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~ワイバーンレース編 第15章~
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[急襲]
「ロメ・・・リア?」
フォルトは迫り来ていた鱗を先程まで持っていなかった棍で薙ぎ払ったロメリアに目を釘付けにされた。彼女の川の水を大量に含んだ柔らかな髪が揺れて、水滴が辺りに撒き散らされる。
ロメリアはそのままフォルトの方に体を向けて強く抱擁すると、天井を蹴ってリンドヴルムの炎が届いていない地面へと着地した。彼女はフォルトに屈託のない笑顔を向けて、声をかける。
「大丈夫、フォルト⁉何処か怪我はしてないっ⁉」
「・・・うん。」
フォルトが顔をロメリアに見せないように俯けながら返事をするとロメリアは嬉しそうにはにかんだ。リンドヴルムは自身が吐いた炎によって周囲を取り囲まれている為、ロメリア達が何処に行ったのか把握できておらず、辺りを見渡していた。
「ああ、良かったぁ!もしフォルトの身に何かあったら戦いどころじゃ無くなっちゃうからね~っ!元気で何よりだよっ!」
ロメリアは自分がいなくて寂しい思いをしていたであろうフォルトの心を癒そうと声をかけ続けた。・・・しかし、フォルトはロメリアの方に顔を向けることは無く、ただ沈黙を貫き続けた。
「・・・フォルト?どこか具合でも悪い・・・」
ロメリアが心配そうにフォルトの顔を覗き込もうと体を近づけて顔を近づけた瞬間、フォルトがいきなりロメリアの体に抱きついてきて胸に顔を埋めた。
「フォルト⁉どうしたの、急に⁉」
急に抱きついてきたことに少々動揺したロメリアだったが、直ぐににんわりと意地悪そうに頬を上げるとフォルトに声をかけた。フォルトは肩を僅かに震わせたまま、固まっていた。
「ははぁ~ん。もしかして私のおっぱいが恋しくなっちゃったのかなぁ?全くもう~フォルトったらこんな時に何してるの~?」
「・・・」
フォルトはロメリアの言葉を受けると、鼻をすすった。何度も何度も・・・体を震わせながら・・・
少しするとフォルトは目の周りを赤く染めて目を潤わせながらロメリアの方へと顔を上げた。
「無事だったのなら早く戻って来てよ、ロメリア!何時まで川の中にいるつもりだったのさぁ⁉ロメリアがあいつの尻尾に吹き飛ばされてから僕がどんだけ心配したか・・・危ないから僕の前には出ないでって言ったよね⁉」
フォルトの訴えにロメリアは言葉を失って、彼の目をまっすぐに見つめる。
「僕の身に何かあったら戦いどころじゃ無くなるだって?それはこっちの台詞だよっ!ロメリアの身に何かあったら僕は・・・僕は・・・」
フォルトの目から小粒の透き通った涙が地面へと零れ落ちる。震え声でロメリアに訴えかけるフォルトはロメリアの羽織を強く握りしめる。
「ロメリアがもしあの川の底で冷たくなっていたら・・・変わり果てた姿で水面に浮かんできたらって考えるのが・・・怖かったんだから・・・僕・・・ロメリアがいなくなっちゃうのが・・・怖かったんだからぁ・・・」
ロメリアはフォルトの切実な思いを受け止めると、フォルトの頭を優しく撫でた。まるで泣いている子供をあやす様に優しく・・・温かく撫でた。
フォルトは大人顔負けどころか人並外れたの戦闘能力を持ってどんな相手にも怖気づかない強靭な精神力を持ってはいるが、それでもまだ13歳の子供。・・・それに母親や父親から一切の愛情を受けて育ってはおらず、唯一自分を弟の様に愛してくれている姉のような存在であるロメリアがいなくなってしまえば、心が激しく動揺してしまうのも無理は無かった。
今まで愛に触れたことが無かったせいで、ロメリアとの出会いによって愛の尊さを知り、その尊さを教えてくれた彼女がいなくなってしまうことは、フォルトにとって罵詈雑言を言われることよりも、体を殴られたり斬られたりするよりも遥かに恐ろしいものだったからだ。
ロメリアは優しく頭を撫でながらフォルトに声をかける。
「・・・なんからしくないよ、フォルト?フォルトってそんなに怖がりさんだったっけ?」
「・・・悪い?」
