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~ヴァンパイア・ガール編 第17章~
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[過去]
「フォルトさん、この度は里を守るため・・・そしてヴァンパイア達を守るために戦って下さりありがとうございました・・・何とお礼をしたらいいものか・・・」
エリーシャはソファに座って、フォルトの方を見つめながら感謝の意を述べた。フォルト達はあの戦いが終わった後、生き残ったヴァンパイア達全員と共にエリーシャの館の中へと退避し、各自治療を行っていた。石化したロメリアはフォルトや他の男ヴァンパイア達数人と一緒によって、今フォルト達がいる部屋に運ばれた。
フォルトの横に座っているケストレルは傷口を縫合した後、止血帯を全身に貼り付けて包帯でグルグル巻きにされていた。ぐったりしたようにソファの背もたれにもたれ掛かって、気怠そうに向かい側に座っているシャーロットを眺めている。
シャーロットは机の上で魔術書を開いて、その横にルーテスが持っていたのと同じ白い札に何かを書き込んでいた。頻繁に魔術書を睨みつけては、近くに置いている分厚い古代語の辞書を捲り、メモ用紙らしき羊皮紙に古代文字の訳を書いて必死に翻訳している。
その隣にいるキャレットは度々自分の千切れたドレスを捲ってはしっかりと下半身と上半身がくっついているか肌を触って確認している。もう傷跡1つ無いのだから完治している筈なのだが・・・
「いいえ・・・こちらこそ、替えの服を用意して頂いてありがとうございます。着替えが無くて困っていた所でしたから・・・それもこんな・・・立派な服を・・・」
フォルトは着替えた服をまじまじと見つめる。白のシャツに黒のネクタイ、ベスト、スーツ、パンツを履いており、今から結婚式か舞踏会に行くのかと思われるような恰好だった。
「タキシードだな。礼服に使われる、いい服だ。」
「本当は息子が生まれて大きくなったら着せる物だったのですが・・・私の子供は2人共女ですので・・・その服は貴方に差し上げます。まだ少し余裕がありますが・・・フォルトさんなら直ぐに体が大きくなると思いますので丁度いいでしょう。」
「頂けるんですか?でも・・・」
「遠慮しなくて大丈夫ですよ。その服は私からの感謝の気持ちとして・・・お受け取り下さい。」
フォルトはそのようなエリーシャの言葉を受けると、感謝の言葉を言い、頭を下げた。エリーシャは優しくフォルトに微笑むと、ケストレルの方を見る。
「・・・では、そろそろお話してもらいましょうか。元八重紅狼のケストレルさん。」
「え?ケストレル?元八重紅狼ってどういうこと?」
フォルトが驚いて目を見開きながらケストレルを見ると、キャレットがフォルトに声をかける。
「貴方、彼と一緒に旅をしていたのに知らされていなかったの?」
「はい・・・ケストレルは傭兵だとはいっていましたけれど・・・」
フォルトがケストレルの方にゆっくりと振り向くと、彼は申し訳なさそうに左手で頭を掻いた。
「黙ってて悪かったな、フォルト。俺は昔、コーラス・ブリッツの幹部、八重紅狼の第六席だったんだ。・・・さっき戦った男とも面識はある。」
「・・・じゃあ他の幹部も?」
「勿論知っている。・・・変わっていなければ、『主席』を除いて全員知っている。」
「『主席』がどんな人か・・・分からないの?」
「ああ・・・『主席』は滅多に人前に現れることは無く、指令を与える時も文書での伝達だった。俺を八重紅狼に引き入れたのは第三席の男でね・・・当時の次席と第八席以外は全員その男に引き込まれた奴らだった。」
