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~ヴァンパイア・ガール編 第14章~
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[八重紅狼の実力]
「弱い、弱い、弱い・・・弱すぎる・・・」
ユーグレスは大きく口を開けて目を瞑りながら欠伸をすると、首を左右に振って骨を鳴らす。ケストレル達は今の所一切の怪我を負っておらず、呼吸を乱しながらユーグレスの姿を見逃すまいと睨みつけていた。
あの後、ケストレル、エリーシャ、キャレットは3人がかりでユーグレスと激しい戦闘繰り広げていた。シャーロットは3人から少し離れた所で体を震わせながら身を隠す・・・これはまだ彼女が幼いというのと自分の力をうまくコントロールできないという2つの理由からだった。
ケストレルがユーグレスと直接斬り合い、隙を見てキャレットがケストレルと共に近接戦闘に参加し、エリーシャが後方から術でサポートする・・・時間が経つにつれて3人の連携は目に見えて上達していき、ユーグレスに与える隙も少なくなっていった。
ところがユーグレスはケストレル達の攻撃が激しくなっていくにつれて、より笑顔になっていった。戦いそのものを楽しんでいる様な・・・歓喜の笑顔を一切隠そうとしないで。そんなユーグレスの姿を見ていると、キャレット、エリーシャは勿論、ケストレルも彼の姿に畏怖を覚えざるを得なかった。
そしてしばらく経った後、ユーグレスは笑顔を消して、退屈そうな顔をし始めて、今に至るのであった。ユーグレスは目をゆっくりと開けると、顔をしたに俯けて下から睨みつける様に視線を向ける。
「折角あんたらの連携が取れてきて戦いがいがあると思ったのに、毎回攻撃パターンは決まったものばかり・・・それに疲れて来ているのか攻撃のキレも無くなってきた・・・結局あんたらも『この程度』なんだな。」
ユーグレスは視線をケストレルに向ける。その目は憤怒と嘆き、失望といった様々な感情が渦巻いていた。
「特にケストレル・・・あんたには失望したよ。・・・初めは手を抜いてんのかなぁって思うぐらい攻撃も軽くて、動きも鈍かったが・・・如何やらマジみたいだな?・・・もう俺が知っている『八重紅狼 第六席、ケストレル・アルヴェニア』じゃねぇんだな。」
「・・・」
「あんたが八重紅狼の時だったら、俺は間違いなくあんたには勝てねぇ。3分も持たずに俺は負けるだろうな。」
ユーグレスは一歩・・・一歩ずつゆっくりとケストレル達の方へと歩きだした。ケストレル達はそれぞれ身構えるが、ユーグレスは全く怖気づくことなく、そのまま『死』を携えて歩いてくる。
「だがどうだ、このザマは?3分どころか倍の6分経っても俺に傷一つ与えられない・・・俺が疲弊する前に息が上がってしまっている・・・しかも単独ではなく、ヴァンパイアの女2人のサポートを受けながら、だ。」
ユーグレスは歩みを止めてその場に立ち止まった。
次の瞬間、殺意や覇気といった怒りの感情が漆黒の黒炎としてユーグレスの体を包み込む。ケストレルは息を呑み、エリーシャとキャレットは体が竦み上がった。
「俺はあんたを尊敬していた・・・俺よりも上位幹部だったし、眼前の敵を斬り潰す圧倒的強さに憧れてた。」
ユーグレスの殺意が高まっていき、空間が揺れる。たった1人の・・・それも人間の殺意で・・・
ユーグレスは腰を低くして、大鎌を両手に持つと斬りこむ構えをとった。
「だから・・・」
