最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~大陸横断汽車編 第15章~

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[嘲笑]

 「・・・帰ってきたか。」

 先頭車両から3番目の車両中央に立っている赤髪の男が台車を押して入ってきた乗務員の男に背中を向けながら呟いた。乗務員の男は台車の扉を開けると中からロメリアが入った黒い袋を床へと放り出して、中からロメリアを取り出した。

 ロメリアの意識は薄っすらと戻っているのか目が僅かに開いている。赤髪の男は傍にいる部下に首を捻って合図を送ると、事前に用意されていた氷水をロメリアにかけた。

 「ううっ!」

 ロメリアは全身ずぶ濡れになると、薄く開いていた目がぱっちりと開き完全に目を覚ました。全身濡れている為、服が僅かに透けている。

 赤髪の男は寒さによって口元を震わせているロメリアの前に行くと膝を曲げてロメリアの顔を覗き込むように姿勢を低くする。同じ車両にいるフードの男は壁にもたれ掛かって両腕を前に組んだまま、ロメリアと赤髪の男を見つめる。

 「おはようございます、ロメリア王女?」

 「・・・」

 ロメリアは髪から水を滴らせながら赤髪の男を睨みつける。男は一切怖気つかないロメリアを見て挑発するように頬を吊り上げる。

 「ふんっ、やっぱり貴女は変わらないな。貧民街で会った時から変わらない・・・その堂々とした目・・・抉りだしたいぐらい憎いね。」

 「貴女・・・もしかしてあの時の・・・」

 ロメリアが思い出したかのように目を大きくすると赤髪の男は大げさに両腕を広げて大声で話しかける。

 「そう!あの時貧民街で貴女に親父と一緒に寝てくれと言った男だよ!ようやく思い出してくれてとても嬉しいよ!」

 「・・・」

 「そう言えば自己紹介はまだだったな・・・俺の名前は『ダリル・ファウスト』・・・以後お見知りおきを?ロメリア・フィル・シュトルセン・フォルエンシュテュール様?」

 ロメリアはダリルからその名前を聞いた瞬間、目を鋭くし、語気を強めて言葉を放った。この時のロメリアの目は憎悪を宿らせたというよりも、汚物を見るような蔑んだ目をしていた。

 「その名前で呼ばないで。というか、それは『私』じゃない。・・・私の名前は『ロメリア・サーフェリート』だよ・・・『ならず者』。」

 「ロメリアさん、私の名前は『ならず者』じゃない・・・ダリルだ。」

 「どっちも一緒じゃない。・・・それとも『ロクデナシ』の方が貴方には良かった?」

 ロメリアが嘲笑うかのように話しかけると、ダリルは血相を変えてロメリアの髪を掴んで上に引っ張った。ロメリアの顔が苦痛に歪み紺碧色のカチューシャが床へと落ちるが、直ぐにダリルを睨みつける。

 「言葉に気を付けろよ、女。その気になったらいつでもこの部屋にいる男達全員でお前を犯すことだってできるんだからな?」

 「やってごらんよ!そんなことしたって私は屈しないから!」

 ロメリアの強気な態度にダリルは鼻で小さく笑い飛ばした。

 「気の強い女は大抵同じことを言う・・・だが経った数日で1人残らず『堕ちて行った』。1人残らずな。・・・貴女はどんな可愛い声を上げて堕ちて行くのかな?」

 ダリルがロメリアに顔を近づける。ロメリアが顔を後ろに引いて迫りくるダリルの顔を避ける。

 すると突然後方の車両からダリルの部下が必死の形相で報告を行いに来た。

 「ダリルさん!奴らに7両目を制圧された!現在6両目の奴らと戦闘中!」

 「・・・来たか。」

 フードの男が壁から背中を離すと周りにいた部下達に指示を出す。

 「各自戦闘態勢に移行、迎撃準備を整えろ。5両目にいる奴らを4両目に退避させ、それ以外の車両にいる奴は今いる車両を死守しろと伝えろ。」

 「了解です。」

 フードの男は先程報告しに来たダリルの部下に質問を投げかける。

 「誰が攻めてきた?」

 「・・・蒼髪の子供に、元八重紅狼の男、遠征部隊大隊長の女の計3人だ。」

 「それ以外の増援の可能性は?」

 「無いと・・・思う。9両目の車両を爆破したからそれより後ろにいる奴らは暫くこれねぇ。」

 その男の言葉を聞くとフードの男はダリルに顔を向けた。ダリルは小さく頷くとロメリアのブラウスと羽織を掴んで無理やり立ち上がらせる。

 「さて・・・あのガキが俺達を殺しに来るようだが・・・今度はそうはさせねぇ。・・・王女様、あんたには奴を殺す手伝いをしてもらう。」
 
 ダリルは力づくでロメリアを車両前方に連れて行くと、ゆっくりと天井の一部分が下がってくる。ダリルとロメリアが降りてきた天井に乗ると再び天井は上昇し始めた。
 
 ダリルがフードの男に呼びかける。

 「それじゃあフードの旦那。作戦通りに頼むぜ?」

 「・・・」

 フードの男は一切返事をすることなく、ダリルとロメリアを見送った。天井が完全に上がり切ると、フードの男は溜息をつきながら後方車両の方へと体を向ける。

 「・・・役立たずの分際で偉そうに・・・だから組織から弾かれるのだろうな。」

 フードの男が呟くと、同じ車両にいたダリルの部下達が男に接近し始める。
 
 「あぁ?おい手前・・・今兄貴に事なんて言った。」
 
 「お前達に言う義理は無い。どうせ言った所で言葉をまともに理解できる程の知能はなさそうだからな。」

 「んだと手前!」

 男達が一斉にフードの男に襲い掛かってくる。その数8人・・・フードの男は左右に4本ずつナイフを握ると、体を一回転させて全てのナイフを同時に投擲する。

 投擲されたナイフは全て男達の額に深々と突き刺さり、彼らは瞬く間に絶命した。周囲でその様子を見守っていた男の部下達が男に質問をする。

 「勝手に殺してしまって宜しいのですか?彼らも一応戦力ですよ?」

 「役に立たない戦力など初めからいないも同然だ。寧ろ我々の足手纏いになりかねん。・・・2両目の部下に伝達、マフィア共を殺害しエリアを整えろ。」

 部下の1人が前方車両へと伝えに行くと、2両目が一瞬騒がしくなった。だがすぐに静かになると同時に連結通路を隔てるドアの窓に何者かの血が大量に付着した。

 少しの間の後、先程伝令を伝えに行った部下が帰ってきて男に報告する。

 「只今処理しました。」

 「誰も怪我をしていないな?」

 「勿論です。」

 部下の返事にフードの男は無言で頷くと、その場にいる部下達に声をかけた。

 「これで足手纏いの連中はいなくなった。お前達、存分に実力を発揮しろ。我ら暗殺部隊の実力を奴らに見せてやれ。」

 男の号令で部下達は戦闘準備を整える。準備をしている中、隣の4両目から壮絶な悲鳴が聞こえてきていた。
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