「次席と第八席の人は・・・主席の人が引き入れたの?」
「そうだ。」
「どんな人なのですか?次席と第八席の人は・・・」
「組織を抜けてから6年経つから変わっているかもしれねえが・・・当時の情報を言っておくと、次席と第八席は姉弟だ。弟が次席で、姉が第八席。どちらも月夜に映える銀髪をしている。姉は黒のドレスに身を包み、長髪をパーティスタイル・・・夜会巻きで後ろにまとめていて、非常に寡黙で冷酷、弟の傍に何時もいたな。弟は・・・そうだな、フォルトみたいにまだ子供で顔も中性的、髪も長くて初めて見た時は女の子かと思ったな。着ている服も純白のドレスだったし。性格は明るくて無邪気・・・純粋だったな。姉を異常に溺愛していた。」
「その男の子・・・次席ってことは・・・」
「八重紅狼の中で2番目に強いってことだな。八重紅狼の順位は完全に実力で決定する・・・『主席』が最も強く、『第八席』が一番弱い。・・・ま、弱いって言っても奴らの強さは規格外だけどな。」
「さっき戦った男は確か第七席と自分で言っていましたよね?つまり彼は下から2番目ということでしょうか?」
「そうだ。」
キャレットが思わず笑みを浮かべて鼻を鳴らした。
「嘘でしょ?彼で下から2番目なの?まだ上に6人もいるとか・・・悪夢じゃない。」
「でも奴らを全員撃破しなければ、『コーラス・ブリッツ』は滅びない。滅ぼしたいのなら・・・奴ら全員を殺す必要がある。」
ケストレルが言葉を発し終えると、全員口を閉じて沈黙した。古時計の振り子が『ガタン・・・ガタン・・・』と低い音が一定のリズムで時を刻んでいく。
静寂が漂う中、フォルトが静かに口を開けてケストレルに話しかける。
「ケストレルは・・・何で八重紅狼を抜けたの?理由なく・・・抜ける訳ないよね?」
フォルトの言葉にキャレットとエリーシャがケストレルに顔を向ける。シャーロットは一切反応を示すことなく、翻訳を続けていた。
「・・・俺が八重紅狼を抜けたのは・・・『師匠』をこの手で殺せという指令を受けたからだ。師匠は・・・『ジャッカル』の血を引いた人だった。」
「・・・」
「フォルト、師匠はお前と同じ、勿忘草色の癖毛のある髪をしていた。俺は・・・小さいときに捨てられていた所を拾われて・・・様々な知識と戦闘技術を師匠から教わっていた。」
ケストレルは両手を組むと、強く握りしめる。
「『コーラス・ブリッツ』・・・俺達の目的は・・・『ジャッカル』の血筋を根絶やしにすることだった。俺はそのその話を・・・師匠を殺す時に知らされたよ。」
「それまでは・・・教えてくれなかったの?」
「ああ。ずっと奴らは『我らの大義の為』と言っていたな。毎回、その大義って何だよって思ってはいたが・・・」
ケストレルは呆れたように笑みを浮かべる。その笑みは自分に向けたものなのか、ケストレルの目は虚ろだった。
「何で・・・コーラス・ブリッツに入ったの?」
「居心地が良かったんだ。圧倒的強者達に囲まれ・・・その中に自分もいて・・・強者も弱者も蹂躙し、戦場を謳歌する。あの時は・・・それが楽しかったんだ。俺は・・・誰かと殺し合っている時がとても楽しかった。」
「とんでもない戦闘狂・・・昔の貴方は頭がイカれていたようね。」
「はっ・・・そうだな。」
キャレットの言葉にケストレルは小さく鼻で笑った。
「でもそんな俺は・・・『ジャッカル』の血を引いている師匠を殺せと命じられた時・・・断固として拒絶した。いくら俺が・・・八重紅狼の幹部で・・・とんでもないろくでなしであろうとも・・・師匠を殺すことは出来なかった・・・」
「それで・・・仲間から殺されかけたのね。あいつが言っていたけど・・・」
「そうだ・・・それも妹にな。あの時は本気で死を覚悟したし・・・悲しかった・・・」