ケストレルがユーグレスの呟きを聞いた瞬間、ユーグレスがケストレルの眼前にまで接近していた。まるで場面を切り取ったかのようで、移動中の動きが一切見えなかった。
ケストレルが咄嗟に大剣を前に出して防御の体勢を作る。
「・・・これ以上俺が知っている『あんた』を穢すことなく、消えてくれ。『お前』は俺の知っている『ケストレル・アルヴェニア』じゃねぇ。」
禍々しくも鋭い一閃がケストレルを襲う。体の前で盾のように構えた大剣が一切の歪みも無く切断され、ケストレルの胴をも斬り裂いた。深紅の鮮血が大鎌の軌跡をなぞる様に噴き出すと、ユーグレスの顔に返り血が付着する。切断された大剣の刃が地面にドスンッと墓標の様に突き刺さり、ケストレルの体は後ろへと下がる。
ユーグレスはそのまま体を回転させてケストレルの体を蹴り飛ばし、近くの民家へと突っ込ませる。レンガの壁を破壊し、ケストレルの体は民家の中へと吹き飛ぶと口の中へと逆流してくる血を吹き出すように咳き込みながら床の上に倒れる。
「がっ・・・はっ・・・」
「ケストレルさん!」
エリーシャが叫んだ直後、キャレットがユーグレスへとレイピアを首元へと突き出す。
だが、ユーグレスはキャレットの突き出した来たレイピアの刃を左手で掴むと、力任せに刃をへし折った。雑に割れた跡からは、鉄の粉塵が宙を舞う。
「遅い。」
ユーグレスはそのまま右手に持っている大鎌でキャレットの胴を真っ二つに切断する。下半身が別れを告げて、キャロットの体は地面へと落ちていった。
「あっ・・・」
キャレットは崩れ落ちる時、母エリーシャの顔を見た。エリーシャは焦りと怒りの形相をしており、無数の赤い糸をユーグレスへと向かわせる。
ユーグレスは迫りくる血管のような糸を正面からすべて斬り裂くと、エリーシャとの間合いを詰めて大鎌の範囲へと入る。ユーグレスがエリーシャの首目掛けて大鎌を振るったその時、エリーシャはその場にしゃがみ、そのままユーグレスに飛び掛かった。
「ガァァァァァァッ!」
低く、獣のような声を上げて、ヴァンパイア特有の鋭い牙を見せつけるとユーグレスごと自身の体をユーグレスの背後にあった民家の中へと突っ込ませる。ユーグレスはエリーシャを蹴り飛ばして、温かい感覚を覚えた自分の首の左側面に左手を添えて見てみると、大量の血が付着していた。どうやらエリーシャは掴みかかる時にユーグレスの首をひっかいたようだ。
「・・・子を守る母親は恐ろしいってか。やるじゃないか、ヴァンパイア。」
「私の子供を・・・傷つけるなぁぁぁぁぁっ!」
エリーシャは鋭い爪を手から生やすと、ユーグレスに飛び掛かっていく。ユーグレスは飛び掛かってくるエリーシャに大鎌を振り、彼女の体を切り刻んでいく。しかしエリーシャは全く止まることなく、左腕が斬り飛ばされようともユーグレスの大鎌を口で受け止めて彼の体に鋭い爪を突き立てたりと勢いに任せたアグレッシブな猛攻を続けた。
2人が激しい戦いを繰り広げる中、シャーロットは体を両断され、苦しみもがいているキャレットの下へと走り寄る。
「お姉ちゃん!」
「シャー・・・ロット・・・」
「お姉ちゃん、大丈夫だよ!私達ヴァンパイアは・・・首を斬られないと死なないから・・・直ぐに・・・治るよ!」
「・・・知ってるわよ・・・そのぐらい・・・あんたに言われなくてもっ・・・それよりも・・・あんたは隠れてなさい!巻き込まれるわ・・・よ!」
キャレットはシャーロットを突き放すように言葉を投げかける。シャーロットは姉の言葉を無視し、姉の下半身を引きずってくると、姉の上半身にくっつける。ヴァンパイアの再生力ならばすぐにくっついて立つことが出来る筈・・・だった。
