最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~葡萄狩り編 第8章~

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[葡萄狩り]

 「・・・で、どうするフォルト?どうやってあの化け物を処理するつもりだ?」

 ケストレルは右手に持っている大剣を持ち上げて右肩に乗せると、フォルトに声をかけた。フォルトは鎖鎌を持ち直すとケストレルに返事をする。

 「まずは様子を見るしかないと思う・・・首を斬り落としても死ななかったらちょっと厄介だね・・・」

 フォルトは目の前にいる巨大な魔物を睨みつける。

 魔物の身長は6~7m程、人型のシルエットをしており全身が木で出来ていて所々荒く割れている。頭と思われる所は酷く劣化して裂けた切り株のようになっており、目や口、鼻というのがどれに当たるのか良く分からなかった。だが、鼓膜が破れそうな程甲高い叫び声は出したり、こちらの動きをはっきりと捉えていることからしっかりと目と口はついているようだ。

 さらに化け物の胴体には金色に輝く葡萄の様な丸い果実がまるで人間が服を着ているように巻き付いており、悍ましい殺気を放っているのに甘く心地よい香りを周囲に漂わしていた。

 再生能力に関しても腕を切り落としても直ぐに元通りに戻ってしまうほどで、体力が減っているという感じも一切しない。

 動きに関しては巨体な割には恐ろしい程早く、手もやたらと細い割に葡萄の木を根こそぎ引き抜いてこちらにぶん投げてくるほどのパワーがある・・・一瞬でも気を抜いたらあっという間に3人とも殺されてしまうだろう。

 『近くにある木を引き抜くほどの力があるのに子供を捕らえても即殺しなかった・・・捕らえた獲物を人質に使う程度の知能は持っているのか?』

 フォルトの体に流れる血が火照っていき、周囲の景色が緩やかに見えてくる。さらに夏場なのにフォルトの口からは白い吐息が出てきていた。

 そんな中、ロメリアがその魔物の胴体に絡みつく様に生えている黄金に輝く身を見つけてフォルトとケストレルに声をかけた。

 「ねぇねぇ!あの魔物の体に生えているのってさ・・・もしかして『黄金の葡萄』かな?」

 「・・・昨日エントリー会場にいた男の人が黄金の葡萄は魔物に寄生しているって言っていたから間違いないだろうね。・・・そしてこの魔物が、『黄金の葡萄』を守っている主だ。」

 「・・・」

 ロメリアは静かに棍を構えると、姿勢を低くして魔物を見つめる。フォルトはロメリアのその目からまるで絶対に何か目標を達成するという強い意志を感じ取った。

 「ロメリア・・・まさかこの機会に『黄金の葡萄』を手に入れようって思っているんじゃ・・・」

 フォルトが恐る恐るロメリアに声をかけると、ロメリアはフォルトの方に顔を向けて大きく首を頷けた。瞳が玩具を見つけた子供の様に輝いている。・・・如何やら目の前に『黄金の葡萄』が現れてくれたことによって諦めていた『黄金の葡萄』狩りに対する熱が再燃してしまったようだ。

 「当たり前でしょ!せっかく向こうからやって来てくれたんだよ⁉しかも1匹でっ!私とフォルト、ケストレルの3人がかりなら倒せるでしょ⁉」

 「・・・」

 「あっはっは!どうするフォルト?ロメリアはやる気だぜ?」

 ケストレルが呆れているフォルトの右肩に左手を置いてニヤつきながら声をかける。安全地区に凶暴な魔物が侵入したというのにロメリアはそんなことをまったく気にしていないとばかりに興奮しながらフォルトに『黄金の葡萄』を狩ろうと訴えかけてくるので、フォルトは小さく溜息をついた。

 「ロメリア?今のこの状況・・・分かってる?」

 「勿論!安全採取場に魔物がやって来たから皆で楽しく葡萄狩りをすることが出来なくなっちゃった。だから私達がその魔物を倒して、そのついでに『黄金の葡萄』を手に入れる・・・で合ってるでしょ⁉」