「ううん・・・全然。・・・何も・・・悪くないよ。」
ロメリアが小さく囁く様にフォルトに呟いた。2人の間に暖かな雰囲気が包み込む。
「グォォォオオオオオッ!」
だがその雰囲気を打ち消すような恐ろしい咆哮が洞窟内に響き、フォルトとロメリアはその声の方へと振り向いた。視線の先にはリンドヴルムが炎を身に纏いながら地を這ってロメリア達を見つめていた。その目はフォルト達を絶対に殺すという殺意の執念が宿っているように赤黒い炎が渦巻いていた。
「・・・どうやらこのまま抱き合っている場合じゃないみたいね?」
「・・・だね。」
フォルトはロメリアから僅かに名残惜しそうにそっと離れると、鎖を周囲に展開した。ロメリアは棍を操って体の周りをグルグルと回転させると、両手でしっかりと握りしめて構えた。ロメリアの全身が白い靄のようなものに包まれる。
『この靄を纏った瞬間にロメリアの雰囲気が変わった・・・何なんだ?それにロメリアが持っている棍・・・あの棍は一体何処から・・・』
フォルトがロメリアの棍をまじまじと見つめていると、ロメリアがフォルトに話しかけてきた。その顔は何処か不安そうに表情を曇らせていた。
「ねぇ・・・ニファルは何処にいるの?何処かに退避させたの?」
「うん・・・ニファルならあそこの岩陰に・・・って、えぇ⁉」
フォルトがニファルを退避させたフォルト達から離れた岩陰を指さすと、そこにはニファルの姿は無く、翼から流れ出ていたと思われる血だまりがあるだけだった。
「あれ⁉確かにあそこの岩陰に身を潜ませていたと思うけど・・・」
「・・・逃げちゃったのかな?」
「かもね・・・僕とあの化け物が戦っている時に何度も洞窟内が激しく揺れたから・・・他の安全な岩陰に隠れてるかもしれない。・・・でも戦闘に巻き込まれたり、落石でつぶされたりはしてないからまだ生きてるはずだよ。」
「じゃあ後でゆっくりと探さなきゃね!・・・それじゃあ探しに行く前にここは一つ、竜退治と行こっか!」
ロメリアはそう言うと、今まで見たことも無いスピードで加速して、リンドヴルムに殴りかかった。フォルトは勝手に前へと突撃していくロメリアに深い溜息をつくと、ロメリアの後を追う。
ロメリアがリンドヴルムの目の前に来たその時、リンドヴルムは口を大きく開けて喉の奥が赤く染まっていく。
「ロメリア!避けてっ!」
ロメリアはフォルトの声を聞いて咄嗟に真上へと飛び上がると、その直後にリンドヴルムが灼熱の息を吹き荒らした。フォルトもブレスの射線から逸れると、ロメリアを見上げた。
ロメリアはフックも何も使わずに天井近くまで飛び上がっている。今までのロメリアと比べたら明らかに身体能力がおかしい・・・フォルトが目を凝らして彼女を見つめると、彼女が持っている棍を中心に白銀のオーラが全身を包み込んでいた。
『さっきは靄で覆われていたから確認できなかったけど、薄っすらと炎みたいなのを纏っているのか?あの棍がロメリアに力を与えているのか?』
フォルトがロメリアの異常な身体能力の上昇の謎に思考を巡らしていると、リンドヴルムがロメリアに向かって自身の尻尾を振り回して、激しく攻撃を繰り出した。鞭のようにしなった尻尾がロメリアへと襲い掛かる。
だがロメリアは全く動揺することなく、洞窟の天井に足をつけるとリンドヴルムへと飛び掛かり、天井を抉りながら迫りくる尻尾を回避する。そのまま体を前へと回転させながら棍を振りかざすと、リンドヴルムの背中に勢いよく叩きつけた。
「てやぁああっ!」
ロメリアの棍がリンドヴルムの背中を激しくぶつかると、先程フォルトの鎌が当たっても傷一つつかず、落石が当たっても凹むことが無かった黒鱗にヒビ割れると、一瞬だけ衝撃によって変形した後に粉々に砕け散った。半径およそ50㎝程の穴が背中に空き、砕けた破片がリンドヴルムの背中を抉り大量の血飛沫を噴き上げる。
『何っ⁉あのリンドヴルムの鱗を砕いたのか⁉』
フォルトは目を見開いて今起こったことをしっかりと目に焼き付けた。水中から一気に天井近くまで飛び出してきたことやリンドヴルムの黒鱗を砕いたことなど、ロメリアが実際に目の前でそれらのアクションを起こしたことが信じられなかった。彼女は確かに身体能力は非常に高かったが、ここまでずば抜けたものでは無かったからだ。
