最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~古都編 第19章~

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[『風雷神』と呼ばれた男]

 「あのオッサンが・・・歴代大隊長の中で最強だと?」

 ケストレルがルーストに話しかけると、ルーストはナターシャの背中を摩りながら頷く。会場には治療部隊が集結し、客達の介護をし始める。解毒薬の効果が表れてきたのか、皆の意識が次第に明瞭になっていき、少しずつ治療員に連れられて会場から去っていく。

 ルーストの反応にケストレルがまるで信じられないとばかり鼻で笑った。

 「いや・・・流石にそれは盛りすぎだろ?」

 「・・・どうしてあの人は歴代最強なんですか?」

 フォルトの言葉を受けると、ルーストはケストレルの方へと顔を向ける。近くにいるガーヴェラ達含む他の大隊長達は静かにルーストの方へと視線を向ける。

 「ケストレルさん・・・貴方は元八重紅狼でしたよね?」

 「・・・ああ。」

 「貴方が所属している時・・・当時の仲間達から聞かされたことはありませんか?・・・古都軍には『風雷神』と呼ばれる男がいると。」

 「・・・いいや、言われたことはないな。・・・奴らは知っていたかもしれねぇけど・・・それがどうした?その『風雷神』って言われてんのがあのオッサンなのか?」

 「はい。彼の戦い方はまるで暴風のように荒く、雷鳴の如き轟きを戦場に響かせることから私達の間でもそう言われています。・・・捕えたコーラス・ブリッツの者達の話からも彼がそう言われていることが確認できました。」

 「・・・ルーストさん、さっきも訪ねましたが・・・何で彼が歴代最強の大隊長なんですか?」

 「・・・彼が歴代大隊長の中で最も八重紅狼を撃破したからです。・・・その数は・・・4人。」

 「1人で八重紅狼の戦力を半分削ったってことか?」

 「凄い・・・」

 フォルト達が驚きで呆然としていると、ルーストがその時の話をし始める。

 「・・・今から30年前、この古都が八重紅狼4名・・・第五席から第八席に奇襲を受けた事件がありました。当時は私の父が王として指揮をとっていましたが殺害され、守護部隊、魔術部隊、航空部隊の大隊長3名に加え、多数の兵士、隊長格が戦死したのです。遠征部隊と海兵部隊の大隊長はその日古都から離れていて戦闘に参加することが出来ませんでした・・・」

 「・・・」

 「彼らの力は凄まじく、八重紅狼の末席であろうとも大隊長と同等・・・又はそれ以上の実力を持っていました。彼らは勇敢に戦いましたが・・・次々に散っていき・・・彼らは次期王となる私の前に立ちはだかりました。その時に心の中に沸いてきた死の恐怖は・・・今でも忘れられません・・・」

 ルーストはナターシャの背中を摩っていない方の手が僅かに震え始める。どうやら相当のトラウマがあるようだ。会場にいた客の搬送は終わったようで、会場にはフォルト達しかいなくなっていた。

 「・・・ですがその時、上官の命令を無視してまでまだ新米の親衛部隊だった兄のヴァスティーソが私の下へと助けに来てくれたんです。その時に見た兄の背中は私の心を覆っていた恐怖を取り払ってくれました。」

 ルーストの表情が先程とは一転して穏やかになる。

 「そして兄は八重紅狼4人と同時に戦闘を始めました。」

 「4人同時⁉1人でも相当強いのに・・・」

 「既に彼らも多少なりとも負傷はしていました。・・・戦闘を行うには問題ない程度ですけど。」

 「何でそんなに強いの?」

 「・・・兄には『適正』がありました。我が一族に代々伝わる『ジャッカルの刀』の適正が・・・そして刀の潜在能力も引き出すことが出来ていました。」

 「ジャッカルの・・・刀・・・」

 「刀身に茨の紋様が描かれている刀で、適性がある者が触れると刃が輝くんです。・・・もう1世紀以上輝くことは無く、私にも適正が無かったので兄が刀を持った時に刃が美しく輝きだした時は歓喜と羨望、嫉妬が入り混じった感情が芽生えちゃったんです。・・・今となっては嫉妬などの負の感情は無くなったんですけどね。」

 「・・・」

 「兄の持つ刀の能力は『風と雷を操り、斬撃範囲と移動速度を向上させる』というもので、その戦いっぷりはすさまじいものでした。誰も兄の速力に付いていくことが出来ず、1人・・・また1人と首を斬り飛ばしていきました。」

 「そして4人、皆殺しにした・・・」

 「はい。」

 「・・・見た目からは全然想像出来ねぇけど、とんでもねぇオッサンだな。」

 「八重紅狼は今までの歴史の中で何度も私達に襲撃をかけてきて、多くの者達が彼らと刃を交えましたが精々2人を撃破するのが精一杯でしたので・・・4人同時に撃破した兄は皆からより尊敬される人物へとなりました。・・・皆様から見たらだらしの無い人に見えるかもしれないですけど・・・皆兄の事を信頼しているんですよ?」

 ルーストはフォルトの方を向いて微笑んだ。

 その時、ヴァスティーソとイルストが消えた場所の空間が歪み、その歪みからヴァスティーソがフォルト達に背中を向けて現れた。イルストの姿は何処にも無い。

 ヴァスティーソはルースト達の方へと振り返ると、少し強張った顔からいつもの朗らかな顔に変わった。

 「ルースト!帰ってきたよ~!いや~思ったほどでも無かったね~あいつ。直ぐに勝負がついたぜ。・・・ところで皆、体の調子は大丈夫~?」

 「・・・問題ありません。お疲れ様だった、ヴァスティーソ大隊長。」

 ヴァスティーソはルースト達に得意げに鼻を鳴らすと、ナターシャの下へと近づく。ナターシャの涙は止まっていたが、目元を赤くしていた。

 ヴァスティーソは片膝を床につけてナターシャを下から見上げる。すると彼は優しくナターシャの頬を掌で触る。

 「・・・大丈夫か、ナターシャ?・・・もう大丈夫だぞ。悪い奴は俺がとっちめてやったから。」

 「グスッ・・・叔父様・・・」

 「だからほら、もう泣くな。折角の美人が台無しじゃねぇか。」

 ヴァスティーソはハンカチをポケットから出してナターシャに持たせると、彼女を優しく抱きしめた。ヴァスティーソは彼女を抱きしめて背中を優しく摩ると、ナターシャは静かに涙を流し始めた。

 会場にナターシャの声が静かに響く中、ヴァスティーソは穏やかな顔でナターシャを落ち着かせ続けた。
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