「・・・あれ・・・あれ・・・くっつかない・・・何で・・・何で?」
シャーロットが戸惑いながら何度もキャレットの下半身を上半身に強く押しつけていると、急にキャレットが苦しみもがき始めた。
「ああっ!熱い・・・熱いっ・・・」
「熱い⁉お姉ちゃん⁉何が熱いの⁉」
「き・・・傷口・・・焼ける・・・焼き印を・・・押し付けられている・・・ようなっ!ああ・・・ああっ!」
キャレットが声を上げて体を動かしながら苦しみ始めた。シャーロットは混乱しながらも姉のドレスを捲って傷口を見ると、驚きの光景が目に飛び込んできた。
「なに・・・これ・・・傷口が・・・『焦げ広がっている』・・・の?」
キャレットの傷口を見ると、ユーグレスの大鎌に斬られた傷口が焼け焦げており、更にその傷口からどんどん体を侵食するように焼け広がっていた。恐らくこのまま放って置けば全身黒焦げになってしまうだろう。
「何とかこれ以上・・・広がるのを防がないと・・・傷を癒す魔術は・・・効くのかな?」
シャーロットがキャレットの傷口に回復術を掛けようとした・・・その時、横からケストレルが掠れた今にも消えそうな声で話しかけてくる。
「無駄だ・・・奴を殺さない限り・・・『状態異常能力』は止まらねぇ・・・」
ケストレルはシャーロットの傍に膝をつくと、折れた大剣を地面につきたてた。シャーロットがケストレルの胴に入った斬り傷を見てみると、キャレットに起こっている現象と全く同じく傷口が焼け焦げており、カビの様に焼き焦げた跡が広がっていた。
「奴の攻撃を食らうまで・・・この事を忘れていた・・・情けねえな・・・」
「ケストレル・・・さん・・・その・・・『状態異常能力』って・・・何ですか?」
「『状態異常能力』・・・この能力は八重紅狼全員が持っている・・・固有能力だ。・・・もっと正確に言えば・・・偶に人間が生まれて来る時に持っている特殊能力って言ったらいいんだろうか・・・八重紅狼に入る条件の1つとして、この固有能力を持っていることが絶対だというぐらい、強力な能力なんだ。それらの能力は様々な種類があるが・・・どれにも共通しているのが『能力を解除するには、その能力者を殺す必要がある』という点だ。・・・もしかしたら、何か能力を解除する術があるのかもしれないが・・・今の所、分かってはいないな・・・」
ケストレルは激しく咳き込むと、口から血が吐き出す。
「因みに奴の状態異常能力は・・・『燃焼』・・・斬ったモノに『火傷』を負わせ、対象の身を焼き続ける能力だ・・・」
「八重紅狼は全員持っている・・・ってことはケストレルさんも・・・持ってるの?」
「持って『いた』・・・っていう表現が適切かもな・・・組織を裏切る時に・・・他の幹部に奪われちまった・・・そして俺の能力は多分・・・『妹』が受け継いでいる筈・・・」
ケストレルは苦しそうに傷口を抑えて、苦しそうな息遣いをする。傷口が肺にまで届いているのか上手く呼吸が出来ない。
『くそっ・・・情けねぇな・・・戦いから暫く身を引いていたらこの様か・・・』
ケストレルが自分の実力が衰えてしまったことを嘆いた・・・次の瞬間。
「あああああああああああああああっ!」
エリーシャの叫び声が周囲に響き、シャーロットが思わず両目を閉じて耳を塞ぐ。エリーシャの悲鳴が聞こえてきた方から血の匂いと肉が焼け焦げている匂いが風に乗って漂ってくる。
シャーロットが目を薄っすらと開き、エリーシャの方を見ると彼女は思わず目を見開き、口を震わせる。心の底から悲鳴を上げたいのに声が出せない・・・心が恐怖に支配され、体の自由が封じられてしまった・・・