『やっぱりロメリアが持っているあの棍・・・やっぱり何か秘密があるようだな・・・』
フォルトは静かに鎖鎌を構えると、ロメリアの棍に意識を向ける。棍は相変わらず白銀の炎を纏って煌々と輝いていた。
「グガァァァァァァァッ⁉」
リンドヴルムは背中に乗っているロメリアを振り払おうと体を激しく動かすと、ロメリアはリンドヴルムの勢いに呑まれて洞窟の壁へと吹き飛ばされる。ロメリアが吹き飛んでいった先には壁から岩が槍の様に飛び出している。
『まずいっ!』
フォルトは鎖鎌を勢いよく投擲すると、鎖鎌は不規則に動いて蜘蛛の糸の様に鎖をロメリアと壁の間へと展開する。
「ナイス、フォルト!」
ロメリアはそのまま体を回転させて、両足を鎖につけるとバネの様に鎖をしならせてから弾丸の様に自身の体をリンドヴルムへと射出する。ロメリアの視線の先には先程自分が砕いたリンドヴルムの血で染まった背中があった。ロメリアは棍を強く握り、歯を食いしばる。
ロメリアがリンドヴルムに後僅かな所にまで接近し、鱗が剥がれて露出している柔らかな皮膚にむかって棍を突き立てようとした。ところがその時、ロメリアの真上から彼女を圧し潰さんとするリンドヴルムの尻尾が勢いよく振り下ろされる。ロメリアは既に攻撃態勢に入っていた為、回避行動をとるのが遅れてしまった。
「危ないっ!」
フォルトがロメリアの懐へと一瞬のうちに接近すると、彼女の体を抱き抱えてすぐさまその場から離れた。リンドヴルムは尻尾をそのまま自分の背中を強く叩きつけると、顔をフォルト達の方へと向けて口を大きく開けた。フォルト達は空中に身を置いているので身動きを取ることが出来ず、2人はリンドヴルムの口から洩れる熱気に思わず息を呑んだ。
リンドヴルムの口から火の粉が舞い上がり、炎が口から射出される・・・その瞬間、リンドヴルムの真上から鋭い突き刺さる様な咆哮が轟いた。
「ギャオオォォォォッ!」
フォルトとロメリアがリンドヴルムの上に視線を向けると、ニファルが洞窟の天井に空いている穴からリンドヴルムの顔に向かって爪を立てながら垂直に降下してきていた。
「ロメ・・・リア?」
フォルトは迫り来ていた鱗を先程まで持っていなかった棍で薙ぎ払ったロメリアに目を釘付けにされた。彼女の川の水を大量に含んだ柔らかな髪が揺れて、水滴が辺りに撒き散らされる。
ロメリアはそのままフォルトの方に体を向けて強く抱擁すると、天井を蹴ってリンドヴルムの炎が届いていない地面へと着地した。彼女はフォルトに屈託のない笑顔を向けて、声をかける。
「大丈夫、フォルト⁉何処か怪我はしてないっ⁉」
「・・・うん。」
フォルトが顔をロメリアに見せないように俯けながら返事をするとロメリアは嬉しそうにはにかんだ。リンドヴルムは自身が吐いた炎によって周囲を取り囲まれている為、ロメリア達が何処に行ったのか把握できておらず、辺りを見渡していた。
「ああ、良かったぁ!もしフォルトの身に何かあったら戦いどころじゃ無くなっちゃうからね~っ!元気で何よりだよっ!」
ロメリアは自分がいなくて寂しい思いをしていたであろうフォルトの心を癒そうと声をかけ続けた。・・・しかし、フォルトはロメリアの方に顔を向けることは無く、ただ沈黙を貫き続けた。
「・・・フォルト?どこか具合でも悪い・・・」
ロメリアが心配そうにフォルトの顔を覗き込もうと体を近づけて顔を近づけた瞬間、フォルトがいきなりロメリアの体に抱きついてきて胸に顔を埋めた。
「フォルト⁉どうしたの、急に⁉」
急に抱きついてきたことに少々動揺したロメリアだったが、直ぐににんわりと意地悪そうに頬を上げるとフォルトに声をかけた。フォルトは肩を僅かに震わせたまま、固まっていた。
「ははぁ~ん。もしかして私のおっぱいが恋しくなっちゃったのかなぁ?全くもう~フォルトったらこんな時に何してるの~?」
「・・・」
フォルトはロメリアの言葉を受けると、鼻をすすった。何度も何度も・・・体を震わせながら・・・
少しするとフォルトは目の周りを赤く染めて目を潤わせながらロメリアの方へと顔を上げた。
