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~ヴァンパイア・ガール編 第10章~
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[真実]
「そんな馬鹿な・・・ルーテスさんが・・・裏切り者?」
周りにいたヴァンパイア達が驚き騒めき始める。それもそうだ、ルーテスはかつてこの村の危機を救った恩人でヴァンパイア達にとって家族同然の関係にあるのだから・・・
「あ、貴方!一体何を根拠にルーテスさんが裏切り者だと言っているの⁉ルーテスさんは私達を救ってくれた恩人なのよ⁉さっき根拠があると言っていたからちゃんと私達が納得できるような証拠を出せるんですよね⁉」
フォルトの近くにいた女性のヴァンパイアがフォルトに殴りかかろうかと思うぐらい物凄い剣幕で怒鳴りながら接近してくると、シャーロットがフォルトとそのヴァンパイアの間に両手を広げて割り込んできた。シャーロットがその女性を睨みつけると、女性は後ろへ下がる。
フォルトは右手に鎖を絡みつけてしっかりと握りしめると、左手をジャケットの内側へと忍ばせる。暫くもぞもぞと動かした後、フォルトは懐から数枚の紙を取り出した。フォルトが取り出した札には見たことも無い文字と紋章が赤い塗料で描かれており、どういう効果があるのかは分からないが、フォルトはこの札を手に取った瞬間不吉な予感が全身に走った。
フォルトはその札をルーテスに見せつける様に自分の顔の前でゆっくり振ると、話しかける。
「これが・・・この里の周囲に散らばっていました。そして探していくにつれてある箇所に大量にこの札が集中していました。・・・それが今、敵が進行してきている森の中・・・丁度キャレットさんが担当している場所から・・・こんなにも沢山、出てきました。」
フォルトは自分のジャケットを左腕で勢いよく内側から捲り上げると、無数の同じ柄の札が紙吹雪として周囲に舞った。フォルトとルーテスは札が舞い上がる中、互いに視線をぶつけ合う。
「時間が無かったので他の個所を徹底的に調べることは出来ませんでしたが、調べた範囲だけでも札の展開枚数が明らかに偏っていました。・・・ルーテスさん、貴方キャレットさんに疑いの目が向く様に仕向けましたね?」
「・・・」
ルーテスが下を見て黙り込んでいると、ロメリアがフォルトに話しかけてきた。
「フォルト・・・この札、一体何時の間に集めてき・・・」
ロメリアは言葉を発している最中にはっと目を見開いた。
「まさか・・・トイレに行ってたってのは・・・」
「うん・・・あれ半分嘘なんだ。本当はトイレで用を足して直ぐ部屋に戻るはずだったんだけど・・・見つけちゃってね。ちょっと調べてたから遅くなってしまったんだ。」
ケストレルもフォルトに話しかける。
「フォルト、お前・・・何時この札の存在に気が付いたんだ?」
「札を見つけたのは偶々だよ。トイレに入った時にタオルなどを入れる棚から違和感を感じてね・・・その棚の奥底に貼ってあったんだ。それからこの札から発せられている雰囲気って言うの?それを辿って他の札を探していったらこんなに見つけたって訳。」
「成程ね・・・手元にあるモノを頼りに同類のモノを探し出す・・・まるで犬みたいな感覚してんだな、お前。」
ケストレルは呆れているのか褒めているのか馬鹿にしているのか・・・良く分からない笑みを浮かべると小さく鼻で笑った。フォルトはルーテスに声をかける。
「ルーテスさん、この札に書かれてある文字・・・そして紋章・・・見覚えはありませんか?」
「無いですね。その札も初めて見ました。」
「『初めて』?・・・へぇ、僕は見覚えがありますけどね・・・ついさっき見たような・・・気がね。」
フォルトが鎖を強く引いてルーテスを地面に勢い良く転倒させると、ルーテスの懐から一冊の魔術書がフォルトの方へと滑り出てきた。ロメリアがその魔術書を拾って、表紙を眺めながらフォルトが握っている札に書かれてある文字と見比べる。