ケストレルは顔を俯けて、手を固く握りしめる。フォルト達は何も言うことが出来ず、再び沈黙に包まれた。
ケストレルが再び顔を上げると、今度はさっきよりも少し明るい感じの声質で話し始めた。
「師匠は俺と逃げている時・・・俺にあることを話してきた。」
「ある事?」
フォルトが声をかけると、ケストレルはフォルトの方に顔を向けた。
「・・・もし私の事で罪の意識を感じているのなら・・・グリュンバルド大陸の何処かにいる師匠と同じ色の髪を持っている男の子を探せ。そしてその子を・・・守れってな。・・・フォルト、お前の事だよ。」
ケストレルがそう言った瞬間、エリーシャとキャレットがフォルトの方に視線を移す。シャーロットも顔をフォルトの方へと向ける。フォルトは突然の事で困惑を隠せなかった。
「え?な・・・何で僕の事を・・・僕・・・その人と面識何て・・・無いよ?どうやって僕の存在を?」
「師匠は占い師だった・・・よく水晶による占いをしていてな、それが結構当たったんだ。街の皆も、師匠の占いが当たるって言ってよくお客が来ていたもんだよ。」
「じゃあ貴方の師匠は水晶でこの子の存在を知ったってことかしら?」
「多分な。何でフォルトの事を知っていたのか・・・教えてもらう前に殺されちまったから本当の事は分からねえけど・・・」
ケストレルの言葉を受けて、フォルトはケストレルに話しかける。
「まさか・・・葡萄狩りの時から・・・」
「悪いな、フォルト。あの時からお前達をつけていたんだ。師匠が言っていた男の子はお前の事だって・・・あの街で会って、魔物を狩った時に確信した。」
ケストレルがフォルトの目を見ながらはっきりと告げると、フォルトは目を細める。すると、フォルトは頬を若干上げて、呆れたように笑った。
「・・・なぁんだ、やっぱりロメリアが言っていた通りじゃないか。僕達と頻繁に会うのは偶々だって・・・よくもまぁそんな嘘を堂々とつけたものだね?」
「ははっ・・・嘘ついて悪かったよ。」
ケストレルはそう言うと、ゆっくりとソファから立ち上がった。ソファの背もたれに右手を置いて、痛む体を何とか持ちこたえさせる。
「それじゃあ勝手ですまないが・・・今日の辺りはこの辺で勘弁してくれないか?また何か聞きたいことがあれば、明日以降全て答えるから・・・」
「分かりました。今日はこの辺にしてお休みになられた方がよろしいですね?・・・キャレット、彼を部屋にお送りなさい。」
「分かったわ、お母さん。」
キャレットはケストレルを連れて部屋から出ていった。フォルトは大きく口を開けて欠伸をすると、目をゆっくりと開ける。
「何か・・・眠くなってきちゃいました。」
「今日は忙しかったですからね。フォルトさんも部屋に戻って横になったらいかがです?」
「いや・・・僕はここで結構です。・・・ロメリアの傍に・・・いてあげたいので・・・」
フォルトはそう言って目を瞑ると、直ぐに眠りについてしまった。エリーシャはそっと席から立つと、タオルを持ってきて、フォルトの上に優しくかける。
その後、エリーシャはシャーロットの横に座った。
「シャーロット?貴女も休んだら?」
「ううん・・・大丈夫。後もう少し・・・後もう少しでロメリアさんの・・・石化を・・・解ける術式が完成しそうから・・・」
「そう・・・」
エリーシャが呟くと、シャーロットが話しかける。
「お母さん・・・傷はもう大丈夫?」
「ええ、もうすっかり治ったわ。・・・シャーロットが戦ってくれたおかげね。」
「そんな・・・フォルトが・・・頑張ったおかげ・・・だよ・・・」
シャーロットはフォルトの方に視線を向けると、言葉を続ける。
「お母さん・・・1つ・・・お願いを・・・していい?」
シャーロットはそう言うと、エリーシャの方を見た。エリーシャもシャーロットの目をしっかりと見つめ、彼女の声に耳を傾ける。
