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~古都編 第2章~
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[御対面]
「この扉の先に王様たちがいるんだよね?・・・胸が痛くなってきたよ・・・」
フォルトは城内に入り、正面にある大階段を上り切った先にある大きな扉の前に立つと、優しく胸を何度も撫でる。シャーロットとケストレルも少し緊張しているのか城に入ってから一言も発しなくなっていた。ロメリアも先程まで元気だったのに突然黙り込んでしまっているので少し不安になった。
ガーヴェラはフォルトの方に向くと、優しく声をかける。
「・・・では扉を開けるぞ。胸を張って歩けよ、フォルト。」
「わ、分かった・・・」
フォルトの自信のない小さな返事を聞くと、ガーヴェラは扉の前にいる衛兵に目で合図を送った。衛兵はそのまま黙って扉の前に出ると、ゆっくりとドアを開けた。『ゴォォォォ・・・』と低い音が城内に響き、玉座の間が視線に入る。
扉が完全に開くとガーヴェラは臆することなく玉座の間へと入って行く。フォルトも背筋をまっすぐ伸ばしてガーヴェラの後を付いていった。
玉座の間には大きな碧色のカーペットが敷かれており、そのカーペットの先には玉座が2つ存在していて、正面向かって左側に40代前半位の黒髪で短髪の豪華な衣装に身を包んだ男性が、右側にロメリアと同い年ぐらいと思われる金髪でティアラをつけた水色のドレスを身に付けた女性が座っていた。女性の髪はロメリアと同じぐらいの長さで唯一違う所と言えば毛先がロメリアの様に内側に向いているのではなく、ウェーブがかかっている所ぐらいだろう。後眼つきが若干ロメリアと比べて鋭い。
また玉座の前には数段の階段が存在しているのだが、その階段の下に白を基調とした襟が立ったコートを着用しており、内側にも白をベースとしたシャツにズボンを着用している6人の男がカーペットを挟むかのように立っていた。彼らが着ている服は兵士達が着ている服をより豪華にしたもので、恐らく隊長か大隊長クラスの人達であるとフォルトは直感で感じ取った。
ガーヴェラ達が階段の前に立つと、ガーヴェラは片膝をつく様にその場にしゃがむと頭を下げた。
「只今帰還しました、陛下。そして陛下のご要望通り、フォルト・サーフェリート含む旅の仲間達を呼んで参りした。」
ガーヴェラはそう告げると、フォルト達もその場にしゃがんで頭を下げる。陛下と呼ばれる男がフォルト達に声をかける。
「顔を上げよ、フォルトと旅の仲間達。わざわざ私に頭を下げる必要は無いぞ。」
「は・・・」
フォルトは王の言葉を受けてゆっくりとその場から立ち上がると、王を見つめる。王の目は非常に透き通っていて、非常に温和で優しそうなイメージを与えてくる。
フォルト達が立ちあがっても頭を下げたままのガーヴェラに対して、王の隣に座っていた王女が声をかける。
「ガーヴェラ、貴女も頭を御上げなさい。・・・何時まで頭を下げているつもりですの?」
王女の優しくも何処か威厳のある声を受けたガーヴェラは一言感謝を述べるとその場から立ち上がって、横に並んでいる白コートの男達の横に並んだ。カーペットの上にはフォルト、ロメリア、ケストレル、シャーロットの4人だけとなった。
王はフォルト達の顔をまじまじと見つめると、フォルト達に静かに話しかける。
「よくぞ参った、フォルト・サーフェリート・・・そしてその仲間達よ。私達は其方らを歓迎するぞ。」
「・・・ありがとう・・・ございます・・・」
フォルトが緊張で片言になりながら感謝の言葉を述べると、王は小さく微笑んで話を続ける。
「あっはっは・・・そんなに緊張せんで良いぞ?少し肩の力を抜いておくれ。私のことを『王』と思う必要は無い。1人の『友人』として思ってくれ。」
