最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~ヴァンパイア・ガール編 第5章~

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[シャーロット・ドラキュリーナ]

 「ねぇ君!何処まで行くつもりなの⁉」

 フォルトは女の子に手を引かれながら森の中をただひたすらに走り続ける。女の子と一緒に走ってどれぐらい経っただろうか・・・足が重くなってきた。後ろからはロメリアとケストレルが追走してきていたが、2人共呼吸を荒くしている。

 「何処まで走るつもりなの・・・ケストレル?」

 「俺に聞くな・・・俺にだって分かんねえよ・・・取り合えず、あのガキについて行けばいいんだろ?」

 ケストレルは愚痴を零すかのように吐き捨てると、深く息を吸って体中に酸素を巡らせる。

 それからしばらく走った後、少し開けた場所にフォルト達は出た。中央には樹齢1000年は超えていそうな立派な大樹が聳え立っており、この森の母親の様な存在感を醸し出している。女の子は大樹の傍に駆け寄ると、周囲を見渡しながらフォルトの手を離した。フォルトが息を整えていると、後ろからロメリアとケストレルも合流し同じく荒れた息を収めていた。

 女の子も少し息を乱しており軽く胸を抑えながら深呼吸をすると、フォルト達の方を振り返った。ウェーブのかかった深紅色の長髪が優しく舞う。

 「ここなら・・・安心・・・です。」

 「そ・・・そう・・・ありがとう・・・」

 フォルトが女の子に感謝の言葉を述べると、女の子は大樹の傍にある巨大な根っこに腰を下ろした。フォルトとロメリアが彼女に近づき、ケストレルはその場に立ったまま先程自分達が走ってきた方に顔を向けていた。

 フォルト達が女の子に近づくと、女の子は顔を俯けながら度々こちらに視線を向けていた。どうやら人見知りが激しい性格なのかもしれない。

 『まぁヴァンパイアってあんまり世間に知られていないからなぁ・・・僕だってケストレルに言われる迄本当にいるだなんて信じてなかったし・・・同族以外を見たら困惑しちゃうのも無理はないか・・・』

 フォルトが女の子をまじまじと見つめながらそんな事を思っていると、ロメリアが女の子の傍に寄り添うように根っこに腰掛けた。女の子はロメリアが隣に座ると、ちょっと体を動かして距離を取る。

 ロメリアは軽く咳をすると、女の子に声をかける。

 「さっきは私達を助けてくれてありがとう!私の名前はロメリア。で、目の前にいる男の子はフォルトで、奥にいる人がケストレル。貴女のお名前は?」

 「・・・」

 女の子は俯いたまま、ロメリアの方に視線を何度も向けながら言葉を静かに発する。

 「・・・『シャーロット』・・・『シャーロット・ドラキュリーナ』・・・」

 「シャーロットちゃんだね?とっても可愛らしい良い名前だねっ!」

 ロメリアはシャーロットに体を近づける。シャーロットはロメリアが近づいてくると、綺麗に揃えている足をロメリアの反対方向へと動かす。
 
 「ねぇ、シャーロットちゃん。いくつか質問したいことがあるんだけれど・・・いい?」
 
 「・・・はい・・・」

 「ありがとう!助かるよ!」

 シャーロットが消えそうな程な声で呟くと、ロメリアは満面の笑顔で感謝の意を表した。

 「それじゃあ早速質問するね?答えたくなかったら答えたくないって言っていいよ?」

 「・・・はい・・・」

 「じゃあ一つ目!シャーロットちゃんはヴァンパイアなの?」

 「・・・はい・・・そう・・・です・・・」

 「わぁ!本当にヴァンパイア何だね!初めて見たけどお人形みたいで可愛いぃ~!抱きしめていい?」

 「ちょっとロメリア・・・」

 「え・・・それは・・・」

 シャーロットが思わず顔を上げて困惑していると、ロメリアがシャーロットの同意を得ずにいきなり抱きしめた。ロメリアは『柔らか~い!良い匂いする~!』と感激しながらシャーロットの体を強く揺さぶる。シャーロットは嫌そうに顔をしかめた。

 「う・・・うぅ・・・」

 「ロメリア・・・シャーロット、とても嫌がってるよ?それに苦しそうだ・・・離してあげなよ?」

 「えっ?あ、ごめん・・・つい・・・」

 ロメリアがシャーロットから離れると、シャーロットは軽く咳き込んでロメリアから距離を取った。ロメリアが申し訳なさそうに項垂れると、フォルトがシャーロットと向かい合うようにしゃがみこんだ。

 「シャーロット、ごめんね・・・ロメリアは決してシャーロットを痛めつけたいとかそういう気持ちは一切無いから許してほしいな・・・ほら、ロメリアもあんな顔してるし。」

 「ごめんね、シャーロットちゃん・・・」

 「・・・分かりまし・・・た。」

 シャーロットがそう呟くと、フォルトがロメリアに変わって質問を投げかけていく。

 「じゃあ今度は僕から質問していくね?・・・何で僕達を助けたの?」

 シャーロットはフォルトの質問を受けると、ゆっくりと顔を上げてフォルトの目を見つめた。シャーロットの鮮やかな浅黄色の目を見つめるフォルトは自分の心を見透かされている様な何処か得体の知れない寒気を覚える。

