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~ヴァンパイア・ガール編 第3章~
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[逃走]
「まさか森の中で急に車が動かなるとか・・・勘弁してほしいぜ。」
ケストレルは大きな溜息をつくと、座席の背もたれにもたれ掛かった。ロメリアは窓に頭をつけて静かに眠っていて、フォルトは通路から体を乗り出して、フロントガラス越しに修理をしている運転手を見つめていた。
あの後、車を走らせていると少しずつ車の速度が落ちていき、最終的に森の真ん中で車は止まってしまったのだ。燃料も十分にあり、宿から出る際にはしっかりと点検を済ませて異常がない事も確認していたようなので、運転手は首を傾げていた。
エアコンが切れてしまった為に車内の温度はみるみる上がっていき、車内のドアを幾つか開けている状況だ。しかし温度は下がることなく、寧ろ外から湿気が入り込んで来たり、蚊が飛んで来たりと状況が悪化していく。
フォルトは手で顔を仰ぎながらケストレルに声をかける。
「ケストレル・・・車の修理って大体どのぐらいかかるものなの?」
「さぁな。直ぐに終わる程度だったり、一日かかっても終わらないものだったり、そもそも応急処置も出来ない程故障してたり・・・場合によるから何とも言えねえな。俺も修理に関する知識は無ぇからはっきりと分かんねぇな。」
「ふ~ん・・・そっかぁ・・・」
フォルトが短く溜息をついてフロントガラスに視線を戻すと、運転手が車の中へと首を傾げながら入ってきた。戻ってきた運転手にケストレルが声をかける。
「なぁ運転手さんよ?原因は何だったんだ?」
「それが全く分からないんですよ。エンジンも全て点検したんですが何処もおかしい所も無くて・・・タイヤも無事だし・・・」
「だったらもう一回エンジンかけてみたらどうだ?結構時間おいてるからかかるかも知れねぇしさ。」
「はい・・・やってみます。」
運転手は乗客全体に深く頭を下げると、運転席に座ってエンジンをかけようとした。
その時だった。
ドンッ!
急に車全体が激しく揺れて、体が座席から吹き飛びそうになった。まるで車の正面から何か巨大なものがぶつかって来たかのような感覚で、フォルト達は前に視線を向けたが何も見当たらず、周囲にも変わった様子は無かった。何で突然揺れたのか全く理解できず、乗客達は不安で騒めき始める。
運転手がエンジンをかけようとキーを回したが、空回りするような音が響くだけで、一向にエンジンがかかる気配はしなかった。
「うはぁ!どしたの、フォルト⁉さっきの揺れは⁉」
ロメリアが目を覚まして、朧な意識のままフォルトに声をかける。
「分からない・・・何で揺れたのか、分からないんだ。」
「でもすっごい揺れたよ?私が寝ていても気が付くぐらいだもん。」
ロメリアが窓を開けて顔を覗かせながら周囲を見渡していると、運転手が座席から立ち上がって車の外へと出ようとした。ケストレルが咄嗟に声をかける。
「おい、待てよ運転手。無暗に外に出るのは危険だぜ?」
「しかしさっきの衝撃でエンジンが壊れていないか確認する必要がありますし・・・それにさっきエンジンをかけてみたんですがやっぱりつかなかったんです。」
運転手がそう言うと、ケストレルが立ち上がった。
「なら俺も手伝うぜ。盗賊の仕業ってこともあるかもしれねえからな。」
「しかしお客様・・・」
「何心配すんな。俺は傭兵だ。・・・ほら、しっかりと傭兵証明証も持ってる。」
ケストレルは運転手に自分の名前やその他重要事項が書かれた証明書を見せる。運転手は小さく頷くと、申し訳なさそうに話しかける。
「・・・分かりました。ではお金は後で払いますので、点検をしている際の警護をお願いできますか?」
「良いぜ。・・・あ、金は別に要らないから。とっとと車直してくれるだけでいい。」