「無事だったのなら早く戻って来てよ、ロメリア!何時まで川の中にいるつもりだったのさぁ⁉ロメリアがあいつの尻尾に吹き飛ばされてから僕がどんだけ心配したか・・・危ないから僕の前には出ないでって言ったよね⁉」
フォルトの訴えにロメリアは言葉を失って、彼の目をまっすぐに見つめる。
「僕の身に何かあったら戦いどころじゃ無くなるだって?それはこっちの台詞だよっ!ロメリアの身に何かあったら僕は・・・僕は・・・」
フォルトの目から小粒の透き通った涙が地面へと零れ落ちる。震え声でロメリアに訴えかけるフォルトはロメリアの羽織を強く握りしめる。
「ロメリアがもしあの川の底で冷たくなっていたら・・・変わり果てた姿で水面に浮かんできたらって考えるのが・・・怖かったんだから・・・僕・・・ロメリアがいなくなっちゃうのが・・・怖かったんだからぁ・・・」
ロメリアはフォルトの切実な思いを受け止めると、フォルトの頭を優しく撫でた。まるで泣いている子供をあやす様に優しく・・・温かく撫でた。
フォルトは大人顔負けどころか人並外れたの戦闘能力を持ってどんな相手にも怖気づかない強靭な精神力を持ってはいるが、それでもまだ13歳の子供。・・・それに母親や父親から一切の愛情を受けて育ってはおらず、唯一自分を弟の様に愛してくれている姉のような存在であるロメリアがいなくなってしまえば、心が激しく動揺してしまうのも無理は無かった。
今まで愛に触れたことが無かったせいで、ロメリアとの出会いによって愛の尊さを知り、その尊さを教えてくれた彼女がいなくなってしまうことは、フォルトにとって罵詈雑言を言われることよりも、体を殴られたり斬られたりするよりも遥かに恐ろしいものだったからだ。
ロメリアは優しく頭を撫でながらフォルトに声をかける。
「・・・なんからしくないよ、フォルト?フォルトってそんなに怖がりさんだったっけ?」
「・・・悪い?」
「ううん・・・全然。・・・何も・・・悪くないよ。」
ロメリアが小さく囁く様にフォルトに呟いた。2人の間に暖かな雰囲気が包み込む。
「グォォォオオオオオッ!」
だがその雰囲気を打ち消すような恐ろしい咆哮が洞窟内に響き、フォルトとロメリアはその声の方へと振り向いた。視線の先にはリンドヴルムが炎を身に纏いながら地を這ってロメリア達を見つめていた。その目はフォルト達を絶対に殺すという殺意の執念が宿っているように赤黒い炎が渦巻いていた。
「・・・どうやらこのまま抱き合っている場合じゃないみたいね?」
「・・・だね。」
フォルトはロメリアから僅かに名残惜しそうにそっと離れると、鎖を周囲に展開した。ロメリアは棍を操って体の周りをグルグルと回転させると、両手でしっかりと握りしめて構えた。ロメリアの全身が白い靄のようなものに包まれる。
『この靄を纏った瞬間にロメリアの雰囲気が変わった・・・何なんだ?それにロメリアが持っている棍・・・あの棍は一体何処から・・・』
フォルトがロメリアの棍をまじまじと見つめていると、ロメリアがフォルトに話しかけてきた。その顔は何処か不安そうに表情を曇らせていた。
「ねぇ・・・ニファルは何処にいるの?何処かに退避させたの?」
「うん・・・ニファルならあそこの岩陰に・・・って、えぇ⁉」
フォルトがニファルを退避させたフォルト達から離れた岩陰を指さすと、そこにはニファルの姿は無く、翼から流れ出ていたと思われる血だまりがあるだけだった。
「あれ⁉確かにあそこの岩陰に身を潜ませていたと思うけど・・・」
「・・・逃げちゃったのかな?」
「かもね・・・僕とあの化け物が戦っている時に何度も洞窟内が激しく揺れたから・・・他の安全な岩陰に隠れてるかもしれない。・・・でも戦闘に巻き込まれたり、落石でつぶされたりはしてないからまだ生きてるはずだよ。」
「じゃあ後でゆっくりと探さなきゃね!・・・それじゃあ探しに行く前にここは一つ、竜退治と行こっか!」
ロメリアはそう言うと、今まで見たことも無いスピードで加速して、リンドヴルムに殴りかかった。フォルトは勝手に前へと突撃していくロメリアに深い溜息をつくと、ロメリアの後を追う。
ロメリアがリンドヴルムの目の前に来たその時、リンドヴルムは口を大きく開けて喉の奥が赤く染まっていく。
