最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~大陸横断汽車編 第9章~

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[遺言]

 「うは~!汽車ってすっごい速いね~!そして風が涼しい~!」

 ロメリアが個室の窓を開けて体を外に出しながら興奮気味に声を昂らせる。向かってくる激しい風がロメリアのブロンズの髪を激しく揺さぶる。

 フォルト達は予約した汽車の中にある個室でそれぞれ自由に過ごしていた。個室の中のデザインも非常にお洒落なものとなっており、天井には複雑な装飾が施された大きなランプがぶら下がっていて、部屋の両側には2段ベッドが配置されていた。部屋の中央には大きな机が配置されており、ロメリアを除く全員が下段のベッドに腰掛け、机の傍でそれぞれ作業をしていた。

 フォルトが窓から体を乗り出しているロメリアに声をかける。

 「ロメリア・・・窓からそんなに体を出したら危ないよ?」

 「大丈夫だよ~!それよりもフォルトも覗いてごらんよ~!」

 ロメリアに誘われてフォルトも渋々窓から体を乗り出すと、激しい風に襲われて思わず目を閉じる。

 『うわ風凄っ!まるでワイバーンに乗ってる時みたい・・・でもワイバーンより遅いはずなのに何でこんなに風が強いんだろう・・・』

 フォルトは荒ぶる前髪を抑えつつ目をゆっくりと開けると、真下に広がる光景にフォルトは思わず言葉を失った。

 フォルトの真下には巨大な渓谷が広がっており、フォルト達を運んでいる汽車はその渓谷に建てられた橋の上を走っている。周囲には遮る建物や木々は無く、ただ乾いた大地が広がっているだけ・・・だが果てしなく続く世界がフォルトとロメリアの前に広がっていた。

 「うわぁ・・・!凄い良い景色だね・・・」

 「ね~!ほら、下見てよ下!めっちゃ深いよ~!落っこちちゃったら絶対助からないね・・・」

 「よくこんな所に橋を作って汽車を走らせようって思ったよね・・・しかもこの橋めっちゃ長くない?先が見えないんだけど・・・」

 フォルトとロメリアが汽車の進行方向に顔を向けると、果てしなく続く渓谷と、終わりが見えない橋が延々と続いていた。

 フォルト達が体を外に出している中、ケストレルが立ち上がって個室の出口へと向かった。魔術書を読んでいたシャーロットがケストレルに声をかける。

 「何処に行くんですか、ケストレル?」

 「ちょっと飲みに行ってくる。古都に着くまで後3日間この汽車の中で過ごすんだろ?特にすることもねぇし・・・昼間っから酒飲んでも問題ないだろ?」

 「はぁ・・・あんまり飲みすぎないで下さいね?酔っぱらったケストレルを運んでくるのは嫌ですから。」

 「はいはい、注意しとくよ。ま、酔っぱらって倒れたら宜しくな、シャーロット?」

 ケストレルはそう言ってシャーロットに片目を瞑ると部屋から出ていった。シャーロットは小さく溜息をつくと再び魔術書に顔を向けた。フォルトとロメリアは相変わらず外の景色を2人で眺めながら楽しそうに言葉を交わしていた。

 するとその時、急にフォルトは腹部に尿意を感じ始める、フォルトが神妙な面持ちになるとロメリアが心配そうに目を細めて話しかける。

 「どうしたの、フォルト?」

 「ちょっと・・・お手洗いに行ってきてもいいかな?」

 「え?ああ、うん・・・」

 フォルトは部屋の中に身を戻すと、急ぎ足で部屋から出ていった。ロメリアはフォルトが部屋から出ていくのを見ながら体を戻して窓を閉め、シャーロットと向き合うように座った。

 フォルトは緑のカーペットが敷かれた廊下を走り、トイレの中に入ると急いで用を済ませた。フォルトはトイレから出ると、横にあった窓に顔を向ける。

 フォルトが変わり映えの無い荒野を見つめていると、横から聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。

 「一昨日ぶりだな、少年。楽しんでいるか?」

 声のする方へと顔を向けると、そこには一昨日ケストレルを殺害しようとしたガーヴェラが宿で会った時と同じ落ち着いた表情をして立っていた。今の彼女からは一切の殺意を感じない。

