一つの巨大な黒扉しかなかった。

 茨と薔薇が彫られた石の黒扉の前にファイザーを先頭にフォルト達が向かうと、『ゴゴゴゴ・・・』とゆっくりと開いていく。その先の通路は左右に巨大な黒柱が対称に幾つも並んでおり、まるで小人になったかのような錯覚を覚える。通路を歩いていくと、徐々に焦げ臭い匂いが漂ってきて爆発地点が近づいてきていると実感する。

 フォルト達が暫く通路を歩いていると、また目の前に巨大な扉が現れた。しかしその扉には無数のヒビが入っており、粉々に砕け散っていた。それに破片は酷く焦げており、残っている扉も熱によってやや変形していた。爆発の影響なのかと思っていたが、破片が室内と廊下それぞれに偏って散らばっていないことからまた別の要因であるとフォルトは分析する。

 「この扉を壊すとは・・・とんだ力業だな。」

 「それに面白いことに扉に張ってある結界は無事なまま・・・器用な事するもんだねぇ?」

 「・・・シャーロット、結界を壊さずに結界が守っているものを破壊することは可能なのか?」

 「結論から言えば可能・・・だと思います。」

 シャーロットは扉にそっと触れると言葉を続けた。

 「この結界は結界に認められた人以外を拒む仕組みとなっているということは先程聞きましたが・・・もしヴァスティーソの仮説が正しくて内部にまだ裏切者がいるとしたら・・・その裏切り者が襲撃者を結界に登録することで、結界を無効化・・・扉だけを破壊することが可能です・・・」

 「流石、シャーロットちゃん!可愛い上に聡明とか最高!抱きついていい?」

 「寝言なら寝て言ってください。」

 「最近のシャーロットちゃん・・・キツイなぁ・・・」

 ヴァスティーソが深く項垂れる中、シャーロットの解析が終了する。ファイザーはシャーロットの言葉に耳を傾けると、声を上げた。

 「・・・まだ如何やら我々の中に裏切者がいるようだな・・・もう一度、身辺調査をする必要があるということか・・・」

 「・・・」

 「だがその前に・・・『ジャッカルの武器』が無事かどうか、確認するとしよう・・・」

 「この部屋にジャッカルの武器があるんですか?」

 「ああ、そうだよ。この秘匿保護区域はその武器を守る為に作られた金庫のような場所だからな。」

 ファイザーはそう言って扉の先へと入る。フォルト達も足元に注意しながら室内に入る。

 扉の先には先程のフロント以上の広大な何も無い空間が広がっていた。天井も非常に高く、まるで屋外に出たのかと錯覚するほどだ。室内には既に霊導弓を持った兵士が室内を調査しており、現場検証が行われている。ファイザーはそんな中、広大な部屋の中心へと向かう。

 その先にはたった1つの机があり、美術館で展示されている美術品のように円型の何やら大きな懐中時計が飾られていた。その品は硝子で包まれたケースの中に入っている。

 フォルト達がその懐中時計を取り囲むように立つと、フォルトが呟いた。

 「これが・・・ジャッカルの武器?」

 「でもこれ・・・武器じゃなくて、『懐中時計』・・・じゃない?」

 「時計って・・・武器なんですか?」

 「普通なら違うが・・・何か特別な細工でもされてんのか?」

 フォルト達の発言を受けてファイザーがフォルト達に話しかける。

 「この時計は只の時計ではない・・・時を操る能力を持っているのだ。」

 「時を操る?・・・時間を止めたりできるってこと?」

 「それも可能だ。・・・だがそれよりももっと重要な能力がある・・・それは『記憶の遡行』というものだ。これは世界の記憶を遡り、視ることが出来るというものだ。」

 「記憶を・・・盗み見る・・・」

 「成程ねぇ・・・過去を見ることが出来れば今後何をするつもりなのか、相手の動きが予想できる・・・先読みするには最適の能力だな。」

 「だがこの時計はジャッカルの死後から今までに適合者が1人も現れていない・・・ジャッカルの武器は適合者が現れればオーラを放つが、今に至るまで輝いたことは一度も無い。」

 「適合者じゃないと能力は使えない・・・」

 「その通りだ、フォルト君。適合者以外がこの時計を使っても只の懐中時計と変わりはない・・・只時を刻み続けるだけのモノだ。」

 ファイザーはそう言うと、時計を冷めた目で見下ろした。フォルト達もその時計を見つめ続ける。

 その時だった。

 ホワァァァァァ・・・

 突然、時計が銀色のオーラを放ちだした。そしてその次の瞬間、時計を覆っているガラスが粉々に砕け散った。フォルト達は破片を防ぐ為に咄嗟に両腕で顔を覆った。

 フォルト達が再び時計を見つめると、時計がゆっくりと宙へと浮き上がっていく。そしてフォルトの目の高さと同じ所まで来ると、時計はその位置で静止する。

 「馬鹿な・・・300年ぶりに・・・適合者が現れた・・・それもこのタイミングで・・・」

 ファイザーの額から汗が流れる。フォルト達は何も言葉を発することが出来ずにただじっと見つめていると、時計がゆっくりとフォルトの下へと近づいていく。フォルトが時計に右手を伸ばすと、時計はフォルトの右掌にすっぽりと入った。

 フォルトが時計を手に取って眺めていると、突然時計が開いた。中で回っている針が急に逆行し始めると、周囲の風景が全て白黒の2色に統一される。

 『な、何だ⁉急に景色が・・・』

 『世界』にノイズが走り、空間が歪んでいく。フォルトは咄嗟にロメリアを見つめると、ロメリアは不思議そうにフォルトを見つめてきた。

 すると、突然周囲の場面が変わり、帝都の貴族街へと転換した。噴水があった広場だ。フォルトは訳が分からず周囲を見渡していると、噴水の近くで少し背中を丸めているロメリアの姿があった。まだ髪が少し短く、ボブヘアだった時のロメリアだ。

 ロメリアの視線の先には、汚れた自分自身が存在していてロメリアを見上げていた。

 『この光景・・・ロメリアと初めて会った時だ・・・なんで・・・なんでこの光景が・・・』

 フォルトが動揺する心臓を押さえながらその光景を見ていると、再び場面が変わって元の景色へと戻る。ロメリアは変わらずフォルトを見つめ続けていた。

 「フォルト・・・大丈夫?すごい汗だよ?」

 「え?あ・・・あ・・・うん・・・」

 フォルトはシャーロットとケストレルに視線を移す。すると周りの景色がまた変わり、ケストレルと初めて会ったエルステッドの町での光景・・・そしてシャーロットと出会った大樹の下での光景が広がる。

 『これが・・・過去の記憶・・・なの?全部・・・今まで見たことがある光景だ・・・』

 世界が何度も変わり、直ぐに再構築されていく。フォルトは頭がおかしくなりそうな感覚に襲われながらも元の光景へと戻って周囲を見渡す。フォルトはその際にファイザーへと偶々顔を向けた。

 その瞬間、不意に後頭部を鈍器で強く叩かれたような衝撃がフォルトを襲った。
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