ケストレルが運転手と言葉を交わして外へ出ようとすると、フォルトとロメリアも立ち上がった。
「あの!僕も手伝っていいですか?」
「私もっ!車のことは良く分かんないけど・・・でも何か手伝いをさせて下さい!」
「おい、お前ら!勝手に便乗してくるんじゃねぇよ!迷惑だから席に座ってろ!」
ケストレルがフォルト達に声を上げると、運転手は静かに声を上げた。
「・・・分かりました。お2人共、決して森の中には入ったり、勝手な行動はしないで下さいね。」
「おい、いいのか?こいつら傭兵でもなんでもねぇ只の観光客だぞ?」
「構いませんよ。人手が多い方が助かりますし・・・」
運転手はそう静かに告げると、外へと出ていった。フォルトとロメリアが貴重品だけを持って直ぐに外へ出ると、ケストレルは小さく舌を打ってフォルト達を追いかける。
運転手は車の前に立つと、ボンネットを開けてエンジンをいじり始めた。運転手が作業している中、ケストレルがフォルト達に声をかける。
「フォルト、ロメリア。お前達ちょっとこのバスの周りを見てきてくれないか?森には入らなくていいからな。」
「分かった。行こ、ロメリア?」
「うん。」
フォルトとロメリアはケストレルから言われた通りにバスの周りを点検した。陽の光が差し込まない森の中であるので、時折森の中から良く分からない動物の声が急に聞こえたりして、その度にロメリアがフォルトに身を寄せてくる。
「ロメリア・・・ちょっと離れてよ・・・」
「だって・・・ちょっと怖いんだもん・・・」
「だったら車の中で待っていればいいじゃん・・・わざわざ外に出てこなくたって・・・」
「バスの中暑いんだもん・・・湿度も高いし・・・外にいる方が気持ちいいし・・・」
「運転手の人手伝うんじゃなかったの?」
「それも・・・あった・・・」
「・・・」
フォルト達が車の後ろまで見回ってケストレル達がいる車の前方へと歩いていると、急に森の中から大量の鳥がけたたましい音を立てながら飛び上がり、森を騒めかせる。
「きゃあああああああああああっ⁉」
「ぐぇっ!」
ロメリアが鳥達に驚いてフォルトに思いっきり抱きついた。首が締まり、息が出来なくなる。
「何、何、何っ⁉急に飛び立たないでよっ、鳥達の馬鹿ぁ!」
「・・・急に抱きつかないでよ・・・ロメリアぁ・・・」
「あ・・・ごめん、つい・・・」
ロメリアはフォルトから離れると、フォルトは呆れたように溜息をついて歩き始めた。ロメリアはちょっと申し訳なさそうにフォルトの後ろを付いて行く。
戻ってくると、相変わらず運転手の男は首を傾げてエンジンを眺めていた。
「どうですか?」
「う~ん・・・やっぱり良く分からないなぁ。特に壊れていないのに何で動かないんだろう・・・」
男が悩ましそうにエンジンを眺めていると、ケストレルが話しかけてくる。
「フォルト。周りの様子はどうだった?」
「特に異常は見当たらなかったよ。不審な人や動物の気配もしなかったし。」
「そうか。・・・ところでさっきロメリアが滅茶苦茶叫んでいたのは・・・」
「あぁ・・・あれは鳥が急に飛び上がって・・・それで驚いて声を出して・・・僕の心臓も止まりそうになったよ・・・」
「・・・喧しい女と一緒でお前も苦労するな。」
「誰が喧しい女だって?」
ロメリアがケストレルを睨みつけると、『別に』と言ってロメリアにそっぽを向く。フォルトの方にも視線を向けると、フォルトもロメリアから顔を背けたので『何で私の顔を見ないの?』としつこく絡んできた。
フォルトが暫くロメリアからの絡みを躱していると、運転手がボンネットをしめてケストレル達に声をかける。
「・・・取り合えず、確認は終わりましたのでもう一度エンジンをかけてみようと思います。・・・皆様、警護ありがとうございました。」
「分かった。・・・戻るぞ、お前達。」
「運転手さん、お疲れさまでした!」
『・・・結局何も手伝えなかったな・・・』
ケストレル達が車の中へと戻ろうとした・・・その瞬間。
ズルッ!
