最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~古都編 第11章~

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 「フォルト、遅いね・・・ケストレルも帰って来ないし・・・大丈夫かな?」

 ロメリアはベッドに腰掛けて、部屋に設置されている時計に目を移した。中々帰ってくる気配のないフォルトとケストレルに対して心配する気持ちを抑えながら。

 シャーロットもロメリアの横に並ぶように座ると、魔術書を両手で抱えながら2人の帰りを待つ。

 「大丈夫ですよ・・・フォルトとケストレルなら・・・きっと無事に帰ってきますから・・・」

 「うん・・・」

 ロメリアが小さな声でシャーロットに呟いたその時だった。部屋のドアノブが回り、扉がゆっくりと開いた。

 ロメリアとシャーロットは思わずその場から立ち上がってドアの方に顔を向けた。

 「フォルト!ケストレル!おか・・・」

 ロメリアがてっきりフォルト達が帰ってきたと思い扉に向かって声をかけると、入ってきたのはガーヴェラだった。ガーヴェラは扉を閉めると部屋にいるロメリアとシャーロットに声をかけた。

 「2人共、無事帰って来ていたか!・・・フォルトは帰ってきていないのか?」

 「う、うん・・・まだ・・・」

 「ガーヴェラ・・・ケストレルは?」

 「あいつは他の連中に見つかってな。私達の目的を悟らせないように牢屋にぶち込んでいる。」

 「・・・別にケストレルが嫌いだからわざとやった・・・訳じゃないんだよね?」

 「・・・当たり前だろう?私は感情的に行動したりしない。」

 『でもスティームミストでは物凄く感情的にケストレルを殺そうとしていたような・・・』

 ロメリアが心の中で思わずツッコミを入れた・・・その直後。

 タンッ・・・

 テラスの方から何かが着地する音が聞こえ、3人が視線を向けるとそこには鎖鎌を持ったフォルトの姿があった。フォルトは鎖を引っ張って、何処かに引掛けている鎌を引き寄せる。

 「フォルト!」

 フォルトの無事を確認したロメリアはテラスへと走っていくと、テラスの扉を開けてフォルトに声をかける。

 「フォルト!無事に戻って来てくれて良かったよ~!大丈夫?何処か怪我はしてない?」

 「う、う、うん・・・大丈夫・・・」

 フォルトは激しく視線を左右に逸らしながら返事をする。何かに激しく動揺しているようで、頬が薄っすらと桃色に変わっていた。

 「どうしたの、フォルト?そんなに顔を赤らめちゃって・・・」

 「えっ⁉え、え、い、いいや!何でもない!ちょっと頭がぼ~としちゃって・・・熱でもあるのかなぁ⁉」

 フォルトが慌ててロメリアに返事を返すと、フォルトの頬が僅かに痙攣する。ロメリアはその一瞬の顔の変化を見逃さなかった。

 「・・・フォルト、今嘘ついたでしょ。」

 「なっ⁉う、う、嘘なんか・・・」

 「ほら今も。頬が痙攣してる。・・・何隠してるの?」

 「な、な、何も隠してなんか無いってば!・・・あ、ガーヴェラ!丁度いいとこにいた!」

 フォルトはガーヴェラを見つけると、ロメリアの横をさっと通って彼女の下へと向かう。ロメリアは顔をしかめながらフォルトを見つめ続ける。

 フォルトはガーヴェラの前に立つと彼女に話しかける。

 「ガーヴェラ!例の証拠、見つけたよ!」

 「本当か⁉よくやった、フォルト!・・・因みに誰だ?」

 フォルトはガーヴェラに裏切者のサインとハンコが押されている書類を手渡すと返事をする。ガーヴェラはそれらの書類に目を通しながらフォルトの言葉に耳を傾ける。

 「・・・第二親衛部隊隊長・・・ウィンブル・セラストファーです。・・・彼の部屋にあった机の底が2重底になっていて、その下にこれらのものがありました。」

 「ウィンブル・・・あいつが・・・」

 「ガーヴェラ・・・ウィンブルさんってどんな人なの?」

 「あいつは・・・大隊長の代わりに様々な仕事をこなす奴で・・・口数は少ないが、真面目な奴だ。部下からも慕われているし、実力もあるから私達大隊長も奴を信頼している。・・・だがこのような証拠が出てきてしまうとは・・・」

