最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~大陸横断汽車編 第3章~

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[仕込み銃]

 フォルト達は宿を取り、宿の近くにある食事処で昼食をとると、ケストレルの要望にあった武器屋へと向かった。駅の前に店を構える武器屋の前にケストレル達が立つと、ケストレルは何の迷いもなく実家の玄関の扉を開けるかのように勢いよく開けた。

 カランカラン・・・

 ドアの内側の上部についている黄金色の小さなベルが店内に軽快な音を響かせる。ドアをくぐって中に入ると、まっすぐ歩いた先に受付がある。受付には1人の男性が両腕を机の上で組んで顔をうつ伏せにしており、ベルの音を聞いて顔を上げると気怠そうに挨拶をする。

 男の年齢は50代半ばから後半ぐらいだろうか、頭に毛は無く、その代わりに顎に豊かな髭が生えている。顔に深い皴があって強面であるのでシャーロットはフォルトの後ろに隠れてしまった。

 「いらっしゃい・・・」

 その男が目を擦ってケストレル達を見ると、目を大きく開けた。

 「・・・何だ、ケストレルじゃねぇか!久しぶりだな、おい!」

 「昔と変わらず元気そうで何よりだよ、親父さん。7年前から全然変わってねぇ。」

 「はっ!もうころころ性格や体格が変わる年じゃねぇからな。変わって無くて当然だ、馬鹿。」

 「俺の事を馬鹿って言うのも変わってねぇな。」

 ケストレルが鼻で笑い飛ばしながら言葉を告げると、男は受付に右肘を立てて、頬杖をついた。視線をケストレルの後ろにいるフォルト達に向ける。

 「ところでケストレル・・・お前とうとうガキ作ったのか?それも2人。」

 「あ?・・・ああ、こいつ等か。こいつらは俺の子供じゃねぇよ。只の連れだ。」

 「連れって・・・何で子供なんか連れてやがる?それにもう1人・・・そいつは嫁さんか?随分若いな。」

 「嫁じゃねぇよ。・・・こいつも連れだ。」

 「セフレか?」

 「んな訳あるか!俺の好みの女、あんた知ってるだろ⁉」

 「がははははっ、勿論だ!お前は自分より年上の女が好きだってことだろ?こんなまだ16,7歳ぐらいの女はお前の範囲外だったよな?それに、この嬢ちゃんはそんな軽々しく色んな男に股開くような子じゃねぇっていうのは見ただけで分かるぜ。・・・悪ぃな、嬢ちゃん。冗談とは言え、あんたに失礼なこと言っちまった。」

 男がそう言うと、ケストレルが肩を下ろして深い溜息をついた。シャーロットがフォルトとロメリアに質問を投げかける。

 「フォルト、ロメリア・・・あの・・・セフレって何ですか?」

 シャーロットの質問にフォルトとロメリアは互いに困った顔をしながら見つめ合った。

 「そ・・・それは・・・えっと・・・どうやって説明しよう、フォルト・・・」

 「う~ん・・・あ、そうだ。シャーロット、セフレってね、男の人と女の人がちょっと『特殊な』関係になっている時の事を言うんだよ。で、あんまりこの言葉はいい意味に捉えられることが無くってね、悪いレッテルを貼られる場合が多いんだよ。女性の場合だったら・・・『ビッチ』とか・・・『尻軽女』とか・・・色々ね・・・勿論男性にもこれと似たような悪い表現が使われたりするんだ。」

 「・・・『びっち』?・・・『しりがるおんな』?」

 シャーロットが首を傾げて新たな言葉に疑問を抱くと、ロメリアがフォルトの耳元で囁く。

 「フォルト、もうちょっと言葉考えて言わないと・・・まだ小さいのにシャーロットがどんどん変な言葉覚えちゃうよ・・・」

 「・・・ごめん・・・これでも大分オブラートに包んだつもりだったんだけど・・・」

 フォルトがそう呟くとロメリアが軽く右手をフォルトの左肩に乗せて微笑んだ。シャーロットは相変わらずフォルトとロメリアを眺めて不思議そうに首を傾げていた。

 男は椅子に深く腰掛けると、顔を若干下に向けて下から睨みつける様に見つめながらケストレルに話しかける。

 「んで?今日は何しに来たんだ?新しい武器でも買いに来たのか?」

 「ああ。それとついでに、今持っている武器を買い取って欲しい。」

 ケストレルはそう言うと肩から腰に掛けて斜めにかけているベルトを外すと、鞘ごと大剣を受付の上に置いた。男は眼鏡をかけて大剣を引き抜くと、溜息をつく。

 「こりゃあ凄ぇな・・・どうやったらこんなに綺麗に刃が斬れるんだ?全く歪みがねぇし、何より切り口が滑らかすぎる。まるで最初から『斬られていない』ような感じだな?・・・何があった?その後ろにいるガキ共と関係があるのか?」