「うわっ!」
車の真下から急に触手が伸びると、運転手の足に巻き付いて勢いよく引きずり込む。ロメリアが咄嗟に運転手の両腕を掴んで引きずり込まれるのを防ごうとするが、触手はロメリアごと引きずり込むかのように触手は車の下へと引っ込んでいく。
「運転手さん!ロメリア!」
「くそっ!」
フォルトとケストレルが運転手の手を掴んで思いっきり引っ張るが、それでも運転手の体はどんどん車の下へと入り込んでいき、下半身が車の下へと隠れる。
「は・・・離してください、皆さん!このままでは皆様もっ・・・」
「黙ってろ、オッサン!ロメリア!フォルト!もっと引け!」
「引いてるよっ!・・・でも・・・全然動かないの!」
「う・・・ぐぅっ・・・車の下に・・・何かいたのか!油断したっ・・・」
フォルト達が歯を食いしばっていると、突然車の下から血が噴き出してきて、運転手が壮絶な叫び声を上げ始めた。
「ぐあああああああああああああああああああああっ!」
「運転手さん⁉しっかりして下さい!」
「早く引っ張れっ!死ぬぞ!」
ケストレル達が一気に運転手の手を引っ張った。
・・・ブチィ・・・
何かが切れる音と共に急に運転手を反対側から引っ張る力が弱くなり、すっぽりと運転手の体が車の下から出てきた。勢い良く引っ張っていたので、ロメリア達は一気に後ろへと下がって尻もちをついた。
ロメリアが急いで体勢を立て直して運転手を見つめると、言葉を失った。同じくフォルトとケストレルも運転手の体を見た瞬間に思わず体が震えた。
「下半身が・・・千切れてる・・・」
「嘘だろ・・・運転手は・・・」
「もう・・・死んでる。・・・ごめんなさい・・・助けられなくて・・・」
ロメリアが運転手に言葉を告げた瞬間、触手がロメリア達に勢い良く伸びてきた。フォルトは懐から鎖鎌を取り出すと、襲い掛かってきた触手を全て切断すると、ロメリア、ケストレルと共に後ろへと下がった。
フォルトは鎖を握って鎌を振り回すと、車の下へと鎌を投擲する。鋭く回転しながら車の下へと入って行くと、確かな手応えと共に、車の下から紫色の血のような液体が飛び散る。
血で濡れた鎌を引き戻すと、同時に車の下からムカデの様な足が多くついており、外皮が殻で覆われている魔物が這い出てきた。ロメリアとケストレルもそれぞれの武器を構えて魔物と対峙する。
「こいつが運転手をやった奴か!・・・気持ち悪い見た目しやがってっ・・・」
「油断は禁物だよっ!人の体を食いちぎる程だからね!」
フォルト達が魔物と睨み合いをしていると、突然両方の森の中から深緑色の筒状の物体が車の下へと投げ込まれた。魔物の周囲にもばら撒かれ、フォルト達の足元にも2つ転がってきた。
「ん?なにこれ・・・」
ロメリアがその筒を不思議そうに見つめていると、ケストレルが顔から血の気を引かせてフォルトとロメリアを抱えながらその筒から離れる。ケストレル達がその筒から距離を取った直後、筒が炸裂し、爆音と爆風、熱風が周囲を震わせる。ケストレルはフォルトとロメリアを抱えたまま思いっきり吹き飛ばされると、地面を転がった。
「さっきの・・・さっきの筒は何なの⁉」
「あれは『炸裂手榴弾』っていう人や障害物を吹き飛ばす最近開発された爆発物だ!まともに食らったら原型なんか残んねえぞ!」
ケストレルが痛む体をゆっくりと起き上がらせる。フォルトとロメリアも立ち上がって奥の様子を見ると、魔物は木っ端微塵に吹き飛んでおり、車も僅かに原型は残っているが、激しく燃え上がっており、周囲に人影が見えないことから恐らく既に命を落としているだろう・・・