 「ガーヴェラさん・・・」

 「おや?私は君に名前を告げていなかったはずだが・・・あの男から聞いたのか。」

 「はい・・・」

 フォルトがそう呟くと、ガーヴェラは目を細めてフォルトを見下ろす。彼女はヒールを履いているというのもあるのだろうが、元々の身長も結構高いため近くに立たれるとそれなりに威圧感がある。

 ガーヴェラは暫くフォルトを見つめた後、声をかけた。

 「今暇か?」

 「今ですか?・・・まぁ・・・特にすることは無いですけど・・・」

 「それなら私に付き合ってくれないか?少し前から君と少し話をしたいと思っていた所なんだ。」

 フォルトが警戒するように身構えると、ガーヴェラは笑みを漏らした。

 「大丈夫だ。捕まえて食べたりしないからそんなに警戒しないでくれ。ちょっとだけ・・・ここで5分程、私と話をしてくれるだけでいい。」

 「・・・分かりました。」

 フォルトは構えを解くと、ガーヴェラの顔を真っ直ぐ見つめた。ガーヴェラはフォルトに『感謝する』と小さく呟いて頭を下げると、話し始めた。

 「じゃあ早速質問なのだが・・・君にとってあの男はどういう奴に見えている?」

 「ケストレルについて・・・どう思っているか・・・」
 
 フォルトは少し顔を俯けながら壁に背中をつける。

 「初めて会った時は・・・とても怪しい人に見えたな。何かを隠している様な・・・本当の自分を偽って自分達に接してきているなって思ったよ。・・・だから本心から信用していなかった。」

 「・・・」

 「でも最近、漸くケストレルも本心から僕達と接してくれるようになったみたいだし・・・前抱いていたような不信感は無くなったかな?」

 フォルトはそう言うと、ガーヴェラの顔を見つめる。彼女の顔は何処か神妙な面持ちになっており、怒っているのか怒っていないのか良く分からなかった。

 「ガーヴェラさんは・・・ケストレルを許してあげたり・・・出来ないかな?確かにケストレルは間接的ではあるけれどもガーヴェラさんのお父さんと旦那さん・・・そして息子さんを殺してしまったのだけれど・・・ケストレルはずっと自分の行いを悔いているようだし・・・一度だけでもケストレルの話を聞いてもらえない・・・かな?」

 フォルトの言葉を受けたガーヴェラは腕を胸の下で組むと、小さく溜息をついてフォルトから顔を背けた。彼女の豊満な胸がフォルトの目に飛び込んでくる。

 「それは・・・無理な注文だな。」

 「・・・」

 「・・・例え『私と同じジャッカルの血を引いている男の子』の願いだとしても、だ。」

 フォルトはその言葉を聞いた瞬間、思わず小さく声を上げた。彼女はフォルトの方へと顔を向け直す。

 「ガーヴェラさん・・・何で僕がジャッカルの血を引いているって・・・」

 「私と同じ色の髪をしているだからな。髪の癖も・・・私と全く同じだからだ。」

 「・・・」

 「それに、父は遺言であの男に君を探せと言っていたようだからな・・・あの男と一緒にいる君を見て確信した。君がその・・・男の子なのだと。」

 ガーヴェラの言葉を聞いた時、フォルトは思わず彼女に質問を投げかけた。

 「ちょっと待って・・・ガーヴェラさんって事件の日・・・ケストレルやお父さん達の所には居なかったんだよね?確か別大陸で仕事をしていたって・・・」

 「ああその通りだ。私はあの事件の日、その場には居なかった。・・・だがあの後焼け落ちた家の中を捜索していたらこの蓄音機を見つけてな。再生したところ、父の遺言が入ってたって訳だ。」

 ガーヴェラはそう言って懐から掌に綺麗に収まる直方体の金色に輝く物体を取り出した。その物体は昨日フォルトが博物館や様々な店の中で見かけた蓄音機とは全く大きさも形も違ってはいたが、同じ蓄音機ということらしくフォルトはその小型の蓄音機に視線を釘付けにされた。