 「まぁ・・・色々と・・・」

 「ふ~ん・・・そうかい。何か訳ありのようだな。」

 男は大剣を鞘に直した。

 「ま、話したくねぇなら無理に話す必要はねぇ。俺もあんまり面倒なことには巻き込まれたくねぇからな。・・・1000カーツで買い取ってやる。」

 「1000カーツ?いいのか親父さん、そんな高額で?他の店なら大体100か200カーツぐらいだぜ?」

 「普通ならそれぐらいが妥当だな。だが・・・今回のこの大剣の傷の具合・・・綺麗に斬られすぎているから刃が全然傷んでねぇ。それにこの大剣・・・相当使い込んでいるが錆びの1つもねぇ。お前が定期的にメンテナンスをしっかりとしているってのが見て取れる。大概の奴が怠って刃を悪くしちまうのに・・・お前の大剣は『俺の店で買った時のまんま』・・・まるで1回も使っていないような『新品さ』を輝かせている。・・・だから高額で買い取らせてもらうぜ。」

 その男は嬉しそうに頬を上げると、店の裏へと消えていった。どうやらケストレルに長年自分が売った大剣を大切に扱ってもらったことが相当嬉しかったらしい。男の足取りは何処かここの内に秘めている嬉しさを隠しきれていないようで、何処か軽快だった。

 男は店の裏へと消えると、直ぐに顔だけをケストレル達に向けた。

 「ケストレル!お前店の裏に来てみろ!実は今新しい大剣を幾つか作り終わってな、倉庫に保管してんだ。ちょっと見て行かねぇか?」

 「マジか?親父さんが見せてくれるんなら、勿論見に行くぜ。」

 ケストレルが受付の中へと入って裏へと回ろうとした時、男がフォルト達に声をかける。

 「あんたらは店の中でウロウロしといてくれ。気になった武器はどんどん試用していいぜ。」

 「悪いな、フォルト、ロメリア、シャーロット。ちょっと待っててくれ。直ぐに帰って来るからよ。」

 ケストレルと男はそう言うと、店の裏へと歩いていった。フォルト達は男に言われた通り、店の中を歩き回る。
 
 規則正しく並べられている棚には剣や槍といった近接武器から弓や銃まで・・・多種多様な武器が眩い輝きを放って並べられていた。どうやら全ての武器を万遍なく整備しているようだ。

 フォルトが室内を1周するように歩いていると、ロメリアがある棚の前で何かを興味深そうに手に取って眺めていた。その武器を色んな向きから見る為に両手で持って回している。

 フォルトは気になってロメリアに話しかける。

 「ロメリア、何持ってるの?杖だよね、それ?」

 「あ、これ?何かね~ちょっと変わった銃らしいんだよ!」

 「変わった銃?銃なのそれ?」

 「えっとね・・・何か『仕込み銃』って書かれてあったよ。こんな杖だったり、近くの棚に置いてあるようなナイフや傘の中に銃が仕組まれているらしいよ。」

 フォルトは目の前の棚を眺めながらロメリアから左の方向にゆっくりと移動する。フォルトがロメリアから少し離れた時、ふと棚にある『ある仕込み銃』に視線を釘付けにされる。

 『これも仕込み銃?・・・変わった武器もあるモノだなぁ・・・』

 フォルトが興味深そうに『その武器』を手に取ってまじまじと眺める。

 そんな中、ロメリアが杖の底をフォルトの方へと向ける。左手で支柱を持って、右手でグリップを握る。

 「でもこれ・・・どうやって撃つんだろう?う~ん・・・」

 ロメリアは首を捻りながら何となくグリップをいじっていると、『カチッ』と音がした。

 バァンッ!

 突然、杖の底から激しい火花が散り、鉛の弾丸がフォルトの前髪を揺らして目の前を通過し、レンガの壁に深く突き刺さった。突き刺さった弾丸は潰れ、レンガから粉塵が舞う。

 フォルトとロメリアは体を固まらせた。フォルトがゆっくりと首をロメリアの方へと向けると、ロメリアが両手を小さく震わせながら額から大量の汗を流しているのが視認できた。

 「な・・・何ですか、今の銃声⁉」

 「フォルト!何があった⁉」

 「お前ら!店の中で何銃撃ってんだ、ゴラァ!」

 シャーロット達がフォルトの方へと慌てて近づいてくる。店の男はロメリアが両手で持っている杖を見ると、小さく溜息をついた。

 「はぁ・・・嬢ちゃん、あんた仕込み銃弄ってたんだな・・・グリップの所、捻ったろ?」

 「は・・・は・・・はい・・・」

 「その杖はグリップの所を捻ると大口径の弾丸を発射する仕組みになっているんだ。・・・嬢ちゃんの体勢からして、よくこの坊主に当たらなかったな。当たってたら確実に死ぬぞ。」

 「そんなに威力高ぇのかよ?」

 「設定では像すら一撃で殺せる威力にしてあるからな。」

 「そんな強力な銃を・・・よく並べてます・・・ね・・・」

 「普通は仕込み銃なんて怖くて誰も触らねぇよ。だって何処をどう弄ったら弾が出て来るなんて種類によって全部違うからな・・・大抵仕込み銃を弄る奴らは俺が傍にいる時にしか触らなぇし・・・嬢ちゃん・・・あんた怖いもの知らずだな?」

 「怖いもの知らずというか・・・ただ単に何も知らないだけど思うんだが・・・」

 ケストレルは呆れたように後頭部をゆっくりと掻く。ロメリアは『えへへ・・・』と頬を引きつりながら笑みを浮かべてしまっていた。

 銃弾がめり込んだレンガには深い弾痕が残っており、塵がその弾痕から零れ落ちていた。
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