 ロメリアの気迫にフォルトは思わず圧倒されてしまった。

 「ん・・・まぁ、合ってるけど・・・」

 「だったら早く魔物を退治しちゃおうよ!こんな凶暴な魔物何時までも放っておいたら葡萄狩り出来なくなっちゃうよ!」

 「それもそうだな。折角楽しい思い出を作ろうとしているのにこんな奴がいたらそれどころじゃ無くなっちまうからなぁ。・・・フォルト、やろうぜ?」

 ロメリアとケストレルがそれぞれの武器を持ち直して構え直しているのを見ると、フォルトは再び小さく溜息をついた。

 「・・・ロメリア?無茶だけはしないでね?」

 「勿論分かってるって!フォルトこそ、油断しちゃダメだよ?」

 ロメリアが髪をふわりと揺らしながら右目を瞑ってウィンクをして微笑んだ。

 その瞬間、急に魔物がフォルト達に飛び掛かってくるように襲い掛かってきた。

 「早速向こうから来やがったぞ!」

 ケストレルの叫びと同時にフォルト達はそれぞれ別々の方向へと飛び退いて魔物の攻撃を躱す。魔物は先程までフォルト達がいた所に着地すると、地面に大きなクレーターを作って土埃が宙に舞った。

 フォルトは魔物が地面に着地したのを確認すると、片方の鎖鎌を魔物の首目掛けて投げつけた。鎖が魔物の首に巻き付いて、鎌が首に深く食い込むのを確認すると鎖が急に縮んでいきフォルトは魔物目掛けて飛び掛かっていく。

 「グガァァァァァ!」

 魔物は激しい雄叫びを上げると、首に巻き付いている鎖を掴んで、思いっきり引っ張った。フォルトの体が鎖に引っ張られて魔物に勢い良く引き寄せられてしまい、魔物が鎖を握っていない方の拳を強く握ってフォルトを殴り飛ばす体勢を整えた。

 「フォルト!」

 ロメリアはフォルトが魔物に引き寄せられてしまっているのを見て、一気に魔物への距離を詰める。しかしその瞬間、魔物がロメリアの方に視線を向けた。

 「ロメリア!早まるなっ!」

 ケストレルがロメリアに叫んだ瞬間、魔物が向かってくるロメリアに対して地面を抉り上げて土の壁を蹴り飛ばした。土の壁がロメリアを覆い尽くすとともに、近づいていたロメリアを強引に押し返した。

 「きゃあ!」

 ロメリアは咄嗟に体を傾けて腕で身を守ったが、勢いよく蹴り飛ばされた土の壁の衝撃によってバランスを崩してしまい、吹き飛ばされて地面に倒れた後、土が上からロメリアの体を完全に覆い尽くしてしまった。

 「ロメリアっ!」

 「フォルト心配すんな!ロメリアは俺が助け出すからお前は奴の対処に専念しろっ!」

 ケストレルはロメリアの傍へと近づいて上に乗っかっている土を懸命に取り除いていく。フォルトはその様子を確認すると、魔物へと視線を向け直す。

 フォルトが魔物の間合いへと入ると、フォルトに向かって拳を突き出してきた。・・・が、突き出されてきた拳は一直線でフォルトにとっては何の脅威では無かった。

 『この程度の攻撃・・・躱せないと思っているのか!』

 フォルトは空中で身を捻って魔物の拳を躱すと魔物の伸ばした腕に足をつけると、首目掛けて飛び掛かった。手元に残っている鎌で魔物の首を半分削り取ると、既に首に刺さっている鎌を掴んで残り半分を斬りとって魔物の背後に着地する。魔物の首が地面へゆっくりと落ちていった。

 『さて・・・これで死んでくれるか・・・』

 魔物の首が地面につきそうになった・・・その時、首から茨が胴に向かって勢いよく伸び、頭が地面すれすれで静止する。そしてそのまま魔物の頭は元通りに胴へとくっついていった。