「車がっ・・・糞っ!周りに人の姿は・・・見えねえよな?」
「何で・・・何で私達がこんな目に・・・私達が何をしたっていうの⁉」
ケストレルとロメリアが抑えきれない感情を吐き出していると、フォルト達から向かって右手の森の中から多数の殺気が向けられているのが感じ取れた。フォルトは鎌を構えて、森の方を見る。
「2人共、構えて!右の森に何かいるっ!」
「俺達を狙ってやがるって訳か?・・・上等だ、かかってきやがれ!」
「私も容赦しないよっ!こそこそ隠れてないで、早く出ておいで!」
フォルト達がそれぞれの武器を構えて森の方を向いた。・・・その時、誰かが急にフォルトの手を掴んだ。小さく、白い死人のようで・・・そしてとても暖かい手がフォルトの手を強く引く。
フォルトがその手の方を振り向くと、そこにはさっき道端に倒れていた深紅色の緩やかなウェーブがかかった女の子がいた。女の子は白く綺麗な歯を見せると、フォルトに話しかける。
「・・・こっち・・・です・・・」
女の子はそう一言、消えそうな蝋燭の火のように呟くと、フォルトの手を勢い良く引っ張って殺気が漂う森とは反対方向へと入って行く。少女が着用しているゴシック風のドレスがひらひらと揺れる。
「フォルト⁉どこ行くの⁉」
ロメリアが少女に連れられていっているフォルトの後を追って森の中へと入って行く。
「おい、手前ら!・・・くそ、一体何なんだよ!」
ケストレルもフォルト達の後を追って森の中へと入って行く。フォルトは少女に引っ張られるまま、道なき森をかき分けていく。
森全体に不穏な空気が漂い、動物の鳴き声は聞こえなくなっていた。
「まさか森の中で急に車が動かなるとか・・・勘弁してほしいぜ。」
ケストレルは大きな溜息をつくと、座席の背もたれにもたれ掛かった。ロメリアは窓に頭をつけて静かに眠っていて、フォルトは通路から体を乗り出して、フロントガラス越しに修理をしている運転手を見つめていた。
あの後、車を走らせていると少しずつ車の速度が落ちていき、最終的に森の真ん中で車は止まってしまったのだ。燃料も十分にあり、宿から出る際にはしっかりと点検を済ませて異常がない事も確認していたようなので、運転手は首を傾げていた。
エアコンが切れてしまった為に車内の温度はみるみる上がっていき、車内のドアを幾つか開けている状況だ。しかし温度は下がることなく、寧ろ外から湿気が入り込んで来たり、蚊が飛んで来たりと状況が悪化していく。
フォルトは手で顔を仰ぎながらケストレルに声をかける。
「ケストレル・・・車の修理って大体どのぐらいかかるものなの?」
「さぁな。直ぐに終わる程度だったり、一日かかっても終わらないものだったり、そもそも応急処置も出来ない程故障してたり・・・場合によるから何とも言えねえな。俺も修理に関する知識は無ぇからはっきりと分かんねぇな。」
「ふ~ん・・・そっかぁ・・・」
フォルトが短く溜息をついてフロントガラスに視線を戻すと、運転手が車の中へと首を傾げながら入ってきた。戻ってきた運転手にケストレルが声をかける。
「なぁ運転手さんよ?原因は何だったんだ?」
「それが全く分からないんですよ。エンジンも全て点検したんですが何処もおかしい所も無くて・・・タイヤも無事だし・・・」
「だったらもう一回エンジンかけてみたらどうだ?結構時間おいてるからかかるかも知れねぇしさ。」
「はい・・・やってみます。」
運転手は乗客全体に深く頭を下げると、運転席に座ってエンジンをかけようとした。
その時だった。
ドンッ!
