最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~真夏のビーチバレー編 第7章~

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[ダストシュート]

 「おやぁ?もしかしてあっちのコートにいるのはさっきの女の子かなぁ?」

 先程ロメリアにしつこく絡んでいた赤髪をオールバックにして、サングラスをつけた男がネット越しにロメリアを見つめると、連れている男2人と共にネットに下をくぐってフォルト達のコート内に入ってきた。

 「いやぁ~こんな所で会えるなんて偶然だね~お姉さん?もしかして僕達、運命の赤い糸で繋がっちゃってるのかなぁ~?」

 「・・・」

 生理的嫌悪を抱かずにはいられない男の態度にロメリアは顔をしかめて少し後ずさった。フォルトはロメリアの顔を見ると、男を見つめるロメリアの目が震えているのを目の当たりにし、咄嗟にロメリアの前に盾になる様に立った。

 男達とフォルトが正面で向かい合うと、フォルトは眉間に皴を寄せて目を細めながら男達を睨みつける。先頭にいる男がフォルトを威圧するように顔を少し上げて見下ろすように見つめた。

 「んん~?坊やはお姉さんの弟さん?女の子みたいに綺麗な顔してるね~?」

 「・・・」

 「君も反応なし~?見た目は全然似てないけど、お姉さんと一緒の対応してくるんだね~?」

 『・・・うぜぇ・・・早くどっかに行ってくれないかな・・・』

 フォルトが心の中で吐き捨てるように男に対しての感想を言うと、男は再びロメリアの方に視線を移した。

 「まぁ、いいや。ねぇお姉さん。今日の夜、僕達といいことしない?」

 「良い事?」

 ロメリアが恐る恐る聞き返すと、男は黄色い歯を剥き出しにして返答をする。

 「そう、とびっきりの良い事だよ?きっと忘れられない夜になると思うよ~?ヒヒヒ・・・」

 男が気味の悪い笑みを浮かべながらロメリアを見つめていると、ロメリアの後ろから急にケストレルが肩に腕を回してロメリアを引き寄せるように体を近づけさせた。

 ロメリアは思わず体をビクッと震わせると、ケストレルの方へと驚いた顔を向けた。

 「悪ぃな、お兄さん達。彼女、今夜は俺と一緒に過ごす予定なんだよ・・・つうか、何勝手に人の女に手ぇ出してんの?」

 「ケ、ケストレル⁉何をっ・・・」

 ロメリアが声を上げた瞬間、ケストレルはロメリアの耳元で囁いた。

 「少し黙ってろロメリア・・・不本意かもしれねぇが、ここは俺の彼女として振る舞ってくれ。彼氏持ちの女に近づいていく馬鹿はいねぇだろうからな。」

 「わ・・・分かった・・・」

 ロメリアはケストレルの演技に合わせるように、ケストレルの体に両腕を回して体を密着させる。フォルトはそれが演技だと分かってはいたが、何故か心の中に激しく燃え上がる炎が宿ったように鼓動が激しくなった。

 男はその様子を見ると、舌を打った。

 「ちっ、彼氏持ちかよ・・・つまんね~」

 「残念だったな~オイッ!でもまぁまだ時間はあるんだし?別の女見つけようぜ?」

 「・・・分かったよ。・・・あ~あ、折角いい女捕まえたと思ってたんだけどなぁ~!」
 
 男はそう言うと、足元に広がっている砂を目の前にいるフォルトに苛立ちを発散するように蹴り上げた。フォルトは咄嗟に顔を右斜め下に向けて左腕を顔の前に出して砂を防いだ。髪の毛やシャツの中に砂が入って気持ちが悪い。

 「うっ・・・」

 男達がフォルトに思いっきり砂をかけてゲラゲラと笑い声をあげると、ロメリアがケストレルから直ぐに離れてフォルトの傍に駆け寄ると、体に付いていた砂を払いながら男達に声を上げた。

