最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~ヴァンパイア・ガール編 第8章~

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[血縁]

 「申し訳ありませんね、フォルト君。こんな所に呼び出してしまって。」

 ルーテスはフォルトを連れて2階と1階を繋ぐ階段の踊り場へと連れてくると、穏やかな声で謝った。踊り場にある大きな窓からは霞んだ日光が寒々しく家の中へと入り込んでいる。

 「ルーテスさん・・・話って一体何ですか?」

 フォルトの言葉を聞いたルーテスはフォルトに返事を述べる事無く、朧な景色が広がる窓の外を見つめる。フォルトが目を細めて言葉を付け加える。

 「それともう1つ・・・初めて会った時、僕の髪を見て驚いていましたよね?その理由もついでお聞きしても宜しいでしょうか?」

 フォルトが少し強い口調で詰め寄る様にルーテスに声をかけると、ルーテスはゆっくりと体をフォルトの方へと向けた。ルーテスはフォルトの顔を真っ直ぐ、懐かしいものを見るかのような眼で見つめる。

 「フォルト君・・・君は両親がどんな人だったか覚えていますか?」

 『な・・・何を急に言い出すんだこの人は・・・』

 フォルトはルーテスの全く意図の読めない質問に首を傾げながらも返答する。

 「・・・少しだけなら。もう曖昧になってきていますけれど・・・それがどうしたんですか?」

 ルーテスは小さく頷くと、別の質問を投げかけてきた。

 「・・・フォルト君と同じ勿忘草色の髪をしていたのは父親の方ですか?それとも母親の方でしたか?」

 「母親です。・・・あの、そろそろ何でこんな質問をするのかその理由をお話していただけないでしょうか?」

 「母親方の祖父や祖母については・・・」

 「知りません。母は自分が生まれた時には既に孤児だったそうですから。」

 フォルトが淡々と質問に答えると、ルーテスは『そうですか・・・』と言って再び窓の方へと体を向けて霧に包まれた街を見る。

 『一体何なんだ?何で僕にこんなことを聞くんだ?』

 フォルトが相変わらず何を知りたいのか、その意図を読み取ることが出来ないルーテスに若干不信感を抱いていると、ルーテスは懐から一枚の紙を取り出した。その紙は先程エリーシャが見せてくれた絵の紙のように白く、描かれている絵もその時間を切り取ってきたかのように綺麗だった。

 ルーテスはその絵を見つめながら静かに独り言のように呟き始める。

 「・・・私には3人の子供がいました。上の2人は共に7歳の双子の兄弟で末っ子は5歳の女の子でした・・・皆真面目な子達でしてね、特に末っ子は3人の中でも1番甘えん坊でしたね。」

 「・・・」
 
 ルーテスはその絵が描かれた紙をフォルトの方へと差し出した。フォルトが受け取った絵を見つめると、少し息が止まった。

 『皆、勿忘草色で癖毛のある髪だ・・・僕と同じ・・・顔立ちも似てるような気が・・・』

 フォルトはより注意深く絵を見つめていると、絵に映っている1番右側にいる小さな女の子に視線が移る。その女の子が左髪につけている髪飾りを見た瞬間、フォルトの胸に何か妙な違和感が渦巻き始める。

 『この花の髪飾り・・・何処かで見たような・・・』

 フォルトが左手で頭を少し掻きながら記憶を遡っていると、ルーテスが横から静かに語り掛けてきた。

 「私達一族は昔から伝説的暗殺者『ジャッカル』の血を引いていると言われてきました。その証として、ジャッカルの血を引く者は髪の毛の色が必ず『勿忘草色』と呼ばれる薄い蒼色になり、癖毛があるということらしいです。勿忘草色の髪はジャッカルの血を引く者にしか現れず、それ以外の人々は決してその色になることは無いということなので、髪の毛を見ればすぐに判別できるらしかったですよ。」
 
 「・・・へぇ。」

 『髪の毛染めたらどうなるんだろう?』

 フォルトは思わず心の中でそんなどうでもいい疑問が浮かんだ。

 「最も、本当に私達がジャッカルの子孫だったかどうかは断定できません。私もその話は父から聞いた話でしたので・・・」

 ルーテスは顔を窓の方へと向ける。

 「だがそんなことはどうでもよかった・・・ジャッカルの血が体に流れていようが・・・私達にはどうでもよかったんです。ただ家族と静かに暮らせれば・・・皆元気に成長してくれればそれでよかった・・・」

 ルーテスは右手を強く握りしめ、右手の甲に血管が浮き出てくる。

 「しかし神様はとても意地悪らしく、私達の平穏を一瞬のうちに壊していきました。妻も父も母も殺され・・・私は子供3人を連れて逃げるしかできませんでした。でも追手は私達を追い詰め、このままでは確実に全員殺されてしまう・・・そんな状況にまで追い詰められてしまいました。」

 ルーテスの言葉を聞きながら、フォルトは絵に視線を向け続ける。

 「追い詰められた時、傍には大きな川がありました・・・この大陸全土に広がる巨大な河川が・・・そこで私はある決断をしました。子供達を・・・この川につき落として逃げさせようと・・・」