「は・・・はい・・・」
「お、そうだった。まだ自己紹介をしておらんかったな。・・・私の名前は『ルースト・シーゼ・ローゼルニルファーレ・ヨルガンド』だ。以後、宜しく頼むぞ。」
イーストが自己紹介を終えると、横に座っていた王女が自己紹介を始める。
「私の名前は『ナターシャ・シーゼ・ローゼルニルファーレ・ヨルガンド』ですわ。・・・貴女がロメリア王女ですわね?」
ナターシャが席から前のめりになってロメリアに声をかけると、ロメリアはナターシャに顔を向ける。ロメリアは少し戸惑っているようだった。
「は・・・はい、そうですナターシャ様・・・今後ともよろしくお願いします。」
「ロメリア、私のことは『ナターシャ』と呼び捨てで今後はお願いしますわね。貴女とは以前からお話をしてみたいとずっと思っていましたの。この後、私と沢山お話をして下さります?」
「え・・・ええ。勿論・・・」
「それは嬉しいですわ!是非とも面白い話を期待していますわよ!」
ナターシャは大変うれしそうに喜びの声を上げると、ロメリアは無理に笑顔を作って彼女の笑みに答えた。
ナターシャの自己紹介を終えると、ルーストが再び言葉を発し始める。
「さて・・・ではこの際にそなた達の横におる者達を紹介しておくとするかの。・・・まずはお主達から左側におる者から紹介していくぞ。階段に最も近い男がこの帝都の守護を主任務とする『守護部隊』の大隊長である『ロストル・バレンティン』だ。」
ロストルと呼ばれるまるで女性の様に長くウェーブのかかった髪を持つ男がフォルト達に小さく頭を下げる。ロストルのコートは他の人達とは違って茨の刺繍が施されていて、一番お洒落だった。
「その横にいるのがワイバーンを操り、制空権を確保したり偵察を行ったりする『航空部隊』の大隊長である『クローサー・ヤーグノフ』だ。」
クローサーと呼ばれる明るい茶髪で鶏のトサカのように尖った髪をしている男がフォルト達を睨みつけながら、軽く頭を下げる。男の目の下には若干隈が出来ており、シャーロットは怯えてしまってフォルトの後ろに隠れた。クローサーのコートは袖の部分が無く、筋骨隆々な腕を見せていた。
「そして最後列にいるのが、魔術を用いる『魔術部隊』の大隊長である『バリスト・ビショット』だ。」
「宜しくね、皆さん。」
バリストと呼ばれる紫色の短髪を持つ落ち着いた男性がフォルト達に優しく声をかけて、お辞儀をする。バリストのコートはローブの様にひらひらとしている。
「では次に右側の者達の紹介をしておこうか。・・・階段の近くにいるのが、輸送船の護衛や海上警護を主任務とする『海兵部隊』の大隊長である『ラグナロック・ドラグライカー』だ。」
ラグナロックと呼ばれる2m近くありそうな巨大な図体をしている白髪で髪を逆立てている男は腕を組んでフォルト達を横目で見ると、お辞儀をする事無く視線を逸らした。恐らく顔の皴の具合や雰囲気でこの中では最も年配であろうことが分かる。
「そしてその横にいるのが、私やナターシャといった王族の護衛を主任務とする『親衛部隊』の隊長である『イルスト・カルセッター』と『ウィンブル・セラストファー』だ。」
イルストと呼ばれる緑色の髪を持っている男性とウィンブルと思われる銀色で短髪の男性がフォルト達にお辞儀をする。2人共落ち着いた雰囲気をしている上に、服の上からでも日々体を鍛えているのが分かる。・・・まぁそれは全員に言えることだけれども。
しかしフォルトはこの時あることに気が付いた。
『あれ・・・親衛部隊だけ隊長を紹介?・・・大隊長はいないのかな?』
フォルトが疑問に思っていると、フォルトの考えを読んでいたかのようにルーストが話しかけてきた。
「親衛部隊の大隊長も紹介しようと思ったのだけども・・・彼は結構『変わり者』でね・・・今回君達が来るということで招集命令をかけたのだけれど、『行く』と言ってのこの様だ・・・代わりに隊長達を呼んでおいて正解だった。」