 「フォルト!・・・いきなり何するのっ⁉」

 「ふぅ~!怒った顔も可愛い~!」

 男達は怒ったロメリアの顔を見ると、ロメリアの感情を逆撫でするようにはやし立てる。

 「っ!最低っ・・・」
 
 ロメリアが怒りの感情で歪ませた顔を男達に向けると、浜辺全域にアナウンスが流れた。
 
 「大変お待たせしました、皆様!只今より一回戦を始めたいと思います!一番最初にするチームはネット越しに並んでください!」
 
 「おっ、どうやら始まるみたいじゃん?今日は一緒に楽しもうね~。」
 
 男達はへらへら笑いながら向こうのコートへとネットの下を通って戻っていった。ロメリアがフォルトの体に付いた砂を払いながら優しく声をかけた。
 
 「大丈夫?目や口に砂は入ってない?」
 
 「うん・・・問題無いよ・・・」

 フォルトがロメリアに返事をすると、ケストレルがフォルトの頭に手を置いて髪をくしゃくしゃとかき混ぜて頭の中に入った砂をかきだしてくれた。

 「災難だったな、フォルト。」

 「全くだよ・・・折角ロメリアと楽しい思い出を作りに遊びに来たのにこんな不快な気持ちになるなんて・・・」

 フォルトは体中についた砂を大体払い落とし終えると、ネットの前にまでゆっくりとロメリアとケストレルを連れて歩き出した。ネットの前に立つと、再びアナウンスが流れて試合開始の合図が出された。

 「うぃ~すっ!」

 男達が無駄に大きな声を上げながらフォルト達に挨拶をすると、フォルト達も小さく頭を下げて小さな声で挨拶をした。フォルト達の試合を監督する審判員が両チームに声をかける。

 「それでは一番初めにサーブを行うチームですが・・・どういたしましょうか?特に提案が無ければ、代表者によるくじ引きで決めたいと思いますが・・・」

 審判員の言葉を受けて、男達が審判員に返答する。

 「相手チームのサーブで良いっすよ。・・・小さな子供もいますからね~。」

 男がフォルトの方を、頬を釣り上げながら見つめてきた。審判がフォルト達の方に話しかける。

 「相手チームはこのように申しておりますが・・・どういたしますか?」

 「・・・それじゃあお言葉に甘えて最初のサーブ権を貰います。」

 フォルトは一切表情を変えずにそう言うと、審判員から投げられたボールを手に取り自分達のコートの後ろの方へと歩きだした。

 両チームがそれぞれの担当するポジションを決めるにあたって、意見を交わした。
 
 「さて・・・俺達の立ち位置はどうする?」

 「ケストレルは身長が高いから、一番前で良いんじゃない?私とフォルトは後方で左右に分かれて守るから相手のボールを弾き落としちゃってよ!」

 「そうはいっても、ここ砂場だぜ?平地みたいにそんなに高くジャンプできねぇし、ボール止められる自信もねぇよ。」

 「大丈夫だよ!止められなくっても私とフォルトがしっかりとカバーするし、向こうも条件一緒だからそんな強い球は飛んでこないと思う!・・・多分。」

 「多分・・・ねぇ・・・」

 ロメリア達は互いのポジションを決めるとそれぞれの持ち場について試合に備えた。

 フォルトがボールを持って手の上でクルクルと回していると、ロメリアがフォルトに声をかけた。

 「私がサーブしようか、フォルト?」

 「いや・・・この試合だけは僕にやらせて。折角初めてのビーチバレーだから・・・サーブしてみたいんだ。」

 フォルトは不敵に頬を釣り上げて微笑むと、ふぅぅ・・・と息をゆっくりと吐いて精神を集中し始めた。フォルトの目つきが変わり、目の色が深紅色に薄っすらと染まり始めるとフォルトの周囲に取り巻いていた空気が急変し、ロメリアとケストレルは葡萄畑で魔物と戦った時の様に身構える。