シャーロットの視線の先には両手両足が切断され、心臓に深々と大鎌の刃が突き刺さったエリーシャがおり、傷口は黒く焼け焦げていた。
「弱い、弱い、弱い・・・弱すぎる・・・」
ユーグレスは大きく口を開けて目を瞑りながら欠伸をすると、首を左右に振って骨を鳴らす。ケストレル達は今の所一切の怪我を負っておらず、呼吸を乱しながらユーグレスの姿を見逃すまいと睨みつけていた。
あの後、ケストレル、エリーシャ、キャレットは3人がかりでユーグレスと激しい戦闘繰り広げていた。シャーロットは3人から少し離れた所で体を震わせながら身を隠す・・・これはまだ彼女が幼いというのと自分の力をうまくコントロールできないという2つの理由からだった。
ケストレルがユーグレスと直接斬り合い、隙を見てキャレットがケストレルと共に近接戦闘に参加し、エリーシャが後方から術でサポートする・・・時間が経つにつれて3人の連携は目に見えて上達していき、ユーグレスに与える隙も少なくなっていった。
ところがユーグレスはケストレル達の攻撃が激しくなっていくにつれて、より笑顔になっていった。戦いそのものを楽しんでいる様な・・・歓喜の笑顔を一切隠そうとしないで。そんなユーグレスの姿を見ていると、キャレット、エリーシャは勿論、ケストレルも彼の姿に畏怖を覚えざるを得なかった。
そしてしばらく経った後、ユーグレスは笑顔を消して、退屈そうな顔をし始めて、今に至るのであった。ユーグレスは目をゆっくりと開けると、顔をしたに俯けて下から睨みつける様に視線を向ける。
「折角あんたらの連携が取れてきて戦いがいがあると思ったのに、毎回攻撃パターンは決まったものばかり・・・それに疲れて来ているのか攻撃のキレも無くなってきた・・・結局あんたらも『この程度』なんだな。」
ユーグレスは視線をケストレルに向ける。その目は憤怒と嘆き、失望といった様々な感情が渦巻いていた。
「特にケストレル・・・あんたには失望したよ。・・・初めは手を抜いてんのかなぁって思うぐらい攻撃も軽くて、動きも鈍かったが・・・如何やらマジみたいだな?・・・もう俺が知っている『八重紅狼 第六席、ケストレル・アルヴェニア』じゃねぇんだな。」
「・・・」
「あんたが八重紅狼の時だったら、俺は間違いなくあんたには勝てねぇ。3分も持たずに俺は負けるだろうな。」
ユーグレスは一歩・・・一歩ずつゆっくりとケストレル達の方へと歩きだした。ケストレル達はそれぞれ身構えるが、ユーグレスは全く怖気づくことなく、そのまま『死』を携えて歩いてくる。
「だがどうだ、このザマは?3分どころか倍の6分経っても俺に傷一つ与えられない・・・俺が疲弊する前に息が上がってしまっている・・・しかも単独ではなく、ヴァンパイアの女2人のサポートを受けながら、だ。」
ユーグレスは歩みを止めてその場に立ち止まった。
次の瞬間、殺意や覇気といった怒りの感情が漆黒の黒炎としてユーグレスの体を包み込む。ケストレルは息を呑み、エリーシャとキャレットは体が竦み上がった。
「俺はあんたを尊敬していた・・・俺よりも上位幹部だったし、眼前の敵を斬り潰す圧倒的強さに憧れてた。」
ユーグレスの殺意が高まっていき、空間が揺れる。たった1人の・・・それも人間の殺意で・・・
ユーグレスは腰を低くして、大鎌を両手に持つと斬りこむ構えをとった。
「だから・・・」
ケストレルがユーグレスの呟きを聞いた瞬間、ユーグレスがケストレルの眼前にまで接近していた。まるで場面を切り取ったかのようで、移動中の動きが一切見えなかった。
ケストレルが咄嗟に大剣を前に出して防御の体勢を作る。
