最強暗殺者の末裔と王族の勘当娘 ~偶々出会った2人は新たな家族として世界を放浪します~

黄昏詩人

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~葡萄狩り編 第4章~

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[傭兵]

 「いや~美味しかったね~!あっという間に食べ終わっちゃった・・・」

 ロメリアが満足そうに笑顔を浮かべながらお腹を擦り、椅子に深くもたれ掛かって天井を仰ぎ見る。フォルトも最後の一口を食べ終えて、フォークとナイフを皿の上に置くと、ゆっくりと咀嚼しながらパイの味を噛みしめる。パイを飲み込むと、ちょっと冷めてしまったレモンティーをゆっくりと流し込んでいく。

 ロメリアも姿勢を元に戻して、レモンティーをゆっくりと飲み干していきながらフォルトに話しかける。

 「フォルト~?紅茶呑み終わったら街の中見て回らない?フォルトも街の中歩いてみたいんでしょ?」

 「うん!ついでに明日の葡萄狩りの会場も1回見ておきたいな。場所を確認しておきたいって言うのもあるし・・・」

 フォルトはレモンティーを一気に飲み干すと、受け皿にそっと置いた。

 「でもその前に先ずは宿に行かない?荷物を置いておきたいしさ。」

 「そうだね。確かグリルさん達に降ろして貰った広場に宿があったはずだからそこに泊まろうか?」

 ロメリアもカップに残っているレモンティーを飲み干して受け皿に置いた。ロメリアが口元を紙で拭う。

 そろそろ席を立つか・・・フォルトがそう思った時、フォルト達の横の席に1人の男が座った。フォルトはさり気なくその男に視線を向ける。

 茶髪でオールバックにしており、深縹色のコートを着用している。夏場なのに冬服のような恰好をしていて、暑くないのかと疑問を覚えずにはいられなかった。

 男はメニュー表を店員から受け取ると、メニュー表を開いてしばらく眺めた後フォルト達に聞こえるように独り言を言い始めた。

 「さ~て、この店では何がおいしいのかな?」

 男はそう言うと横を向いてロメリアに声をかけた。フォルトは男に対して強く警戒し始める。

 「ねぇ、お嬢さん。この店の人気メニューって何か分かる?」

 「え・・・?私に・・・聞いているの?」

 ロメリアは急に男から声をかけられて思わず動揺してしまった。だがそれもそうだろう・・・急に隣に座った初対面の男から馴れ馴れしく話しかけられれば、誰だって戸惑ってしまう。

 ロメリアは顔を少し引き攣りながらも、男に返事をする。

 「えっと・・・フルーツミックスパイ・・・ですかね?・・・メニュー表の一番最初のページに描かれているやつ・・・」

 「ああこれか!成程ね~・・・んじゃ、俺もこれを頼もうかな?」

 男は手を上げてウェイターを呼ぶと、パイを注文してメニュー表をウェイターに渡した。ウェイターが去ると男は右手で頬杖をしながらロメリア達を眺める。

 ロメリアとフォルトは互いに椅子を動かして身を寄せると、男に聞こえないように囁き合った。

 「ねぇ、フォルト?あの人知ってる?」

 「知らないよ・・・見たこともないし、滅茶苦茶怪しいんですけど・・・ロメリアこそ、会ったことないの?」

 「無いよ・・・名前どころか顔すら何も覚えていないって言う事は話したことも無いはず・・・一度でも話したことがあるのなら顔位は覚えているはずだから・・・」

 ロメリア達がぼそぼそと呟いていると、男が頬杖をつきながら話しかけてくる。

 「ちょっと君達・・・俺の方をそんなジロジロ見ながら何を話しているんだ?俺気になっちゃうな~?」

 男がニヤニヤしながら声をかけてきたので、フォルトが警戒を強めながら声をかける。

 「あの・・・僕達何処かで会いましたっけ?」

 「ん?いいや。今が初対面だよ?」

 「・・・初対面なのに、偉く馴れ馴れしく話しかけてくるんですね。」

 「ん・・・そうか・・・それもそうだな。」

 「・・・」

 フォルトは黙り込むと男を睨みつける。男は相変わらず薄ら寒い笑みを顔に貼り付けたままだった。

 「君達は見た所この街の人間じゃないね?・・・旅をしているのかな?」

 「・・・うん。」

 ロメリアが小さく返事をする。

 「はぁ、やっぱりかぁ・・・2人は見た所姉弟・・・家族なのかな?恋人同士・・・には見えないね?」

 「・・・うん。」

 「そうかぁ・・・全然似てないね?」

 男は飄々とした態度でロメリア達と接する。フォルトがロメリアの耳に顔を近づけて呟く。

 「ロメリア・・・早くこの店から出よう?僕、この人好きじゃないんだけど・・・」

 「う、うん・・・私も・・・ちょっと苦手かも・・・」

 ロメリアはそう返事をすると、フォルトと共に席を立って机の上に置かれている伝票を手に取って机から離れる。

 「それじゃ・・・さようなら・・・ごゆっくりパイを味わってくださいね・・・」

 「あれ?もうどっか行っちゃうの?もっとお話しようよ?」

 男がロメリアに絡み続けていると、フォルトがロメリアと男の間に立って男を睨みつけるようにキツイ眼差しを向けた。

 「すみません、お兄さん。僕達、これから少し用事がありますので・・・」

 男はフォルトと向き合うと、一瞬真顔になって直ぐに笑みを浮かべる。

 「ふ~ん、そっかぁ。・・・それじゃ仕方ないね。・・・最後に俺の名前を教えておくよ、君達と出会ったのも何かの縁だからね。・・・『ケストレル・アルヴェニア』だ。また会えるといいね。」

 「そうですか・・・一応僕の名前も教えておきます・・・フォルトです。」

 「お、名前教えてくれるんだ?嬉しいね~。成程、フォルトね・・・」

 男はロメリアの方に視線を映すと、ロメリアも男に名を名乗る。

 「私はロメリア・・・だよ・・・」

 「ロメリア・・・ね。美しい名前だ。」

 「ど、どうも・・・」

 ロメリアは苦笑いを浮かべながらケストレルに返事をする。

 「それじゃ・・・僕達はこれで失礼させて頂きます・・・」

 フォルトはそう言ってロメリアの手を強く引いて店の入り口にある会計カウンターへと向かった。ロメリアが会計を済ませると、2人はケストレルに一瞥することなく店から出ていってしまった。

 丁度その時ケストレルの下にパイが届き、そのパイをちらりと見て直ぐに店の入り口の方へと視線を戻した。

 「思いっきり警戒されたな・・・やっぱり、直ぐには信用してもらえないか?」

 ケストレルはナイフをパイに突き刺すと目を細めた。

 『それにしてもあのフォルトとかいう子供・・・俺を睨みつけた時の殺気は凄まじかったな。・・・『あの人』の言った通り、あの子供はやはり・・・』

 ケストレルはナイフを一気に滑らせる。パイの生地の中から果汁がゆっくりと溢れ出してきた。
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