「叔父様・・・どうして貴方はいつも・・・」
ナターシャは呆れたように溜息をつくと、頭を抱えた。どうやら親衛部隊の大隊長は王族であるのと同時に癖の強い人物らしい。どうしてそんな人物を大隊長という役職に就けたのかは謎だが・・・
全員の紹介を終えると、ルーストはフォルト達に言葉をかける。
「では・・・今度は君達の名前を君達自身から聞きたいな。一応名前は聞かされてはいるが、君達から直接名乗ってくれることでより私達の仲も深まると思うんだ。」
ルーストがそう話すと、フォルトが初めに挨拶をする。
「・・・フォルトです。フォルト・サーフェリート・・・です。」
「フォルトか・・・古代ラステバルト語で『太陽』という意味・・・ジャッカルの血を引く者として相応しい名前だ。・・・こうしてまたジャッカルの血を引く者と共に話をすることが出来て光栄だ。」
「ありがとう・・・ございます・・・」
フォルトはルーストに取り合えずゆっくりと頭を下げると、彼は優しく微笑み、ロメリアへと顔を向ける。ロメリアはルーストと向かい合うと、今マンでの彼女からは感じられない程落ち着いた声で挨拶を述べ始めた。
「初めまして、ルースト陛下。私の名前はロメリア・サーフェリート・・・フォルトの姉で御座います。」
ロメリアは羽織を両手で優しくつまみ上げると、そっと膝を曲げてお辞儀をする。よくドレスを身に纏っている女性がする挨拶だ。フォルトも彼女のそんな落ち着いた雰囲気を見るのが初めてで大変驚いていたが、シャーロットとケストレルも信じられないとばかりに目を見開いて驚いていた。
「ロメリア・・・古代ラステバルト語で『可憐な花』・・・『太陽』に照らされて輝く『可憐な花』か・・・君達はお似合いの姉弟だね、ロメリアさん。」
ルーストは優しく微笑むと、言葉を続けた。
「貴女に関する話は知っている。・・・庶民と親しくなりすぎて勘当されてしまったようだね?」
「・・・はい。」
「全く・・・あの国は昔から変わらないね・・・未だに階級制度と差別意識が根強く残っている・・・貴女のような方が1人でも多く現れてくれたら古都と帝都の関係は良好になるのだけれども・・・彼らは庶民派の貴族や王族を徹底的に排除するから私達の考えと合わず、一向に関係が進展しないのだよ・・・」
「・・・」
「ああ、愚痴を漏らしてしまい申し訳ない。・・・ロメリアさん、貴女が帝都でご家族からどんな罵りを受けたのかは知りませんが、私達は貴女を歓迎しますよ。」
ロメリアはゆっくりと深く頭を下げると、、顔を上げた。彼女の顔は相変わらず暗く沈んでおり、元気が無かった。
続いてルーストはケストレルの方へと顔を向ける。
「ケストレル・アルヴェニア・・・です。・・・宜しくお願いします。」
「ケストレル・・・『勇猛な者』・・・中々勇ましい名前だね。・・・元八重紅狼のケストレルさん。」
「・・・どうも。」
「貴方のこともよく知っている。・・・以前は君に幾つもの遠征部隊を全滅させられたが・・・まさかこうやって直接目の前で話ができるとは思っていなかったよ。・・・まぁ、今後は共に仲良くやっていこうじゃないか。」
周りにいる大隊長と隊長達がケストレルを一気に睨みつける。まぁ目の前に敵対勢力の元幹部がいればこうなるのも無理はない。皆『どの面下げてここに居やがる』といった感じで憎しみのオーラを全力で放出している。
ルーストはシャーロットに顔を向ける。シャーロットは少しおどおどしながらも自己紹介を始める。
「は・・・は、初めまし・・・って!わ・・・私ッ・・・の名・・・前は・・・シャーロット・ドラキュリーナ・・・っです!」
「あはははは!そんなに緊張しなくてもいいぞ!ほら、落ち着いて深呼吸してご覧?」
「は・・・はい・・・ふぅぅぅぅ・・・」
シャーロットが深呼吸して落ち着くと、ルーストが話を続ける。
