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~大陸横断汽車編 第5章~

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[憎悪]

 「6年ぶり・・・いや、7年ぶりか?ケストレル・・・『あの日』から行方を眩ませていたお前が『子守』をしているとは・・・思ってもいなかったぞ?」

 ガーヴェラは頬を軽く上げてケストレルを見つめる。だが彼女の目は一切笑っておらず、憎悪の炎を宿らせていた。

 「・・・元気にしていたが、ガーヴェラ。」

 「元気?元気にしてたか・・・だと?・・・あぁ、元気にしてたさ・・・貴様への殺意と復讐を誓い・・・いつかこの手で貴様を殺せる日が来ると胸に抱いてな・・・」

 ガーヴェラの目に宿っていた憎悪の炎が激しく燃え盛る。

 「おかげさまで、私は『あの日』から1度も病気も怪我もしていない・・・ありがたいな・・・本当に・・・貴様には感謝しているよ・・・」

 「・・・」

 「これは貴様への私なりの『感謝の気持ち』だ、受け取れ!」

 ガーヴェラはそう言うと、右手を懐へ忍ばせると左脇の下にあるホルスターから装弾数6発のリボルバー銃を取り出した。銃は銀色に輝いており、茨の紋様が銃身に刻まれている。銃口は2つ縦についており、1回引き金を引くと2発銃弾が発射される仕組みとなっているようだ。

 ガーヴェラは一切の躊躇なくケストレルの左肩に照準を合わせると引き金を引いた。ズガァンッという爆音と共に銃口から蒼い火花が散って鉛玉が射出される。射出された弾はケストレルの方に命中すると、そのまま貫通し肉を抉り飛ばした。

 「っ!」

 ケストレルは咄嗟に左肩を右手で覆った。激痛が肩から全身に走り、温かい感触がねっとりと手に伝わる。ケストレルが右手を肩から外して手を確認すると、真っ赤な鮮血がべっとりと付いていた。

 銃声を聞きつけて野次馬達が小路へと入ってくる。ガーヴェラは左手を右脇下のホルスターに伸ばして同じリボルバー銃を手に取ると野次馬達に向けた。銃を向けた際にガーヴェラのおさげに結ばれた髪が揺れる。

 ガーヴェラは野次馬達に声を張り上げる。野次馬達は両手を上げて少しずつ後ろへと下がっていく。

 「何の用だ、貴様ら!これは見世物じゃないぞ!」

 ガーヴェラが野次馬達の真上に向けて発砲する。野次馬達は慌ててその場から逃げ去っていく。中には腰を抜かしてその場に尻をつける者もいたが、他の人達に引きずられるようにその場から消えていった。

 ガーヴェラは右のホルスターに銃をしまうと、ケストレルに顔を向ける。ケストレルは左膝をつき、右手を左肩に当てて何度も深呼吸している。

 ガーヴェラは膝をついているケストレルの頭に銃を突きつける様に銃口を向けると今まで溜め込んできた憎悪を吐き出すように言い放った。

 「この日をずっと待っていたっ・・・息子と夫・・・そして父の仇を取れるこの日をっ!」

 「・・・ガーヴェラ・・・」

 「貴様は父から教わった技術で私達家族を殺した!貴様は・・・私達家族が与えてきた『モノ』を仇で返した!いくら貴様が父に反抗しようとも・・・勝手に家を飛び出して『コーラス・ブリッツ』に入ろうとも・・・私達の事を大切に思ってくれている筈・・・救いようの無い屑にまで堕ちてはいないだろうと父も私も思っていたんだっ!お前が間違いに気づき、再び帰ってきた時は温かく迎えてやろう・・・皆がそう思っていたんだぞっ!」

 ガーヴェラの手が震える。

 「例え貴様が直接手を下していなくても・・・父が貴様を許していようとも・・・私は許さないっ・・・『コーラス・ブリッツ』を招き入れ、奴らが私の家族を・・・平穏な日々を殺したのだからなっ!」

 ガーヴェラ人差し指を引き金において、力を込める。ケストレルは目を閉じて、許しを請うように頭を下げた。

 その時、暗闇を引き裂く様に純白の鎖鎌がガーヴェラの方へと飛んできた。

 「!」

 ガーヴェラは向かってきた鎖鎌を蹴り上げると、フォルトがその打ち上げられた鎖鎌を手に取ってガーヴェラに斬りかかった。

 ガーヴェラが銃で鎌を防ぐと、彼女の懐にロメリアが低い姿勢で棍を構えながら入り込む。

 「ちっ!」

 ガーヴェラは咄嗟に後ろへと下がり、ロメリアの薙ぎ払いを回避する。そしてフォルトとロメリアはケストレルの前に壁の様に立って構え直すと、ケストレルに声をかける。

 「大丈夫、ケストレル!中々帰って来ない上に銃声までしたから・・・」

 「ていうか肩から血が流れてるけど、大丈夫なの⁉」

 「ああ・・・大丈夫だ・・・心配かけたな・・・」

 ケストレルとフォルト達が話していると、ガーヴェラがフォルト達に銃口を向けた。フォルトとロメリアが彼女に視線を向けると、突然目の前に若紫色の薄いガラスのような膜が張られた。ガーヴェラが発砲すると、弾丸は結界に当たって明後日の方向へと吹き飛んでいく。

 フォルト達とガーヴェラが少し驚いていると、シャーロットがフォルト達の後ろから慌てて走ってきた。シャーロットは左手で魔術書を開いており、何度も肩を上下に降ろして荒い呼吸を整えている。

 「フォルトッ・・・ロメリアッ・・・2人共・・・移動するの早すぎ・・・です・・・」

 ガーヴェラは軽く舌を打つ。

 「くそ・・・邪魔が入ったか・・・」

 彼女は吐き捨てるように呟くと、夜闇に消えていった。彼女の姿が見えなくなり暫くするとシャーロットが結界を解除し、ケストレルの傷を治し始める。

 ロメリアが棍を少し下げると、フォルトに囁いた。

 「・・・逃げた?」

 「・・・ぽいね。」

 フォルトがそう告げると、ロメリアは構えを解いて勢いよく息を吐き出した。

 「ふぅ~怖かった~・・・あの人・・・今日宿の前で会った人だよね?」

 「うん・・・別人みたいに・・・怖い顔をしてたけど・・・」

 フォルトとロメリアが体をケストレルの方へと向ける。ケストレルの傷はシャーロットの魔術で塞がっていた。シャーロットは治療を終えると、そっと本を閉じた。

 「はい・・・これで傷は塞がりました・・・」

 「・・・ありがとな、シャーロット。」

 ケストレルはその場から立ち上がると、フォルトとロメリアの方に顔を向ける。

 「フォルトとロメリアも・・・助けてくれてありがとな。お前達が来なかったら確実に死んでたぜ。」

 ケストレルは軽く微笑んだが、フォルトは一切微笑むことなく彼に語り掛ける。

 「ケストレル・・・あの女の人、知っているんだよね?昼に会った時は知らないって言ってたけど・・・」

 「・・・」

 「話してくれる?あの女の人が誰なのか・・・そして何であの人から殺されかけたのか・・・全部。」

 フォルトの言葉を受けてケストレルは何度も小さく頷いた。

 「・・・分かった、お前達に話すよ。・・・知らないって嘘ついて悪かった。」

 ケストレルはそう言うと、店の入口へとゆっくりと歩いていく。フォルト達もケストレルの姿を見失わないようにぴったりと後ろに付いていった。

 誰もいなくなった小路には街中に轟いている人々の喧騒が静かに行き交っていた。
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