最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~ヴァンパイア・ガール編 第13章~

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[爆ぜる体]

 「ケストレルさん・・・貴方、本当に元八重紅狼なのですか・・・」

 エリーシャは身構えながら横に立っているケストレルに尋ねる。ケストレルは背中にかけている大剣の柄に手をかけたまま身を固まらせて一切返事をしない。

 フォルトとロメリアがルーテスと戦闘を繰り広げている中、ケストレル達はユーグレスと名乗る八重紅狼の一角と対峙していた。

 ケストレルが言葉を発しないでいると、ユーグレスが薄緑色の瞳を彼に向けながら久しぶりの友人と会うかのように声をかけてきた。

 「10年ぶりだな、ケストレル。まさか生きてるとは思って無かったぜ・・・『あの日』にお前の妹がお前を斬り刻んで崖から突き落とした時に死んだとばかり思っていたからな。」

 「・・・お前こそ、相変わらず元気そうで何よりだよ。・・・あの日から何人殺した?」

 「覚えてないね、そんな事。今日だけでも200近くのヴァンパイア共の首を刎ねたからな。まぁざっと5桁はいっているんじゃねえの?」

 「・・・」

 ユーグレスは左手で自身の短い黒髪を軽く掻きむしると、鎌を勢いよく振り下ろし地面に鋭い刃が深々と突き刺さる。

 「でも俺にとったらそんな事はどうでもいい。ヴァンパイア共が何人死のうが、俺が何人殺そうが関係ない・・・大切なのは『主席』に恩を返す・・・ただそれだけだ。」

 「・・・見上げた忠誠心だな。」

 「忠誠を貫けなかった裏切り者な上に『親不孝者』のお前には言われたくないね。」

 ユーグレスの反論にケストレルが言葉を詰まらせていると、ケストレル達の周囲を6人の黒衣の集団が取り囲んだ。エリーシャとキャレットが互いに背中を合わせるように構え、シャーロットはエリーシャのドレスをぎゅっと強く掴んで身を寄せる。
 
 ユーグレスは視線をエリーシャの方へと向けると、紳士的に穏やかな口調で話しかける。

 「これはこれは・・・又お目にかかることが出来て光栄です、ご婦人。貴女の傍にいるのは娘達ですかな?貴女に似て、美しい容姿をしておられる・・・ヴァンパイアとはいえ、こんなにも美しい女性達の首を刎ねるのは気が引けます・・・」

 ユーグレスの言葉にエリーシャが顔をしかめる。キャレットも軽く舌を打って気色の悪いものを見るような蔑んだ目をしながらユーグレスを睨みつけている。

 そんな中、シャーロットがユーグレスに怯えながらも話しかける。エリーシャのドレスを強く握り過ぎて、皴がどんどん付いていく。

 「お・・・お父さん・・・は?お父さんは・・・どうしたの・・・?」

 「おやおや、可愛らしい女の子だ。君は初めて見るなぁ。そうかそうか・・・『お父さん』ねぇ・・・」

 「・・・う・・・」

 「君のお父さんって・・・『これ』かな?」

 ルーテスは懐から何か丸い物体を取り出すと勢いよくエリーシャの足元へと投げつけた。ドン・・・トン・・・とボールの様に転がって行きながらエリーシャの足元で止まった。

 次の瞬間、シャーロットが目を見開いて口を小刻みに震えさせる。エリーシャが咄嗟にシャーロットを抱きしめて視線を無理やり逸らせる。

 「シャーロット!見ては駄目よ!」

 エリーシャの足元に投げられたもの・・・それはシャーロットの父親の首だった。白く変色した血の気の無い顔をしており、目を薄っすらと開いて瞬きを一切していなかった。

 「お父さんっ!」

 キャレットが叫ぶように声を上げると、ユーグレスは不敵な笑みを浮かべながらエリーシャ達に話しかける。

 「いやぁ、弱かったねぇそのヴァンパイア。他のヴァンパイア達よりは多少は『耐えてた』けど・・・それでも俺に一太刀も浴びせることは出来なかったなぁ。・・・長の夫ということで期待していたけど・・・大したことなかったな。つまらない奴だったよ・・・」

