最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~ワイバーンレース編 第1章~

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 [フィルテラスト大陸]

 「乗客の皆様にご案内を申し上げます。この船はおよそ15分後にエメラリア港へと到着致します。忘れ物がございませんようお気を付けください。」

 船内に女性の声のアナウンスが流れる。ベッドの上に座りながらくつろいでいたフォルトは部屋の入り口近くに設置されている鏡で身だしなみを整えているロメリアに声をかけた。

 「今のアナウンス聞いた?そろそろ甲板に出ておこうよ?」

 「おっけ~。・・・髪も服も整えたし、行こっか!忘れ物が無いようにね。」

 ロメリアは両手の甲で髪の毛を下からふわっと持ち上げて髪を膨らませると、足元に置いていた荷物を手に持った。フォルトもベッドの近くに置いていた自分の荷物を手に取るとロメリアと共に寝室を後にする。

 天井には一定の感覚で配置されたシャンデリアが並んでおり、足元には繊細な刺繍がなされた絨毯が敷かれている廊下にはロメリア達と同じく甲板へと向かう人が数人おり、皆同じ方向へと重たそうな荷物を持って歩いていた。フォルト達は彼らと同じ方向へと歩いていき甲板へ出ると、目の前にエメラリア港とその港があるフィルテラスト大陸が目の前に広がっていた。

 「あれがフィルテラスト大陸・・・何か全体的に赤茶色っぽくて殺風景だね。凄く乾いている感じがする・・・」

 「そうだね・・・フィルテラスト大陸は世界にある3つの大陸の内、一番工業が発達している大陸らしいよ。・・・でも工業が発達しすぎて環境が崩壊してしまったんだって・・・今では様々な公害が発生しているのが大きな問題になってるって噂だよ。元から砂漠地帯などが広がる緑が少ない大地だけど、公害によって砂漠化が進行しちゃってるみたい。」

 ロメリアの言葉を受けて、フォルトは船から頭を乗り出してエメラリア港を見る。港にはグリュンバルド大陸では見たことが無かった鉄の建物や鉄の船・・・何やら上下に動いている幾つもの筒や歯車、その間からは蒸気が勢いよく噴き出している光景が広がっていた。

 「あの港にあるモノ・・・あれ全部金属で出来てるの?」

 「ああ、そうだぜ。あれは全部この大陸で産出した鉱物を加工して作られたものだ。」

 急に後ろから聞きなれた男の声がしてフォルトとロメリアが後ろを振り向くと、そこにはケストレルがいつもの表情で立っていた。ロメリアが『またぁ?』というばかりに少し顔をしかめた。

 「ケストレルもこの船に乗ってたの⁉」

 「ああ。この港の先にある『リールギャラレー』っていう街に用があってな。・・・まさかお前達までこの船に乗っているなんて思って無かったぜ。」

 「・・・何の用があるの?」

 「大した用じゃねえよ。昔、あの街にいるとある男の依頼を解決したんだが、まだその報酬を受け取ってねえからその催促に行くって訳だ。」

 ケストレルは気怠そうに言葉を発すると、フォルトの横に立って手すりに両腕を置いて港の方を見た。

 「さっきの話の続きだが・・・この大陸は鉱物を加工する技術が他の大陸とは比べ物にならない程発達してるんだ。だからその技術を使って建物や兵器、船を作ってるんだよ。」

 「へぇ・・・詳しいんだね?」

 「・・・俺の故郷だからな、この大陸は。」

 「ケストレルはこの大陸出身なんだ?」

 「ああ・・・あんまりいい思い出は無いがな。」

 ケストレルは何処か悲しい目をしながら手すりから両腕を離すと、フォルトとロメリアの方を向いた。

 「港についたら隣町のリールギャラレーにまで送ってやるよ。俺の古い友人が蒸気車で迎えに来てるからそれに乗せてやる。」

 「いや・・・僕達は歩いていこうかな。折角この大陸に来たんだから色んな景色を見て回りたいし・・・」

 フォルトがそう言うと、ケストレルは1冊の本を手渡した。その本の表紙には『フィルテラスト大陸観光案内本』と書かれていて、大陸の全体図により詳細な地図、各街の特色とおすすめのポイント・・・そして道中の宿の場所が記されていた。