「シャーロット・・・『恋を抱く者』・・・おやおや、中々ロマンチックで魅惑的な名前だね。女の子らしい綺麗な名前だ。」
「あ・・・ありがとう・・・ございます・・・」
「君はヴァンパイア族ということだが・・・本当にヴァンパイアが存在していたとは私達は大変に驚いている。もしよろしかったら今日の昼食会や夕食会で君達の文化について聞かせてくれないか?」
「は・・・はいっ!」
シャーロットは深くお辞儀をすると、優しく彼女に対して笑みを浮かべる。全員の自己紹介が終わると、フォルトの方に顔を向けて言葉を発する。
「これで全員の挨拶が終了したようだね。ではこれからもっと君達について詳しい話を聞かせて頂きたいところなのだが・・・一先ずは解散ということにしようか。今から今回の汽車襲撃事件の報告会を行わなければいけないのでね。・・・その会議が終わったら、皆で昼食をとるとしよう。その時に、沢山旅の思い出を聞かせておくれ?」
「はい・・・」
「うん・・・それじゃあ皆、会議室へと移動しようか。フォルト、ロメリア、ケストレル、シャーロット・・・今から君達を来賓専用の宿泊部屋へと案内する。その部屋までは執事が案内するから彼の後に付いていってくれ。部屋についてからは関係者以外立ち入り禁止の場所以外、自由に城内を歩き回ってもらって構わない。・・・では、また昼食会で・・・」
ルーストはそう言うと、ナターシャと大隊長達を引き連れて会議室へと向かった。ガーヴェラも彼らの後に続いて会議室へと向かう。
だが突然ガーヴェラがフォルトの横を通った時、彼女はフォルトの右手に折りたたまれた小さな紙を手渡した。フォルトが驚いて彼女の方を振り向くと、彼女はフォルトの方に振り向くことなく玉座の間から出ていった。フォルトは小さな紙を手渡された右手を開いて紙に視線を向ける。
『何だこの紙・・・何が書かれているのだろう?』
フォルトは手渡された紙を懐へと仕舞うと、奥からやって来た執事と一緒に客室へと歩きだした。
「この扉の先に王様たちがいるんだよね?・・・胸が痛くなってきたよ・・・」
フォルトは城内に入り、正面にある大階段を上り切った先にある大きな扉の前に立つと、優しく胸を何度も撫でる。シャーロットとケストレルも少し緊張しているのか城に入ってから一言も発しなくなっていた。ロメリアも先程まで元気だったのに突然黙り込んでしまっているので少し不安になった。
ガーヴェラはフォルトの方に向くと、優しく声をかける。
「・・・では扉を開けるぞ。胸を張って歩けよ、フォルト。」
「わ、分かった・・・」
フォルトの自信のない小さな返事を聞くと、ガーヴェラは扉の前にいる衛兵に目で合図を送った。衛兵はそのまま黙って扉の前に出ると、ゆっくりとドアを開けた。『ゴォォォォ・・・』と低い音が城内に響き、玉座の間が視線に入る。
扉が完全に開くとガーヴェラは臆することなく玉座の間へと入って行く。フォルトも背筋をまっすぐ伸ばしてガーヴェラの後を付いていった。
玉座の間には大きな碧色のカーペットが敷かれており、そのカーペットの先には玉座が2つ存在していて、正面向かって左側に40代前半位の黒髪で短髪の豪華な衣装に身を包んだ男性が、右側にロメリアと同い年ぐらいと思われる金髪でティアラをつけた水色のドレスを身に付けた女性が座っていた。女性の髪はロメリアと同じぐらいの長さで唯一違う所と言えば毛先がロメリアの様に内側に向いているのではなく、ウェーブがかかっている所ぐらいだろう。後眼つきが若干ロメリアと比べて鋭い。
また玉座の前には数段の階段が存在しているのだが、その階段の下に白を基調とした襟が立ったコートを着用しており、内側にも白をベースとしたシャツにズボンを着用している6人の男がカーペットを挟むかのように立っていた。彼らが着ている服は兵士達が着ている服をより豪華にしたもので、恐らく隊長か大隊長クラスの人達であるとフォルトは直感で感じ取った。
