最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~探偵の失踪編 第1章~

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[幼馴染]

 時はフォルト達がコールドーゼ港に到着する2日前に遡る。その日のコールドーゼ港は快晴で雪も積もっていなければ降ってもいない。心地よい晴れ晴れとした空が一面に広がっていた。

 レイアはコールドーゼ港にある宿の一室で眠りについていた。

 「ん・・・」

 カーテンの隙間から差し込む朝日が顔に当たり、レイアは目を覚ました。ゆっくりと体を起こし、ベッドの外に両足を出して床につける。

 床にはジャケットやパンツ、下着がだらしなく散らかっており、ふと自分の体に目を向けると何も着ていないのが確認できる。・・・通りで肌寒いと感じる訳だ。

 また、床に散らばっているものには男性用のモノも混じっている。レイアは後ろを振り向いて先程自分が眠っていた横にいる男性に視線を向ける。彼は布団にくるまっているが勿論服は着ていない。だって彼の下着が部屋の端に吹き飛んでいるのが見えているからだ。

 レイアがベッドから立ち上がってカーテンを開くと、朝日が遠慮なく室内に入り込んできた。ベッドのいる男性が激しく布団の中でもがき始める。

 「ん・・・あ・・・レイア・・・起きてたの?」

 その男はレイアの方に顔を向けると目を擦って日光を背にしているレイアを片目で見る。

 「丁度、ね。」

 レイアはベッドの横に置いている時計に目をやると、時刻は7時52分となっていた。

 「いけない、もうこんな時間!今日は朝からお話を伺いに行かなきゃいけないのに・・・」

 レイアは替えの下着とバスタオルを抱える。

 「オルター、シャワー借りるね!」

 「うん・・・いいよ・・・」

 オルターと呼ばれる男はレイアに眠そうな声で話すと、彼女は部屋のすぐそばにあるシャワー室へと入って行く。直ぐにシャワー室から水が流れる音が聞こえてくる。

 『・・・そろそろ起きないとな。』

 オルターは重い体を起こしてベッドから起き上がると、下着を真っ先に履く。首を左右に振って骨を鳴らすと、窓の方に顔を向ける。外には何処までも広がる青々とした海が広がっていた。

 その時、『ジリリリリ!』と部屋のベルが鳴った。オルターは急いでズボンを履いて薄い黒シャツを着ながら玄関へと向かう。

 『こんな朝から一体誰だ?』

 オルターが覗き込み口から見ると、ドアの向こうに1組の男女が立っていた。オルターはその男女を見た瞬間、『うっ!』と焦ってしまった。

 「セルシアおばさんにケルドおじさん!何でここに⁉」

 オルターは急いでドアを開けると、ドアの前にいたセルシアと呼ばれる勿忘草色の髪を団子状に纏めている顔に僅かな皴がある女性が話しかけてきた。

 「あら、オルターちゃん!久しぶりねぇ~!元気にしてた?」

 「は・・・はい・・・」

 「すっかり大きくなって・・・前会ったのはもう6年前だったかしら?いや~男前になったね~ホント。」

 「ありがとうございます・・・」

 オルターはセルシアに小さく返事をすると、横にいた黒髪で短髪の少し髭が生えた大柄の男性であるケルドが今度は話かけてきた。

 「でもなんでオルターがここに居るんだ?ここはレイアが今1人で寝泊まりしている部屋だって聞いてやって来たんだが・・・」

 「いや・・・あのぅ・・・」

 「オルター・・・まさかお前・・・」

 ケルドが目を細めてオルターに問い詰めようとすると、セルシアが割り込むように会話と室内に乱入してくる。

 「まぁまぁいいじゃない!そんな事よりも早く部屋に入らせてよ!」

 「おわっ!ちょ、ちょっとおばさん!」

 オルターは部屋にずかずかと入って行ったセルシアの後を追って室内に入って行く。ケルドは会話を切られた不満を表すように顔を曇らせながら室内に入るとドアをゆっくりと閉める。

 セルシアは先程までレイアとオルターが寝ていた寝室へと到着すると、室内を見渡して大きく息を吐いた。

 「はぁ~凄い散らかりようだね!これが本当に女子の部屋⁉」

 「・・・」

 「それに・・・これはオルターちゃんの服よね?あの子、こんな服着ないもの。」

 セルシアが足元にあった黒のジャケットを手に取る。・・・確かにそれは僕のだ。

 部屋に入ってきたケルドは机の傍へとゆっくりと歩き、彼女の机の上をじっと見つめていた。彼女はベッドの方に一瞬視線を向けて、その服を持ってオルターに近づくと若干ニヤつきながら彼にジャケットを手渡して話しかける。

 「・・・付き合ってるの?あの子と。」

 「・・・分かりますか?」

 「分かるわよ、そのぐらい。この部屋の様子・・・特にベッドの乱れ具合を見たら昨日の夜『ナニ』してたかなんて一発で分かっちゃうわよ。」

 「・・・」

 「オルターちゃんは小さい頃からあの子と一緒に過ごしてたからね~。昔は冗談で結婚するんじゃないか~って皆で言ってた時もあったけど・・・本気なの?」

 「・・・はい。今はまだ・・・お互い忙しいし、やりたいことがそれぞれあるので付き合っているだけですが・・・何時かは結婚したいと思っています。」

 「そっか・・・」

 セルシアが小さく微笑んで呟いたその時、シャワー室のドアが開いてレイアが部屋から出てきた。レイアは母親と父親が室内にいるのを視認すると驚いた。

 「えっ!お母さん⁉それにお父さんまで!何で部屋にいるの⁉」

 「丁度今観光に来ててね~。貴女が今ここで仕事をしてるって手紙に書いていたから立ち寄ってみたのよ~。そしたら良いものが見れたわ~。」

 「もう困るよ!来るときは事前に連絡してって何度も言ってるじゃない!」

 「そうだったかしら?」

 「そうだよ!・・・ていうか、お父さんも勝手に私の机を弄らないでよ!」

 レイアは机の前にいるケルドを払いのけるように手を振って彼を遠ざけると、シャツを着始める。

 着替えを進めていると、ケルドが話しかけてきた。セルシアとオルターは別の話で盛り上がっている。

 「レイア・・・今何をしているんだ?」

 「何って・・・別に。探偵の仕事してるだけだよ。」

 「危ないことに足を突っ込んでいないだろうな?さっきお前の手帳を見たが、何度も『コーラス・ブリッツ』という言葉が出てきたぞ。コーラス・ブリッツってテロリスト集団の名前じゃないか。何で奴らを追っている?」

 「・・・勝手に見ないでよ、お父さん。」

 レイアは灰色のパンツを履き、紺碧色のジャケットを羽織ると首元に水色の薄いマフラーをネクタイのように巻き付けて身だしなみを整える。直ぐに手帳と財布、そして黒鱗の鞭を手に取り入口に向かう。

 「それじゃ私今から仕事だから。お父さんとお母さんも気を付けて観光を楽しんでね。オルター、部屋から出たら鍵を閉めて受付の人に預けさせてて?」

 「ちょっと待ちなさいよ。折角来たのに・・・」

 「お母さん達が勝手に来ただけでしょ?話なら夜沢山聞くから・・・」

 レイアはそう言うと若干急ぎ足で部屋から出ていった。彼女が部屋から出ていった後、オルターは困ったように狼狽えた。

 「レイア・・・お前という奴は・・・」

 ケルドが困ったように顔を暗くすると、机の上に視線を向ける。
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