急に車全体が激しく揺れて、体が座席から吹き飛びそうになった。まるで車の正面から何か巨大なものがぶつかって来たかのような感覚で、フォルト達は前に視線を向けたが何も見当たらず、周囲にも変わった様子は無かった。何で突然揺れたのか全く理解できず、乗客達は不安で騒めき始める。
運転手がエンジンをかけようとキーを回したが、空回りするような音が響くだけで、一向にエンジンがかかる気配はしなかった。
「うはぁ!どしたの、フォルト⁉さっきの揺れは⁉」
ロメリアが目を覚まして、朧な意識のままフォルトに声をかける。
「分からない・・・何で揺れたのか、分からないんだ。」
「でもすっごい揺れたよ?私が寝ていても気が付くぐらいだもん。」
ロメリアが窓を開けて顔を覗かせながら周囲を見渡していると、運転手が座席から立ち上がって車の外へと出ようとした。ケストレルが咄嗟に声をかける。
「おい、待てよ運転手。無暗に外に出るのは危険だぜ?」
「しかしさっきの衝撃でエンジンが壊れていないか確認する必要がありますし・・・それにさっきエンジンをかけてみたんですがやっぱりつかなかったんです。」
運転手がそう言うと、ケストレルが立ち上がった。
「なら俺も手伝うぜ。盗賊の仕業ってこともあるかもしれねえからな。」
「しかしお客様・・・」
「何心配すんな。俺は傭兵だ。・・・ほら、しっかりと傭兵証明証も持ってる。」
ケストレルは運転手に自分の名前やその他重要事項が書かれた証明書を見せる。運転手は小さく頷くと、申し訳なさそうに話しかける。
「・・・分かりました。ではお金は後で払いますので、点検をしている際の警護をお願いできますか?」
「良いぜ。・・・あ、金は別に要らないから。とっとと車直してくれるだけでいい。」
ケストレルが運転手と言葉を交わして外へ出ようとすると、フォルトとロメリアも立ち上がった。
「あの!僕も手伝っていいですか?」
「私もっ!車のことは良く分かんないけど・・・でも何か手伝いをさせて下さい!」
「おい、お前ら!勝手に便乗してくるんじゃねぇよ!迷惑だから席に座ってろ!」
ケストレルがフォルト達に声を上げると、運転手は静かに声を上げた。
「・・・分かりました。お2人共、決して森の中には入ったり、勝手な行動はしないで下さいね。」
「おい、いいのか?こいつら傭兵でもなんでもねぇ只の観光客だぞ?」
「構いませんよ。人手が多い方が助かりますし・・・」
運転手はそう静かに告げると、外へと出ていった。フォルトとロメリアが貴重品だけを持って直ぐに外へ出ると、ケストレルは小さく舌を打ってフォルト達を追いかける。
運転手は車の前に立つと、ボンネットを開けてエンジンをいじり始めた。運転手が作業している中、ケストレルがフォルト達に声をかける。
「フォルト、ロメリア。お前達ちょっとこのバスの周りを見てきてくれないか?森には入らなくていいからな。」
「分かった。行こ、ロメリア?」
「うん。」
フォルトとロメリアはケストレルから言われた通りにバスの周りを点検した。陽の光が差し込まない森の中であるので、時折森の中から良く分からない動物の声が急に聞こえたりして、その度にロメリアがフォルトに身を寄せてくる。
「ロメリア・・・ちょっと離れてよ・・・」
「だって・・・ちょっと怖いんだもん・・・」
「だったら車の中で待っていればいいじゃん・・・わざわざ外に出てこなくたって・・・」
「バスの中暑いんだもん・・・湿度も高いし・・・外にいる方が気持ちいいし・・・」
「運転手の人手伝うんじゃなかったの?」
「それも・・・あった・・・」
「・・・」
フォルト達が車の後ろまで見回ってケストレル達がいる車の前方へと歩いていると、急に森の中から大量の鳥がけたたましい音を立てながら飛び上がり、森を騒めかせる。
