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~船上での修行編 第5章~
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[理解]
「う・・・うぅん・・・」
ロメリアが薄っすらと目を覚ますと、視線の先には天井とランプの温かい光が目に入る。ランプは船の揺れによって左右にゆっくりと揺れていた。
ロメリアが周囲を渡すと誰もおらず、傍には自分が着ていた羽織がハンガーにかけられており、棍が壁に立てかけられていた。室内は自分の周り以外闇に包まれているので、寂しさが心の中を覆う。
「み・・・皆?ど・・・こ?」
ロメリアがゆっくりと体を起こすと、胸が一瞬『ズキンッ!』と張り裂けそうな痛みに襲われた。ロメリアは咄嗟に胸を押さえて、痛みに耐える。痛みは直ぐに治まったが額には大量の汗が流れていた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・・・・ふぅ・・・」
ロメリアが胸を優しく何度も摩っていると、廊下の方から大勢の声が聞こえてきた。複数の足音が徐々に大きくなってくる。
「ふぃ~!この船の料理人の料理は美味しくて良かったね~!随分前に乗った船の料理人は下手糞で唯一の楽しみであるご飯が全然楽しく無くて困ったものだったよ~!」
「オッサンはこんな状況でも相変わらずだな。」
「というケストレルだっていっぱい食べてたじゃ~ん?」
「まぁ・・・腹減ってたからな。後美味しかったし・・・」
「シャーロットちゃんはあんまり食べなかったね~?お腹減らないの?」
「は・・・はい・・・私・・・お腹があまり空いていなかったので・・・」
「でももうちょっと食べないと駄目だよ~?育ち盛りの大切な年頃なんだから食べないとおっぱい大きくならないよ~?」
「自然とセクハラ発言するんだな、このオッサン。」
「元々から大隊長はこんな人だ、気にしたら負けだぞ。寝言だと思って聞き流しておけよ、シャーロット。」
「分かりました・・・」
「ガーヴェラちゃん、中々酷いこと言うくない?俺ショッキングなう・・・」
ヴァスティーソ達の声が廊下と部屋を分け隔てる扉を挟んで聞こえてくる。だがフォルトの声は聞こえてこない。
ロメリアが扉の方に顔を向けていると、近づいてきていた足音が扉の前で止み、扉が開いた。暗闇を裂き、扉の奥から零れる光の背にしながらフォルトを先頭にして皆が室内に入ってきた。
「・・・!ロメリアッ!」
安堵の念が籠った声を上げたフォルトがロメリアの下へと駆け寄る。フォルトはロメリアの目の前にまで来ると彼女に勢いよく抱き着いた。ロメリアは思いっきり抱きつかれると、ゆっくりと両腕をフォルトの背中へと回して抱き締め返す。
フォルトは彼女の健康的な色に戻った顔を見ると嬉しそうに微笑んだ。
「良かった・・・一時期はどうなるものかと思ったけど・・・本当に・・・良かったぁ・・・」
「フォルト・・・」
フォルトが涙を流しながら彼女に再び抱きつくと、ヴァスティーソ達がロメリアのベッドの周りに集まる。
「いや~少年!ロメリアちゃんの目が覚めて良かったね~!」
「うん!」
「ずっと傍で手を握っていた甲斐があったな、フォルト。・・・全く、『弟』にあまり不安をかけるなよ、『お姉ちゃん』?」
「・・・ごめんなさい。」
ケストレルの言葉を受けて、ロメリアはフォルトの背中を優しく摩った。
「ごめんね・・・また迷惑かけちゃった・・・」
「グスッ・・・ホント、その通りだよ・・・勝手に機嫌悪くなっちゃうし、船を壊しかけるし、突然棍で殴りかかって来るし・・・いい年なんだから子供みたいに暴れないでよね。」
「・・・あはは。分かってるよ、フォルト。」
「本当に?笑ってるけど本当に分かってるの?」
「勿論だよ!私、しっかりと分かってるよ?」
「えぇ~・・・何か嘘くさいなぁ~。」
「ちょっとぉ!嘘くさいって何よ、嘘くさいって⁉」
ロメリアはフォルトの両頬を掴んで横に思いっきり引っ張った。フォルトは『止めてよ~!』と顔を左右に激しく揺らされながら悲鳴を上げる。
