最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~探偵の失踪編 第7章~

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[復讐の炎]

 「くっ!」

 レイアは『男』の斬撃を、姿勢を低くして回避すると直ぐにその場から離れる。その途中で男の背後に回り込み、ワイバーンの柔軟で強固な皮を加工して作られた鞭を展開すると男に向かって叩きつける。

 「・・・ふん。」

 男はほぼ動かずに最小限の動きで回避すると、レイアを真っ直ぐ見つめる。レイアは空中で受け身をとって着地すると、男を睨み返す。

 男は暫くレイアを見つめ続けると、小さく頬を上げる。

 「・・・そんなに睨まないで欲しいな、レイア。折角の美しい顔が醜く歪んでいるぞ?」

 レイアは鞭を握る手に力を込める。目の前に立っている母の殺害を指示した男に殺意を募らせていく。

 そんな中、突然レイアの周囲に6人の黒い影が現れて包囲する。レイアは自分の周りに立っている人達を一瞬で理解した。

 『囲まれた・・・八重紅狼に・・・』

 レイアが目の前にいる『男』と周囲にいるヨーゼフ達に視線を移していると、ヨーゼフ達がレイアに向かって声を上げ始めた。

 「あっ!また会ったね、おねーさん!もしかして僕達を殺しに来たのー?」

 「・・・」

 「まさか向こうから来てくれるとはねぇ?探す手間が省けて助かるなぁ。」

 「悲しいな・・・命を捨てに来るとは何たる無謀・・・」

 「何だ、こいつぁ⁉女1人で俺達に向かってくるなんて度胸あるじゃねぇか!気に入ったぜ!おい!こいつは俺が殺しちまっていいか⁉」

 「勝手な行動は慎め、ジャスロード。この女はあの方の獲物だぞ?」

 「お前に聞いてねぇよ、アリア!なぁ、どうなんだよぉ⁉」

 「ジャスロード、下がれ。彼女は私が手を下す。」

 『男』はジャスロードに声をかけると、彼は小さく舌を打ち後ろへと下がる。周りにいる八重紅狼達は襲い掛かって来る気配は出しておらず、ただレイアを見つめているだけだった。

 レイアは怒りを押し殺しながら『男』に話しかける。

 「お前が・・・コーラス・ブリッツを率いているの?」

 「その通りだ。・・・私の名前は『ウルフェン』。以後お見知りおきを・・・」

 「誰がお前の名前なんて覚えるものかッ・・・!」

 「おやおや・・・随分と嫌われているようだな?私が何かしたかな?」

 レイアは男の飄々とした態度に限界を迎えようとしていた。

 「何かしたもあるものか・・・お前は私の母を殺した・・・殺すよう部下に指示を出した!お前達の勝手な判断で・・・何の悪事も働いていない母を殺したんだ!・・・許さないッ!絶対に許すものかッ!」

 レイアは押さえてきた怒りを放出し始める。ウルフェンはただじっと怒りで顔を歪ませるレイアを見つめ続けた。まるで何かを観察するように・・・

 その様子を見ていたヨーゼフがウルフェンに声をかけた。

 「どーしたのー、ウルフェン?さっきからずっとあの女の人見つめて?気持ち悪いよー。」

 「・・・以前にも、彼女と同じ目をしている者と会ったことがあるような気がしてな。誰だったか・・・う~ん・・・」

 ウルフェンが首を何度も捻ると、思い出したようで目を少し大きく開く。

 「ああ、思い出したぞ。確か今から40年ほど前だったか・・・かつてミスティーヌの森付近にあった宿場町を野盗共に襲わせたことがあったが・・・その時に殺した男の目にそっくりだ。たしか名前は・・・何と言ったかな?・・・そうそう、『ウィルバー・ミストレル』だったかな?」

 「えぇ!じゃあそいつの孫じゃん、あの女の人!奇遇だね~!」

 「君のお爺さんは中々手強かったよ?ここ100年戦った奴らの中では今の所一番強かったな。」

 ウルフェンはかつての余韻に浸る様に腕を組んで、右手で顎を擦った。レイアはウルフェンの言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。そして同時に心の中で怒りを抑え込んできた鎖が粉々に砕け散った。

 「お爺ちゃんを殺したのも・・・お前か・・・お前のせいで・・・お婆ちゃんは1人で・・・」

 「ああ・・・そう言えば彼には奥さんがいたなぁ・・・奴を殺すのに必死になって逃がしたがまさか子供を宿していたとはその時は思わなかった・・・あの時纏めて殺しておくべきだったと今更ながら思ったよ。そうすれば今こんな面倒な事には・・・」

 レイアの中で最後のリミッターが外れた。

 「この外道がぁぁぁぁぁッ!私がこの手で今殺してやるッ!殺してやるッ!」
 
 レイアは周囲に鞭を展開すると、鞭に蒼炎が纏わりつく。

 「『リミテッド・バースト・・・《揺楼炎蛇(ようろうえんじゃ)》』!」

 レイアは蒼炎を纏った鞭で周囲を薙ぎ払って炎の檻を生成する。フィールド内にはレイアとウルフェンだけになり、他の八重紅狼達は激しく燃え上がる蒼炎の外に追い出される。

 ウルフェンが周囲を見渡して感嘆の声を漏らすと、双剣を握り直してレイアを見つめる。レイアは額に血管を浮き出すほどの怒りを見せている。

 「・・・そうやって激昂するのもそっくりだな。」

 ウルフェンは静かに双剣を構えると、不敵笑みを浮かべて呟いた。

 「さて・・・お手並み拝見と行こうか。」
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