「きゃあああああああああああっ⁉」
「ぐぇっ!」
ロメリアが鳥達に驚いてフォルトに思いっきり抱きついた。首が締まり、息が出来なくなる。
「何、何、何っ⁉急に飛び立たないでよっ、鳥達の馬鹿ぁ!」
「・・・急に抱きつかないでよ・・・ロメリアぁ・・・」
「あ・・・ごめん、つい・・・」
ロメリアはフォルトから離れると、フォルトは呆れたように溜息をついて歩き始めた。ロメリアはちょっと申し訳なさそうにフォルトの後ろを付いて行く。
戻ってくると、相変わらず運転手の男は首を傾げてエンジンを眺めていた。
「どうですか?」
「う~ん・・・やっぱり良く分からないなぁ。特に壊れていないのに何で動かないんだろう・・・」
男が悩ましそうにエンジンを眺めていると、ケストレルが話しかけてくる。
「フォルト。周りの様子はどうだった?」
「特に異常は見当たらなかったよ。不審な人や動物の気配もしなかったし。」
「そうか。・・・ところでさっきロメリアが滅茶苦茶叫んでいたのは・・・」
「あぁ・・・あれは鳥が急に飛び上がって・・・それで驚いて声を出して・・・僕の心臓も止まりそうになったよ・・・」
「・・・喧しい女と一緒でお前も苦労するな。」
「誰が喧しい女だって?」
ロメリアがケストレルを睨みつけると、『別に』と言ってロメリアにそっぽを向く。フォルトの方にも視線を向けると、フォルトもロメリアから顔を背けたので『何で私の顔を見ないの?』としつこく絡んできた。
フォルトが暫くロメリアからの絡みを躱していると、運転手がボンネットをしめてケストレル達に声をかける。
「・・・取り合えず、確認は終わりましたのでもう一度エンジンをかけてみようと思います。・・・皆様、警護ありがとうございました。」
「分かった。・・・戻るぞ、お前達。」
「運転手さん、お疲れさまでした!」
『・・・結局何も手伝えなかったな・・・』
ケストレル達が車の中へと戻ろうとした・・・その瞬間。
ズルッ!
「うわっ!」
車の真下から急に触手が伸びると、運転手の足に巻き付いて勢いよく引きずり込む。ロメリアが咄嗟に運転手の両腕を掴んで引きずり込まれるのを防ごうとするが、触手はロメリアごと引きずり込むかのように触手は車の下へと引っ込んでいく。
「運転手さん!ロメリア!」
「くそっ!」
フォルトとケストレルが運転手の手を掴んで思いっきり引っ張るが、それでも運転手の体はどんどん車の下へと入り込んでいき、下半身が車の下へと隠れる。
「は・・・離してください、皆さん!このままでは皆様もっ・・・」
「黙ってろ、オッサン!ロメリア!フォルト!もっと引け!」
「引いてるよっ!・・・でも・・・全然動かないの!」
「う・・・ぐぅっ・・・車の下に・・・何かいたのか!油断したっ・・・」
フォルト達が歯を食いしばっていると、突然車の下から血が噴き出してきて、運転手が壮絶な叫び声を上げ始めた。
「ぐあああああああああああああああああああああっ!」
「運転手さん⁉しっかりして下さい!」
「早く引っ張れっ!死ぬぞ!」
ケストレル達が一気に運転手の手を引っ張った。
・・・ブチィ・・・
何かが切れる音と共に急に運転手を反対側から引っ張る力が弱くなり、すっぽりと運転手の体が車の下から出てきた。勢い良く引っ張っていたので、ロメリア達は一気に後ろへと下がって尻もちをついた。
ロメリアが急いで体勢を立て直して運転手を見つめると、言葉を失った。同じくフォルトとケストレルも運転手の体を見た瞬間に思わず体が震えた。
「下半身が・・・千切れてる・・・」
「嘘だろ・・・運転手は・・・」
