最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~探偵の失踪編 第4章~

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[父の想い]

 「お待たせしました~!アップルティーと珈琲になります!」

 カフェの中にある2人用の席に座っていたレイアとケルドの前にアップルティーと珈琲が入ったカップと受け皿が机の上に置かれた。レイアはアップルティーを取り、ケルドが珈琲を手に取ると、少し口に含む。

 『カチャ・・・』と小さく音を立ててカップが受け皿に置かれると、ケルドがレイアに話しかける。

 「ここの珈琲、美味しいな。苦みがあまり無くて、飲みやすい。・・・いい店、知っているんだな?」

 「伊達に世界中飛び回ってないからね。他にもいいお店知ってるから今度連れてってあげるよ?」

 「そうか・・・楽しみだな・・・」

 ケルドは小さく微笑むと、机の上で両手を組む。レイアはアップルティーが入ったカップを手に持つと、ケルドに話しかける。

 「・・・ところでお母さんとオルターはどうしたの?」

 「オルター君はお前が宿を出て直ぐにウィンデルバーグへと出発したよ。鍵を私達に預けてな。」

 「そう・・・」

 レイアは口にアップルティーを含む。

 「そして母さんは部屋でお前の荷物を漁ってたよ。お前の前使っていた手帳とか、カバンの中に入っていた何かの資料とか・・・」

 「ちょっと・・・勝手に見ないでよ・・・」

 「でも母さんが手帳とかを見てる時の顔、とても嬉しそうだったぞ?『あの子、一生懸命頑張ってるわね~。』なんて言ってな。」

 「・・・お父さんも見たの?」

 「ちょっとだけ・・・・な。お前は見るなと言ったがやはり気になってしまってな。」

 「・・・」

 「すまなかった。・・・だけど分かって欲しいんだ。お前が危ないことに足を突っ込んでいないか毎日不安で仕方が無いんだよ・・・お前は小さい頃から負けず嫌いで何事にも全力で取り組む子だった。母さん直伝の鞭術のおかげで同年代は勿論、年上の男達にも1度たりとも負けることはなかった。お前が強い子だということをお父さん達は良く知っている。」

 レイアは手に持っているカップを受け皿へと置く。

 「だがな・・・それでも不安なものは不安なんだ。お前は未婚の女・・・それもまだ10代だ。お前の事を良からぬ目で見てくる男も沢山いるだろう?」

 「大丈夫よ、お父さん。私、あまり危険な所には近づかないようにはしてるから。・・・勿論、危険な依頼も受けないようにしている。自分の身が無事じゃ無くなったら元も子も無いからね。」
 
 「・・・」

 「だからお父さんは心配しなくていいの。もう私は子供じゃないんだから。」

 レイアは元気よくケルドに微笑んだ。ケルドはレイアに微笑み返すがまだ彼女を心配する気持ちを捨てきれないようで直ぐに表情を曇らせる。

 この時、レイアは嘘をついてしまった。危険な依頼を受けないようにしているとは言ったが、今受けている仕事は強大なテロリスト集団が絡む仕事・・・レイアはこの仕事を両親に伝えることは出来なかった。伝えれば確実に仕事を辞めるよう必死に説得されるからだ。

 『でも私は辞められない・・・仲間達を見捨てる訳にはいかないから・・・』

 レイアは目の前にいる父に申し訳ない気持ちを抱きつつ、彼の顔を見つめる。ケルトはカップに入ってる珈琲をすべて飲み干すと、再びレイアに話しかける。

 「・・・ま、お前がそう心掛けているのなら、私からは特に何も言うことは無い。これからも、仕事を頑張りなさい。」

 「・・・へぇ、お父さんにしては珍しい。この前会った時までは探偵なんて仕事は辞めろって言ってたのに・・・どういう風の吹き回しなの?」

 「今でもお前が探偵の仕事をしていることに拒絶感を持ってはいる・・・が、お前が一生懸命頑張っている姿を見ているとな・・・否定するのが申し訳なくなってしまったんだよ。だからもうお前に対して仕事の事を言うのは辞めようって思ったんだ。」

