最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~古都編 第5章~

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[ヴァスティーソ・シーゼ・ローゼルニルファーレ・ヨルガンド]

 「ヴァスティーソ親衛部隊大隊長・・・ようやく来ましたね?」

 ルーストは溜息交じりに呟くと、ヴァスティーソと呼ばれる男がヘラヘラしながらルーストとナターシャの傍へとやって来る。酔っぱらているのか足元がふらついていた。

 「ル~スト~・・・さっきびっくりしたぜぇ~?玉座の間に行ったら誰もいなくてさぁ~。部下に尋ねてみると皆会議室に行ったと言ってたからびっくりしたぜぇ~!ちゃんと言っておいてくれよな~?」

 「叔父様・・・ちゃんとお父様は昨日伝えましたわよ?・・・叔父様はその時、両手に女性を抱えてお酒を飲んでいましたけれど。」

 「あれ~そうだったけ~・・・覚えてねぇや。つうか頭いてぇ・・・飲みすぎた上に眠れてねぇし・・・」

 ヴァスティーソは頭を抱えながらゆっくりと空いている席へと座った。ヴァスティーソは席に座ると、部屋の端にいる記録員に声をかける。

 「ねぇ記録係さぁ~ん?議事録持ってきて~?」

 ヴァスティーソの言葉を受けた女性の記録員が先程までの全発言をまとめた記録用紙を持っていく。その女性がヴァスティーソに記録用紙を手渡そうとしたその時、ヴァスティーソは頬を緩ませて話しかける。

 「今日も可愛いねぇ~・・・おっぱい大きくなった?」

 バァンッ!

 女性は記録用紙を挟んだ板をヴァスティーソの頭に叩きつけた。周りにいるルーストや大隊長達が思わず笑いを堪える。

 「うおあっ、痛っ⁉」

 「ヴァスティーソ様?会議に遅れた癖に何調子に乗っていらっしゃるんですか?集中なさってください?」

 「・・・はい・・・すみませんでした・・・」

 女性はヴァスティーソを真冬の凍った湖のような眼差しで見下ろすと、席へと戻っていった。ヴァスティーソは頭を擦りつつ、議事録に目を通す。

 誰もが口を閉じ、ヴァスティーソが議事録を捲る音だけが会議室を走る。ヴァスティーソは議事録に目を通し終えると、机の上に議事録を放り投げて言葉を発した。

 「う~ん、大体の話は分かったよ~。・・・で?今皆裏切者探してんの?だから誰も口を開かないの?」

 「まぁ・・・そんな感じです。」

 イルストが呟くと、ヴァスティーソは一言も発することなくウィンブルに声をかける。

 「ねぇ、ウィンブル?誰が犯人だと思う?」

 「さぁ・・・その誓約書に押されている判子を押せる誰かというのしか分からないですね・・・」

 「てことは、俺達大隊長か、大隊長と同じ特権を持っている親衛部隊の隊長2人か、元老院のお偉いさん方・・・って訳だね~。・・・んま、こんなことはもう分かっているんだけれども。」

 ヴァスティーソが机の上に両足を上げて重ねていると、大臣の1人が声を上げる。

 「判子の使用履歴はどうだ⁉それを確認すれば誰が何時使ったのかが分か」

 「る訳ない無いでしょ?こんな裏でやっている事を正直に履歴に残す馬鹿はいねぇよ。」

 「では全員の行動履歴を」

 「覚えてるわけ無いでしょ?昨日の朝御飯何食ったかも覚えて無いのに・・・その誓約書が結ばれたのは、紙にも書いてあるけれども2か月前・・・誰もその時何をしたのか覚えてませんって。・・・というか、この判子押した奴が正直に『私がやりました』って言うと本気で思ってんの?」

 ヴァスティーソは大きく口を開けて欠伸をすると、両腕を前に組んで片目を瞑った。ヴァスティーソの生意気な態度に大臣達の感情が昂り、語気が荒くなる。

 「では一体どうやって裏切り者をあぶりだすというんだ⁉」

 「・・・裏切り者から直接名乗ってもらうしかないんじゃない?」

 「は?」

 「だってそれしかないでしょ。証拠も綺麗に残っていない・・・例えこんな紙を見つけたとしても誰が押したのか、その情報すら出てきていない。恐らく判子を押したのは名も知らぬ誰かさんだ。裏切者が直接押した訳じゃない・・・判子を貸しただけだ。・・・だよね、ガーヴェラちゃん?」

 「・・・ええ。判子を押した奴も分かりましたが、押したのは古都にいる浮浪者の男・・・ヴァスティーソ大隊長の言うように只の雇われた男でした。」
 
 「ではその男に自白剤を・・・」

 「その男は既に殺されています。今から2か月前・・・丁度その判子が押された日の翌日に川にて水死体で浮かんでいるのが発見されています。」

 「戸籍が曖昧な奴を利用して、捨てる。・・・確かに、ホームレスの奴らなら死んだとしても別に騒ぎにはならない。借金取りに追われたんだろう見たいな扱いで終わるからな。・・・賢いねぇ~。」

 ヴァスティーソは天井に顔を向けると、背もたれに体重をかけて椅子を動かし始める。ヴァスティーソは暫く椅子を揺らすと、気怠そうな声を上げる。

 「・・・という訳でさ、もう会議終わりで良いんじゃない?どうせもう何も進展ないでしょ?このままずっと席に座って裏切者を探すだなんてめんどくさ過ぎ~・・・はやく昼食会開こ~よ~。今回ガーヴェラちゃんが呼んだ人達が来てるんでしょ?ロメリア王女とヴァンパイアの女の子、ガーヴェラちゃんと同じジャッカルの末裔に元八重紅狼の男・・・早く挨拶しに行かないとなぁ~。特に、ロメリア王女とヴァンパイアの女の子・・・どんな子なんだろう?」

