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~ワイバーンレース編 第11章~
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[波乱の咆哮]
「フォルト!その前にいる2人を抜いたら、トップだよ!後ろから追っかけてきている4位以降の人達とは相当距離を離しているからこのままいけば追いつかれることは無いよ!」
ロメリアは周囲を見渡しながら、フォルトに報告する。ニファル達はペースを崩すことなく、余力を残しながら1人・・・また1人と徐々に抜いていって順位を上げていき、丁度折り返し地点であるフィルテラスト大陸の東海岸線へと全体順位で3位という好成績でやって来た。
このワイバーンレースのコースとしてはリールギャラレーから東沿岸部まで続く渓谷内を通って海岸線まで行き、海に出るとそこから折り返して、また別の渓谷へと入って行ってリールギャラレーへと戻ってくるということになっている。特別なルールは存在せず、誰よりも早く帰還すればいいのがこのレースなのだが、決められている数少ないルールとしては2000フィート以上を飛んではならず、必ず渓谷内を飛ばなければいけない高度制限があるのと、ワイバーン同士が勝手に喧嘩をする場合を除いて他のワイバーンやワイバーンに乗っている参加者を攻撃してはいけないというルールは存在する。
フォルトはゆっくりと息を吐いて、深呼吸すると前を飛んでいるワイバーンの背中を睨みつける。真後ろにぴったりと付くと、ニファルの手綱を優しくぐいっと引っ張って合図を送った。ニファルはフォルトの合図を受け取ると、温存していた余力の一部を開放して一気に真横を通過して、前を飛んでいたワイバーンの前に並んで先へ行かせないようにブロックする。
そのまま折り返し地点へと到着し、後ろにいるワイバーンよりも内側を回って旋回すると再び渓谷内へと入って行く。フォルト達の順位は2位に上がり、3位に下がった参加者と距離をどんどん離していく。
「いい感じだよ、いい感じ~!あとは目の前にいるワイバーンだけだよ!」
「了解!ニファル、体の方は問題ない?」
「ガウッ!」
フォルトの呼びかけにニファルは威勢よく唸り声をあげると、フォルトは手綱を引き、より勢いを上げて目の前にいる現在1位のワイバーンの背中へと接近する。先頭にいるワイバーンの騎手が後ろを振り向いてどんどん差を縮めているフォルト達の姿を確認すると、相手の騎手は手綱を一気に引っ張ってワイバーンに声をかけてフォルト達と一気に差を作った。さらに後ろから3番手のワイバーンがフォルト達に差を一気に縮めてくる。
「フォルト!後ろからさっき抜かしたワイバーン一気に差を詰めてきたよっ!」
「レースも終盤に入ったからねっ!・・・そろそろ僕達も力を出していかないと、前のワイバーンに追いつけなくなる上に後ろから抜かされてしまうかも・・・ニファル、本気でいくよっ!」
「ガァァァアアアッ!」
ニファルは咆哮と共に今までの余力を開放して前方のワイバーンに一気に接近する。もはや先頭3匹のワイバーンによる優勝争いとなったレースは静かに熾烈さを増していく・・・
はずだった・・・
・・・ゾワァァァ・・・
『うっ・・・背中が・・・寒いっ・・・』
フォルトの背筋に危険を知らせる寒気が走り、手綱を握る手が思わず強くなった。体が少し震え始めたフォルトを肌で感じたロメリアがフォルトに声をかける。
「フォルト、大丈・・・」
ロメリアがフォルトに声をかけた瞬間、フォルトの体がまるで自分じゃない誰かに操られているように勝手に左に傾いて、ニファルの向きを左へと傾けさせた。そしてそれと同時に真上から抑え込まれた殺意が襲い掛かってくる。
バァンッ!