 「・・・つまらない奴?・・・誰がです?」

 ユーグレスの言葉を聞いたエリーシャの雰囲気が一瞬にして変わり、シャーロット、キャレット、ケストレルが視線を一気にエリーシャへと向ける。エリーシャは全身から殺意と魔力の波動を解き放つと、空間が揺れて全身の毛が逆立つような感覚を覚える。

 ユーグレスは嬉しそうな顔を浮かべると、左手の指を鳴らした。その合図と共に周囲を取り囲んでいた黒衣の集団が一斉に剣を鞘から取り出して襲い掛かってくる。彼らも非常に練度が高いのか、あっという間にエリーシャ達との間合いの中へと入る。キャレットが襲い掛かってくる彼らをに対してレイピアを構えて迎撃態勢を整えた。

 ・・・だが彼らは突然時間が止まったかのように動きを止めた。キャレットとケストレルは思わず彼らを見渡して動揺していると、彼らは操られた人形の様にぎこちない動きをし始めた。カクカクッと首が曲がり始め、指や腕などが静と動を明確に分離したような非現実的な動きをしているので、気味が悪いとケストレルは思った。

 「がっ・・・あ・・・がっ・・・」

 彼らが必死の形相で苦しみもがいていると、白く染まった彼らの顔に赤い血管が浮き出てくる。ケストレルがふとエリーシャを見ると、エリーシャの足元を中心に木の根の様に無数の赤い糸が地面を這って男達の体を拘束していた。その糸はまるで人の血管を連想させるように一定のリズムで脈打っていた。

 エリーシャは拳を握りしめた右手をゆっくりと顔の前にまで上げて、一気に広げた。その瞬間、赤い根に拘束されていた男達が一気に内側から爆ぜた。ケストレル達に大量の帰りが付着し、全身が血生臭くなる。ユーグレスの足元にも血が飛んできて、靴に血が付着した。

 「ほぅ?貴女の周囲に張り巡らされている糸に絡まった部下達が一気に内側から爆ぜた・・・恐ろしい能力だな。」

 ユーグレスがそう呟いた時、エリーシャはユーグレスの方へと右手を伸ばして糸を一気に伸ばす。ユーグレスは大鎌でその糸を斬りはらうと、その場から後ろへと退いた。

 すると、同時にケストレルが一気にユーグレスと距離を詰めて大剣を振り下ろした。ユーグレスは大剣をいなして大鎌でケストレルに斬りかかるが、ケストレルも直ぐに自身の身長以上もある大剣を操って攻撃を防ぐ。

 「いいねぇ、ケストレル!流石は元俺達と同じ仲間だっただけのことはあるな!」

 ケストレルの大剣とユーグレスの大鎌が互いに何度も激しい金属音を出しながらぶつかり合うと、2人は互いの武器を合わせて鍔競り合う。

 「ちっ!」

 「どうした?この程度か?以前のようなキレが無くなっている様な気がするぞ?」

 「抜かせ!」

 ケストレルがユーグレスを押し返して、吹き飛ばすと一気にケストレルの背後から赤い糸が伸びていく。赤い糸はユーグレスを取り囲むように展開されると、押しつぶすように襲い掛かっていく。

 「甘い。」

 ユーグレスは大鎌を持ったまま体を1回転させて薙ぎ払うと、彼の周囲を取り囲んでいた赤い糸が全て千切れ飛んでしまった。ユーグレスはそのまま地面へと着地すると、大鎌を右肩に乗せてケストレル達を見つめる。

 ケストレルが大剣を構えてユーグレスを睨みつけていると、ケストレルの横にエリーシャ、キャレット、シャーロットが並んだ。

 「ケストレルさん・・・一緒に戦いましょう。私達が束になれば、きっとあの男にも勝てる筈ですから・・・」

 「・・・かもな。」

 ケストレルが愛想なく呟くと、エリーシャが言葉を続ける。

 「貴方が元八重紅狼にいたということは、『今は』目を瞑っておきます。・・・この戦いが終わったら、ゆっくりと話して貰いますからね?・・・知っていること、全て。」

 「・・・分かった。全部話すよ。」

 ケストレルは小さく溜息をつくと、大剣を担いで構えた。エリーシャも周囲に糸を張り巡らせてユーグレスを接近させないようにする。

 そんな中でもユーグレスは相変わらず余裕の笑みを浮かべて、ケストレル達を眺めていた。まるで漸く戦いがいのある強敵と出会えた喜びを味わうような・・・夢を見ている様な目をしながら・・・
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