「何かこの本の文字とその札に書かれている文字・・・何か似てるような気がするのは私だけ?」
「俺も同じ文字に見えるぞ。・・・なんて書かれているのか分からないけどな。」
ロメリアが本を開いてどんどんページを捲っていく中、シャーロットがフォルトの持っている札を見つめながら小さく呟いた。
「・・・追跡術式と結界弱体術式・・・それに座標転送刻印が・・・描かれています・・・」
「シャーロット・・・この札に書かれてある文字と紋章が分かるの?」
「うん・・・以前師匠・・・ルーテスさんからこの古代文字・・・『ラステバルト語』を教わってたから・・・ちょっとだけなら・・・」
『古代文字・・・道理で見たことが無い訳だ・・・』
シャーロットがルーテスの方にちらりと視線を移すと、直ぐに逸らしてしまって悔しそうに下唇を強く噛んでいた。彼女にとってルーテスは尊敬の対象だったのだろう・・・古代文字も教えてもらうほどだったのだから・・・そんな人が自分達の種族を貶めていたとは・・・本当は信じたくないはずだ。
フォルトはルーテスに向かって強い口調で尋ねる。
「ルーテスさん・・・この札から送られている座標は何処に転送されているんですか?」
「・・・」
「質問を変えます。誰に送っているんですか?『コーラス・ブリッツ』全体へ?それとも『八重紅狼』にだけですか?」
「・・・」
ルーテスは答えない。フォルト達の視線は勿論、周りにいるヴァンパイア達の視線が鋭くルーテスへと突き刺さる。もう誰も・・・フォルト達に口出しをする人はいなくなっていた。
静まり返った中、シャーロットがルーテスに声を振り絞って話しかける。
「お願いです、師匠・・・話してください・・・」
「・・・」
「フォルトから頼まれて・・・師匠の心を覗き見ました。そしたら師匠の心は真っ暗で・・・空が見えなかった・・・村を襲ってきた人達と同じ・・・濁った心をしていた・・・」
「・・・」
「本当は私・・・師匠が裏切り者だなんて・・・信じたくなかったです・・・でもフォルトが・・・先入観を持っちゃダメだ・・・真実を知りたいのなら・・・ルーテスさんが『良い人』っていう意識を捨てて、協力してほしいって・・・だから私・・・」
シャーロットが涙声になりながら訴えを告げると、エリーシャに勢いよく抱き着いて肩を僅かに揺らしながら鼻をすすり始める。フォルトはこの時、シャーロットにはつらい思いをさせてしまったと心の中で後悔してしまっていた。
周りの空気が暗く沈み切っている中、ロメリアがとあるページを開いた。その瞬間、本の間から無数の札が零れだしてきて、ロメリアの足元に散らばった。
「おわぁ!何かいっぱい出てきたよ⁉」
「この札・・・フォルトが持っている札と全く同じだ。・・・こんなに出てきたらもう言い逃れは出来ねえな。とっくに逃げられねえけど。」
ケストレルがロメリアの足元に散らばった札を見下ろしながら呟くと、急にルーテスが不気味な笑い声を出し始めた。その低く、小さな声を聞いたフォルトは咄嗟にルーテスに絡みつけている鎖を強く引いて拘束を固める。
ロメリアやケストレル、キャレット、エリーシャ、周囲のヴァンパイア達が一斉に警戒を強めて武器を構えると、ルーテスはフォルトの方を不敵な笑みを浮かべながら見つめる。
「あはははは・・・いやぁ、流石だね、フォルト君。まさか札を見つけるなんて思わなかったよ。というか、トイレに何で札を貼り付けたんだろうね、私は。全く、貼り付けた当時の自分を呪いたいよ。」
ルーテスは両腕を縛られている中、両足だけでゆっくりと立ち上がる。もう70超えているであろう老人なのに足腰は年齢以上にしっかりしているようだ。
「さて・・・もう逃げられないから真実を話していこうか・・・と今思ったが・・・」
ルーテスが視線を彼から向かって右側へと向ける。その視線の先には・・・キャレットが張った結界・・・ルーテスが弱体化させた結界が広がっていた。フォルトも視線をその方向へ向けた瞬間、隠れ里と森の境界が歪んだ。
「残念ながらもう時間のようだ。残念。」
ズバァンッ!