 「ふ~ん。そうなんだ・・・」

 レイアはカップに残っているアップルティーを一気に飲み干す。その時、ケルドが話題を変えてきた。

 「ところで・・・オルター君とは何時挙式を上げるつもりなんだ?」

 「ぶっ!」

 レイアは思わず飲み込んだアップルティーを口から吐き出しそうになるが、何とか堪えると胸を摩りながら胃の中に流し込んだ。少しむせて咳き込むとケルドに話しかける。

 「ちょっと!急に何言い出すのよ⁉」

 「いや、だって・・・今オルター君と付き合っているんだろ?昨日の夜に関しては『裸の付き合い』までしたということじゃないか・・・部屋のゴミ箱には避妊具は無かったからてっきり本気で子供を作ろうとしてるんじゃないかって・・・」

 「そこまで調べたの⁉」

 「か、母さんがな!お父さんは調べてないぞ⁉・・・まぁ、お前がオルター君とそういう関係になっていることを知ったら、あいつはとても嬉しそうにしていたが。」

 「・・・」

 「で、どうなんだ?何時結婚するんだ?」

 「まだ決めてない。お互いまだまだやりたいことがあるから今のところは恋人の関係止まり。」

 「じゃあ落ち着いたら結婚するつもりなのか?」

 「ん・・・ま、まぁ・・・そうなる・・・かも・・・」

 レイアは少しだけ顔を赤く染めると顔を俯けた。ケルドはそんなレイアを真っ直ぐじっと見つめる。

 レイアは軽く咳をしてケルドの顔を見つめる。

 「お父さんは・・・私がオルターと付き合ってることに・・・反対なの?」

 「いいや、逆だ。お父さんはオルター君が小さい頃から知っているし、彼が大人しくて優しい子だってことは良く知っている。彼ならお前を泣かすことは無いだろうし、安心して任せられる。」

 「・・・」

 「オルター君のご両親は知っているのか?」

 「一応相談はしているみたい・・・おばさんは喜んでたそうだけど、おじさんは何も言わなかったんだって。」

 「彼のお父さんは少し堅苦しい人間だからなぁ・・・昔は魔術師としてウィンデルバーグで働いていたそうだが・・・」

 「え、そうなの⁉オルターのお父さんも魔術師だったの?村で学校の先生をしてるからそんな事知らなかった・・・」

 「お前知らなかったのか?オルター君が魔術師を目指したのもお父さんの影響なんだぞ?」

 「・・・」

 「あの人息子にも冷たいからな・・・あの2人が仲良く会話している所なんて見たことないよ・・・」

 ケルドは短く溜息をついた。

 「それにしてもオルター君ともうそんな関係になっていたなんてな・・・月日が流れるのも早いな。少し前までは冗談で結婚するのか~なんて言って茶化していたのに・・・そうかそうか・・・もう本気で結婚を考えるような年になっていたのか・・・大きくなったな、レイア。一人娘のお前が真っ直ぐ元気に育ってくれてお父さんとても幸せだよ。」

 「お父さん・・・」

 ケルドはそう言うとゆっくりと席を立って背もたれにかけていたコートを羽織る。

 「それじゃあそろそろ宿に帰るとしようか。あんまり1人にすると母さんが寂しがっちゃうしな。」

 「あはは・・・そうだね!帰ろ、お父さん!」

 2人は互いに微笑みあうと、レイアも席を立って店を後にする。店の外に出ると、陽の光を浴びて若干温くなった風が優しく撫でるように吹いていた。

 「宿はこっちだったかな?」

 「違うよ、こっちこっち!もう、しっかりついてきてよ?」

 レイアはケルドの手を優しく握ると、彼の手を引いて宿へと歩きだした。ケルドは娘に手を引かれながら付いて行く。

 ケルドの頬はすっかり緩み、2人の間には暖かな風が流れていた。
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