その様子を見ていたガーヴェラ達が微笑ましそうに息を吐く。
「ふぅ・・・取り合えず一安心、かな?」
「そうかもね~。それにしても、ちょっと困った姉弟だね~あの2人。一瞬でも目が離せないや。」
ヴァスティーソが呆れたように呟くと、シャーロットが魔術書を両手で胸に抱いて言葉を発する。
「でも・・・ロメリアが目を覚ましてくれてよかったです。フォルトも・・・嬉しそう・・・」
「だな。あいつの落ち込んだ顔なんて、俺見たくねぇからな。」
「ふん・・・優しいんだな?感動したよ。」
「ほっとけ、ガーヴェラ。」
ケストレルはガーヴェラにそう告げると、フォルト達を見つめる。フォルト達は相変わらず、じゃれ合っていた。
それからロメリアの下にお粥が運ばれて来て、彼女はそれをゆっくりと口にする。ロメリアがお粥を全て平らげると、制御訓練時の話題になった。
「・・・で、ロメリアは何処まで覚えてるの?」
「・・・あまり覚えて無い。心を無にしてたら・・・皆が殺されている光景が目の前に現れて・・・そして感情が上手く操れなくなって・・・気がついたら地面に倒れていて・・・皆が私を囲んでた・・・」
「暴走している時の記憶は無い訳・・・だな?」
ガーヴェラの言葉にロメリアははっきりと頷いた。ロメリアは両手を膝の上にのせて布団のシーツを握る。
「私・・・皆を巻き込みたくなかった・・・フォルトとシャーロット、ケストレルには・・・付いて来てほしくなかった・・・」
「・・・」
「怖かったの・・・私のせいで皆が犠牲になるんじゃないかって・・・昨日の夜から・・・ずっと考えてた。」
「だから・・・僕達と距離を取っていたんだね・・・」
ロメリアは小さく頷いた。
「フォルト達が付いて行くって言ってくれた時・・・私の心には嬉しさと申し訳ない気持ちが入り混じってた。・・・何であの時そんな気持ちが芽生えちゃったんだろうね、私。・・・素直に『ありがとう』って言えばよかったのに・・・」
「訓練に行く前にフォルトに会いに来たのは・・・その気持ちを伝える為だったのか?」
「うん・・・」
ロメリアはそう言うと、フォルトへと顔を向ける。
「フォルト・・・付いて来てくれてありがとうね。・・・後・・・昨日はごめん・・・」
「もういいよ、謝らなくて・・・ロメリアが悩んでたっていうのは僕達も分かってたから。それに、僕も昨日強引に付いて行くって言っちゃったの凄く反省してるから・・・もう少し優しく言えばよかったかなって・・・思ってたから・・・」
フォルトはそう言うと、右手で後頭部を掻いた。室内が静まり返り、まるでお通夜みたいな雰囲気になってしまった。
そんな中、ヴァスティーソが両手を軽く叩き、いつものテンションで皆に話しかけた。
「暗い暗い暗い!ちょっと皆暗いよ~!何この雰囲気?ジメジメしてるんですけど!」
「ヴァスティーソ・・・」
「で、ロメリアちゃんはこれからどーするつもり?リミテッド・バーストの制御訓練続けるの?続けないの?」
「私は・・・」
ロメリアが悩んでいると、ヴァスティーソははっきりと告げた。
「因みに『今』のままだと間違いなく『足手纏い』にしかならないよ?リミテッド・バーストの使えないロメリアちゃんはそこら辺にいる兵士と変わりは無いからね。」
ヴァスティーソの言葉に全員が俯いた。ヴァスティーソの冷たい言葉に反論したかったが、どうしても声が出せなかった・・・言ったとしても即座に反論されるのが目に見えているからだ。
「ロメリアちゃんは元々王族で・・・お姫様だったんだよね。下町で棍術を習っていたとはいえ所詮は護身術程度。俺やガーヴェラみたく敵を殺すことに特化した軍人でなければ、ケストレルのように元八重紅狼に所属していた傭兵でもない・・・シャーロットちゃんのように幼い頃から実戦用の魔術も嗜んでいないし、フォルトのように生きるか死ぬかの過酷な環境をたった1人で長年生き抜いてきた経験もない。・・・元々の経験値が皆とは全然違うんだよ。」
「・・・」