里を覆っていた結界が一気に裂けて、フォルトの方に2m近い大鎌が勢いよく回転しながら襲い掛かってきた。フォルトは反射的にその場から退いて迫り来ていた大鎌を避けた。
その直後、一瞬緩んだ鎖を見逃さなかったルーテスが瞬く間に鎖から抜け出すと一気にフォルト達と距離を取る様にとある屋敷の屋上に飛び上がった。ルーテスが右手を開くと、ロメリアの手元にあった魔術書が消えて、ルーテスの手元へと移動する。
フォルトが横を通り過ぎた大鎌に目を向けながら小さく舌を打つ。
『くそっ、逃げられたか!それにこの大鎌っ・・・エリーシャさんが見せてくれた『八重紅狼』と思われる男の武器だっ!』
大鎌はそのまま向かいの屋敷の壁に深く突き刺さると、再び元来た方向へと激しく回転しながら戻っていく。大鎌は里の入口へと戻っていくと、何時の間にか里の入口に展開されていた黒衣の集団の先頭にいる男の手元に帰っていった。
男は大鎌を右手で取ると、右肩に大鎌を置いて首を傾けながらフォルト達を見つめる。
「固まってるなぁ・・・律儀に死刑台の周りに集まってくれるとは、ありがたいね。」
大鎌の男が首を左右に傾けて首の骨を鳴らすと、近くにいる部下が屋根にいるルーテスを見つけて報告をする。
「・・・如何やら内通者の存在が奴らにバレてしまったようですね。」
「構わんさ。どうせ直ぐにバレることだったんだから。寧ろよくここまで気が付かれなかったものだ・・・誉めてやろうじゃないか。」
大鎌の男はそのまま天を突き刺すように大鎌を振り上げると、真っ直ぐフォルト達に突きつける様に振り下ろすと号令をかける。
「さぁ、行けお前達!幾重の死の旋律を轟かせろ!」
「了解!」
大鎌の男の号令を受けると、一気に後ろに控えていた黒衣の集団がフォルト達に襲い掛かってくる。そのまま突っ込んでくる奴や屋上に登って上から攻めてくる奴、回り込むように走り込んでいる奴もいたりと多方面から襲い掛かって来ていた。
エリーシャが周りにいるヴァンパイア達とフォルト達に叫んだ。
「皆さん!ここが私達の墓場だと思って奴らを迎え撃ちなさい!もう私達には逃げ場はありませんよ!」
エリーシャの号令と共に周りにいたヴァンパイア達が一斉に向かってきた黒衣の集団に飛び掛かって戦闘を始める。ありとあらゆるところで阿鼻叫喚の渦が沸き上がり、瞬く間に血の匂いが周囲に漂い始めた。
フォルト達も襲い掛かってくる連中に武器を構えて迎撃しようとしたその時、先程ロメリアが足元に散らばらせてしまった札が赤く膨張し始める。異変を感じたフォルト達がその場から退いた瞬間に札が爆発し、広場の中央に作成していたバリケードが一部吹き飛んだ。
フォルトとロメリアがケストレル達と分断されるように分かたれると、その間にルーテスが屋根から降りてきた。ルーテスは魔術書を開くと、魔力の波動で髪が揺れ、魔術書から放たれる紅蓮に輝く魔力がルーテスの顔を不気味に照らす。
「さぁ、フォルト君・・・かかっておいで。魔術師の神髄・・・君に見せてあげよう。」
「上等だ・・・この裏切り者が・・・ロメリア、油断しないでね。あいつ、結構な手練れだと思うから・・・」
「うん・・・」
フォルトとロメリアがそれぞれ鎖鎌と棍を構えるとルーテスを睨みつける。ルーテスはニヤリと相変わらずの笑みを浮かべている。
その頃、ケストレルとエリーシャ達はルーテスの後方に立っており、今なら彼の背中を狙える所にいた。
「待ってろ、フォルト・・・今からこの糞野郎に一発お見舞いしてやるからな!」
ケストレルがルーテスの背後に向かって大剣で斬りかかろうとした・・・