 「・・・貴方達は悪い人・・・じゃない・・・です・・・皆さんの心には・・・邪気が宿って・・・いないから・・・」
 
 「・・・君には人の心が見えるの?」

 シャーロットはゆっくりと頷いた。

 「私達ヴァンパイアは・・・人や魔物の心を空模様のように見ることが出来るん・・・です。」

 シャーロットはフォルトを指さした。

 「貴方は早朝の空のように薄明るく、爽やか・・・とても美しい・・・心・・・」

 シャーロットは次にロメリアを指さした。

 「ロメリアさんは夏の何処までも広がる空のように蒼く、とても暖かい・・・傍にいてくれるだけで皆を笑顔にしてくれる・・・心・・・」

 最後にシャーロットは奥に立っているケストレルを指さした。ケストレルはシャーロットに視線を向けると、直ぐに逸らした。フォルトとロメリアは正直、ケストレルのことが良く分からないので内心物凄くワクワクしていた。

 「ケストレルさんは・・・暗く深い雨雲が一面に漂っていて・・・ずっと雨が降っている・・・止むことの無い雨・・・とても寂しく・・・悲しい・・・心・・・」

 ロメリアとフォルトがケストレルを見ると、ケストレルは背を向けて、こちらに顔を向けないように立つ。・・・どうやらケストレルは過去に何か辛い事があったらしい。シャーロットは腕を下ろすと、フォルトを見つめる。

 「だから貴方達は悪い人じゃない・・・んです。だから・・・貴方達を助けた・・・んです。」

 シャーロットはそう言うと、フォルトに薄っすらと微笑んだ。鋭い牙がちらりと口から覗く。フォルトはシャーロットから微笑みかけられると思わずその幼いながらも何処か色気を感じる妖艶は表情に頬を赤らめた。

 フォルトはロメリアの何処か痛い視線を浴びながら煩悩を振り払うと質問を続ける。

 「ごほんっ!え~と・・・続けて質問させてもらうね・・・」

 「フォルト?何で顔赤くしてるの?」

 「何でもないよ!ていうかそんな目細めて見ないでっ!・・・シャーロットは森の中を逃げ回ってたけど・・・誰から逃げていたの?どう見ても迷子になったとかそういう感じじゃないよね?」

 「どうせ俺達を襲ってきた奴らだろ?違うか?」

 ケストレルの言葉にシャーロットは小さく頷く。

 「あの人達が・・・私達の里を襲ってきて・・・皆の首を・・・どんどん・・・落としていったん・・・です・・・私の友達も・・・お婆ちゃんも・・・お爺ちゃんも・・・皆・・・皆・・・」

 シャーロットが体を震わせ始めると、ロメリアがそっとシャーロットを優しく抱きしめる。シャーロットはロメリアの胸に顔を埋めて、涙を流す。

 「・・・大変だったね、シャーロット・・・お母さんやお父さんは?」

 「分からない・・・です・・・お母さんは魔術で私を里から飛ばした・・・から・・・今何処にいるのか・・・隠れ里もあるって噂だけど・・・私は分からない・・・何処にあるのか・・・」

 「隠れ里・・・この森の何処かに・・・」

 フォルトがそう呟いた時、ケストレルが背中にかけている大剣の柄に手を置いて、森のある1点を睨みつける。

 「フォルト、ロメリア・・・誰か来る。」

 「まさか、追手っ⁉」

 「いや・・・さっき感じていた雰囲気とはまた別だ・・・殺気がまるで感じねぇ・・・」

 フォルトも立ち上がって懐に仕舞っている鎌に手をかける。ロメリアはシャーロットを守る様に抱きしめ続ける。
 
 ケストレルが見ている方を眺めていると、森の奥から1人の深緑のローブを着用した勿忘草色の長髪をもつ老人が現れた。性別は男で左手には何やら紫苑色の分厚い本を持っている。本の表紙には何か言葉が書かれているが、見たことも無い言葉で読むことは出来なかった。

 その老人が現れた瞬間、シャーロットはロメリアから離れて老人の下へと走り寄る。シャーロットはそのまま老人に抱きつくと、シャーロットを抱きしめて頭を優しく撫でた。

 「おお、シャーロットや・・・無事じゃったか・・・ずっと探しておったんじゃよ・・・」

 「師匠こそ・・・無事で・・・何より・・・です・・・」

 シャーロットは鼻をすすりながら老人に涙声で声をかける。老人は軽く微笑むとフォルト達を見る。

 「皆様・・・この度はシャーロットを助けて頂き感謝しますぞ・・・」

 「いえいえ・・・僕達の方こそシャーロットに助けて頂きましたから・・・」

 フォルトが老人に声をかけると、老人はフォルトの姿を見て目を見開いて驚いた。

 「貴方・・・私と同じ・・・勿忘草色の髪を持っていらっしゃる・・・もしや貴方も・・・」

 「えっ?」

 フォルトが老人の言葉に首を傾げていると、ロメリアとケストレルがフォルトの方を見る。フォルトは自分の髪が一体何なのか・・・何を表しているのか良く分からず困惑する他なかった。

 フォルトの懐に入っている鎖鎌が白銀の輝きを帯びており、それと呼応するようにロメリアが背中にかけている棍と老人が持っている本も薄っすらと光を帯び始めた。
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