「俺だってこんな事ロメリアちゃんに言いたくないさ。・・・でもいざ戦闘が始まると敵は一切容赦してこない。女だろうが子供だろうが老人だろうが・・・関係なしに殺しにかかって来る。・・・だからはっきり言うんだ。『今』のロメリアちゃんには力が無いって。」
ロメリアはヴァスティーソの話を胸に響かせる。『今』の自分の実力不足を噛みしめながら・・・
暫くの沈黙の後、ロメリアは顔を上げてヴァスティーソに話しかける。
「・・・ヴァスティーソ。」
「何?」
「もし私がリミテッド・バーストを扱えるようになったら・・・皆を守れるかな?目の前に立ちはだかる敵を・・・倒せるかな?」
「・・・」
「お願い・・・正直に教えて・・・」
ヴァスティーソはロメリアの言葉を受けると、頬をやんわりと上げた。
「・・・いいよ。正直に教えてあげるよ。君がリミテッド・バーストを使えたらどうなるのか・・・」
「・・・」
「結論から言うと・・・」
ロメリアが唾を飲み込む。フォルト達も息を呑む。
「・・・問題なく『守れる』よ。少なくともロメリアちゃんの近くにいる人達は・・・死なずに済む。」
「・・・」
「リミテッド・バーストは非常に強力な力だ。扱えるようになれば『極一部』の人を除いて君の敵じゃなくなる。いくら相手が歴戦の強者だろうが、才能があろうが関係ない。そんな壁を粉砕して相手を沈黙させる技・・・それがリミテッド・バーストだ。」
ヴァスティーソがそう言うと、ロメリアは周りにいるフォルト達を見渡して彼に告げた。
「私・・・制御訓練を続けます!もっと・・・もっと強くなります!誰にも負けないぐらい・・・『昔の自分』にも・・・負けないぐらいに!」
「ロメリア・・・」
「これ以上・・・戦いの場で皆の足を引っ張りたくない。私が強くなれば・・・その分皆の力になれる!」
「・・・」
「だからお願い、ヴァスティーソ、ガーヴェラ・・・私に・・・リミテッド・バーストの制御法を教えて・・・私を・・・強くさせて・・・」
ロメリアの覚悟を聞いたヴァスティーソは彼女に尋ねる。
「本気かい?今度暴走したら・・・次こそ死んでしまうかもしれないんだよ?」
「覚悟の上だよ。それに・・・このまま何もしないなら『死んでいるのも同然』だから・・・」
ロメリアは真っ直ぐな瞳をヴァスティーソに向ける。覚悟の炎が宿った真剣な眼差しにヴァスティーソは嬉しそうに頬を吊り上げた。
「・・・分かった、ロメリアちゃん!そこまで言うのなら明日から港に着くまでの3日間、徹底的に教えてあげるよ~ん!時間が無いから少し荒っぽくなるけど・・・耐えきれるかな~?」
「大丈夫だよ!我慢するのは得意だから!」
「おっほっほ~!いい返事だ、ロメリアちゃん!元気な女の子は大好きだよ~!」
ヴァスティーソはそう言うと、手を差し伸べてロメリアと固い握手を交わす。その様子を見ていたフォルトとシャーロットは互いに囁き合った。
「・・・良かったですね。ロメリア、いつもみたいに明るくなって・・・」
「うん・・・やっぱりロメリアは・・・笑顔が似合うね。」
フォルトがロメリアに向かって微笑むと、シャーロットがフォルトの服を軽く引っ張った。
「・・・フォルト。」
「どうしたの、シャーロット?」
「あの・・・もし良かったら私に・・・リミテッド・バーストを・・・教えて・・・くれませんか?私の持っている魔術書も・・・『ジャッカルの武器』ですので・・・」
「いいけど・・・何で僕に?ヴァスティーソやガーヴェラに聞いた方が・・・」
フォルトはシャーロットの顔を見ながら話しかけていると、ある異変に気が付いた。シャーロットの頬が桃色に染まっていたのだった。シャーロットは顔をちらりとこちらに向けては直ぐに逸らし、またこちらに向ける。フォルトは何故かその仕草を見ていると胸が熱くなってくる感覚に襲われてきたが、特にその理由は分からなかった。
「・・・分かった。じゃあ明日からロメリアと一緒に訓練しようか。僕もまだ完璧に制御できていないから一緒に頑張ろう?」
「はい!」
シャーロットはフォルトに対して元気に返事をすると可愛らしい笑みを浮かべた。フォルトも彼女に対して笑みを返す。