 ガーヴェラがその直方体の横についているネジを一息にグリッと捻ると、箱に幾つも小さく穴の開いた個所からノイズ混じりの声が聞こえてきた。

 「ザァァァァ・・・ガーヴェラ・・・ザァァァァ・・・聞こえ・・・ザァァァ・・・るか?・・・時間が無い・・・要点だけ・・・ザァァァァ・・・伝えるぞ・・・」

 『ノイズが大きくて・・・聞き取りにくいな・・・』

 フォルトが蓄音機に耳を傾けると、ガーヴェラがフォルトの耳に蓄音機を近づける。

 「まず・・・ケストレルと・・・アリアを許してやって欲しい・・・2人は・・・奴らに騙されただけだ・・・」

 『アリア?・・・ケストレルの妹か?確かケストレルには妹がいるって本人から聞いたことはあるけど・・・』

 「そのことは・・・あの子達も承知している・・・だから私や・・・あの子達が死んでも・・・2人を恨まずに・・・協力して生き延びてくれ・・・ケストレルとアリアには・・・私達と同じ『ジャッカルの血を引く者』を探すよう言うつもりだ・・・」

 『あの子達・・・旦那と息子のことかな?』

 「そしてガーヴェラ・・・お前を・・・ザァァァァ・・・愛し・・・ザァァァァァァァァ・・・」

 蓄音機からはノイズしか聞こえなくなり、そしてブツッ・・・と音が切れて静寂が訪れた。ガーヴェラは懐に蓄音機を戻すとフォルトに話しかけた。

 「父はこう言っているが・・・私はどうにも父の言う事を聞く気にはなれないんだ。どうしても消せない復讐の炎が・・・ずっと胸の中で燃え盛っているんだ。赤黒く・・・光を飲み込むような炎が・・・」

 ガーヴェラはそう言うと、フォルトが先程歩いてきた通路に顔を向ける。

 「・・・君はこっちから来たのか?」

 「うん・・・それがどうしたの?」

 「・・・奴も君の部屋にいるのか?」

 「・・・いいや、いないよ。ケストレルはお酒を飲みに行った・・・」

 「ふん・・・そうか・・・」

 ガーヴェラはそう言うと、フォルトの方に顔を戻した。

 「それでは・・・奴の所へと行くとするか。バーがあるのはこの通路を真っ直ぐ行った先だからな。・・・ついでに君を部屋まで送ろう。確か後2人・・・仲間がいたはずだよな?」

 「いるけど・・・何で・・・」

 「君含め、その2人にも謝罪しようと思ってな。一昨日は危害を加える気はなかったが、君達に銃を向けてしまった。それで謝りたいのだが・・・いいか?」

 「別に僕は良いけど・・・ロメリア達はどうだろう・・・シャーロットはともかく、ロメリアは興奮しちゃって話聞くかなぁ・・・」

 フォルトはしばらく考え込んだ後、ガーヴェラに返事をする。

 「・・・分かった。今から部屋に案内するよ。」

 「感謝する。」

 「でも僕より先に部屋に入らないでね?僕が良いよっていった後に部屋に入ること・・・それだけ誓ってくれる?」

 「勿論だ、誓うとも。」

 「じゃあ僕についてきて・・・あ、僕の名前はフォルト。フォルト・サーフェリートだよ。自己紹介が遅れちゃってごめんなさい。」

 「何気にするな。・・・フォルト・・・か。ラステバルト語で『太陽』・・・お父さんとお母さんに良い名前を付けてもらったな。」

 「・・・うん。」

 フォルトは複雑な心境になりながら小さく呟くと、ガーヴェラを連れて廊下を歩き始めた。

 するとフォルトとガーヴェラの横を、人が1人入りそうな黒い袋を肩に乗せた乗務員の服を着た男が1人通っていった。袋には『何か柔らかいモノ』が入っているようで、乗務員が歩く度に少し揺れていた。

 フォルトは最初その男が何を運んでいるのか少し気になったが、直ぐに再び部屋へと歩き始めた。乗務員は一瞬フォルトの方へと顔を向けると、そのまま別の車両へと姿を消していった。
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