古時計は相変わらず、静かに時を刻んでいる。
「フォルトさん、この度は里を守るため・・・そしてヴァンパイア達を守るために戦って下さりありがとうございました・・・何とお礼をしたらいいものか・・・」
エリーシャはソファに座って、フォルトの方を見つめながら感謝の意を述べた。フォルト達はあの戦いが終わった後、生き残ったヴァンパイア達全員と共にエリーシャの館の中へと退避し、各自治療を行っていた。石化したロメリアはフォルトや他の男ヴァンパイア達数人と一緒によって、今フォルト達がいる部屋に運ばれた。
フォルトの横に座っているケストレルは傷口を縫合した後、止血帯を全身に貼り付けて包帯でグルグル巻きにされていた。ぐったりしたようにソファの背もたれにもたれ掛かって、気怠そうに向かい側に座っているシャーロットを眺めている。
シャーロットは机の上で魔術書を開いて、その横にルーテスが持っていたのと同じ白い札に何かを書き込んでいた。頻繁に魔術書を睨みつけては、近くに置いている分厚い古代語の辞書を捲り、メモ用紙らしき羊皮紙に古代文字の訳を書いて必死に翻訳している。
その隣にいるキャレットは度々自分の千切れたドレスを捲ってはしっかりと下半身と上半身がくっついているか肌を触って確認している。もう傷跡1つ無いのだから完治している筈なのだが・・・
「いいえ・・・こちらこそ、替えの服を用意して頂いてありがとうございます。着替えが無くて困っていた所でしたから・・・それもこんな・・・立派な服を・・・」
フォルトは着替えた服をまじまじと見つめる。白のシャツに黒のネクタイ、ベスト、スーツ、パンツを履いており、今から結婚式か舞踏会に行くのかと思われるような恰好だった。
「タキシードだな。礼服に使われる、いい服だ。」
「本当は息子が生まれて大きくなったら着せる物だったのですが・・・私の子供は2人共女ですので・・・その服は貴方に差し上げます。まだ少し余裕がありますが・・・フォルトさんなら直ぐに体が大きくなると思いますので丁度いいでしょう。」
「頂けるんですか?でも・・・」
「遠慮しなくて大丈夫ですよ。その服は私からの感謝の気持ちとして・・・お受け取り下さい。」
フォルトはそのようなエリーシャの言葉を受けると、感謝の言葉を言い、頭を下げた。エリーシャは優しくフォルトに微笑むと、ケストレルの方を見る。
「・・・では、そろそろお話してもらいましょうか。元八重紅狼のケストレルさん。」
「え?ケストレル?元八重紅狼ってどういうこと?」
フォルトが驚いて目を見開きながらケストレルを見ると、キャレットがフォルトに声をかける。
「貴方、彼と一緒に旅をしていたのに知らされていなかったの?」
「はい・・・ケストレルは傭兵だとはいっていましたけれど・・・」
フォルトがケストレルの方にゆっくりと振り向くと、彼は申し訳なさそうに左手で頭を掻いた。
「黙ってて悪かったな、フォルト。俺は昔、コーラス・ブリッツの幹部、八重紅狼の第六席だったんだ。・・・さっき戦った男とも面識はある。」
「・・・じゃあ他の幹部も?」
「勿論知っている。・・・変わっていなければ、『主席』を除いて全員知っている。」
「『主席』がどんな人か・・・分からないの?」
「ああ・・・『主席』は滅多に人前に現れることは無く、指令を与える時も文書での伝達だった。俺を八重紅狼に引き入れたのは第三席の男でね・・・当時の次席と第八席以外は全員その男に引き込まれた奴らだった。」
「次席と第八席の人は・・・主席の人が引き入れたの?」
「そうだ。」
「どんな人なのですか?次席と第八席の人は・・・」