ガーヴェラ達が階段の前に立つと、ガーヴェラは片膝をつく様にその場にしゃがむと頭を下げた。
「只今帰還しました、陛下。そして陛下のご要望通り、フォルト・サーフェリート含む旅の仲間達を呼んで参りした。」
ガーヴェラはそう告げると、フォルト達もその場にしゃがんで頭を下げる。陛下と呼ばれる男がフォルト達に声をかける。
「顔を上げよ、フォルトと旅の仲間達。わざわざ私に頭を下げる必要は無いぞ。」
「は・・・」
フォルトは王の言葉を受けてゆっくりとその場から立ち上がると、王を見つめる。王の目は非常に透き通っていて、非常に温和で優しそうなイメージを与えてくる。
フォルト達が立ちあがっても頭を下げたままのガーヴェラに対して、王の隣に座っていた王女が声をかける。
「ガーヴェラ、貴女も頭を御上げなさい。・・・何時まで頭を下げているつもりですの?」
王女の優しくも何処か威厳のある声を受けたガーヴェラは一言感謝を述べるとその場から立ち上がって、横に並んでいる白コートの男達の横に並んだ。カーペットの上にはフォルト、ロメリア、ケストレル、シャーロットの4人だけとなった。
王はフォルト達の顔をまじまじと見つめると、フォルト達に静かに話しかける。
「よくぞ参った、フォルト・サーフェリート・・・そしてその仲間達よ。私達は其方らを歓迎するぞ。」
「・・・ありがとう・・・ございます・・・」
フォルトが緊張で片言になりながら感謝の言葉を述べると、王は小さく微笑んで話を続ける。
「あっはっは・・・そんなに緊張せんで良いぞ?少し肩の力を抜いておくれ。私のことを『王』と思う必要は無い。1人の『友人』として思ってくれ。」
「は・・・はい・・・」
「お、そうだった。まだ自己紹介をしておらんかったな。・・・私の名前は『ルースト・シーゼ・ローゼルニルファーレ・ヨルガンド』だ。以後、宜しく頼むぞ。」
イーストが自己紹介を終えると、横に座っていた王女が自己紹介を始める。
「私の名前は『ナターシャ・シーゼ・ローゼルニルファーレ・ヨルガンド』ですわ。・・・貴女がロメリア王女ですわね?」
ナターシャが席から前のめりになってロメリアに声をかけると、ロメリアはナターシャに顔を向ける。ロメリアは少し戸惑っているようだった。
「は・・・はい、そうですナターシャ様・・・今後ともよろしくお願いします。」
「ロメリア、私のことは『ナターシャ』と呼び捨てで今後はお願いしますわね。貴女とは以前からお話をしてみたいとずっと思っていましたの。この後、私と沢山お話をして下さります?」
「え・・・ええ。勿論・・・」
「それは嬉しいですわ!是非とも面白い話を期待していますわよ!」
ナターシャは大変うれしそうに喜びの声を上げると、ロメリアは無理に笑顔を作って彼女の笑みに答えた。
ナターシャの自己紹介を終えると、ルーストが再び言葉を発し始める。
「さて・・・ではこの際にそなた達の横におる者達を紹介しておくとするかの。・・・まずはお主達から左側におる者から紹介していくぞ。階段に最も近い男がこの帝都の守護を主任務とする『守護部隊』の大隊長である『ロストル・バレンティン』だ。」
ロストルと呼ばれるまるで女性の様に長くウェーブのかかった髪を持つ男がフォルト達に小さく頭を下げる。ロストルのコートは他の人達とは違って茨の刺繍が施されていて、一番お洒落だった。
「その横にいるのがワイバーンを操り、制空権を確保したり偵察を行ったりする『航空部隊』の大隊長である『クローサー・ヤーグノフ』だ。」
クローサーと呼ばれる明るい茶髪で鶏のトサカのように尖った髪をしている男がフォルト達を睨みつけながら、軽く頭を下げる。男の目の下には若干隈が出来ており、シャーロットは怯えてしまってフォルトの後ろに隠れた。クローサーのコートは袖の部分が無く、筋骨隆々な腕を見せていた。