するとルーテスの背後を守る様に、大鎌を持った男が瞬きする間にケストレル達の前に大鎌を右肩に置いたまま現れた。大鎌の男は再び首を左右に動かして鳴らすと、ケストレル達に声をかける。
「おっと・・・あんた達の相手はこの俺だ。退屈させちゃあ悪いと思ってな。・・・俺って気が利くだろう?」
「手前・・・」
「・・・」
エリーシャは抱きついているシャーロットに視線を移すと、静かに魔力を全身に漲らせる。キャレットもエリーシャに体を近づけて身を構えた。
大鎌の男はエリーシャ達を見て小さく鼻で笑うと、大鎌を構えて落ち着いた口調で話しかける。
「じゃあ、相手をする前に・・・自己紹介をしておこう。・・・あんたは『既に』知っているかもしれないがな?・・・ケストレル?」
「・・・」
「ケストレルさん?どういうことですか?」
エリーシャが不思議そうにケストレルに問いかけるも、ケストレルはエリーシャの方を振り向かず、沈黙を貫いていた。大鎌の男は右手で大鎌を遊ばせながら自己紹介をする。
「俺はコーラス・ブリッツ幹部、『八重紅狼 第七席』・・・ユーグレス・ヴェンデッタという者だ。・・・『元八重紅狼 第六席』、ケストレル・アルヴェニア・・・まさかこんな所で貴様に会えるとは思っていなかったぞ?」
ユーグレスは不敵な笑みを浮かべてケストレルを見下ろすように見つめる。ケストレルは不快そうに顔をしかめる。
「そんな馬鹿な・・・ルーテスさんが・・・裏切り者?」
周りにいたヴァンパイア達が驚き騒めき始める。それもそうだ、ルーテスはかつてこの村の危機を救った恩人でヴァンパイア達にとって家族同然の関係にあるのだから・・・
「あ、貴方!一体何を根拠にルーテスさんが裏切り者だと言っているの⁉ルーテスさんは私達を救ってくれた恩人なのよ⁉さっき根拠があると言っていたからちゃんと私達が納得できるような証拠を出せるんですよね⁉」
フォルトの近くにいた女性のヴァンパイアがフォルトに殴りかかろうかと思うぐらい物凄い剣幕で怒鳴りながら接近してくると、シャーロットがフォルトとそのヴァンパイアの間に両手を広げて割り込んできた。シャーロットがその女性を睨みつけると、女性は後ろへ下がる。
フォルトは右手に鎖を絡みつけてしっかりと握りしめると、左手をジャケットの内側へと忍ばせる。暫くもぞもぞと動かした後、フォルトは懐から数枚の紙を取り出した。フォルトが取り出した札には見たことも無い文字と紋章が赤い塗料で描かれており、どういう効果があるのかは分からないが、フォルトはこの札を手に取った瞬間不吉な予感が全身に走った。
フォルトはその札をルーテスに見せつける様に自分の顔の前でゆっくり振ると、話しかける。
「これが・・・この里の周囲に散らばっていました。そして探していくにつれてある箇所に大量にこの札が集中していました。・・・それが今、敵が進行してきている森の中・・・丁度キャレットさんが担当している場所から・・・こんなにも沢山、出てきました。」
フォルトは自分のジャケットを左腕で勢いよく内側から捲り上げると、無数の同じ柄の札が紙吹雪として周囲に舞った。フォルトとルーテスは札が舞い上がる中、互いに視線をぶつけ合う。
「時間が無かったので他の個所を徹底的に調べることは出来ませんでしたが、調べた範囲だけでも札の展開枚数が明らかに偏っていました。・・・ルーテスさん、貴方キャレットさんに疑いの目が向く様に仕向けましたね?」
「・・・」
ルーテスが下を見て黙り込んでいると、ロメリアがフォルトに話しかけてきた。
「フォルト・・・この札、一体何時の間に集めてき・・・」