「・・・これ以上俺が知っている『あんた』を穢すことなく、消えてくれ。『お前』は俺の知っている『ケストレル・アルヴェニア』じゃねぇ。」
禍々しくも鋭い一閃がケストレルを襲う。体の前で盾のように構えた大剣が一切の歪みも無く切断され、ケストレルの胴をも斬り裂いた。深紅の鮮血が大鎌の軌跡をなぞる様に噴き出すと、ユーグレスの顔に返り血が付着する。切断された大剣の刃が地面にドスンッと墓標の様に突き刺さり、ケストレルの体は後ろへと下がる。
ユーグレスはそのまま体を回転させてケストレルの体を蹴り飛ばし、近くの民家へと突っ込ませる。レンガの壁を破壊し、ケストレルの体は民家の中へと吹き飛ぶと口の中へと逆流してくる血を吹き出すように咳き込みながら床の上に倒れる。
「がっ・・・はっ・・・」
「ケストレルさん!」
エリーシャが叫んだ直後、キャレットがユーグレスへとレイピアを首元へと突き出す。
だが、ユーグレスはキャレットの突き出した来たレイピアの刃を左手で掴むと、力任せに刃をへし折った。雑に割れた跡からは、鉄の粉塵が宙を舞う。
「遅い。」
ユーグレスはそのまま右手に持っている大鎌でキャレットの胴を真っ二つに切断する。下半身が別れを告げて、キャロットの体は地面へと落ちていった。
「あっ・・・」
キャレットは崩れ落ちる時、母エリーシャの顔を見た。エリーシャは焦りと怒りの形相をしており、無数の赤い糸をユーグレスへと向かわせる。
ユーグレスは迫りくる血管のような糸を正面からすべて斬り裂くと、エリーシャとの間合いを詰めて大鎌の範囲へと入る。ユーグレスがエリーシャの首目掛けて大鎌を振るったその時、エリーシャはその場にしゃがみ、そのままユーグレスに飛び掛かった。
「ガァァァァァァッ!」
低く、獣のような声を上げて、ヴァンパイア特有の鋭い牙を見せつけるとユーグレスごと自身の体をユーグレスの背後にあった民家の中へと突っ込ませる。ユーグレスはエリーシャを蹴り飛ばして、温かい感覚を覚えた自分の首の左側面に左手を添えて見てみると、大量の血が付着していた。どうやらエリーシャは掴みかかる時にユーグレスの首をひっかいたようだ。
「・・・子を守る母親は恐ろしいってか。やるじゃないか、ヴァンパイア。」
「私の子供を・・・傷つけるなぁぁぁぁぁっ!」
エリーシャは鋭い爪を手から生やすと、ユーグレスに飛び掛かっていく。ユーグレスは飛び掛かってくるエリーシャに大鎌を振り、彼女の体を切り刻んでいく。しかしエリーシャは全く止まることなく、左腕が斬り飛ばされようともユーグレスの大鎌を口で受け止めて彼の体に鋭い爪を突き立てたりと勢いに任せたアグレッシブな猛攻を続けた。
2人が激しい戦いを繰り広げる中、シャーロットは体を両断され、苦しみもがいているキャレットの下へと走り寄る。
「お姉ちゃん!」
「シャー・・・ロット・・・」
「お姉ちゃん、大丈夫だよ!私達ヴァンパイアは・・・首を斬られないと死なないから・・・直ぐに・・・治るよ!」
「・・・知ってるわよ・・・そのぐらい・・・あんたに言われなくてもっ・・・それよりも・・・あんたは隠れてなさい!巻き込まれるわ・・・よ!」
キャレットはシャーロットを突き放すように言葉を投げかける。シャーロットは姉の言葉を無視し、姉の下半身を引きずってくると、姉の上半身にくっつける。ヴァンパイアの再生力ならばすぐにくっついて立つことが出来る筈・・・だった。
「・・・あれ・・・あれ・・・くっつかない・・・何で・・・何で?」
シャーロットが戸惑いながら何度もキャレットの下半身を上半身に強く押しつけていると、急にキャレットが苦しみもがき始めた。
「ああっ!熱い・・・熱いっ・・・」
