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~古都編 第10章~

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[一難去ってまた・・・]

 「ふぅ・・・何とか・・・逃げれた・・・」

 フォルトはラグナロックが室内に入ってこようとした瞬間に窓から外に出て、壁に張り付いていた。鎖鎌を僅かな隙間に引掛けることによって何とか体を支えることが出来てはいたが、体を宙に浮いていて、真下には荒く尖った岩肌が広がっている。

 「落ちたら間違いなく死ぬね・・・慎重に行かないと・・・」

 フォルトは何とかつま先を僅かな凹みに乗せると、壁に引掛けていない鎖鎌を近くに凹みに引掛ける。貧困街にいた時の家の壁を伝って移動していた感覚を思い出しながら、反対側にある自分達の部屋のテラスに向かって移動を開始した。

 激しく吹きかかって来る風に手が凍え、体が震える。

 「うう~寒いっ!早くいかないと凍死しちゃいそう・・・」

 フォルトは少しずつ体の感覚が無くなっていくことに危機感を覚えると、よりペースを早くする。段々慣れてきて、壁を這って移動していたのが、少しジャンプしながら移動するようになっていた。

 「よしっ!段々慣れてきたぞ!この調子で行けば・・・」

 フォルトがそう思いながらジャンプをした・・・その時、

 ズルッ!

 「おわっ⁉」

 ジャンプした先で足を滑らせてしまい、体勢が崩れる。フォルトは咄嗟に鎖鎌を壁に突き刺して何とか落下するのを防ぐと、足場に足を乗せて息を整える。

 「はぁ・・・はぁ・・・危なかった・・・油断は禁物だね・・・」

 フォルトは冷えて感覚が無くなってきた手に息を吹きかけると、自室のテラスの方へと顔を向ける。距離は後半分と少し・・・それまで持つか分からなかった。

 すると、直ぐ近くに窓が僅かに開いている部屋があることに気が付いた。

 「・・・ちょっとだけ、休憩しようかな?手を温めてから一気にテラスまで移動しよう・・・」

 鎖鎌を壁に引掛けながら慎重に移動すると、室内の様子を確認して中へと入る。室内は今まで入った部屋とは比較にならない程豪華な造りとなっていて、暖炉には薪がくべられており、炎が燃え盛っていた。

 フォルトは窓をゆっくりと閉めると、暖炉の傍へ行き手を温める。少しずつ手の感覚が戻ってきて、体全体も温かくなっていく。

 「ほっ・・・温かい・・・」

 フォルトは室内を見渡す。

 「この部屋は・・・誰の部屋だろう?王様か・・・王女様の部屋かな?今までの部屋よりも何か豪華そうに見えるし・・・まぁどの部屋も立派なんだけど・・・」

 フォルトが両手を擦り合わせて、より両手を暖炉に近づける。両手の感覚は元の感覚に戻って来ていた。

 「・・・よしっ!それじゃあそろそろもど・・・」

 ガチャ・・・

 暖炉から離れようとした瞬間、突然ドアが開き始めた。フォルトは心臓が跳ね上がるような感覚を覚えると、頭の中で思考を回転させる。

 『まずいっ!もう窓から外で出るのは間に合わないっ!何処かに・・・何処かに隠れないとっ・・・』

 フォルトが周囲を一瞬で見渡すと、ベッドの下に隙間があるのが見えた。フォルトは咄嗟にベッドの下に潜り込むと息を殺した。

 ドアがゆっくり開くと、2人の人物が入ってきたのが確認できる。1人は男性で、もう1人は女性だろうか・・・2人が部屋に入ると扉に鍵を閉めた。

 『この部屋・・・防音対策でもしてるのか?さっきの大隊長室の時とは違って外からの音が全然聞こえなかった・・・』

 フォルトが息を殺してじっとしていると、彼らが言葉を交わし始めた。

 「ナターシャ・・・会議、お疲れ様。・・・まさかヴァスティーソ大隊長が来るなんて・・・あの人会議には滅多に来ない人だから驚いたよ・・・」

 「そうですわね。私もてっきりまたお酒を飲みすぎて会議に参加しないと思っておりましたから驚きましたわ。」

 ナターシャはそう言うと、ベッドに腰掛ける。

 「でも叔父様も会議の様子を見る限り、真剣に考えてくれているようですし・・・良かったですわ。」

 「・・・ナターシャはヴァスティーソ大隊長を信頼しているんだな?」

 「勿論ですわ。そう言うイルストは信頼していませんの?」

 『イルスト・・・確か親衛部隊隊長の1人だったっけ?・・・何でこんなにもナターシャ王女に敬語を使わず話しているんだ?』

 イルストはナターシャの横に座った。ベッドが少し沈み、圧迫感が増す。

 「・・・あの人は・・・何時も俺の話を無視するんだ。さっきの会議でも俺と言葉を交わすことは無く、ウィンブルにしか言葉をかけなかった。仕事の時も俺に分ける仕事はどうでもいいことばかり・・・ウィンブルにばっか大切な仕事を回しているんだ・・・あの人は俺のことが嫌いなんだよ。」

