最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~戦乱の序曲編 第3章~

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[弁明]

 「こちらが会議室となります。中で幹部の皆様がお待ちになっておりますよ。」

 女性がそうフォルト達に告げると、会議室の重々しいドアを開ける。室内には大きな円卓があり、20人ほどの人達が席に座っていた。ほとんどの人が黒のローブを着用しており、首元には金色に輝く大きなペンダントをかけていた。

 円卓で空いている席は3つ・・・招待されたロメリア・ヴァスティーソ・ガーヴェラの席しかなく、ロメリア達が席に座るとフォルト・ケストレル・シャーロットは3人の後ろに立った。

 ロメリア達が座っている円卓の反対側に座っている黒髪で短髪のやや厳つく深い皴の入った顔をしている男が少しの間の後、静かに話し始めた。

 「では、会議を始めようじゃないか。・・・後ろで立っている彼らには申し訳ないが、そのまま待機してもらおう。何分椅子が足りなかったものでな・・・」

 「・・・」

 「その気になれば椅子位直ぐに用意できるだろ・・・嫌みったらしい奴だぜ・・・」

 「ケストレル・・・落ち着いて下さい・・・」

 「分かってるって・・・クソ・・・」

 ケストレルは小声で不満を口にすると、軽く舌を打つ。男が話を続ける。

 「おっと、申し遅れたな。私の名前は『ファイザー・ヒュッセルコード』、この魔術都市を統べる者で統括局の局長を務めている。専門は『神秘』だ。」

 「・・・シャーロット、『神秘』って何?」

 「『未来』を視たり『奇跡』を叶えたりと人智を超えた技術の事です。魔術や錬金術など、他の派生学問を作った根幹の学問なんです。」

 「取り合えず、何かスゲぇもの勉強してんだな。」

 シャーロットが小声でフォルトに解説をする。フォルトは彼女の話を聞き終えると、ファイザーの方へと顔を映す。彼は表情を固まらせたままフォルト達を見つめていたが、何故か左目だけしか動いていなかった。右目も動いてはいたのだが上を向いたり、下を向いたりと慌ただしかった。

 『あの人・・・右目が見えないのか?目が不自由な人の目はやたらと動くことがあるけど・・・』

 フォルトがファイザーを不思議そうに見つめていると、彼はさらに言葉を続ける。

 「そして私の左右にいるのは副局長の『ワーロック・フォルク』と『リーチェ・シャルフィーユ』だ。ワーロックの専門は『錬金術』で、リーチェは我が統括局が保有する戦闘部隊の1つ、『霊導弓術部隊』の隊長だ。今回のテロでは彼女の部隊が活躍してくれた。」

 ワーロックとブロンドの長髪をポニーテールでまとめているリーチェがロメリア達に向かってお辞儀をする。ワーロックと呼ばれている赤髪でやや長髪の直毛である男性の顔の右半分には包帯が厳重に巻かれていた。怪我をしているのだろうか・・・

 ロメリアが視線をワーロックの方へと頻繁に向けていると、ファイザーが彼女に話しかける。

 「・・・ああ、ワーロックの顔が気になるかい?」

 「あ・・・いや・・・」

 「彼の顔の傷は最近錬金術の実験をしていた時についたものだ。錬金釜が至近距離で炸裂してね・・・顔の半分に素材と破片が突き刺さっただけで済んで良かったよ。」

 「・・・なんで爆発したんですか?副局長ならば知識も豊富なんじゃあ・・・」

 「彼が目を離した隙に彼の部下が誤って違う素材を混入させちゃったんだよ。それも危険な素材をね・・・まぁ、その彼は粉々に吹き飛んで死んじゃったけど。」

 「・・・」

 「さて・・・無駄話が過ぎたな。本題に入るとしよう・・・ヴァスティーソ大隊長、ガーヴェラ大隊長・・・古都でも大変なことが起きたそうだな?」

 「はい。我が古都軍の一部幹部が王族に対するクーデターを起こしました。直ぐに鎮圧しましたが、反乱を起こしたのが何分親衛部隊の隊長ですので未だに古都軍の中では混乱が続いています。」

 「王族を守る責務がある者が王族に牙を剝く・・・何とも哀しい事件だな?」

 「・・・」

 「おっと失礼した・・・話を続けようじゃないか。・・・ガーヴェラ大隊長・・・貴女達が呼ばれた理由はお分かりかな?」

 「勿論です。魔術都市内でも我ら古都軍のクーデターが起こった『同時刻』にテロが発生・・・犯人は古都軍の紋章をつけた武装集団だということでしたね?そして彼らが我が古都軍とは一切関係の無い集団であるということを説明する為に呼ばれました。」

 「その通りだ。リーチェ率いる霊導弓術部隊が鎮圧したが、民間人、魔術師含めて多くの犠牲者が出た。・・・我らと古都軍は同盟関係を結んでいたはずだが、何故古都軍のワッペンをつけた者達がこの街で暴れたのか・・・理由はお分かりですかな?」

 「いいえ、全く見当もつきません。我らが同盟国を襲撃する理由は何処にもございませんから。」

 「ではどう説明する?何故彼らが古都軍のワッペンを身に付けていた。」

 「その点に関しては恐らくこちらに紛れていた裏切者・・・コーラス・ブリッツと繋がっていた者が隊服や武器を提供してのだと思われます。それらの発注権は隊長以上の位の者が持っておりますので可能かと。」

 「・・・」

 「また、少し前に我がフィルテラスト大陸の南部にあるエメラリア港が襲撃された時に、武器庫に貯蔵されていた武器が盗まれています。・・・そして来年度新たに入隊してくる隊員に支給する為の隊服も・・・」