上から銃声が鋭く空に響き、フォルトの顔の右側を鉛の弾丸がスレスレで通り過ぎていく。フォルトが上を向くと、渓谷の上から黒のマントを纏って、フードで顔を隠している5匹のワイバーン集団が襲い掛かってきた。そのワイバーンの集団はフォルト達の後ろについているワイバーンの後ろにつくとV字に隊列を組んで、フォルト達へと接近していく。フォルト達は勿論、他の2人の騎手も何が起こっているのか理解が出来ない様子でフードの集団に顔を向ける。
「何⁉何なのあの人達⁉」
「分からないっ!でも・・・」
フードの集団は背中にかけていたボウガンを手に取ると、ロメリアの方へと照準を合わせる。彼らが持っているボウガンは特殊な造りをしており、矢を発射すると自動的にその下にあるマガジンケースからストックされている矢が再装填される連射可能な造りとなっていた。
「目標・・・『ロメリア・フィル・シュトルセン・フォルエンシュテュール』を捕捉・・・作戦開始。構え・・・」
『ロメリアを狙ってるのか⁉何でだっ!』
僅かに聞こえてきた声を受けてフォルトは背筋に電流の様な鋭い痛みが走り、意識が鋭くなる。先頭にいるフードの男が静かに号令をかける。
「放てっ!」
バシュンッ!バシュンッ!
限界まで引き絞られた弦が、引き金を引くと共に矢を弾き飛ばしてロメリア達に襲い掛かる。フォルトは手綱を思いっきり左に引っ張ってワイバーンごと体を回転させながら下降する。天地が逆転し、胃の中にあるモノが逆流しそうになるが喉に力を入れて戻すのを抑えた。
フォルト達はその矢を全て回避することが出来たが、それらの矢の内数本がフォルト達の前にいた騎手とワイバーンに深く突き刺さった。ワイバーンの鱗を貫通して深く突き刺さっていることから威力は相当高いらしい。
騎手には体に3本、頭に1本矢が刺さった為自分が死んだことすら分からぬまま即死し、ワイバーンの背中に糸が切れた人形の様に崩れ落ちた。
そして間髪入れずに矢が刺さったワイバーンは大きな悲鳴を上げ始め、目の色がどんどん紫色に変色していくと、肌が一気にどろどろ・・・と液状に溶けていき、そのまま渓谷の底へと落ちていった。フォルトの後ろを飛んでいたワイバーンは一気に高度を下げると、地面に着地をして身を潜めた。
「フォルトッ!前を飛んでいた人がっ・・・」
「このレースでは人やワイバーンを意図的に殺害することは禁止じゃないのか⁉それに矢に毒でも塗られているのか?・・・どうやら掠ることも駄目なようだねっ!」
フォルトはワイバーンの体勢を元に戻すと、地面すれすれを飛行していく。渓谷はだいたいV字になっているので、下に行けば行くほど幅が狭くなり飛行をするには適さなくなってくる。
『でも低く飛べば奴らも操縦の方に意識を取られてこちらに狙いを上手く付けられないはずっ・・・今の内に対処法を考えないと・・・』
フォルトは思考を巡らして、後ろにぴったり同じように地面すれすれを飛行してくるフード集団の対処法を考えていると、上から怒号が飛んできた。
「貴様ら何をしている⁉レースでは武器の使用と渓谷の外を飛行することは禁止のはずだ!速やかにレースから棄権し、着陸せよっ!」
監督員と思われる10匹以上のワイバーン集団がフード集団に声を荒げながら呼びかけると、先頭にいるフードの男に対して部下と思われる男が声をかける。
「・・・どうしますか、リーダー?」
「排除するぞ。・・・構えろ。」
男の号令と共にボウガンを上の監督員達に向けると、一斉に矢を放った。上を飛んでいるワイバーンや騎手達に次々と矢が刺さっていき、1匹・・・また1匹と地に堕ちて行く。ワイバーンと騎手の断末魔が渓谷に虚しく響いていく。
「くっ、退くぞっ!直ぐにリールギャラレーに戻ってワイバーン飛行隊を呼んでくるんだ!」
「隊長、監督員共が逃げていきます。」
「4番機と5番機は奴らを追撃し、全員始末しろ。生きて返すな。」
「了解。」
隊列から2匹のワイバーンが渓谷の上を飛んで逃げていく監督員達を追撃しに上昇していく。ロメリアがその様子を見て、声を上げる。
「どうしよう、フォルト!監督員の人達、殺されちゃうよ!」
「・・・」
「フォルト⁉何で黙ってるの⁉」
ロメリアがフォルトの方へと顔の向きを戻した時、フォルトから息が止まる様な黒い殺意が流れてきているのに気づいて言葉を失った。
「フォルト・・・」
「どいつもこいつも・・・」
「えっ?」