 「そんなことありませんわよ。もし本当に嫌いであるのなら、貴方を隊長に推薦したりしませんわよ。」

 「・・・」

 「叔父様はああ見えて非常に思慮深い人ですのよ?きっと何か訳があるに決まっていますわ。」

 「そうかな?」

 「ええ・・・きっとそうですわ・・・」

 ナターシャがそう呟くと、2人の足がより近づく。

 『この2人・・・普通の関係じゃないな。・・・まさか・・・』

 フォルトがベッドの下から2人の足を見つめながら盗み聞きしていると、イルストがナターシャに声をかける。

 「ねぇ、ナターシャ・・・」

 「ん?」

 「話変わるけどさ・・・この前の話・・・あれってどういう・・・」

 「ああ・・・その事ですわね。・・・そのままですわよ、イルスト・・・貴方・・・私と結婚する覚悟はありますの?」

 『⁉・・・まぁ、予想はしていたけど・・・本当にそういう関係だったなんて・・・』

 「・・・」

 「私は小さい頃・・・貴方と約束を交わしましたわよね?・・・覚えております?」
 
 「・・・勿論だよ。大人になったら・・・一緒にこの国を支えて行こう・・・だから俺は君を守る為に親衛部隊の隊長になって・・・君を守れるような強い男になる・・・」

 「そして私は・・・貴方が誇れるような女になると・・・皆から頼りにされるような女になると・・・」

 「そして君は・・・王女として皆から頼りにされる存在へとなった。今や君が女王になって不安に思う者なんて誰もいないよ。」

 「貴方も・・・最年少で親衛隊に入った上に隊長にまでなった・・・幼かった頃の言葉を実現させた・・・」

 「・・・」

 「もう一度・・・尋ねますわよ、イルスト?・・・貴女は私と・・・」

 ナターシャが言葉を発し始めたその時、突然イルストがナターシャの体をベッドの上に押し倒した。ベッドが激しく沈み、フォルトの体に圧し掛かる。

 『ぐっ!お・・・重いっ・・・いきなり何してるんだ⁉』

 フォルトが顔を横に向けていると、ベッドの上から白のコートが投げ捨てられる。真上から2人の声が聞こえてくる。

 「イルスト⁉い、今は駄目ですわっ!この後昼食会がっ・・・」

 「昼食会まで後1時間もあるよ?少しぐらいなら・・・十分体を清めて着替える時間は確保できる・・・既に風呂場にはお湯を溜めてあるし、着替えの用意もしてる・・・使用人達に会議の間に準備をさせておいたんだ。」

 「イルスト・・・」

 「でも・・・もしナターシャが本当に拒むのなら・・・直ぐに離れるけど・・・」

 イルストがそう囁くように言葉を発すると、暫くの静寂の後にナターシャが言葉を発した。

 「・・・本当に・・・後1時間・・・あるのですのよね?」

 「うん・・・」

 「なら・・・私の答えは・・・こうですわ。」

 すると突然ベッドが激しく軋み始め、何度もフォルトの上にベッドが沈んでくる。まるで上から布団を被せられて押し付けられているような感覚を覚えながら声を出さずに歯を食いしばって耐えていると、ベッドの上からドレスやシャツ、ズボンや下着が降ってきているのが確認できる。

 『ヤバい!ヤバいよぉ!大変なことになっちゃった!』

 真上から激しい息遣いとナターシャの喘ぎ声が聞こえてきて、状況はより悪化していく。今フォルトの上で何が行われているのか・・・容易に想像できる。

 『考えろ、考えろ、考えろっ!どうやったらこの部屋から脱出できるか・・・考えるんだ!』

 「あぁっ!・・・あぁっ!イルストっ!」

 「ナターシャ・・・もっと激しくいくよ・・・」

 『止めろ、馬鹿っ!僕が潰れて死ぬっ!2人が新たな命を宿す可能性よりも僕が圧死する可能性の方が高いんだよっ!』

 「あっ・・・あぁぁぁんッ!」

 『うぐぅッ!つ・・・潰れるっ!』

 フォルトはより強くなった圧力に本気で死の危険を感じ始めた。フォルトの懐に仕舞っていた鎖鎌が激しく光り始める。

 フォルトは息が苦しくなっていく中、咄嗟にある脱出法を思いついた。

 『もうっ・・・脱出するにはこれしか無い!このままだと・・・確実に殺される!』

 フォルトは鎖鎌を握りしめると、瞳が深紅色に染まった。その瞬間、室内が一瞬で目の前が見えない程の濃霧に包まれる。上で『行為』をしているナターシャとイルストも驚いたのか、動きが止まった。

 「な、何だこの霧は⁉」

 『今だッ!』

 フォルトはベッドの下から転がり出ると、直ぐに立ち上がって窓へと向かって窓を開ける。2人は周りの霧に困惑し、フォルトが窓を開けたことに気が付いていないようだ。

 フォルトは窓の外へと出ると、そっと窓を閉め、遠くの壁に鎖鎌を引掛けて振り子のように移動する。

 初めからこんな感じで移動すればよかったと心の中で思いつつ、さっきベッドの下で体験した出来事を元に上で何が行われていたか・・・僅かに霧の奥に見えた2人のシルエットも併せて想像してしまい、顔を赤らめてしまった。
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