 「・・・」

 「川に子供をつき落とすなどありえない話ですよね?そんな事をしてしまえば子供が死んでしまうじゃないかと・・・でも僅かに生存する可能性があるのなら・・・それに賭けるしかなかった・・・」

 ルーテスの声が震えて瞳が僅かに大きくなると、左頬が僅かにピクッと痙攣した。フォルトは目を細めてルーテスに静かに声をかけた。

 「それで・・・突き落としたんですか?」

 「ええ・・・子供達にそれぞれ我が家に代々伝わる『武器』を託して。」

 ルーテスはフォルトの方に視線を向ける。その目は先程とは変わって涙で少し潤んでいて、まるで許しを請いているような哀れな目をしていた。それからルーテスはフォルトが手に持っている絵に写っている子供達をそれぞれ指さしながら話を進める。

 「双子の兄には『白銀に輝く鎖鎌』を・・・弟には『銃口が2つ縦についている茨の彫刻が刻まれた2丁マグナムリボルバー』・・・そして娘には『ワイバーンの鱗と皮を加工して作られた漆黒の鞭』を渡して・・・」

 「白銀に輝く・・・鎖鎌・・・」
 
 フォルトは絵を左手に持って右手をジャケットの懐へと忍ばせると、朧な日の光を受けて薄っすらと輝く白銀の鎖を取り出した。その鎖を見た瞬間、ルーテスが目を見開いて声を震わせた。どうやらその鎖鎌がそれらしい。

 「フォルト君・・・そ、その鎖鎌は・・・何処で・・・」

 「グリュンバルド大陸にあるミスティーヌの森と呼ばれる森林地帯で手に入れました。元々はその森を彷徨っていた亡霊が持っていたモノなので最初から僕のモノだったわけじゃありません。」

 「その亡霊は・・・フォルト君と同じ・・・色の髪だったですか?」

 「あの時は戦いに必死で髪の毛を確認している所じゃありませんでしたが・・・多分同じ色だったと思います。」

 『あの森にいた亡霊は恐らくレイアさんのお爺さん・・・だとしたらレイアさんもジャッカルの血を引いている?・・・じゃあ僕とレイアさんって・・・遠い親戚なのか?確かにレイアさんは左髪にこの絵に写っている女の子と同じ髪飾りをしていた・・・』

 フォルトは鎖鎌を懐に戻すと、右手で顎を擦り始めた。
 
 『でも待てよ・・・レイアさんは花の髪飾りをつけていたけど・・・それはこの絵に写っている女の子の子孫じゃないと受け継がれないよな?それにレイアさん・・・確か腰に黒の鞭をつけていたような・・・だとしたらレイアさんは女の子の子孫ということ?・・・いや、それだと双子の兄の血と末っ子の女の子の血が混じっているのか?』

 フォルトが首を傾げて思考を巡らせていると、ふと以前リールギャラレーでの会話を思い出した。

 『・・・そうだ!確か以前、レイアさんと会ってグースさんの下へと向かっている時、ロメリアが髪飾りと鞭について聞いていたよな!・・・確かその時、レイアさんは髪飾りと鞭はかつてレイアさんのお爺さんが森で殿を務める際にレイアさんのお婆さんに託したものだって言ってた・・・ということはレイアさんには末っ子の女の子の血は流れていない?じゃあ何でレイアさんのお爺さんは鞭と髪飾りを持っていたんだ?託されたのは鎖鎌だけじゃないのか?・・・何か頭が痛くなってきたぞ・・・』

 フォルトが首を何度も左右に傾げて眉間に皴を寄せながら悩んでいると、ルーテスが急に小さく微笑んだ。まるで懐かしいものを見たかのような、優しい目をしながら。

 「な、何ですか?」

 「いや・・・末っ子の娘のことを思い出しましてね。娘はいっつも考え事をする際にフォルト君みたいに右手を顎にやって、目を瞑って首を傾げてたんですよ?」

 「へぇ・・・そうなんですか・・・」

 「それに君の目は娘の目にそっくりだ・・・双子達の目ではない、娘独特の優しい目をしてる・・・」

 ルーテスはフォルトの目をまじまじと見つめてきた。フォルトは少し恥ずかしくなってルーテスから目を背けると、急にお腹に違和感が現れた。

 フォルトがお腹に手をやって神妙な面持ちになると、ルーテスが不思議そうに話しかけてくる。

 「どうしたのですか、フォルト君?」

 「いや・・・ちょっと急にトイレに行きたくなっちゃって・・・」

 「ああっ、それは大変だ。トイレは階段を下りた先にある廊下の向かって右側にありますよ。」
 
 「あ、ありがとうございますっ!」

 フォルトは尿意を抑えながら階段を一気に降りていく。フォルトがトイレへと駆け込んでいく瞬間、ルーテスはフォルトに声をかける。

 「フォルト君!私の話はこれで終わりですので、部屋に戻っていますね!用が済んだらフォルト君も部屋に来てください!」

 フォルトは手を振って返事をすると、トイレの中へと姿を消していった。ルーテスは軽く微笑んで階段をゆっくりと上がっていく。

 霞んだ陽の光がルーテスの背中を暗く照らしている。
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