最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~船上での修行編 最終章~

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[行方不明]

 翌日、ロメリアはリミテッド・バースト制御訓練を再開した。彼女にはヴァスティーソとガーヴェラの2人がつきっきりで指導を行い、頻繁にフォルトも彼女の傍へと駆け付けていた。そのおかげで彼女は一度も暴走することなく、訓練を続けることが出来ていた。

 一方新しく訓練に加わったシャーロットもロメリアと一緒に制御訓練を行う。指導は主にガーヴェラが行っていたが、自分で制御できるようになったフォルトが基本彼女につきっきりで対応することでガーヴェラはロメリアの指導に専念することが出来ていた。

 先にリミテッド・バーストを扱えるようになったのはシャーロットで、完全に扱えるようになったのはその翌日の朝のことだった。因みにフォルトはロメリアが訓練を再開したその日の朝にリミテッド・バーストを意のままに操ることに成功していた。

 シャーロットの持っている魔術書の潜在能力名は《冥天紅月(めいてんこうげつ)》・・・能力はシャーロット曰くあまり使いたくないとのことらしい。

 ロメリアもその次の日の夕方・・・陽が沈もうとしていた頃にリミテッド・バーストをほぼ意のままに操ることが出来ていた。ヴァスティーソとガーヴェラはもうここまで習得できたのならもう暴走は起きないだろうと言い、ロメリアに制御訓練終了を告げた。その日の夜、ロメリアは死んだように眠っていた。・・・まぁ、訓練中はリミテッド・バースト習得の為に殆ど眠っていなかったので漸くぐっすりと床についてくれてフォルトは心底安心していた。

 そしてその翌日・・・ロメリアの暴走事件から4日が経った朝、外には雪が降っており、空と向こう側に見える港は白に染め上げられていた。フォルト達は朝食をとり、支度を整えると室内で待機をする。

 フォルトとロメリアが窓から近づいてくる港を見ているとケストレルが話しかけてきた。

 「フォルト、ロメリア。準備は済んだか?」

 「うん、完璧だよ。・・・ねぇ、奥に見えているのって・・・」

 「ロメスティルニア大陸の玄関港、『コールドーゼ港』だ。大陸唯一の不凍港で漁業が盛んな街だな。物資の輸送拠点としても非常に重要な場所で、観光地としても有名だ。」

 「唯一・・・ということは、冬場はこの港しか使えないの?」

 「その通り。この大陸にはもう2つ巨大な港があるんだが、海が凍っちまって船が入れねぇんだ。勿論、停泊させている船も動かせねぇから使いもんにならねぇんだよ。んで、基本冬場のそれらの港は物資の備蓄拠点として利用されんだ。」

 「へぇ~・・・」

 フォルトがそう息を漏らすと、ガーヴェラが室内に入ってきた。

 「お前達、甲板に上がれ。そろそろ港に着くぞ。」

 「了~解ッ!・・・んじゃあ皆~、そろそろ行くよ~。」

 ヴァスティーソが眠そうに欠伸をしながらソファから起き上がると、殆どない荷物を手に取って甲板へと向かう。フォルト、ロメリア、ケストレル、シャーロットの4人も一緒に甲板へと向かった。

 甲板へと到着すると、船は速力を落として港の中へと入っていた。船は無事に接岸すると架った橋の上を渡って大地へと足をつける。

 人や物資を載せた荷台が行き来する道以外には雪が足首程まで積もっていた。しかし港には多くの人々が行き来しており、活気で溢れていた。

 ロメリアは白い息を吐くと、両手でそれぞれの腕をさすって体を震わせる。

 「うぅ~寒いよ~!」

 「そりゃ、そんな格好してたら寒いだろ。ホットパンツに薄着のブラウス、そして薄い羽織だけだし・・・」

 「コートでも買っておくんだった・・・フォルトは寒くない?」

 「僕が着ている服はオールシーズン・・・どの季節でも対応できる服だから大丈夫だよ。・・・それでも寒いけど・・・」

 フォルトは周囲にいる仲間達を見渡した。基本的にロメリア以外は皆厚着をしていて、特にシャーロットは分厚いドレスを身に纏っているのだから一番暖かいと思う。実際あまり寒くなさそうな顔してるし。