 『フォルトの奴・・・さっきの事に相当キレてんな。殺気が半端ねぇ・・・』

 『大丈夫かな・・・あの人達殺したりしないよね・・・』

 周りの観客達もフォルトの異変について会話し始める。

 「おい・・・あの子、何かさっきと雰囲気違くねえか?」

 「だな。殺人鬼が目の前に立ってこっちに向かって銃を構えている様な・・・背骨が引っこ抜かれそうな感じなんですけど・・・」

 「・・・これビーチバレーの試合だよな?闘技場での決闘じゃねえよな?」

 観客達はフォルトの様子に困惑しながらもフォルトがどのような行動を見せるのか興味津々になって見つめていた。

 相手チームの男達もフォルトの様子を見て、冷や汗をかいていた。

 「おい・・・あのガキの目超怖いんですけど?」
 
 「分かる・・・さっきと雰囲気変わりすぎてね?あれ本当に子供の目かよ・・・」

 「さっきから心臓に刃突き立てられているようで、胸が痛いんだけど・・・俺試合始まる前に死ぬかもしんねぇ・・・」

 そんな中、赤髪の男が鼻で笑い飛ばしながら後ろを守っている2人に話しかける。

 「お前ら何そんなにビビってんだ。たかがガキだぜ?精々サーブ打ったってたかが知れてるって。」

 「いや・・・あのガキの殺気半端ねぇって!お前何も感じねえの?」

 「全然。寧ろ何でお前らそんなにビビってんの?」

 男が後ろにいる男達に声をかけた瞬間、審判員が号令を出した。

 「それでは只今より一回戦を始めたいと思います!ボールを持っているチームはサーブをお願いします!」

 審判員の言葉を受けてフォルトはネットの奥にいる赤髪の男に狙いをつける。

 ・・・ゾワァァァ・・・

 フォルトの感覚が鋭く研ぎ澄まされて周囲の時の流れが緩やかになる。それと同時にフォルトの凍てつく殺気が周囲に拡散され、周りにいる人達の視界からは色が少し薄まった。
 
 相手コートの後ろにいる2人の男は背筋が凍る様な寒気を覚えて体を震わせる。その様子を見た赤髪の男が思わず声をかける。

 「おいっ、どうした⁉急にどうしちまったんだよ⁉」

 「や・・・やべぇ・・・急に寒くなってきた・・・それに・・・目の前の景色が急に灰色になって来てるし・・・何だこれ・・・」

 「お、お、お、お、俺・・・動けねぇ・・・体が竦んじまって・・・」

 仲間達の尋常ではない異変に気が付いた男はフォルトの方に視線を戻すが、自分は何も感じない・・・後ろの仲間は何か得体の知れないものに襲われているようだったが、その男には殺気も何も感じていなかった。

 ロメリアが咄嗟に意識を集中させているフォルトに声をかける。

 「フォ、フォルト!あんまりやり過ぎたら・・・」

 だがフォルトはロメリアの言葉を無視し、ボールをまっすぐ上へと放り投げた。10m近く放り投げられたボールは頂点に到達すると、一瞬だけ空中に静止した後に真下へと落ちてきた。

 ドォンッ!

 フォルトは浜辺を思いっきり蹴り上げて5m近く飛び上がった。蹴り飛ばされた砂がコート中に巻き散らかされ、ロメリアとケストレルは咄嗟に手で砂を防いだ。

 『はぁ⁉あのガキ・・・ありえねぇだろ、どんだけ飛んでんだ!』

 その男をはじめ、周囲の観客、審判員、ロメリアとケストレルが呆然としてフォルトを見上げる中、フォルトは男に照準を合わせて右腕に力を込める。

 「はぁぁっ!」

 バァンッ!という火薬が炸裂した時の爆音を連想させるような轟音と共にボールは真っ直ぐと反対のコートにいる男目掛けてぶれる事無く弾丸の様に真っ直ぐ突っ込んでいった。途中で音速を突破した際に発生する空気の膜を破るバリィッという音と薄っすらと見える透明な空気の膜がボールの周囲で発生した。