フォルトは手綱から手を離して急にワイバーンの背中に立つと、懐から白銀に輝く鎖鎌を取り出して顔を後ろにいるフードの男達に向けた。フォルトの目が深紅色に染まり、吐息が雪色に染まる。
「どいつもこいつも・・・僕とロメリアの思い出作りの邪魔をしやがって・・・」
フォルトは深く息を吸い込むと、鎖鎌を回転させてフードの集団に思いっきり投げつける。投げられた鎖鎌は蛇の様に異様な軌道でフードの集団に襲い掛かる。
「っ!回避しろっ!」
フードの男達は手綱を手前の方へと一気に引いてワイバーンを急上昇させる。フォルトが放った鎖鎌はそのまま男達を通り過ぎていく。
『躱された・・・『ついで』に殺せたら良かったけど上手くいかないものだね。』
フォルトはそのまま鎖を自分の後ろへと勢い良く引っ張ると、鎌は軌道を渓谷の上へと昇っている2匹のワイバーンへと向かって行く。隊長と思われるフード男が声を張り上げる。
「躱せ!」
「させるか。・・・必ず仕留める。」
フォルトはそれぞれ回避行動をとるワイバーンに対して、左右それぞれの鎖を交差させるように手元へと引く。鎌はそのままワイバーンの速力よりも遥かに速く動き、それぞれの鎖鎌でワイバーンの周囲を取り囲むとそのまま騎手の首を勢いよく跳ね飛ばした。男達はそれぞれ鎌を弾き飛ばそうとしていたが、鎌の動きは流れる水の様に自在で弾き飛ばそうとしてもそれをすり抜けるように首元へと瞬きの間に滑り込んできたのだった。
男達の死体が乗ったワイバーンは操縦が利かなくなり、そのまま渓谷の壁に勢い良くぶつかると谷底へと落ちていった。フォルトは鎖鎌を引き寄せると、鎌についた血を払って再び鎌を投擲する構えを取った。フードの男達もボウガンを構えてフォルトに狙いをつける。
『今度は必ず首を刎ねる。絶対に逃が・・・』
フォルトが鎌を投擲しようとしたその時、急にニファルとロメリアが叫び声をあげた。後ろにいるフード集団も体が固まっていて、フォルトの後ろに視線を向けていた。
「グァゥッ⁉」
「フォルト!前・・・前にっ・・・」
フォルトが後ろを向いた瞬間、目の前に燃えるような赤い目を持った黒鉄の鱗を持つドラゴンが渓谷を塞ぐように待ち構えていた。大きさは20mぐらいはあると思われ、胸部は焼けた炭の様に赤く光っていた。
「このドラゴンって・・・グースさんが言ってたっ・・・」
「リンドヴルム!ニファル、回避行動をとって!」
「・・・」
「ニファル⁉・・・竦んで動けないのかっ⁉」
フォルトは足で手綱を蹴り上げると、鎌を手に持ったまま手綱を手に持って勢い良く右に引っ張った。紐がニファルの首を強く引っ張り、ニファルの体が反射的に右へと旋回する。リンドヴルムはフォルト達に向かって鋭い爪で切り刻んできたが、フォルト達は寸前でその攻撃を回避する。
しかし体勢を崩したニファルはそのまま渓谷の右側に広がる巨大な洞窟の中へと墜落していき、フォルトとロメリアはニファルの背中から振り落とされてしまった。
「きゃああああああああああ!」
「ロメリアァァッ!」
フォルトは鎖鎌をロメリアへと投げつけて鎖をロメリアの腰に巻き付けると、鎖を引き寄せてロメリアの体を抱きしめる。そしてそのままフォルトとロメリアはニファルとは別の空洞へと落ちていった。
「隊長!対象が洞窟の中にっ・・・」
「・・・くそっ!一先ず、撤退だ!目の前の化け物から逃げき・・・」
隊長の男が撤退の指示を出そうとした瞬間、リンドヴルムは口を大きく開けると血の様に深紅に染まった炎を口から吐き出した。かつて渓谷を流れていたであろう水の様に紅蓮の炎がフードの男達を襲う。
「・・・糞。」
隊長の男が吐き捨てるように呟くと、叫び声をあげる間もなく炎の海がフードの集団を包み込んだ。そしてその炎の中からたった1つの黒く焦げた影が飛び出してくると、フォルト達が墜落していった渓谷の中へと落ちていく。
「ギャオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!」
リンドヴルムの咆哮が渓谷内に轟き、洞窟の中へと激しく反響していく。咆哮を終えたリンドヴルムはその洞窟へと体を向けると、ゆっくりと大地を踏み鳴らしながら入って行った。
「フォルト!その前にいる2人を抜いたら、トップだよ!後ろから追っかけてきている4位以降の人達とは相当距離を離しているからこのままいけば追いつかれることは無いよ!」