 フォルトはエメラリア港からリールギャラレーの間にある宿についての記述を見ると、その内容に思わず2人は驚愕した。

 「えっ・・・無いの?何処にも・・・」

 「・・・徒歩だと1週間はかかって・・・この時期の最高気温は40度又はそれ以上で最低気温はマイナス10度・・・寒暖差が激しく徒歩での移動は推奨しない・・・又、凶暴な魔物が多数生息しており、エメラリア港からリールギャラレーへの移動は蒸気車が基本・・・」

 『・・・蒸気車って何?初めて聞く言葉だ・・・どういう乗り物何だろう?』

 フォルトが謎の言葉に首を傾げると、ケストレルが話しかけてくる。

 「他にも観光本は沢山あるが、何処の本も全て同じような事が書かれていると思うぜ?気になるなら他の奴も読んでみればいいと思うが・・・それでも歩いていくか?止めはしないけど。」

 ケストレルの言葉を受けて、ロメリアは少し不安そうに表情を曇らせてフォルトの方を見る。

 「フォルト・・・どうする?この本を見た感じだと、ケストレルの友達が乗っている・・・蒸気車?それに乗せてもらった方が良くない?」

 「・・・だね。宿が無い上に野宿は危険が伴うし・・・ここはケストレルの誘いに乗った方がいいかもしれない。」

 フォルトはケストレルをまっすぐ見つめた。
 
 「・・・やっぱり、僕達もケストレルと一緒に行っていいかな?道中に宿が無いのは少し危ないから・・・」

 ケストレルはフォルトの言葉を受けて小さく鼻で笑った。そして丁度船はエメラリア港へと着き、船から港へ降りる橋がかけられて甲板にいる乗客達が次々に港へと降りていく。

 「分かった、じゃあ俺に付いて来てくれ。奴はこの街から外に出る所で待っててくれてるらしいからな・・・余り待たせちゃ悪い。」

 ケストレルが話し終えると、フォルト達はケストレルと一緒に船を降りて街の中を歩く。ガシャンガシャンガシャン・・・と大きな歯車が幾つも重なり合って回っている音があちこちから聞こえてきて、耳が少しずつ痛くなってくる。よくこんな所で生活できるものだとフォルトとロメリアは周りにいる特にこの騒音を気にしないで活動している人々に視線を向けながら思っていた。

 フォルトはケストレルに先程疑問に思った『蒸気車』という単語について質問した。

 「ねぇ、ケストレル。さっき言ってた『蒸気車』ってのは・・・どんなものなの?」

 「蒸気車って言うのは簡単に言ったら蒸気の熱によって機械を動かして動く乗り物だ。この大陸でしか見られねぇ乗り物だぜ?」

 「熱によって動く?」

 「そもそも『機械』って何なの?」

 フォルトとロメリアが首を傾げながらケストレルにさらに質問をする。いままでそのようなものとは無縁だった2人にとって簡単に説明されても、容易に想像することが難しかった。

 『そうだった・・・こいつらが『機械』といったものとは無縁の場所で過ごしていたことをすっかり忘れてたぜ・・・どうやって説明したらいいのか分かんねえぞ・・・』

 「ま、まぁ見れば分かると思うぜ・・・取り合えず、その乗り物はこの大陸じゃあ有名なんだよ・・・」

 ケストレルは説明を放棄して、フォルト達を友人の下へと連れて行く。フォルト達は結局『蒸気車』という乗り物がどんなものなのか良く分からないまま、ケストレルの後を付いて行った。

 まだ昇ったばかりの太陽が、大陸全域を優しく包み込む。
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