 「へっ?・・・グベェェェェッ!」
 
 ボールはそのまま男へとぶち当たると、声にならない叫び声をあげながら浜辺の砂をまるでモーゼが海を割った時の様に、左右に壁を作るみたいにかき分けながら浜辺を抉りながら吹き飛んでいった。男はそのまま浜辺に各所に設置されているゴミ箱に頭からボールと共に突っ込んでいき、ゴミ箱に突き刺さった。ゴミ箱はしっかりと固定されてはいたが男が突き刺さった衝撃で少し留め具が外れてしまった。

 ロメリアとケストレルはその様子を見て、思わず独り言を呟いた。

 「フォルト~・・・やり過ぎだよ~・・・」

 「あ~あ・・・もうちょっと手加減しろよ。あれ死んでんじゃねえか?」

 2人がうわ~・・・と溜息を漏らす様に声を上げる。周りの観客は何が起こったのか全然理解できておらず、審判員もただじっと砂浜に着地したフォルトに視線を向けていた。

 フォルトは審判員が持っている点数が0対0のまま変わっていないのを見ると、声を上げた。

 「すみません・・・点数が変わっていないんですけど・・・」

 「あ・・・あ、すみませんっ!えっとぉ・・・ボールは相手コートの中に入りましたのでこちらのチームに点数が入ります・・・」

 審判員がカードを捲って、点数表が0対1と変わった。

 「それでは次のサーブ権も変更なしという事になりますので、次のサーブをお願いします・・・」

 フォルトに向かって審判員が代わりのボールを投げて、フォルトがキャッチすると、向かいのコートの男達が血相を変えて審判員に叫んだ。

 「お、お、俺達、棄権しますっ!もう負けで良いですから!」

 「すみません!もう勘弁してください!何でもしますんで棄権させてください!」

 男達2人が地面に頭を擦りつけながら審判員に懇願し始めて、審判員もおろおろしてしまっていた。フォルトはボールを持ったままネット越しに男達に声をかける。

 「あの・・・僕もうあんなサーブしないんで・・・」
 
 「ひィ!ご、ご、ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」

 「いいや大丈夫っす!もう自分達じゃ絶対勝てないんで!もうこれ以上貴方達に迷惑かけないんで見逃してください!俺達が悪かったです!」

 男達はそう言うと急いでコートの外へ逃げるように走り去り、奥のゴミ箱に突き刺さっている男を引き抜くと、救護小屋へと走り去っていった。ゴミ箱に突き刺さっていた男は僅かに体を痙攣させていたので死んではいないようだ。

 「えっと・・・相手選手が途中棄権したという事ですので・・・こちらのチームの勝利となります・・・」

 審判員がかなり引いた声でアナウンスすると、周りにいた観客達が小さく拍手をし始めた。乾いた拍手が小さく巻き上がる中、ロメリアとケストレルがフォルトの傍に近寄ってくる。

 「フォルト・・・あそこまでしなくていいんじゃない?」

 「・・・実は僕も今頃になって少しやり過ぎたと思ってるんだ・・・」

 「少しどころじゃねえと思うけどな。」

 「あの人・・・死んでないかな?」

 「死んでは無いんじゃねぇか?さっき運ばれていく時に僅かに体が動いてたからな。・・・死にかけてるとは思うが。」

 ケストレルはフォルトの肩に腕を回した。

 「でもお前・・・本当は少し気分良くなっただろ?スカッとした気分になってないか?」

 「・・・ちょっとだけ、ね。」

 ケストレルの言葉を受けてフォルトは小さく頷いた。フォルトの心の中には嫌な奴を撃退することが出来た快感とそんな相手でも少しやり過ぎてしまったとの後悔の念が漂っていた。
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