窓の外には暗闇が広がっていたが、その真上には無数の星々が宝石のように輝いていた。
「う・・・うぅん・・・」
ロメリアが薄っすらと目を覚ますと、視線の先には天井とランプの温かい光が目に入る。ランプは船の揺れによって左右にゆっくりと揺れていた。
ロメリアが周囲を渡すと誰もおらず、傍には自分が着ていた羽織がハンガーにかけられており、棍が壁に立てかけられていた。室内は自分の周り以外闇に包まれているので、寂しさが心の中を覆う。
「み・・・皆?ど・・・こ?」
ロメリアがゆっくりと体を起こすと、胸が一瞬『ズキンッ!』と張り裂けそうな痛みに襲われた。ロメリアは咄嗟に胸を押さえて、痛みに耐える。痛みは直ぐに治まったが額には大量の汗が流れていた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・・・・ふぅ・・・」
ロメリアが胸を優しく何度も摩っていると、廊下の方から大勢の声が聞こえてきた。複数の足音が徐々に大きくなってくる。
「ふぃ~!この船の料理人の料理は美味しくて良かったね~!随分前に乗った船の料理人は下手糞で唯一の楽しみであるご飯が全然楽しく無くて困ったものだったよ~!」
「オッサンはこんな状況でも相変わらずだな。」
「というケストレルだっていっぱい食べてたじゃ~ん?」
「まぁ・・・腹減ってたからな。後美味しかったし・・・」
「シャーロットちゃんはあんまり食べなかったね~?お腹減らないの?」
「は・・・はい・・・私・・・お腹があまり空いていなかったので・・・」
「でももうちょっと食べないと駄目だよ~?育ち盛りの大切な年頃なんだから食べないとおっぱい大きくならないよ~?」
「自然とセクハラ発言するんだな、このオッサン。」
「元々から大隊長はこんな人だ、気にしたら負けだぞ。寝言だと思って聞き流しておけよ、シャーロット。」
「分かりました・・・」
「ガーヴェラちゃん、中々酷いこと言うくない?俺ショッキングなう・・・」
ヴァスティーソ達の声が廊下と部屋を分け隔てる扉を挟んで聞こえてくる。だがフォルトの声は聞こえてこない。
ロメリアが扉の方に顔を向けていると、近づいてきていた足音が扉の前で止み、扉が開いた。暗闇を裂き、扉の奥から零れる光の背にしながらフォルトを先頭にして皆が室内に入ってきた。
「・・・!ロメリアッ!」
安堵の念が籠った声を上げたフォルトがロメリアの下へと駆け寄る。フォルトはロメリアの目の前にまで来ると彼女に勢いよく抱き着いた。ロメリアは思いっきり抱きつかれると、ゆっくりと両腕をフォルトの背中へと回して抱き締め返す。
フォルトは彼女の健康的な色に戻った顔を見ると嬉しそうに微笑んだ。
「良かった・・・一時期はどうなるものかと思ったけど・・・本当に・・・良かったぁ・・・」
「フォルト・・・」
フォルトが涙を流しながら彼女に再び抱きつくと、ヴァスティーソ達がロメリアのベッドの周りに集まる。
「いや~少年!ロメリアちゃんの目が覚めて良かったね~!」
「うん!」
「ずっと傍で手を握っていた甲斐があったな、フォルト。・・・全く、『弟』にあまり不安をかけるなよ、『お姉ちゃん』?」
「・・・ごめんなさい。」
ケストレルの言葉を受けて、ロメリアはフォルトの背中を優しく摩った。
「ごめんね・・・また迷惑かけちゃった・・・」
「グスッ・・・ホント、その通りだよ・・・勝手に機嫌悪くなっちゃうし、船を壊しかけるし、突然棍で殴りかかって来るし・・・いい年なんだから子供みたいに暴れないでよね。」
「・・・あはは。分かってるよ、フォルト。」
「本当に?笑ってるけど本当に分かってるの?」
「勿論だよ!私、しっかりと分かってるよ?」
「えぇ~・・・何か嘘くさいなぁ~。」
「ちょっとぉ!嘘くさいって何よ、嘘くさいって⁉」
ロメリアはフォルトの両頬を掴んで横に思いっきり引っ張った。フォルトは『止めてよ~!』と顔を左右に激しく揺らされながら悲鳴を上げる。
その様子を見ていたガーヴェラ達が微笑ましそうに息を吐く。
「ふぅ・・・取り合えず一安心、かな?」