 フォルトは後ろへと下がりながら体勢を立て直す。

 『大体予想していたけどやっぱり首を斬った程度では死なないかっ!・・・一体どうやって倒せば・・・』

 フォルトが後方に下がりながら思考を巡らせていると、魔物が急に後ろへと振り返りフォルト目掛けて襲い掛かってきた。飛び掛かってくる初期動作は一切無く、殺気も感じられなかった為、フォルトは反応が少し遅れてしまい魔物を懐へと入れてしまった。

 懐へと一気に間合いを詰めた魔物はさっきとは比べ物にならない程の速度で鋭いパンチを乱れ撃つ。

 『ヤバい!』

 フォルトは懐に入れてしまった魔物が放つ攻撃を咄嗟に全て回避すると、少しでも足を止める為に鎖鎌で魔物の体全体を一気に切り刻む。バラバラに切断することは出来なかったが、フォルトは腕や足、胴に出来るだけ深く鎌を抉りこませる。胴に纏わりついている『黄金の葡萄』が幾つか割れてしまい、果汁が血のように魔物から滴り落ちていた。

 魔物の胴が葡萄の実が潰れて落ちてしまったことで薄っすらと見えてきたが、フォルトがその見えてきた所を細目で見つめていると、魔物の体の中心に赤黒く不気味に光る球体が僅かに見えた。

 球体の周囲には、硬い皮膚がその球体を守る様に覆われており、僅かに見えている球体には先程フォルトが全身を切り刻んだ時に与えたであろう鎌の斬撃による傷が入っていたが、周囲の皮膚には一切の傷が入っていなかった。どうやら、球体周りの皮膚は体のどの部位よりも頑丈にできているようだ。

 『何だ?あの光は・・・』

 フォルトがその正体を掴むために体を近づけると、魔物が急に動き出しフォルトに向かって重い一撃を繰り出した。フォルトはその場から飛び上がって魔物の攻撃を回避すると、ケストレルと掘り出されて全身土塗れのロメリアの傍に着地する。

 ケストレルがフォルトに声をかける。

 「フォルト、どんな感じだ?あいつの弱点か何か分かったか?」

 「・・・多分。確証はないけど、恐らく奴の心臓部であるモノじゃないかなっていうのは見つけたよ。」

 ロメリアが土にまみれた羽織や髪を叩いて地面に土を落としながらフォルトに話しかける。

 「心臓部・・・って言う事はそれさえ壊せば・・・」

 「うん・・・恐らく殺せるはずだよ・・・でも・・・」

 「でも?」

 「・・・奴の心臓と思われるコアが胸の奥にあって、あいつの硬い『皮膚』で覆われていたんだ。僅かに光が見えたから完全に覆われている事ではないけど、あの隙間から完全にコアを破壊するのは難しいと思うんだ・・・コアの大きさもまだはっきりと分からないし・・・」

 フォルトの言葉を受けて、ケストレルがフォルトに尋ねる。

 「フォルト・・・『コア』が露出すれば奴を倒せそうか?」

 「・・・うん。コアの大きさはどうであれ、あの周りの硬い皮膚を取り除いてくれれば確実に奴を殺せるよ。」

 フォルトの言葉を受けて、ケストレルは小さく頷いた。

 「・・・分かった。コア周りの硬皮の処理は任せてくれ。」

 「私も手伝うよ。ケストレルも1人でやるよりも2人いた方がいいでしょ?」

 「まぁな。それじゃあ宜しく頼むぜ、ロメリア?」

 ロメリアがケストレルに小さく頷くと、ロメリアとケストレルはフォルトを挟み込むように立ってそれぞれ武器を構えた。

 魔物はフォルトにコアを少し傷つけられたせいなのか、体を小刻みに震わせながらバキバキッと木の幹が割れる様な音が静かに鳴り響く。
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