 会議場の雰囲気を粉砕するようなヴァスティーソの言葉に大臣達の頭に血管が浮き出てくる。

 「ヴァスティーソ・・・貴様という男はッ・・・」

 大臣が怒りを滲ませた声でヴァスティーソに話しかけた瞬間、ルーストが声を上げる。

 「確かに・・・ヴァスティーソ大隊長が言うようにこのままでは埒が明かない・・・一先ず、解散するとしましょうか?」

 「陛下・・・」

 「それに・・・食事をとって栄養を頭に回せば何か解決策が浮かぶかもしれませんからね。こういう時こそ、余裕を持って行動することが大切だと思います。」

 「いいねぇ~、ルースト!」

 「という訳で、これにて報告会議を終了したいと思う。皆、昼食会が開かれるまで自室で待機するか、会場で待機していてくれ。・・・あ、ヴァスティーソ大隊長とイルスト隊長、ウィンブル隊長はこの場に残ってくれ。」

 ルーストがそう言葉を発すると、間髪入れずにヴァスティーソが話しかける。

 「はぁ~⁉マジかよ、部屋で休ませてくれよ~⁉」

 「ヴァスティーソ大隊長?これは命令だ。」

 「・・・承知しました~。」

 ヴァスティーソが口を尖らせると、指定されたもの以外は席を立って会議室から外へと出ていった。会議室にはルースト、ナターシャ、ヴァスティーソ、イルスト、ウィンブルの5名だけが残った。

 彼らだけになると、ルーストは席を立って窓際へと歩き、ヴァスティーソに話しかける。

 「・・・『兄上』、先程の話だけど・・・」

 「『兄上』なんて呼ぶな。堅苦しい。」

 「・・・『兄さん』、さっきの話だけど・・・本当に犯人が分からないの?」
 
 「・・・」

 「兄さんのことだから本当は裏切者に関しては既にある程度目星をつけているんじゃないかなって・・・思ってるんだけど・・・」

 ルーストはヴァスティーソの方へと顔を向ける。ヴァスティーソは暫くルーストの目を真っ直ぐ見つめると、小さく鼻で笑った。

 「・・・ぷっ、あはははは・・・そんな訳ねぇだろ、ルースト?俺を超能力者かなんかと思ってんのか?」

 「兄さん・・・」

 「俺にも分かんねぇよ、裏切者が誰かなんて。見当もつかねぇ。」

 ヴァスティーソは席から立ち上がると、ルーストの傍へと向かった。ルーストの傍に立つと、ヴァスティーソは強気な笑みを浮かべる。

 「・・・んま、裏切者に関してはこっちで調査しとくわ。何か分かったらすぐに連絡するからのんびり過ごしていてくれ。」

 「のんびり・・・ねぇ?兄さんのせいでいっつものんびりできないのに。」

 「あはははッ!悪かったな。」

 ヴァスティーソが笑うと、ルーストも硬くなっていた頬を緩ませて笑みを浮かべる。2人は少し笑いを浮かべると、ルーストが話しかける。

 「・・・分かった。じゃあこの件は兄さんに任せるよ。・・・イルスト隊長とウィンブル隊長も・・・呼び止めてしまって申し訳ない。」

 ルーストはそう言うと、イルストの方を見つめる。

 「イルスト隊長、ナターシャを部屋まで送ってくれないか?」

 「分かりました。・・・ナターシャ様、行きましょうか?」

 「ええ・・・」

 ナターシャは席から立ち上がると、イルストと共に部屋から出ていった。少し体の距離が近かったことにルーストとヴァスティーソは不思議に思った。

 しかしルーストはその事には触れず、ヴァスティーソに話しかける。

 「じゃあ僕もこれで失礼するよ。・・・昼食会、忘れないでね?」

 「分かってるよ。ちゃんと行くさ。」

 ヴァスティーソはそうぶっきらぼうに告げると、ルーストも部屋から出ていった。会議室にはヴァスティーソとウィンブルだけとなった。

 2人だけになったのを確認したヴァスティーソはウィンブルに声をかける。

 「ウィンブル・・・お前に頼みたいことがある。」

 「・・・『また』ですか?・・・別にいいですけど。」

 「悪いな。」

 ヴァスティーソは懐に手を忍ばせると、1枚の紙を取り出してウィンブルに手渡した。

 「これに書かれてあるものを夕食会までに至急準備してくれ。」

 ウィンブルは手渡された紙に書いてあるものを見ると、眉をひそめて話しかける。

 「・・・なんでこんなものが必要なんですか?」

 「ちょっと、な。」

 理由を答えないヴァスティーソにウィンブルは不思議に思ったが、懐に紙をしまうと小さく答える。

 「・・・分かりました。貴方のことですからきっと何か訳があるのですよね?」

 「・・・」

 「用はこれで全てですか?」

 「ああ。」

 「では失礼します。・・・昼食会でまた会いましょう。」

 ウィンブルはヴァスティーソにお辞儀をすると、部屋から出ていった。

 「今夜は・・・『荒れるな』・・・」

 ヴァスティーソはぼそりと静まり返った会議室で呟いた。
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