 「では今回我らを襲撃してきたのはコーラス・ブリッツの者達・・・ということか?クーデターを起こした隊長経由・・・もしくは襲撃時に奪い取ったものを身に付けていたということか?」

 「はい。」

 「信じろと?」

 「そう願う他ありません。」

 ガーヴェラがそう語ると、室内は静寂に包まれた。暫くの静寂の後、ファイザーは軽く息を吐いた。

 「・・・まぁ、実は我々も貴女達が今回のテロに関与していないとは薄々は感じていましたよ。古都軍の兵士にしてはちょっと『歯ごたえ』がありませんでしたからね・・・」

 「薄々感じていたのに宣戦布告してきたのか?」

 「そうでもしないとあの時の世論を押さえられませんでしたからね。古都軍の隊服と武器を持った集団が誰彼構わず殺しまわったのに対抗声明を発表しないならば『弱腰』と罵られますから・・・それに、こちらが布告をすれば貴方達は弁明をしに何らかのアクションをとるはず。本気で攻めてくるのならば、布告を受理し攻め込んでくるだけでいいのだから。」

 「確かに・・・その通りだな。というか、俺が仮にこの街を落とすなら民間人なんかに手を出す余裕はねえな。研究所は兵士の駐屯基地を潰しに回るぜ。」

 ヴァスティーソは椅子に深く背もたれると、両腕を前で組んだ。ガーヴェラがファイザーに質問を投げかける。

 「何故我々を信用すると?」

 「テロを起こした者達の身元と現古都軍在籍隊員の名簿と比較した所、貴女達の関与は無いと確認が取れたからです。」

 「名簿だと・・・何処からそのような名簿が・・・」

 「貴女方の王が我々に情報提供としてくれたのだよ。貴女達が古都から出港した直ぐ後に、古都軍魔術部隊のバリスト大隊長から転送術で送られて来てね・・・『テロを起こした集団と照合して欲しい』とのことだ。自分達は無実、潔白であることを示したいのだと我々は受け取った。」

 「あいつ・・・」

 「つまり今回我々を呼んだのは弁明を言ってもらう為でなく、テロの黒幕であるコーラス・ブリッツへの対策を協議したい・・・というのが本音か?」

 「その通り。だから今からは君達の弁明会ではなく、コーラス・ブリッツに対する作戦会議を行おうじゃないか?」

 ファイザーはわざとらしく両手を広げるとガーヴェラ達に微笑んだ。彼の笑みは何処か不気味で背筋に悪寒が走る。

 ガーヴェラ達が無言でファイザーを見つめていると、彼は言葉を続ける。

 「だがその前に、この会議は関係者だけで行いたい・・・古都軍に所属していない者は退席を願おうか・・・ロメリア元王女、フォルト君、ケストレルさん、シャーロットさん。」

 ファイザーの言葉を受けて、フォルトがすかさず彼に質問を投げかけた。

 「ちょっと待ってください。僕達はともかく、ロメリアまで退出させる理由が分かりません。貴方達はガーヴェラ達を呼ぶ際にロメリアを指名してきたのに・・・」

 フォルトの言葉を受けてファイザーが目を細めて返事をする。

 「・・・本来ならば、今この場でロメリア元王女に会わせたかった人がいたんだ。」

 「私に?・・・誰なの?」

 「・・・君のお父さん・・・帝国の王だよ。」

 「!」
 
 彼の発言によってフォルト達が一斉に騒めき始める。

 「ロメリアのお父さんが・・・この街に?でも・・・ロメリアのお父さんって・・・」

 「列車の時に暗殺部隊を差し向けた野郎だ・・・実の娘を訳分かんねぇ理由で勘当した糞野郎でもある・・・そんな奴が今更娘に会いたいだって?笑わせてくれるな。」

 「・・・なんで来れなくなったの?」

 「彼とその護衛を乗せた専用船の消息が不明になったのだ。本来ならば2日前にはウィンデルバーグへと到着する予定だったのだが・・・」

 「お父さんは・・・なんでこの街に?」

 「単なる視察だ。帝都と魔術都市は同盟こそ結んではいないが、度々フォルエンシュテュール家の者が訪れる程度の交流は行っている。これまでは王家の血を引く者だけだったのだが、今回初めて現王であるロメリア元王女の父上が是非ともこの街に来たいと言ってきてな・・・そのついでに今回の騒動について話をしたところ、古都に滞在している君と話がしたいと手紙で知らせてきたんだよ。だから今回君を呼んだ訳なのだが、その数日後にまさか行方が分からなくなるとは・・・」

 「・・・」

 ロメリアは少しの間顔を俯けると、ファイザーの方に再び顔を上げて席を立った。

 「分かりました・・・では、私は席を外すとします。・・・フォルト、皆・・・行こっか?」

 ロメリアはフォルト達に静かに語り掛けると、フォルト達は静かに頷き彼女と共に室内から出ていく。フォルト達が室内から出ていく時、ファイザーから『会議が終わるまで自由に塔内を移動してもらって構わない』と言われた。

 ガーヴェラ、ヴァスティーソ除くフォルト達4人が部屋から退出すると、ファイザーは右肘を机の上につき、右手で顔の右側を覆って優しく摩った。

 「・・・では、今からコーラス・ブリッツに対する協議を始めよう。折角古都軍の皆様にも来ていただいたのだから是非とも有意義なものにしようじゃないか?」

 ファイザーはガーヴェラとヴァスティーソの頭越しにあるフォルト達が出ていった扉を見つめると、右手で覆っている右頬を少し吊り上げた。
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