 ヴァスティーソやケストレル、ガーヴェラも基本的にコートを着用していいるので寒そうな雰囲気はない。

 ロメリアが体を激しく動かして体温を上げていると、ヴァスティーソが両手を広げてロメリアに話しかける。

 「ロメリアちゃん!寒いのなら俺に飛び込んでおいで!全力で温めてあげるよ~!」

 「いい・・・いい・・・フォルトで温まるからいいよ・・・」

 ロメリアはそう言うとフォルトに抱きついた。フォルトはもう何度もロメリアに抱きつかれているので動じることは無くなっていた。

 「ああ~羨ましいなぁ~少年!ロメリアちゃんに抱きついてもらえるなんて羨ましいなぁ~!俺も抱きついちゃお~!」

 「ちょっと止めてよ!今私が温まってるんだから!」

 「いや・・・ロメリアも離れてよ・・・動き辛い・・・」

 フォルト達が何やら港で騒いでいる中、ガーヴェラとケストレルが溜息をつく。

 「はぁ・・・相変わらず緊張感の無い奴らだな。観光で来た訳じゃないんだぞ、全く・・・」

 「苦労するな。俺も、お前も。」

 ケストレルは周囲を見渡すとガーヴェラに話しかける。

 「なぁ、こっからどうするんだ?」

 「今から我々6人だけでウィンデルバーグへと向かう。」
 
 「迎えも何もいねぇのかよ?普通特使が来たら迎えに来るだろうが。」

 「普通なら・・・な。・・・だが如何やら向こうは相当機嫌が悪いようだぞ?迎えを寄こしたくないほど。」

 「歩いて行けと?この雪が積もっている中を?こっから何日かかると思ってんだ・・・」

 「今直ぐ馬車に乗れば明日の早朝には到着することが出来るな。」

 「それでも1日かかるのかよ・・・今、朝の8時だぞ?」

 「仕方が無いだろう。迎えを向こうが寄こさない以上、こちらから何とかして向こうに行くしかあるまい。行かなければ戦争が始まってしまうのだからな。」

 ガーヴェラはそう言って後ろで騒いでいるロメリアとヴァスティーソに声を上げる。2人は一瞬互いに睨み合うと、フォルトを挟んでガーヴェラの下へと近づいてくる。全員が集まると、ガーヴェラを先頭にして港の入口にある馬車乗り場へと向かう。

 乗り場へと向かう中度々吹く冷たい風に体を震わせていると、途中の道に1人の男性が大きな声で周りに呼びかけを行っていた。その声は震えていて、必死さが伝わってくる。

 「お願いします・・・お願いします!誰か・・・どなたか私の『娘』を見かけた人はいませんか!どんな些細な情報でも構いません・・・どうか・・・どうか情報提供をお願いします!」

 「行方不明者の捜索か・・・手伝ってあげたいのはやまやまだが・・・」

 「悪いが今は素通りするしかねぇな・・・大量の死人が出るかもしれない状況になっちまってるから・・・」

 ガーヴェラとケストレルは小声で申し訳なさそうに呟くと一行はその男性の横を通り過ぎる。男性が差し出してきたチラシをガーヴェラ達は下を向きながら無視する。フォルトが男性の目をちらりと横目で見ると今にも泣きだしそうな潤んだ目をしていた。

 その時、ロメリアが男性の差し出したチラシを手に取って話しかける。ガーヴェラ達は思わず足を止めた。

 「・・・大丈夫ですか、お父さん?こんな雪の降る日にそんな薄着じゃ風邪ひいちゃいますよ?」

 「大丈夫です・・・それよりも・・・娘を・・・娘を見かけませんでしたか?年齢は18歳で・・・『勿忘草色』の髪をしています・・・」

 「勿忘草色?」

 「それに・・・当時頭には花の髪飾りをつけていて・・・職業は探偵をしているんです・・・」

 ロメリアは男性のその言葉を聞いた瞬間、チラシを見つめた。フォルトも彼の言葉を聞くとロメリアの横へ行ってそのチラシを確認する。・・・彼の言った特徴に合致する女性に身に覚えがあったからだ。

 フォルトとロメリアはそのチラシに載っている絵を見た瞬間、思わず息を呑んだ。

 「ロメリア・・・この人って・・・」

 「・・・」

 チラシに描かれている絵の上には大きな黒文字でこう書かれていた。

 『行方不明者『レイア・ミストレル』 年齢18歳 身長159㎝ 勿忘草色の髪が特徴の女性です。』
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