ロメリアは周囲を見渡しながら、フォルトに報告する。ニファル達はペースを崩すことなく、余力を残しながら1人・・・また1人と徐々に抜いていって順位を上げていき、丁度折り返し地点であるフィルテラスト大陸の東海岸線へと全体順位で3位という好成績でやって来た。
このワイバーンレースのコースとしてはリールギャラレーから東沿岸部まで続く渓谷内を通って海岸線まで行き、海に出るとそこから折り返して、また別の渓谷へと入って行ってリールギャラレーへと戻ってくるということになっている。特別なルールは存在せず、誰よりも早く帰還すればいいのがこのレースなのだが、決められている数少ないルールとしては2000フィート以上を飛んではならず、必ず渓谷内を飛ばなければいけない高度制限があるのと、ワイバーン同士が勝手に喧嘩をする場合を除いて他のワイバーンやワイバーンに乗っている参加者を攻撃してはいけないというルールは存在する。
フォルトはゆっくりと息を吐いて、深呼吸すると前を飛んでいるワイバーンの背中を睨みつける。真後ろにぴったりと付くと、ニファルの手綱を優しくぐいっと引っ張って合図を送った。ニファルはフォルトの合図を受け取ると、温存していた余力の一部を開放して一気に真横を通過して、前を飛んでいたワイバーンの前に並んで先へ行かせないようにブロックする。
そのまま折り返し地点へと到着し、後ろにいるワイバーンよりも内側を回って旋回すると再び渓谷内へと入って行く。フォルト達の順位は2位に上がり、3位に下がった参加者と距離をどんどん離していく。
「いい感じだよ、いい感じ~!あとは目の前にいるワイバーンだけだよ!」
「了解!ニファル、体の方は問題ない?」
「ガウッ!」
フォルトの呼びかけにニファルは威勢よく唸り声をあげると、フォルトは手綱を引き、より勢いを上げて目の前にいる現在1位のワイバーンの背中へと接近する。先頭にいるワイバーンの騎手が後ろを振り向いてどんどん差を縮めているフォルト達の姿を確認すると、相手の騎手は手綱を一気に引っ張ってワイバーンに声をかけてフォルト達と一気に差を作った。さらに後ろから3番手のワイバーンがフォルト達に差を一気に縮めてくる。
「フォルト!後ろからさっき抜かしたワイバーン一気に差を詰めてきたよっ!」
「レースも終盤に入ったからねっ!・・・そろそろ僕達も力を出していかないと、前のワイバーンに追いつけなくなる上に後ろから抜かされてしまうかも・・・ニファル、本気でいくよっ!」
「ガァァァアアアッ!」
ニファルは咆哮と共に今までの余力を開放して前方のワイバーンに一気に接近する。もはや先頭3匹のワイバーンによる優勝争いとなったレースは静かに熾烈さを増していく・・・
はずだった・・・
・・・ゾワァァァ・・・
『うっ・・・背中が・・・寒いっ・・・』
フォルトの背筋に危険を知らせる寒気が走り、手綱を握る手が思わず強くなった。体が少し震え始めたフォルトを肌で感じたロメリアがフォルトに声をかける。
「フォルト、大丈・・・」
ロメリアがフォルトに声をかけた瞬間、フォルトの体がまるで自分じゃない誰かに操られているように勝手に左に傾いて、ニファルの向きを左へと傾けさせた。そしてそれと同時に真上から抑え込まれた殺意が襲い掛かってくる。
バァンッ!
上から銃声が鋭く空に響き、フォルトの顔の右側を鉛の弾丸がスレスレで通り過ぎていく。フォルトが上を向くと、渓谷の上から黒のマントを纏って、フードで顔を隠している5匹のワイバーン集団が襲い掛かってきた。そのワイバーンの集団はフォルト達の後ろについているワイバーンの後ろにつくとV字に隊列を組んで、フォルト達へと接近していく。フォルト達は勿論、他の2人の騎手も何が起こっているのか理解が出来ない様子でフードの集団に顔を向ける。
「何⁉何なのあの人達⁉」
「分からないっ!でも・・・」
フードの集団は背中にかけていたボウガンを手に取ると、ロメリアの方へと照準を合わせる。彼らが持っているボウガンは特殊な造りをしており、矢を発射すると自動的にその下にあるマガジンケースからストックされている矢が再装填される連射可能な造りとなっていた。
「目標・・・『ロメリア・フィル・シュトルセン・フォルエンシュテュール』を捕捉・・・作戦開始。構え・・・」
『ロメリアを狙ってるのか⁉何でだっ!』
僅かに聞こえてきた声を受けてフォルトは背筋に電流の様な鋭い痛みが走り、意識が鋭くなる。先頭にいるフードの男が静かに号令をかける。
「放てっ!」
バシュンッ!バシュンッ!