 ガーヴェラの書類を持つ手が震える。どうやらショックを受けているようだ。

 「どうするんですか、ガーヴェラ?彼を・・・拘束するんですか?」

 「・・・ああ。このような証拠が見つかった以上、見過ごすわけにはいかない。早々に拘束し、洗いざらい吐いてもらうさ。」

 ガーヴェラはシャーロットに返事をすると、書類を懐に直してフォルトの方に顔を向ける。

 「お疲れだったな、フォルト。昼食会まで1時間ちょっとかかるからそれまでくつろいでいてくれ。」

 ガーヴェラがフォルトに労いの言葉をかけて部屋から出ようとしたその瞬間、フォルトはガーヴェラを呼び止めた。

 「ガーヴェラ。実は疑問に思っていることがあるんだけど・・・」

 「何だ?」

 ガーヴェラが反応を示すと、フォルトは1枚の紙をガーヴェラに見せる。ガーヴェラはその紙を手に取って目を通す。

 「これは・・・先月の報告書だな。別に変った所がないようだが・・・これがどうかしたのか?」

 「・・・さっきの書類に書かれてあったサインとその紙のサイン・・・見比べてみて。」

 ガーヴェラは少し目を細めて、懐から再び書類を取り出すとサインを見比べた。何度も交互に視線を移したガーヴェラは更に目を細める。

 「・・・ん?このサインとこのサイン・・・微妙に違う?・・・違うな。確かに似せて書いてあるが・・・僅かに違う。」

 「やっぱりガーヴェラもそう思う?・・・僕もそのサインを見た時にふと思ったんだ。さっき渡した報告書のサインがウィンブルさんの『本当の』サインだとすれば、初めに渡した書類のサインは別の誰かが書いたんじゃないのかなって。・・・よく見たら字の癖を僅かに似せられていないし、何より筆圧が違っている。」

 「・・・報告書の方が正しいのならば、確かに違っているな。字が『薄すぎる』。これは奴の真似をしようとしてやったんだろう。それに奴自身の癖を完全に消しきれていない・・・僅かだが、こっちに書かれているサインは文字を締めくくる際、微妙に『払い』がついている。・・・ウィンブルの文字にはそのような癖は無い。」

 「じゃ、じゃあそのウィンブルって人はもしかしたら・・・」

 ロメリアの言葉にガーヴェラは小さく溜息をついた。

 「裏切者がウィンブルの名前を使って情報のやり取りをしていた可能性が出てきたな。そして奴の机が2重底になっていたのも・・・恐らくそいつの仕業だろう。私達の机には2重底の作りはされていないからな。」

 「・・・」

 「だがそうなると、本当の裏切者は誰なのかということになる・・・全員の筆跡を確認する必要があるな・・・」

 「どうする?また大隊長達の部屋に侵入する?」

 「いや・・・もう無理だろう。理由はともかく、ケストレルが立ち入り禁止区域に侵入したということがバレてしまったからな。警備が強化されてしまっている・・・侵入は不可能だ。」

 「ガーヴェラなら確認できるんじゃない?」

 「そうしたいところなのだが・・・今私達の間でも誰が裏切り者なのか互いに疑心暗鬼になっている状況でな。やっては見るが、厳しいとは思う。」

 「・・・だから僕達に頼んだんだね。」

 「そうだ。君達は疑われていないからな。・・・迷惑をかけた。」

 「ううん・・・大丈夫だよ。」

 フォルトがガーヴェラに言葉を返すと、室内が静まり返った。静かに時計が時を刻む音だけが室内に響く。

 その時、シャーロットの顔が急に部屋の扉の方へと向いた。シャーロットはそのままゆっくりとフォルトとガーヴェラの下へと近づいてそっと話しかける。

 「・・・扉の奥に・・・誰かいます・・・」

 シャーロットが囁くように言葉を発すると、ガーヴェラがそっと扉へと近づく。すると廊下を走っていく足音が聞こえ、ガーヴェラが咄嗟に扉を開けて確認する。

 「誰だっ⁉」

 だが廊下には人の気配は無く、ガーヴェラの声は無人の廊下に響いただけだった。

 「誰かいたな・・・話を聞かれたかっ!」

 ガーヴェラはフォルト達の方へと顔を向ける。

 「フォルト!ロメリア!シャーロット!お前達絶対に離れ離れになるなよ!常に一緒に行動するんだ!」

 ガーヴェラはそう言って部屋から飛び出していった。ドアが静かに閉じて、再び室内に静寂が訪れた。
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