最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

文字の大きさ
上 下
142 / 258

~探偵の失踪編 第3章~

しおりを挟む
[情報提供]

 レイアは待ち合わせ場所となっているバーに到着すると直ぐに店内へと入る。まだ早朝ということもあって営業はしているのだが、人は全然いない。店内を見渡しても情報提供者の人物も見当たらないので、適当な場所にあるカウンターに座った。

 店員がレイアの前に水の入ったコップを差し出してきて、そっと机の上に置く。レイアがその店員に感謝の言葉を述べたその時、後ろから足音と共に男性の声が聞こえてきた。

 「レイア!もう来てたんだね!待たせちゃったかな?」

 「ううん。私もちょうど今来た所。」

 室内なのにフードを被ったやや長髪の男性はレイアの左に座る。服は少し汚れており、もう何日も同じ服を着ているような感じだ。

 その男性の前にコップが置かれると、男性はコップに口をつけて水を一気に流し込み、話し始めた。時刻は予定開始時間より2分早い。

 「それじゃあちょっと早いけど早速話に入ろうか。・・・はい、これ。頼まれてた資料。その情報を得るのは大変だったぜ?」

 その男性は懐から皴皴になった大きめの茶封筒をレイアに手渡した。レイアは茶封筒を開き中身を確認すると、そこにはコーラス・ブリッツに関わる内容がまとめられた紙が幾つも入っていた。