ロメリアは言葉を発している最中にはっと目を見開いた。
「まさか・・・トイレに行ってたってのは・・・」
「うん・・・あれ半分嘘なんだ。本当はトイレで用を足して直ぐ部屋に戻るはずだったんだけど・・・見つけちゃってね。ちょっと調べてたから遅くなってしまったんだ。」
ケストレルもフォルトに話しかける。
「フォルト、お前・・・何時この札の存在に気が付いたんだ?」
「札を見つけたのは偶々だよ。トイレに入った時にタオルなどを入れる棚から違和感を感じてね・・・その棚の奥底に貼ってあったんだ。それからこの札から発せられている雰囲気って言うの?それを辿って他の札を探していったらこんなに見つけたって訳。」
「成程ね・・・手元にあるモノを頼りに同類のモノを探し出す・・・まるで犬みたいな感覚してんだな、お前。」
ケストレルは呆れているのか褒めているのか馬鹿にしているのか・・・良く分からない笑みを浮かべると小さく鼻で笑った。フォルトはルーテスに声をかける。
「ルーテスさん、この札に書かれてある文字・・・そして紋章・・・見覚えはありませんか?」
「無いですね。その札も初めて見ました。」
「『初めて』?・・・へぇ、僕は見覚えがありますけどね・・・ついさっき見たような・・・気がね。」
フォルトが鎖を強く引いてルーテスを地面に勢い良く転倒させると、ルーテスの懐から一冊の魔術書がフォルトの方へと滑り出てきた。ロメリアがその魔術書を拾って、表紙を眺めながらフォルトが握っている札に書かれてある文字と見比べる。
「何かこの本の文字とその札に書かれている文字・・・何か似てるような気がするのは私だけ?」
「俺も同じ文字に見えるぞ。・・・なんて書かれているのか分からないけどな。」
ロメリアが本を開いてどんどんページを捲っていく中、シャーロットがフォルトの持っている札を見つめながら小さく呟いた。
「・・・追跡術式と結界弱体術式・・・それに座標転送刻印が・・・描かれています・・・」
「シャーロット・・・この札に書かれてある文字と紋章が分かるの?」
「うん・・・以前師匠・・・ルーテスさんからこの古代文字・・・『ラステバルト語』を教わってたから・・・ちょっとだけなら・・・」
『古代文字・・・道理で見たことが無い訳だ・・・』
シャーロットがルーテスの方にちらりと視線を移すと、直ぐに逸らしてしまって悔しそうに下唇を強く噛んでいた。彼女にとってルーテスは尊敬の対象だったのだろう・・・古代文字も教えてもらうほどだったのだから・・・そんな人が自分達の種族を貶めていたとは・・・本当は信じたくないはずだ。
フォルトはルーテスに向かって強い口調で尋ねる。
「ルーテスさん・・・この札から送られている座標は何処に転送されているんですか?」
「・・・」
「質問を変えます。誰に送っているんですか?『コーラス・ブリッツ』全体へ?それとも『八重紅狼』にだけですか?」
「・・・」
ルーテスは答えない。フォルト達の視線は勿論、周りにいるヴァンパイア達の視線が鋭くルーテスへと突き刺さる。もう誰も・・・フォルト達に口出しをする人はいなくなっていた。
静まり返った中、シャーロットがルーテスに声を振り絞って話しかける。
「お願いです、師匠・・・話してください・・・」
「・・・」
「フォルトから頼まれて・・・師匠の心を覗き見ました。そしたら師匠の心は真っ暗で・・・空が見えなかった・・・村を襲ってきた人達と同じ・・・濁った心をしていた・・・」
「・・・」