「組織を抜けてから6年経つから変わっているかもしれねえが・・・当時の情報を言っておくと、次席と第八席は姉弟だ。弟が次席で、姉が第八席。どちらも月夜に映える銀髪をしている。姉は黒のドレスに身を包み、長髪をパーティスタイル・・・夜会巻きで後ろにまとめていて、非常に寡黙で冷酷、弟の傍に何時もいたな。弟は・・・そうだな、フォルトみたいにまだ子供で顔も中性的、髪も長くて初めて見た時は女の子かと思ったな。着ている服も純白のドレスだったし。性格は明るくて無邪気・・・純粋だったな。姉を異常に溺愛していた。」
「その男の子・・・次席ってことは・・・」
「八重紅狼の中で2番目に強いってことだな。八重紅狼の順位は完全に実力で決定する・・・『主席』が最も強く、『第八席』が一番弱い。・・・ま、弱いって言っても奴らの強さは規格外だけどな。」
「さっき戦った男は確か第七席と自分で言っていましたよね?つまり彼は下から2番目ということでしょうか?」
「そうだ。」
キャレットが思わず笑みを浮かべて鼻を鳴らした。
「嘘でしょ?彼で下から2番目なの?まだ上に6人もいるとか・・・悪夢じゃない。」
「でも奴らを全員撃破しなければ、『コーラス・ブリッツ』は滅びない。滅ぼしたいのなら・・・奴ら全員を殺す必要がある。」
ケストレルが言葉を発し終えると、全員口を閉じて沈黙した。古時計の振り子が『ガタン・・・ガタン・・・』と低い音が一定のリズムで時を刻んでいく。
静寂が漂う中、フォルトが静かに口を開けてケストレルに話しかける。
「ケストレルは・・・何で八重紅狼を抜けたの?理由なく・・・抜ける訳ないよね?」
フォルトの言葉にキャレットとエリーシャがケストレルに顔を向ける。シャーロットは一切反応を示すことなく、翻訳を続けていた。
「・・・俺が八重紅狼を抜けたのは・・・『師匠』をこの手で殺せという指令を受けたからだ。師匠は・・・『ジャッカル』の血を引いた人だった。」
「・・・」
「フォルト、師匠はお前と同じ、勿忘草色の癖毛のある髪をしていた。俺は・・・小さいときに捨てられていた所を拾われて・・・様々な知識と戦闘技術を師匠から教わっていた。」
ケストレルは両手を組むと、強く握りしめる。
「『コーラス・ブリッツ』・・・俺達の目的は・・・『ジャッカル』の血筋を根絶やしにすることだった。俺はそのその話を・・・師匠を殺す時に知らされたよ。」
「それまでは・・・教えてくれなかったの?」
「ああ。ずっと奴らは『我らの大義の為』と言っていたな。毎回、その大義って何だよって思ってはいたが・・・」
ケストレルは呆れたように笑みを浮かべる。その笑みは自分に向けたものなのか、ケストレルの目は虚ろだった。
「何で・・・コーラス・ブリッツに入ったの?」
「居心地が良かったんだ。圧倒的強者達に囲まれ・・・その中に自分もいて・・・強者も弱者も蹂躙し、戦場を謳歌する。あの時は・・・それが楽しかったんだ。俺は・・・誰かと殺し合っている時がとても楽しかった。」
「とんでもない戦闘狂・・・昔の貴方は頭がイカれていたようね。」
「はっ・・・そうだな。」
キャレットの言葉にケストレルは小さく鼻で笑った。
「でもそんな俺は・・・『ジャッカル』の血を引いている師匠を殺せと命じられた時・・・断固として拒絶した。いくら俺が・・・八重紅狼の幹部で・・・とんでもないろくでなしであろうとも・・・師匠を殺すことは出来なかった・・・」
「それで・・・仲間から殺されかけたのね。あいつが言っていたけど・・・」
「そうだ・・・それも妹にな。あの時は本気で死を覚悟したし・・・悲しかった・・・」
ケストレルは顔を俯けて、手を固く握りしめる。フォルト達は何も言うことが出来ず、再び沈黙に包まれた。
ケストレルが再び顔を上げると、今度はさっきよりも少し明るい感じの声質で話し始めた。