「そうかもね~。それにしても、ちょっと困った姉弟だね~あの2人。一瞬でも目が離せないや。」
ヴァスティーソが呆れたように呟くと、シャーロットが魔術書を両手で胸に抱いて言葉を発する。
「でも・・・ロメリアが目を覚ましてくれてよかったです。フォルトも・・・嬉しそう・・・」
「だな。あいつの落ち込んだ顔なんて、俺見たくねぇからな。」
「ふん・・・優しいんだな?感動したよ。」
「ほっとけ、ガーヴェラ。」
ケストレルはガーヴェラにそう告げると、フォルト達を見つめる。フォルト達は相変わらず、じゃれ合っていた。
それからロメリアの下にお粥が運ばれて来て、彼女はそれをゆっくりと口にする。ロメリアがお粥を全て平らげると、制御訓練時の話題になった。
「・・・で、ロメリアは何処まで覚えてるの?」
「・・・あまり覚えて無い。心を無にしてたら・・・皆が殺されている光景が目の前に現れて・・・そして感情が上手く操れなくなって・・・気がついたら地面に倒れていて・・・皆が私を囲んでた・・・」
「暴走している時の記憶は無い訳・・・だな?」
ガーヴェラの言葉にロメリアははっきりと頷いた。ロメリアは両手を膝の上にのせて布団のシーツを握る。
「私・・・皆を巻き込みたくなかった・・・フォルトとシャーロット、ケストレルには・・・付いて来てほしくなかった・・・」
「・・・」
「怖かったの・・・私のせいで皆が犠牲になるんじゃないかって・・・昨日の夜から・・・ずっと考えてた。」
「だから・・・僕達と距離を取っていたんだね・・・」
ロメリアは小さく頷いた。
「フォルト達が付いて行くって言ってくれた時・・・私の心には嬉しさと申し訳ない気持ちが入り混じってた。・・・何であの時そんな気持ちが芽生えちゃったんだろうね、私。・・・素直に『ありがとう』って言えばよかったのに・・・」
「訓練に行く前にフォルトに会いに来たのは・・・その気持ちを伝える為だったのか?」
「うん・・・」
ロメリアはそう言うと、フォルトへと顔を向ける。
「フォルト・・・付いて来てくれてありがとうね。・・・後・・・昨日はごめん・・・」
「もういいよ、謝らなくて・・・ロメリアが悩んでたっていうのは僕達も分かってたから。それに、僕も昨日強引に付いて行くって言っちゃったの凄く反省してるから・・・もう少し優しく言えばよかったかなって・・・思ってたから・・・」
フォルトはそう言うと、右手で後頭部を掻いた。室内が静まり返り、まるでお通夜みたいな雰囲気になってしまった。
そんな中、ヴァスティーソが両手を軽く叩き、いつものテンションで皆に話しかけた。
「暗い暗い暗い!ちょっと皆暗いよ~!何この雰囲気?ジメジメしてるんですけど!」
「ヴァスティーソ・・・」
「で、ロメリアちゃんはこれからどーするつもり?リミテッド・バーストの制御訓練続けるの?続けないの?」
「私は・・・」
ロメリアが悩んでいると、ヴァスティーソははっきりと告げた。
「因みに『今』のままだと間違いなく『足手纏い』にしかならないよ?リミテッド・バーストの使えないロメリアちゃんはそこら辺にいる兵士と変わりは無いからね。」
ヴァスティーソの言葉に全員が俯いた。ヴァスティーソの冷たい言葉に反論したかったが、どうしても声が出せなかった・・・言ったとしても即座に反論されるのが目に見えているからだ。
「ロメリアちゃんは元々王族で・・・お姫様だったんだよね。下町で棍術を習っていたとはいえ所詮は護身術程度。俺やガーヴェラみたく敵を殺すことに特化した軍人でなければ、ケストレルのように元八重紅狼に所属していた傭兵でもない・・・シャーロットちゃんのように幼い頃から実戦用の魔術も嗜んでいないし、フォルトのように生きるか死ぬかの過酷な環境をたった1人で長年生き抜いてきた経験もない。・・・元々の経験値が皆とは全然違うんだよ。」
「・・・」
「俺だってこんな事ロメリアちゃんに言いたくないさ。・・・でもいざ戦闘が始まると敵は一切容赦してこない。女だろうが子供だろうが老人だろうが・・・関係なしに殺しにかかって来る。・・・だからはっきり言うんだ。『今』のロメリアちゃんには力が無いって。」