「本当は私・・・師匠が裏切り者だなんて・・・信じたくなかったです・・・でもフォルトが・・・先入観を持っちゃダメだ・・・真実を知りたいのなら・・・ルーテスさんが『良い人』っていう意識を捨てて、協力してほしいって・・・だから私・・・」
シャーロットが涙声になりながら訴えを告げると、エリーシャに勢いよく抱き着いて肩を僅かに揺らしながら鼻をすすり始める。フォルトはこの時、シャーロットにはつらい思いをさせてしまったと心の中で後悔してしまっていた。
周りの空気が暗く沈み切っている中、ロメリアがとあるページを開いた。その瞬間、本の間から無数の札が零れだしてきて、ロメリアの足元に散らばった。
「おわぁ!何かいっぱい出てきたよ⁉」
「この札・・・フォルトが持っている札と全く同じだ。・・・こんなに出てきたらもう言い逃れは出来ねえな。とっくに逃げられねえけど。」
ケストレルがロメリアの足元に散らばった札を見下ろしながら呟くと、急にルーテスが不気味な笑い声を出し始めた。その低く、小さな声を聞いたフォルトは咄嗟にルーテスに絡みつけている鎖を強く引いて拘束を固める。
ロメリアやケストレル、キャレット、エリーシャ、周囲のヴァンパイア達が一斉に警戒を強めて武器を構えると、ルーテスはフォルトの方を不敵な笑みを浮かべながら見つめる。
「あはははは・・・いやぁ、流石だね、フォルト君。まさか札を見つけるなんて思わなかったよ。というか、トイレに何で札を貼り付けたんだろうね、私は。全く、貼り付けた当時の自分を呪いたいよ。」
ルーテスは両腕を縛られている中、両足だけでゆっくりと立ち上がる。もう70超えているであろう老人なのに足腰は年齢以上にしっかりしているようだ。
「さて・・・もう逃げられないから真実を話していこうか・・・と今思ったが・・・」
ルーテスが視線を彼から向かって右側へと向ける。その視線の先には・・・キャレットが張った結界・・・ルーテスが弱体化させた結界が広がっていた。フォルトも視線をその方向へ向けた瞬間、隠れ里と森の境界が歪んだ。
「残念ながらもう時間のようだ。残念。」
ズバァンッ!
里を覆っていた結界が一気に裂けて、フォルトの方に2m近い大鎌が勢いよく回転しながら襲い掛かってきた。フォルトは反射的にその場から退いて迫り来ていた大鎌を避けた。
その直後、一瞬緩んだ鎖を見逃さなかったルーテスが瞬く間に鎖から抜け出すと一気にフォルト達と距離を取る様にとある屋敷の屋上に飛び上がった。ルーテスが右手を開くと、ロメリアの手元にあった魔術書が消えて、ルーテスの手元へと移動する。
フォルトが横を通り過ぎた大鎌に目を向けながら小さく舌を打つ。
『くそっ、逃げられたか!それにこの大鎌っ・・・エリーシャさんが見せてくれた『八重紅狼』と思われる男の武器だっ!』
大鎌はそのまま向かいの屋敷の壁に深く突き刺さると、再び元来た方向へと激しく回転しながら戻っていく。大鎌は里の入口へと戻っていくと、何時の間にか里の入口に展開されていた黒衣の集団の先頭にいる男の手元に帰っていった。
男は大鎌を右手で取ると、右肩に大鎌を置いて首を傾けながらフォルト達を見つめる。
「固まってるなぁ・・・律儀に死刑台の周りに集まってくれるとは、ありがたいね。」
大鎌の男が首を左右に傾けて首の骨を鳴らすと、近くにいる部下が屋根にいるルーテスを見つけて報告をする。
「・・・如何やら内通者の存在が奴らにバレてしまったようですね。」
「構わんさ。どうせ直ぐにバレることだったんだから。寧ろよくここまで気が付かれなかったものだ・・・誉めてやろうじゃないか。」