「そして最後列にいるのが、魔術を用いる『魔術部隊』の大隊長である『バリスト・ビショット』だ。」
「宜しくね、皆さん。」
バリストと呼ばれる紫色の短髪を持つ落ち着いた男性がフォルト達に優しく声をかけて、お辞儀をする。バリストのコートはローブの様にひらひらとしている。
「では次に右側の者達の紹介をしておこうか。・・・階段の近くにいるのが、輸送船の護衛や海上警護を主任務とする『海兵部隊』の大隊長である『ラグナロック・ドラグライカー』だ。」
ラグナロックと呼ばれる2m近くありそうな巨大な図体をしている白髪で髪を逆立てている男は腕を組んでフォルト達を横目で見ると、お辞儀をする事無く視線を逸らした。恐らく顔の皴の具合や雰囲気でこの中では最も年配であろうことが分かる。
「そしてその横にいるのが、私やナターシャといった王族の護衛を主任務とする『親衛部隊』の隊長である『イルスト・カルセッター』と『ウィンブル・セラストファー』だ。」
イルストと呼ばれる緑色の髪を持っている男性とウィンブルと思われる銀色で短髪の男性がフォルト達にお辞儀をする。2人共落ち着いた雰囲気をしている上に、服の上からでも日々体を鍛えているのが分かる。・・・まぁそれは全員に言えることだけれども。
しかしフォルトはこの時あることに気が付いた。
『あれ・・・親衛部隊だけ隊長を紹介?・・・大隊長はいないのかな?』
フォルトが疑問に思っていると、フォルトの考えを読んでいたかのようにルーストが話しかけてきた。
「親衛部隊の大隊長も紹介しようと思ったのだけども・・・彼は結構『変わり者』でね・・・今回君達が来るということで招集命令をかけたのだけれど、『行く』と言ってのこの様だ・・・代わりに隊長達を呼んでおいて正解だった。」
「叔父様・・・どうして貴方はいつも・・・」
ナターシャは呆れたように溜息をつくと、頭を抱えた。どうやら親衛部隊の大隊長は王族であるのと同時に癖の強い人物らしい。どうしてそんな人物を大隊長という役職に就けたのかは謎だが・・・
全員の紹介を終えると、ルーストはフォルト達に言葉をかける。
「では・・・今度は君達の名前を君達自身から聞きたいな。一応名前は聞かされてはいるが、君達から直接名乗ってくれることでより私達の仲も深まると思うんだ。」
ルーストがそう話すと、フォルトが初めに挨拶をする。
「・・・フォルトです。フォルト・サーフェリート・・・です。」
「フォルトか・・・古代ラステバルト語で『太陽』という意味・・・ジャッカルの血を引く者として相応しい名前だ。・・・こうしてまたジャッカルの血を引く者と共に話をすることが出来て光栄だ。」
「ありがとう・・・ございます・・・」
フォルトはルーストに取り合えずゆっくりと頭を下げると、彼は優しく微笑み、ロメリアへと顔を向ける。ロメリアはルーストと向かい合うと、今マンでの彼女からは感じられない程落ち着いた声で挨拶を述べ始めた。
「初めまして、ルースト陛下。私の名前はロメリア・サーフェリート・・・フォルトの姉で御座います。」
ロメリアは羽織を両手で優しくつまみ上げると、そっと膝を曲げてお辞儀をする。よくドレスを身に纏っている女性がする挨拶だ。フォルトも彼女のそんな落ち着いた雰囲気を見るのが初めてで大変驚いていたが、シャーロットとケストレルも信じられないとばかりに目を見開いて驚いていた。
「ロメリア・・・古代ラステバルト語で『可憐な花』・・・『太陽』に照らされて輝く『可憐な花』か・・・君達はお似合いの姉弟だね、ロメリアさん。」
ルーストは優しく微笑むと、言葉を続けた。
「貴女に関する話は知っている。・・・庶民と親しくなりすぎて勘当されてしまったようだね?」
「・・・はい。」