ロメリアはヴァスティーソの話を胸に響かせる。『今』の自分の実力不足を噛みしめながら・・・
暫くの沈黙の後、ロメリアは顔を上げてヴァスティーソに話しかける。
「・・・ヴァスティーソ。」
「何?」
「もし私がリミテッド・バーストを扱えるようになったら・・・皆を守れるかな?目の前に立ちはだかる敵を・・・倒せるかな?」
「・・・」
「お願い・・・正直に教えて・・・」
ヴァスティーソはロメリアの言葉を受けると、頬をやんわりと上げた。
「・・・いいよ。正直に教えてあげるよ。君がリミテッド・バーストを使えたらどうなるのか・・・」
「・・・」
「結論から言うと・・・」
ロメリアが唾を飲み込む。フォルト達も息を呑む。
「・・・問題なく『守れる』よ。少なくともロメリアちゃんの近くにいる人達は・・・死なずに済む。」
「・・・」
「リミテッド・バーストは非常に強力な力だ。扱えるようになれば『極一部』の人を除いて君の敵じゃなくなる。いくら相手が歴戦の強者だろうが、才能があろうが関係ない。そんな壁を粉砕して相手を沈黙させる技・・・それがリミテッド・バーストだ。」
ヴァスティーソがそう言うと、ロメリアは周りにいるフォルト達を見渡して彼に告げた。
「私・・・制御訓練を続けます!もっと・・・もっと強くなります!誰にも負けないぐらい・・・『昔の自分』にも・・・負けないぐらいに!」
「ロメリア・・・」
「これ以上・・・戦いの場で皆の足を引っ張りたくない。私が強くなれば・・・その分皆の力になれる!」
「・・・」
「だからお願い、ヴァスティーソ、ガーヴェラ・・・私に・・・リミテッド・バーストの制御法を教えて・・・私を・・・強くさせて・・・」
ロメリアの覚悟を聞いたヴァスティーソは彼女に尋ねる。
「本気かい?今度暴走したら・・・次こそ死んでしまうかもしれないんだよ?」
「覚悟の上だよ。それに・・・このまま何もしないなら『死んでいるのも同然』だから・・・」
ロメリアは真っ直ぐな瞳をヴァスティーソに向ける。覚悟の炎が宿った真剣な眼差しにヴァスティーソは嬉しそうに頬を吊り上げた。
「・・・分かった、ロメリアちゃん!そこまで言うのなら明日から港に着くまでの3日間、徹底的に教えてあげるよ~ん!時間が無いから少し荒っぽくなるけど・・・耐えきれるかな~?」
「大丈夫だよ!我慢するのは得意だから!」
「おっほっほ~!いい返事だ、ロメリアちゃん!元気な女の子は大好きだよ~!」
ヴァスティーソはそう言うと、手を差し伸べてロメリアと固い握手を交わす。その様子を見ていたフォルトとシャーロットは互いに囁き合った。
「・・・良かったですね。ロメリア、いつもみたいに明るくなって・・・」
「うん・・・やっぱりロメリアは・・・笑顔が似合うね。」
フォルトがロメリアに向かって微笑むと、シャーロットがフォルトの服を軽く引っ張った。
「・・・フォルト。」
「どうしたの、シャーロット?」
「あの・・・もし良かったら私に・・・リミテッド・バーストを・・・教えて・・・くれませんか?私の持っている魔術書も・・・『ジャッカルの武器』ですので・・・」
「いいけど・・・何で僕に?ヴァスティーソやガーヴェラに聞いた方が・・・」
フォルトはシャーロットの顔を見ながら話しかけていると、ある異変に気が付いた。シャーロットの頬が桃色に染まっていたのだった。シャーロットは顔をちらりとこちらに向けては直ぐに逸らし、またこちらに向ける。フォルトは何故かその仕草を見ていると胸が熱くなってくる感覚に襲われてきたが、特にその理由は分からなかった。
「・・・分かった。じゃあ明日からロメリアと一緒に訓練しようか。僕もまだ完璧に制御できていないから一緒に頑張ろう?」
「はい!」
シャーロットはフォルトに対して元気に返事をすると可愛らしい笑みを浮かべた。フォルトも彼女に対して笑みを返す。
窓の外には暗闇が広がっていたが、その真上には無数の星々が宝石のように輝いていた。
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