大鎌の男はそのまま天を突き刺すように大鎌を振り上げると、真っ直ぐフォルト達に突きつける様に振り下ろすと号令をかける。
「さぁ、行けお前達!幾重の死の旋律を轟かせろ!」
「了解!」
大鎌の男の号令を受けると、一気に後ろに控えていた黒衣の集団がフォルト達に襲い掛かってくる。そのまま突っ込んでくる奴や屋上に登って上から攻めてくる奴、回り込むように走り込んでいる奴もいたりと多方面から襲い掛かって来ていた。
エリーシャが周りにいるヴァンパイア達とフォルト達に叫んだ。
「皆さん!ここが私達の墓場だと思って奴らを迎え撃ちなさい!もう私達には逃げ場はありませんよ!」
エリーシャの号令と共に周りにいたヴァンパイア達が一斉に向かってきた黒衣の集団に飛び掛かって戦闘を始める。ありとあらゆるところで阿鼻叫喚の渦が沸き上がり、瞬く間に血の匂いが周囲に漂い始めた。
フォルト達も襲い掛かってくる連中に武器を構えて迎撃しようとしたその時、先程ロメリアが足元に散らばらせてしまった札が赤く膨張し始める。異変を感じたフォルト達がその場から退いた瞬間に札が爆発し、広場の中央に作成していたバリケードが一部吹き飛んだ。
フォルトとロメリアがケストレル達と分断されるように分かたれると、その間にルーテスが屋根から降りてきた。ルーテスは魔術書を開くと、魔力の波動で髪が揺れ、魔術書から放たれる紅蓮に輝く魔力がルーテスの顔を不気味に照らす。
「さぁ、フォルト君・・・かかっておいで。魔術師の神髄・・・君に見せてあげよう。」
「上等だ・・・この裏切り者が・・・ロメリア、油断しないでね。あいつ、結構な手練れだと思うから・・・」
「うん・・・」
フォルトとロメリアがそれぞれ鎖鎌と棍を構えるとルーテスを睨みつける。ルーテスはニヤリと相変わらずの笑みを浮かべている。
その頃、ケストレルとエリーシャ達はルーテスの後方に立っており、今なら彼の背中を狙える所にいた。
「待ってろ、フォルト・・・今からこの糞野郎に一発お見舞いしてやるからな!」
ケストレルがルーテスの背後に向かって大剣で斬りかかろうとした・・・
するとルーテスの背後を守る様に、大鎌を持った男が瞬きする間にケストレル達の前に大鎌を右肩に置いたまま現れた。大鎌の男は再び首を左右に動かして鳴らすと、ケストレル達に声をかける。
「おっと・・・あんた達の相手はこの俺だ。退屈させちゃあ悪いと思ってな。・・・俺って気が利くだろう?」
「手前・・・」
「・・・」
エリーシャは抱きついているシャーロットに視線を移すと、静かに魔力を全身に漲らせる。キャレットもエリーシャに体を近づけて身を構えた。
大鎌の男はエリーシャ達を見て小さく鼻で笑うと、大鎌を構えて落ち着いた口調で話しかける。
「じゃあ、相手をする前に・・・自己紹介をしておこう。・・・あんたは『既に』知っているかもしれないがな?・・・ケストレル?」
「・・・」
「ケストレルさん?どういうことですか?」
エリーシャが不思議そうにケストレルに問いかけるも、ケストレルはエリーシャの方を振り向かず、沈黙を貫いていた。大鎌の男は右手で大鎌を遊ばせながら自己紹介をする。
「俺はコーラス・ブリッツ幹部、『八重紅狼 第七席』・・・ユーグレス・ヴェンデッタという者だ。・・・『元八重紅狼 第六席』、ケストレル・アルヴェニア・・・まさかこんな所で貴様に会えるとは思っていなかったぞ?」
ユーグレスは不敵な笑みを浮かべてケストレルを見下ろすように見つめる。ケストレルは不快そうに顔をしかめる。
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