「もう・・・死んでる。・・・ごめんなさい・・・助けられなくて・・・」
ロメリアが運転手に言葉を告げた瞬間、触手がロメリア達に勢い良く伸びてきた。フォルトは懐から鎖鎌を取り出すと、襲い掛かってきた触手を全て切断すると、ロメリア、ケストレルと共に後ろへと下がった。
フォルトは鎖を握って鎌を振り回すと、車の下へと鎌を投擲する。鋭く回転しながら車の下へと入って行くと、確かな手応えと共に、車の下から紫色の血のような液体が飛び散る。
血で濡れた鎌を引き戻すと、同時に車の下からムカデの様な足が多くついており、外皮が殻で覆われている魔物が這い出てきた。ロメリアとケストレルもそれぞれの武器を構えて魔物と対峙する。
「こいつが運転手をやった奴か!・・・気持ち悪い見た目しやがってっ・・・」
「油断は禁物だよっ!人の体を食いちぎる程だからね!」
フォルト達が魔物と睨み合いをしていると、突然両方の森の中から深緑色の筒状の物体が車の下へと投げ込まれた。魔物の周囲にもばら撒かれ、フォルト達の足元にも2つ転がってきた。
「ん?なにこれ・・・」
ロメリアがその筒を不思議そうに見つめていると、ケストレルが顔から血の気を引かせてフォルトとロメリアを抱えながらその筒から離れる。ケストレル達がその筒から距離を取った直後、筒が炸裂し、爆音と爆風、熱風が周囲を震わせる。ケストレルはフォルトとロメリアを抱えたまま思いっきり吹き飛ばされると、地面を転がった。
「さっきの・・・さっきの筒は何なの⁉」
「あれは『炸裂手榴弾』っていう人や障害物を吹き飛ばす最近開発された爆発物だ!まともに食らったら原型なんか残んねえぞ!」
ケストレルが痛む体をゆっくりと起き上がらせる。フォルトとロメリアも立ち上がって奥の様子を見ると、魔物は木っ端微塵に吹き飛んでおり、車も僅かに原型は残っているが、激しく燃え上がっており、周囲に人影が見えないことから恐らく既に命を落としているだろう・・・
「車がっ・・・糞っ!周りに人の姿は・・・見えねえよな?」
「何で・・・何で私達がこんな目に・・・私達が何をしたっていうの⁉」
ケストレルとロメリアが抑えきれない感情を吐き出していると、フォルト達から向かって右手の森の中から多数の殺気が向けられているのが感じ取れた。フォルトは鎌を構えて、森の方を見る。
「2人共、構えて!右の森に何かいるっ!」
「俺達を狙ってやがるって訳か?・・・上等だ、かかってきやがれ!」
「私も容赦しないよっ!こそこそ隠れてないで、早く出ておいで!」
フォルト達がそれぞれの武器を構えて森の方を向いた。・・・その時、誰かが急にフォルトの手を掴んだ。小さく、白い死人のようで・・・そしてとても暖かい手がフォルトの手を強く引く。
フォルトがその手の方を振り向くと、そこにはさっき道端に倒れていた深紅色の緩やかなウェーブがかかった女の子がいた。女の子は白く綺麗な歯を見せると、フォルトに話しかける。
「・・・こっち・・・です・・・」
女の子はそう一言、消えそうな蝋燭の火のように呟くと、フォルトの手を勢い良く引っ張って殺気が漂う森とは反対方向へと入って行く。少女が着用しているゴシック風のドレスがひらひらと揺れる。
「フォルト⁉どこ行くの⁉」
ロメリアが少女に連れられていっているフォルトの後を追って森の中へと入って行く。
「おい、手前ら!・・・くそ、一体何なんだよ!」
ケストレルもフォルト達の後を追って森の中へと入って行く。フォルトは少女に引っ張られるまま、道なき森をかき分けていく。
森全体に不穏な空気が漂い、動物の鳴き声は聞こえなくなっていた。
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