「熱い⁉お姉ちゃん⁉何が熱いの⁉」
「き・・・傷口・・・焼ける・・・焼き印を・・・押し付けられている・・・ようなっ!ああ・・・ああっ!」
キャレットが声を上げて体を動かしながら苦しみ始めた。シャーロットは混乱しながらも姉のドレスを捲って傷口を見ると、驚きの光景が目に飛び込んできた。
「なに・・・これ・・・傷口が・・・『焦げ広がっている』・・・の?」
キャレットの傷口を見ると、ユーグレスの大鎌に斬られた傷口が焼け焦げており、更にその傷口からどんどん体を侵食するように焼け広がっていた。恐らくこのまま放って置けば全身黒焦げになってしまうだろう。
「何とかこれ以上・・・広がるのを防がないと・・・傷を癒す魔術は・・・効くのかな?」
シャーロットがキャレットの傷口に回復術を掛けようとした・・・その時、横からケストレルが掠れた今にも消えそうな声で話しかけてくる。
「無駄だ・・・奴を殺さない限り・・・『状態異常能力』は止まらねぇ・・・」
ケストレルはシャーロットの傍に膝をつくと、折れた大剣を地面につきたてた。シャーロットがケストレルの胴に入った斬り傷を見てみると、キャレットに起こっている現象と全く同じく傷口が焼け焦げており、カビの様に焼き焦げた跡が広がっていた。
「奴の攻撃を食らうまで・・・この事を忘れていた・・・情けねえな・・・」
「ケストレル・・・さん・・・その・・・『状態異常能力』って・・・何ですか?」
「『状態異常能力』・・・この能力は八重紅狼全員が持っている・・・固有能力だ。・・・もっと正確に言えば・・・偶に人間が生まれて来る時に持っている特殊能力って言ったらいいんだろうか・・・八重紅狼に入る条件の1つとして、この固有能力を持っていることが絶対だというぐらい、強力な能力なんだ。それらの能力は様々な種類があるが・・・どれにも共通しているのが『能力を解除するには、その能力者を殺す必要がある』という点だ。・・・もしかしたら、何か能力を解除する術があるのかもしれないが・・・今の所、分かってはいないな・・・」
ケストレルは激しく咳き込むと、口から血が吐き出す。
「因みに奴の状態異常能力は・・・『燃焼』・・・斬ったモノに『火傷』を負わせ、対象の身を焼き続ける能力だ・・・」
「八重紅狼は全員持っている・・・ってことはケストレルさんも・・・持ってるの?」
「持って『いた』・・・っていう表現が適切かもな・・・組織を裏切る時に・・・他の幹部に奪われちまった・・・そして俺の能力は多分・・・『妹』が受け継いでいる筈・・・」
ケストレルは苦しそうに傷口を抑えて、苦しそうな息遣いをする。傷口が肺にまで届いているのか上手く呼吸が出来ない。
『くそっ・・・情けねぇな・・・戦いから暫く身を引いていたらこの様か・・・』
ケストレルが自分の実力が衰えてしまったことを嘆いた・・・次の瞬間。
「あああああああああああああああっ!」
エリーシャの叫び声が周囲に響き、シャーロットが思わず両目を閉じて耳を塞ぐ。エリーシャの悲鳴が聞こえてきた方から血の匂いと肉が焼け焦げている匂いが風に乗って漂ってくる。
シャーロットが目を薄っすらと開き、エリーシャの方を見ると彼女は思わず目を見開き、口を震わせる。心の底から悲鳴を上げたいのに声が出せない・・・心が恐怖に支配され、体の自由が封じられてしまった・・・
シャーロットの視線の先には両手両足が切断され、心臓に深々と大鎌の刃が突き刺さったエリーシャがおり、傷口は黒く焼け焦げていた。
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