最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~葡萄狩り編 第10章~

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[黄金の葡萄]

 「ゲグ・・・」

 魔物は短く小さな声で断末魔を上げると、胸から赤い血を噴水のように前方に撒き散らしながら後ろへと倒れていった。魔物は地面に倒れ込むまでに息絶えてしまったのだろうか、一切受け身をとることなく地面に激しく背中をつけるとそのままピクリとも動かなくなった。

 フォルトは鎖鎌に付いた魔物の血を取り払う為に軽く鎌を宙で振るうと、ゆっくりと立ち上がって魔物の傍に近づいていく。ロメリアとケストレルもまだ生きているのではないかと少し警戒しながらフォルトの傍へと行く。

 「・・・こいつ死んだのか?」

 ケストレルがフォルトに向かって小声で呼びかけると、魔物の体が枯れた木のようにボロボロッ・・・と白くなって剥がれていった。

 「恐らくね。・・・やっぱり、40年以上誰にも倒されていなかったというのもあってか、相当手強い相手だったね。」

 「うん・・・もう2度と出会いたくないよ・・・」

 ロメリアはそう言って崩れ落ちる魔物の体を眺めていると、魔物に生えていた『黄金の葡萄』が目に入ったので棍で魔物の体を少しずつ取り崩しながら葡萄の傍に近づいた。フォルトとケストレルもロメリアの後ろに近づき、背後から覗き込んだ。

 「ああ~・・・殆ど潰れちゃってるね・・・」

 ロメリアは潰れた実を優しく撫でながら残念そうに落ち込んだ声を発する。

 「ごめんね、ロメリア・・・魔物の心臓部を斬り裂く時に心臓部の周りも切り刻んじゃったから・・・それにその前にも何回も斬っちゃったし・・・」

 「しょうがないよ。私だって棍で硬皮砕く時に沢山潰しちゃったから・・・」

 ロメリアとフォルトが潰れた『黄金の葡萄』を眺めていると、ケストレルがロメリアの後ろから手を伸ばす。潰れた実を指で優しくかき分けると、奥から数個のまだ潰れていない綺麗な実が現れた。

 「だが・・・如何やら無事な奴も少しは残っているようだな。潰れた実の裏側とか調べてみようぜ?」

 ケストレルの言葉を受けてフォルトとロメリアも潰れた実を優しくかき分けながら無事な実を見つけていっては手持ちの袋の中に優しく詰め込んでいく。

 完全に調べ終えた後、再びフォルト達は集まってどれだけ採れたかお互いに報告し合った。その時には魔物の姿はほぼ塵と化していて、風に吹かれて消えていた。

 「集め終わったようだな。どれぐらい採れた?」

 「僕は7つ見つけたよ。・・・ロメリアは?」

 「私は1個だけ・・・コアの辺りを中心に調べていたから全然見つからなかった・・・」

 「俺は3つだな。という事は計11個・・・これを多いと見るか、少ないと見るか・・・」

 ケストレルが手元の袋の中にある黄金の葡萄を見つめている中、フォルトは少し悲しそうな顔をしながら1個しか入っていない袋を見ているロメリアを見て、自分の袋から3つ葡萄を取り出してロメリアの袋の中へとそっと入れた。

 フォルトはロメリアと目が合うと、にんわりと頬を上げて声をかける。

 「僕7個も持ってるからロメリアにあげるよ。それに、これで丁度4個ずつだし。」

 「フォルト・・・」

 「ロメリアがいなかったらコアの周りにあった硬皮を完全に破壊出来なかったからね。僕からの感謝の気持ちとして遠慮しないで受け取ってよ?」

 フォルトの笑顔と言葉を受けたロメリアは目を少し潤わせると、黄金の葡萄が入った袋を両手で優しく包み込んだ。

 「・・・ありがとう・・・フォルト・・・」

 ロメリアはフォルトに優しく微笑みながら小さく呟くと、袋を包んでいる両手を胸の前に持っていって目を瞑り、顔を俯けた。いつもなら思いっきり抱きついてくるであろう状況なのにこのような対応を取られてしまったフォルトはちょっぴり戸惑うと共に、ロメリアから抱きしめられなかったことに少々気を落ち込ませてしまった。

 「・・・」

 ケストレルはそんなフォルトとロメリアの様子をただ何も言わずに静かに眺めていると、フォルトの肩を軽く叩いた。ケストレルから肩を叩かれてフォルトが体を向けると、ケストレルが持っている葡萄が入った袋をフォルトに手渡した。

 フォルトはケストレルの予想外の行動に驚きを隠せなくなって咄嗟に声をかける。

 「ケストレル・・・これはどういう事?」

 フォルトの問いにケストレルは左手に人差し指で鼻を軽く摩る。

 「俺からのプレゼントだ。その葡萄、お前達にやるよ。」

 「・・・いきなりどうしたの・・・」

 「何にもねえよ。ただの気まぐれだよ、気まぐれ。」

 ケストレルはそう言うと、フォルト達に背を向けた。

 「じゃあな、フォルト、ロメリア。俺は今から少し調べたいことがあるから別行動を取らせてもらうからここでお別れだな。・・・今日は楽しかったぜ。」

 ケストレルはそう告げるとフォルト達からゆっくりと離れて行き始めた。その時、フォルトはケストレルに声をかける。

 「ケストレル!」

 フォルトはケストレルを呼び止めて後ろを振り向かせると、ケストレルの下へと近づいていき、先程受け取った葡萄が入った袋をケストレルに返却する。ケストレルは再び葡萄の袋を受け取ると、フォルトの方へと顔を向ける。

 フォルトはケストレルの手に袋を置くと、手をゆっくりと手放した。

 「これは受け取れないよ、ケストレル。・・・その黄金の葡萄は魔物を討伐した『報酬』として受け取っててよ。」

 「・・・」

 ケストレルはフォルトに握らされた葡萄の袋を見つめると、そっと懐へと仕舞った。

 「・・・馬鹿だな、お前。素直に受けとっときゃあいいのに・・・」

 ケストレルは無表情のまま小さく呟くと、再びフォルト達に後ろを向いて歩きだした。ケストレルは何処か哀愁漂う背中を見せながらその姿を消す。

 ロメリアはそんなケストレルの背中を見送ると、フォルトに呟いた。

 「フォルト・・・ケストレルの事なんだけどさ・・・私達、最初ケストレルが縄を斬ったんじゃないかって言ってたけど・・・何か私、ケストレルじゃないような気がしてきたよ・・」

 「・・・」

 「フォルトはどう思う?・・・やっぱりケストレルが怪しいと思う?」

 「・・・分からない。ケストレルが何を考えているのかが・・・さっぱり・・・」
 
 フォルトとロメリアはケストレルが消えていった方をただじっと見つめる。

 フォルトの心の中ではケストレルを信じたい気持ちと何処か信用できない気持ちが密かに競り合っていて、胸の中に静かな波が立っていた。
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