限界まで引き絞られた弦が、引き金を引くと共に矢を弾き飛ばしてロメリア達に襲い掛かる。フォルトは手綱を思いっきり左に引っ張ってワイバーンごと体を回転させながら下降する。天地が逆転し、胃の中にあるモノが逆流しそうになるが喉に力を入れて戻すのを抑えた。
フォルト達はその矢を全て回避することが出来たが、それらの矢の内数本がフォルト達の前にいた騎手とワイバーンに深く突き刺さった。ワイバーンの鱗を貫通して深く突き刺さっていることから威力は相当高いらしい。
騎手には体に3本、頭に1本矢が刺さった為自分が死んだことすら分からぬまま即死し、ワイバーンの背中に糸が切れた人形の様に崩れ落ちた。
そして間髪入れずに矢が刺さったワイバーンは大きな悲鳴を上げ始め、目の色がどんどん紫色に変色していくと、肌が一気にどろどろ・・・と液状に溶けていき、そのまま渓谷の底へと落ちていった。フォルトの後ろを飛んでいたワイバーンは一気に高度を下げると、地面に着地をして身を潜めた。
「フォルトッ!前を飛んでいた人がっ・・・」
「このレースでは人やワイバーンを意図的に殺害することは禁止じゃないのか⁉それに矢に毒でも塗られているのか?・・・どうやら掠ることも駄目なようだねっ!」
フォルトはワイバーンの体勢を元に戻すと、地面すれすれを飛行していく。渓谷はだいたいV字になっているので、下に行けば行くほど幅が狭くなり飛行をするには適さなくなってくる。
『でも低く飛べば奴らも操縦の方に意識を取られてこちらに狙いを上手く付けられないはずっ・・・今の内に対処法を考えないと・・・』
フォルトは思考を巡らして、後ろにぴったり同じように地面すれすれを飛行してくるフード集団の対処法を考えていると、上から怒号が飛んできた。
「貴様ら何をしている⁉レースでは武器の使用と渓谷の外を飛行することは禁止のはずだ!速やかにレースから棄権し、着陸せよっ!」
監督員と思われる10匹以上のワイバーン集団がフード集団に声を荒げながら呼びかけると、先頭にいるフードの男に対して部下と思われる男が声をかける。
「・・・どうしますか、リーダー?」
「排除するぞ。・・・構えろ。」
男の号令と共にボウガンを上の監督員達に向けると、一斉に矢を放った。上を飛んでいるワイバーンや騎手達に次々と矢が刺さっていき、1匹・・・また1匹と地に堕ちて行く。ワイバーンと騎手の断末魔が渓谷に虚しく響いていく。
「くっ、退くぞっ!直ぐにリールギャラレーに戻ってワイバーン飛行隊を呼んでくるんだ!」
「隊長、監督員共が逃げていきます。」
「4番機と5番機は奴らを追撃し、全員始末しろ。生きて返すな。」
「了解。」
隊列から2匹のワイバーンが渓谷の上を飛んで逃げていく監督員達を追撃しに上昇していく。ロメリアがその様子を見て、声を上げる。
「どうしよう、フォルト!監督員の人達、殺されちゃうよ!」
「・・・」
「フォルト⁉何で黙ってるの⁉」
ロメリアがフォルトの方へと顔の向きを戻した時、フォルトから息が止まる様な黒い殺意が流れてきているのに気づいて言葉を失った。
「フォルト・・・」
「どいつもこいつも・・・」
「えっ?」
フォルトは手綱から手を離して急にワイバーンの背中に立つと、懐から白銀に輝く鎖鎌を取り出して顔を後ろにいるフードの男達に向けた。フォルトの目が深紅色に染まり、吐息が雪色に染まる。
「どいつもこいつも・・・僕とロメリアの思い出作りの邪魔をしやがって・・・」
フォルトは深く息を吸い込むと、鎖鎌を回転させてフードの集団に思いっきり投げつける。投げられた鎖鎌は蛇の様に異様な軌道でフードの集団に襲い掛かる。
「っ!回避しろっ!」
フードの男達は手綱を手前の方へと一気に引いてワイバーンを急上昇させる。フォルトが放った鎖鎌はそのまま男達を通り過ぎていく。