「全く・・・あの国は昔から変わらないね・・・未だに階級制度と差別意識が根強く残っている・・・貴女のような方が1人でも多く現れてくれたら古都と帝都の関係は良好になるのだけれども・・・彼らは庶民派の貴族や王族を徹底的に排除するから私達の考えと合わず、一向に関係が進展しないのだよ・・・」
「・・・」
「ああ、愚痴を漏らしてしまい申し訳ない。・・・ロメリアさん、貴女が帝都でご家族からどんな罵りを受けたのかは知りませんが、私達は貴女を歓迎しますよ。」
ロメリアはゆっくりと深く頭を下げると、、顔を上げた。彼女の顔は相変わらず暗く沈んでおり、元気が無かった。
続いてルーストはケストレルの方へと顔を向ける。
「ケストレル・アルヴェニア・・・です。・・・宜しくお願いします。」
「ケストレル・・・『勇猛な者』・・・中々勇ましい名前だね。・・・元八重紅狼のケストレルさん。」
「・・・どうも。」
「貴方のこともよく知っている。・・・以前は君に幾つもの遠征部隊を全滅させられたが・・・まさかこうやって直接目の前で話ができるとは思っていなかったよ。・・・まぁ、今後は共に仲良くやっていこうじゃないか。」
周りにいる大隊長と隊長達がケストレルを一気に睨みつける。まぁ目の前に敵対勢力の元幹部がいればこうなるのも無理はない。皆『どの面下げてここに居やがる』といった感じで憎しみのオーラを全力で放出している。
ルーストはシャーロットに顔を向ける。シャーロットは少しおどおどしながらも自己紹介を始める。
「は・・・は、初めまし・・・って!わ・・・私ッ・・・の名・・・前は・・・シャーロット・ドラキュリーナ・・・っです!」
「あはははは!そんなに緊張しなくてもいいぞ!ほら、落ち着いて深呼吸してご覧?」
「は・・・はい・・・ふぅぅぅぅ・・・」
シャーロットが深呼吸して落ち着くと、ルーストが話を続ける。
「シャーロット・・・『恋を抱く者』・・・おやおや、中々ロマンチックで魅惑的な名前だね。女の子らしい綺麗な名前だ。」
「あ・・・ありがとう・・・ございます・・・」
「君はヴァンパイア族ということだが・・・本当にヴァンパイアが存在していたとは私達は大変に驚いている。もしよろしかったら今日の昼食会や夕食会で君達の文化について聞かせてくれないか?」
「は・・・はいっ!」
シャーロットは深くお辞儀をすると、優しく彼女に対して笑みを浮かべる。全員の自己紹介が終わると、フォルトの方に顔を向けて言葉を発する。
「これで全員の挨拶が終了したようだね。ではこれからもっと君達について詳しい話を聞かせて頂きたいところなのだが・・・一先ずは解散ということにしようか。今から今回の汽車襲撃事件の報告会を行わなければいけないのでね。・・・その会議が終わったら、皆で昼食をとるとしよう。その時に、沢山旅の思い出を聞かせておくれ?」
「はい・・・」
「うん・・・それじゃあ皆、会議室へと移動しようか。フォルト、ロメリア、ケストレル、シャーロット・・・今から君達を来賓専用の宿泊部屋へと案内する。その部屋までは執事が案内するから彼の後に付いていってくれ。部屋についてからは関係者以外立ち入り禁止の場所以外、自由に城内を歩き回ってもらって構わない。・・・では、また昼食会で・・・」
ルーストはそう言うと、ナターシャと大隊長達を引き連れて会議室へと向かった。ガーヴェラも彼らの後に続いて会議室へと向かう。
だが突然ガーヴェラがフォルトの横を通った時、彼女はフォルトの右手に折りたたまれた小さな紙を手渡した。フォルトが驚いて彼女の方を振り向くと、彼女はフォルトの方に振り向くことなく玉座の間から出ていった。フォルトは小さな紙を手渡された右手を開いて紙に視線を向ける。
『何だこの紙・・・何が書かれているのだろう?』
フォルトは手渡された紙を懐へと仕舞うと、奥からやって来た執事と一緒に客室へと歩きだした。
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