 レイアは一番上にある紙から内容を確認していると、男性がレイアに話しかける。

 「なぁ、レイア。お前なんでその資料が必要なんだ?よりによってテロリスト集団の・・・それもコーラス・ブリッツの。」
 
 「少し前に依頼されたの。最近頻発している『探偵連続失踪事件』の調査をね。今回の仕事には彼らが関わっていると思ったの。・・・理由はない只の直感だけど。」

 「誰からの依頼なんだ?」

 「探偵組合の会長さんから。」

 「・・・そうか。」

 男のコップに水が注がれる。

 「でもよく受けようと思ったな。相当危険な匂いがするんだが・・・」

 「私も最初は乗り気じゃなかった。・・・でも、失踪した人達の中には私と非常に関わりを持っている人もいるし・・・困っている時に助けてくれた人も大勢いるから。」

 レイアは資料を次々に捲っていく。

 「だから今度は私が皆を助けようって思ったの。それがこの依頼を受けた理由よ。」
 
 「成程ねぇ・・・やっぱりレイアは優しいな。」

 男性がコップに口をつけて少しずつ水を流し込んでいると、レイアが横目でその男性を見つめる。

 「ゼファード、貴方にも感謝しているわよ?こんな危ない事件の調査に協力してくれて。」

 「へっ、レイアにそう言って貰えて嬉しいな。」

 ゼファードはコップに入った水を再びすべて飲み干した。レイアは小さく微笑むと、再び資料に目を向ける。

 「ところで・・・あの魔術師の男とは付き合ってんのか?」

 「・・・ええ。近いうちに2人で世界一周旅行するつもりなの。・・・それがどうしたの?」

 「いや、何でもない。そうか・・・幸せそうで何よりだよ・・・」

 「貴方はどうなの?付き合ってる人いたでしょ?」

 「ああ、いたよ。・・・他の男に取られちまったけど。・・・『貴方といてもつまらない』、そう言われたのが最後だったな。」

 「・・・ごめんなさい、聞き返したりして。」

 「気にするな、また次の女を探すだけの事だ。」

 「もしかして・・・私を新しい彼女にしようとしてさっき話しかけてきたの?」

 「ん・・・ま、まぁそんな感じだ。」

 「・・・」

 「お前は美人だし、性格もいいし・・・俺がお前に吊り合うとは思わないが・・・もしかしたらって思ってな。」

 ゼファードは溜息をついた。

 「でもまぁ・・・今お前が付き合っているあの男はお前の幼馴染なんだろ?それに頭もいいって聞くし・・・俺じゃ勝てねぇよな。」

 男はコップを机の上に置く。レイアは資料の全てに目を通すと、茶封筒の中に戻した。

 「・・・そうね。確かに私は貴方とは付き合えないわね。もうオルターがいるから・・・」

 「・・・」

 「でもそう落ち込む必要は無いと思うわよ?貴方は真面目で性格もお人好しでいいってことは知ってるから、直ぐにもっといい女性が見つかるわよ。」

 「そう・・・かな?」

 「そうよ!だからくよくよしてないでもっと元気にならないと!そうじゃないといい人は寄ってこないわよ?」

 レイアはゼファードを励ましながら肩を叩くと、財布の中から現金の入った小さめの茶封筒を手渡した。

 「はい、これ残りの報酬ね。」

 「ああ・・・ありがとう。」

 ゼファードは報酬金が入った封筒を受け取ると、ゆっくりと懐へと仕舞った。レイアは店から去る時にゼファードに一言告げた。

 「ゼファード。」

 「ん?」

 「今度私の友達紹介してあげる。とてもいい子で貴方もきっと好きになると思うわ。・・・元気な女の子が貴方のタイプだったよね?」

 「ああ、そうだよ。・・・ありがとな、レイア。」

 「気にしないで。じゃ、気を付けてね。」

 「そっちもな。変に深く足を突っ込むんじゃないぞ。」

 ゼファードはそう言うと、レイアに軽く手を振った。レイアも彼に返事をするように手を振ると、バーから出ていく。バーの中にこもった暖かい空気とは一変して外の冷たい風に吹かれて、レイアは少し体を震わせる。

 「ふぅ~寒い・・・さて、と。宿に戻って作業するとしようかな・・・お母さんとお父さん、まだいるかなぁ・・・」

 レイアが今日の朝軽く話した両親達の事を頭に思い浮かべながら宿へと歩きだした・・・その時、突然横から非常に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 「レイア。」

 レイアがその声のする方へと体を向けると、そこには黒の分厚いダウンコートを着用しているレイアの父、ケルドが立っていた。ケルドの顔は何処か暗く、少し顔を俯けていた。

 「お父さん・・・」

 「・・・少し、話があるんだが・・・いいか?」

 抑揚の無い沈んだ声にレイアは少し戸惑ったが、僅かな間の後に返事をする。

 「・・・いいよ。じゃあこの先にあるカフェに行こうよ。こんな所で話すよりもさ、落ち着いたところの方がいいでしょ?」

 「・・・そうだな。」

 レイアの言葉にケルドは小さく頷くと、彼女はケルドと一緒にそのカフェへと歩き始める。2人の間には冬の乾いた風が通り過ぎていた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

素直になる魔法薬を飲まされて

青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。 王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。 「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」 「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」 わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。 婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。 小説家になろうにも投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

やさしい魔法と君のための物語。

雨色銀水
ファンタジー
これは森の魔法使いと子供の出会いから始まる、出会いと別れと再会の長い物語――。 ※第一部「君と過ごしたなもなき季節に」編あらすじ※ かつて罪を犯し、森に幽閉されていた魔法使いはある日、ひとりの子供を拾う。 ぼろぼろで小さな子供は、名前さえも持たず、ずっと長い間孤独に生きてきた。 孤独な魔法使いと幼い子供。二人は不器用ながらも少しずつ心の距離を縮めながら、絆を深めていく。 失ったものを埋めあうように、二人はいつしか家族のようなものになっていき――。 「ただ、抱きしめる。それだけのことができなかったんだ」 雪が溶けて、春が来たら。 また、出会えると信じている。 ※第二部「あなたに贈るシフソフィラ」編あらすじ※ 王国に仕える『魔法使い』は、ある日、宰相から一つの依頼を受ける。 魔法石の盗難事件――その事件の解決に向け、調査を始める魔法使いと騎士と弟子たち。 調査を続けていた魔法使いは、一つの結末にたどり着くのだが――。 「あなたが大好きですよ、誰よりもね」 結末の先に訪れる破滅と失われた絆。魔法使いはすべてを失い、物語はゼロに戻る。 ※第三部「魔法使いの掟とソフィラの願い」編あらすじ※ 魔法使いであった少年は罪を犯し、大切な人たちから離れて一つの村へとたどり着いていた。 そこで根を下ろし、時を過ごした少年は青年となり、ひとりの子供と出会う。 獣の耳としっぽを持つ、人ならざる姿の少女――幼い彼女を救うため、青年はかつての師と罪に向き合い、立ち向かっていく。 青年は自分の罪を乗り越え、先の未来をつかみ取れるのか――? 「生きる限り、忘れることなんかできない」 最後に訪れた再会は、奇跡のように涙を降らせる。 第四部「さよならを告げる風の彼方に」編 ヴィルヘルムと魔法使い、そしてかつての英雄『ギルベルト』に捧ぐ物語。 ※他サイトにも同時投稿しています。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...