『躱された・・・『ついで』に殺せたら良かったけど上手くいかないものだね。』
フォルトはそのまま鎖を自分の後ろへと勢い良く引っ張ると、鎌は軌道を渓谷の上へと昇っている2匹のワイバーンへと向かって行く。隊長と思われるフード男が声を張り上げる。
「躱せ!」
「させるか。・・・必ず仕留める。」
フォルトはそれぞれ回避行動をとるワイバーンに対して、左右それぞれの鎖を交差させるように手元へと引く。鎌はそのままワイバーンの速力よりも遥かに速く動き、それぞれの鎖鎌でワイバーンの周囲を取り囲むとそのまま騎手の首を勢いよく跳ね飛ばした。男達はそれぞれ鎌を弾き飛ばそうとしていたが、鎌の動きは流れる水の様に自在で弾き飛ばそうとしてもそれをすり抜けるように首元へと瞬きの間に滑り込んできたのだった。
男達の死体が乗ったワイバーンは操縦が利かなくなり、そのまま渓谷の壁に勢い良くぶつかると谷底へと落ちていった。フォルトは鎖鎌を引き寄せると、鎌についた血を払って再び鎌を投擲する構えを取った。フードの男達もボウガンを構えてフォルトに狙いをつける。
『今度は必ず首を刎ねる。絶対に逃が・・・』
フォルトが鎌を投擲しようとしたその時、急にニファルとロメリアが叫び声をあげた。後ろにいるフード集団も体が固まっていて、フォルトの後ろに視線を向けていた。
「グァゥッ⁉」
「フォルト!前・・・前にっ・・・」
フォルトが後ろを向いた瞬間、目の前に燃えるような赤い目を持った黒鉄の鱗を持つドラゴンが渓谷を塞ぐように待ち構えていた。大きさは20mぐらいはあると思われ、胸部は焼けた炭の様に赤く光っていた。
「このドラゴンって・・・グースさんが言ってたっ・・・」
「リンドヴルム!ニファル、回避行動をとって!」
「・・・」
「ニファル⁉・・・竦んで動けないのかっ⁉」
フォルトは足で手綱を蹴り上げると、鎌を手に持ったまま手綱を手に持って勢い良く右に引っ張った。紐がニファルの首を強く引っ張り、ニファルの体が反射的に右へと旋回する。リンドヴルムはフォルト達に向かって鋭い爪で切り刻んできたが、フォルト達は寸前でその攻撃を回避する。
しかし体勢を崩したニファルはそのまま渓谷の右側に広がる巨大な洞窟の中へと墜落していき、フォルトとロメリアはニファルの背中から振り落とされてしまった。
「きゃああああああああああ!」
「ロメリアァァッ!」
フォルトは鎖鎌をロメリアへと投げつけて鎖をロメリアの腰に巻き付けると、鎖を引き寄せてロメリアの体を抱きしめる。そしてそのままフォルトとロメリアはニファルとは別の空洞へと落ちていった。
「隊長!対象が洞窟の中にっ・・・」
「・・・くそっ!一先ず、撤退だ!目の前の化け物から逃げき・・・」
隊長の男が撤退の指示を出そうとした瞬間、リンドヴルムは口を大きく開けると血の様に深紅に染まった炎を口から吐き出した。かつて渓谷を流れていたであろう水の様に紅蓮の炎がフードの男達を襲う。
「・・・糞。」
隊長の男が吐き捨てるように呟くと、叫び声をあげる間もなく炎の海がフードの集団を包み込んだ。そしてその炎の中からたった1つの黒く焦げた影が飛び出してくると、フォルト達が墜落していった渓谷の中へと落ちていく。
「ギャオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!」
リンドヴルムの咆哮が渓谷内に轟き、洞窟の中へと激しく反響していく。咆哮を終えたリンドヴルムはその洞窟へと体を向けると、ゆっくりと大地を踏み鳴らしながら入って行った。
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