「師匠は俺と逃げている時・・・俺にあることを話してきた。」
「ある事?」
フォルトが声をかけると、ケストレルはフォルトの方に顔を向けた。
「・・・もし私の事で罪の意識を感じているのなら・・・グリュンバルド大陸の何処かにいる師匠と同じ色の髪を持っている男の子を探せ。そしてその子を・・・守れってな。・・・フォルト、お前の事だよ。」
ケストレルがそう言った瞬間、エリーシャとキャレットがフォルトの方に視線を移す。シャーロットも顔をフォルトの方へと向ける。フォルトは突然の事で困惑を隠せなかった。
「え?な・・・何で僕の事を・・・僕・・・その人と面識何て・・・無いよ?どうやって僕の存在を?」
「師匠は占い師だった・・・よく水晶による占いをしていてな、それが結構当たったんだ。街の皆も、師匠の占いが当たるって言ってよくお客が来ていたもんだよ。」
「じゃあ貴方の師匠は水晶でこの子の存在を知ったってことかしら?」
「多分な。何でフォルトの事を知っていたのか・・・教えてもらう前に殺されちまったから本当の事は分からねえけど・・・」
ケストレルの言葉を受けて、フォルトはケストレルに話しかける。
「まさか・・・葡萄狩りの時から・・・」
「悪いな、フォルト。あの時からお前達をつけていたんだ。師匠が言っていた男の子はお前の事だって・・・あの街で会って、魔物を狩った時に確信した。」
ケストレルがフォルトの目を見ながらはっきりと告げると、フォルトは目を細める。すると、フォルトは頬を若干上げて、呆れたように笑った。
「・・・なぁんだ、やっぱりロメリアが言っていた通りじゃないか。僕達と頻繁に会うのは偶々だって・・・よくもまぁそんな嘘を堂々とつけたものだね?」
「ははっ・・・嘘ついて悪かったよ。」
ケストレルはそう言うと、ゆっくりとソファから立ち上がった。ソファの背もたれに右手を置いて、痛む体を何とか持ちこたえさせる。
「それじゃあ勝手ですまないが・・・今日の辺りはこの辺で勘弁してくれないか?また何か聞きたいことがあれば、明日以降全て答えるから・・・」
「分かりました。今日はこの辺にしてお休みになられた方がよろしいですね?・・・キャレット、彼を部屋にお送りなさい。」
「分かったわ、お母さん。」
キャレットはケストレルを連れて部屋から出ていった。フォルトは大きく口を開けて欠伸をすると、目をゆっくりと開ける。
「何か・・・眠くなってきちゃいました。」
「今日は忙しかったですからね。フォルトさんも部屋に戻って横になったらいかがです?」
「いや・・・僕はここで結構です。・・・ロメリアの傍に・・・いてあげたいので・・・」
フォルトはそう言って目を瞑ると、直ぐに眠りについてしまった。エリーシャはそっと席から立つと、タオルを持ってきて、フォルトの上に優しくかける。
その後、エリーシャはシャーロットの横に座った。
「シャーロット?貴女も休んだら?」
「ううん・・・大丈夫。後もう少し・・・後もう少しでロメリアさんの・・・石化を・・・解ける術式が完成しそうから・・・」
「そう・・・」
エリーシャが呟くと、シャーロットが話しかける。
「お母さん・・・傷はもう大丈夫?」
「ええ、もうすっかり治ったわ。・・・シャーロットが戦ってくれたおかげね。」
「そんな・・・フォルトが・・・頑張ったおかげ・・・だよ・・・」
シャーロットはフォルトの方に視線を向けると、言葉を続ける。
「お母さん・・・1つ・・・お願いを・・・していい?」
シャーロットはそう言うと、エリーシャの方を見た。エリーシャもシャーロットの目をしっかりと見つめ、彼女の声に耳を傾ける。
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