「ロメリア!避けてっ!」
ロメリアはフォルトの声を聞いて咄嗟に真上へと飛び上がると、その直後にリンドヴルムが灼熱の息を吹き荒らした。フォルトもブレスの射線から逸れると、ロメリアを見上げた。
ロメリアはフックも何も使わずに天井近くまで飛び上がっている。今までのロメリアと比べたら明らかに身体能力がおかしい・・・フォルトが目を凝らして彼女を見つめると、彼女が持っている棍を中心に白銀のオーラが全身を包み込んでいた。
『さっきは靄で覆われていたから確認できなかったけど、薄っすらと炎みたいなのを纏っているのか?あの棍がロメリアに力を与えているのか?』
フォルトがロメリアの異常な身体能力の上昇の謎に思考を巡らしていると、リンドヴルムがロメリアに向かって自身の尻尾を振り回して、激しく攻撃を繰り出した。鞭のようにしなった尻尾がロメリアへと襲い掛かる。
だがロメリアは全く動揺することなく、洞窟の天井に足をつけるとリンドヴルムへと飛び掛かり、天井を抉りながら迫りくる尻尾を回避する。そのまま体を前へと回転させながら棍を振りかざすと、リンドヴルムの背中に勢いよく叩きつけた。
「てやぁああっ!」
ロメリアの棍がリンドヴルムの背中を激しくぶつかると、先程フォルトの鎌が当たっても傷一つつかず、落石が当たっても凹むことが無かった黒鱗にヒビ割れると、一瞬だけ衝撃によって変形した後に粉々に砕け散った。半径およそ50㎝程の穴が背中に空き、砕けた破片がリンドヴルムの背中を抉り大量の血飛沫を噴き上げる。
『何っ⁉あのリンドヴルムの鱗を砕いたのか⁉』
フォルトは目を見開いて今起こったことをしっかりと目に焼き付けた。水中から一気に天井近くまで飛び出してきたことやリンドヴルムの黒鱗を砕いたことなど、ロメリアが実際に目の前でそれらのアクションを起こしたことが信じられなかった。彼女は確かに身体能力は非常に高かったが、ここまでずば抜けたものでは無かったからだ。
『やっぱりロメリアが持っているあの棍・・・やっぱり何か秘密があるようだな・・・』
フォルトは静かに鎖鎌を構えると、ロメリアの棍に意識を向ける。棍は相変わらず白銀の炎を纏って煌々と輝いていた。
「グガァァァァァァァッ⁉」
リンドヴルムは背中に乗っているロメリアを振り払おうと体を激しく動かすと、ロメリアはリンドヴルムの勢いに呑まれて洞窟の壁へと吹き飛ばされる。ロメリアが吹き飛んでいった先には壁から岩が槍の様に飛び出している。
『まずいっ!』
フォルトは鎖鎌を勢いよく投擲すると、鎖鎌は不規則に動いて蜘蛛の糸の様に鎖をロメリアと壁の間へと展開する。
「ナイス、フォルト!」
ロメリアはそのまま体を回転させて、両足を鎖につけるとバネの様に鎖をしならせてから弾丸の様に自身の体をリンドヴルムへと射出する。ロメリアの視線の先には先程自分が砕いたリンドヴルムの血で染まった背中があった。ロメリアは棍を強く握り、歯を食いしばる。
ロメリアがリンドヴルムに後僅かな所にまで接近し、鱗が剥がれて露出している柔らかな皮膚にむかって棍を突き立てようとした。ところがその時、ロメリアの真上から彼女を圧し潰さんとするリンドヴルムの尻尾が勢いよく振り下ろされる。ロメリアは既に攻撃態勢に入っていた為、回避行動をとるのが遅れてしまった。
「危ないっ!」
フォルトがロメリアの懐へと一瞬のうちに接近すると、彼女の体を抱き抱えてすぐさまその場から離れた。リンドヴルムは尻尾をそのまま自分の背中を強く叩きつけると、顔をフォルト達の方へと向けて口を大きく開けた。フォルト達は空中に身を置いているので身動きを取ることが出来ず、2人はリンドヴルムの口から洩れる熱気に思わず息を呑んだ。
リンドヴルムの口から火の粉が舞い上がり、炎が口から射出される・・・その瞬間、リンドヴルムの真上から鋭い突き刺さる様な咆哮が轟いた。
「ギャオオォォォォッ!」
フォルトとロメリアがリンドヴルムの上に視線を向けると、ニファルが洞窟の天井に空いている穴からリンドヴルムの顔に向かって爪を立てながら垂直に降下してきていた。
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